第252話 4年目「進級試験」

 進級試験の時期が来た。

 1年~3年生は図書室や寄宿舎の食堂で勉強している姿を見るようになった。

 3年生も一部は魔術師の資格を得て卒業する生徒も居るけど試験は受ける、卒業試験だね。

 4年生の私達も形だけだけど試験を受ける、実際の所は4年生の期間の内容で決まるので何をやって来たのかまとめて提出するだけだ。

 研究レポートを作成している、と言えばいいのかな。

 そのレポートも私を含め全員が作成し提出済みだ。

 魔導師となる私を除いた他の子は下級生の個人授業の依頼を受けて食堂で授業を開催している。

 私は現 魔術師で魔導師の予定という立場上、個人授業の依頼料が高額になってしまう。


 5年生、今居るのは1名だけで教育者という制限付きの魔術師に成る予定だそうだ、誰かは知らない。

 以前1度だけ会ったはずだけど、もう記憶の彼方だ。

 その後、会う機会も無かったので彼らがどうなったのかも知らないし知る必要も無い。


 その間、私が暇だったかというとそうでもなくて、研究所の準備を続ける中、貴族との歓談が何度か行われた。

 主賓は宰相様か領主様で、立場上 私に拒否権は有るのだけど魔導師との歓談という名目で開催されるので宰相様から出来るだけ出て欲しいとお願いされた。

 後から聞かされたのだけど、出席した貴族はコウシャン領の中でも領主様に近い貴族だけでそれ以外の貴族は歓談の場を設けるなと言う牽制の意味も有ったんだとか。

 本当かな?

 その歓談の場には私の付き添いとしてタニアさんと貴族院のアンさんが毎回同行している。

 最近では多少は緊張がほぐれてきたかな? それでも壁際で立ったままなのは大変そうだ。

 話している内容は殆どが毎回 似た内容で、研究所で何を研究するのか、だ。

 これも宰相様から聞いた話だと、今後は自分の囲っている商人や魔術師を送り込みたいもくろみか有るらしい。


「宰相様、私の研究所へ来るような魔術師は居るのでしょうか?」


「コウの町へ行きたがるような者は少ないでしょうな。

 そもそもが貴族どもの変なプライドで領都の魔術関連の職に就かせたくない事から決まったことですから」


 宰相様も最近では私に遠慮せず毒舌を言うようになった。

 取り繕っても仕方が無いそうだ。


「それは、元視察団の皆さんが復興支援官として赴任したのと同じですか?」


「ああ、マイ様は彼らに救助されたんだったな。

 その通りだ、冒険者出身で高い功績を挙げた彼らを領軍に復帰させた場合、其相応の地位を用意する必要が有る。

 領軍も指揮官は殆どが貴族出だ、庶民出も居るが上手く立ち回って何とかだな。

 視察団も能力がある連中を領軍の中に入れたくない下らん縄張り意識の結果だ。

 魔物の氾濫があった後、ある程度は掃除したが人手不足はいかんともしがたい。

 彼らはコウの町で上手くやっているのかね?」


「はい、むしろ領軍の縄張り争いに関わらずに済んだと言っていました。

 コウの町でみんな普通の生活を楽しんでいるようです」


「だったら良い。

 彼らにはかなり無茶をさせてしまったからな、恩賞を与えるべきなのに復興支援官などという、名目上だけの役職を与えるだけになってしまったから気にはなっていた」


 宰相様が視察団の事を気に掛けていたのには驚いた。

 視察団もギムさんのチームの他に幾つかのチームが有ったと聞いた。

 どれも冒険者出身で実力のあるチームが領軍に引き抜かれた形だけど、遊撃隊として良いように使われていたから。

 いや、この場合は視察団全体の事を気にしていて、丁度良くコウの町のギムさん達 元視察団の事を話題にしただけかなあ?

 真意を測りかねたけど追求する様なことじゃない。


「私もコウの町へ戻って静かに研究できるのは嬉しいです。

 政治毎は疎いですし、関わらずに済むのならその方が良いです。

 幸い、元視察団の魔術師の方が助手を了承して下さったので実践的な研究もできそうですし、研究所の設立は私にとっても有り難いですね」


「権力に欲が無いのは才能のある魔術師には良くある事だな、例に漏れずというやつか。

 それは兎も角、成人する時に合わせて一度は王都へ行って貰うことになる。

 まだ先のことだが一応心にとめて置いておくように」


「判りました」


 その後、領内の不満を聞く羽目になったりしたけど、宰相様との関係は実務的に良好という感じかな?

 何となく時々孫を見るような目で見ている気がするのは、多分気のせいだ。



■■■■



 進級試験が始まった。

 休日を挟んで20日の期間だ、前半筆記で公判は実技。


 学校内に何となくピリピリとした空気が漂う。

 4年生5年生は試験監督として駆り出されている、筆記試験の教室の後ろの方でカンニングの監視だ。

 カンニングといっても魔法を使った物もあるので試験中に魔法を使うこと自体が禁止だ、魔法の発動を監視していることが中心だけど、アナログな手法もあるので油断は出来ない。

 時折、集中しすぎて魔力が漏れ出してしまう生徒に注意をする程度で大きな問題は起きなかった。


 実技の方は試験会場となる練習場の準備、これも職員さんと一緒に行う。

 実技の方の監督は基本的にはしない、魔力の暴走など生徒が対応できないから、教師でも難しいだろうけどその辺は不幸な事故になる。

 もっともそんなヘマをするような生徒は1年目で篩い落とされるので心配は少ない。

 ざっと見た感じ、1年生の実力が私が1年生の時に比べると全体的に高い、これは入学時に初等教育と魔法が使える事が推奨されるようになった事が大きいと思う。


 進級試験は大きな問題も起きず、滞りなく終わる。

 その後は、結果が出るまで開放的になって遊びに出る子が多くなる。

 と同時に、試験の手応えから退学を検討する生徒も出てくる。

 職員室の相談室は、今後の進路について相談するために順番待ちをするほどだ。



■■■■



 コウの町から来た子供たちは、商会からコウの町への定期便に乗せる手紙を集める時に全員集まるようにしている。

 場所は、寄宿舎の食堂の一角だね。

 1年生は15人、2年生は4人、3年生は2人、そして4年生は私1人。

 全員、進級試験は合格出来た、直接教えることが出来なかったので不安だった。

 この内、1年生は5人が、2年は2人、3年は1人が退学を検討しているとのこと。

 実家の都合や自分の魔術師になれるだけの素養が無い事を感じたそうだ、職員とよく相談するように助言した。

 ここで始めてコウの町の子達に研究所の話をした。


「では、マイさんはコウの町の近くに研究所を造って研究されるんですね」


 秘密では無かったけど公にもされていなかった、タニアさんから進級試験の結果発表と合わせて公表されるので話しても良いと許可が出たからだ。


「ええ、時空魔法と基本魔法もそうですが、色々研究します。

 中でも、コウの町の英雄マイの足跡そくせきというかその力の究明を領主様から依頼されています。

 故郷の村の跡地に研究所を作って下さったのもその為ですね」


 色々と話していないことがあるけど、公に出来る情報は少ない。

 改良されたダンジョンコアの件も、宰相様から極秘と言うことで概要を知らされただけだ。


「コウの町と東の村の中間付近です、もし機会があったら寄って下さい」


 私が下級生にそう笑って言う。

 私が偉ぶっていない事に安心してて居るけど、貴族格の事を知っている子は気が気ではないようだ、私は選民意識は無いよ。

 1年生の子が私のことを見上げ……うん、同じ背の高さで見つめて聞いてきた。


「マイさんは、英雄マイじゃないんですよね?」


「当たり前じゃないですか、魔物の氾濫の時の私は3歳だったんですよ」


「そうだよ、変なこと聞くなあ」

「今、英雄マイが生きていたら20歳くらいか? 年齢知らないけど」


 ええと、本当の私の年齢って幾つだっけ?

 コウの町に来たときに14歳位でそれから1年ぐらいで魔物の氾濫、2年行方不明でそしていま4年目、20歳でいいのかな?

 通常だと15歳で成人して5年たって一人前として扱われる年齢だ、家族を持って早ければ子供も居る。

 今の私は5歳で魔法学校に入学して4年目、9歳だね。


 周りの子達から落ち着いているとか言われているけど、子供らしい演技していないからそう見えるのかもね。

 その割に、大人の人達からは子供扱いされるのは解せない。

 理由は判っているよ身長がほとんど伸びていないのだよ、入学してから数センチだけ!

 このまつ成長が止まってしまってしまうのか心配だよ。

 まだ見た目年齢は9歳だから成長の余地はあるよ、たぶん。

 私がコウの町に来たとき位まではせめて成長して欲しい。


「もう少しすると、コウの町から新入生が来ますね。

 私は入学式が終わったらコウの町の研究所へ行くので新入生を迎えるのは皆さんにお願いします。

 大丈夫ですよね」


「ああ、もう俺たちで回しているしマイさんから教えて貰ったことは伝えていくよ」


 1人だけ成人している3年のキオタクさんが胸を張って言う。

 キオタクさん、念願叶って4年に進級した際に魔術師の資格試験を受ける予定とのこと。

 実力も十分だし楽しみだよ。

 ただ、コウの町へ戻るのかは決めかねているとのこと、学術区画の役場で働いている人に惹かれているそう。

 4年生になるキオタクさんが実質まとめていたので、特に問題ないかな。

 2年生の子も魔術師の可能性は高いと思う。

 1年生の子の実力は判らない、勉強も魔法も指導していないから。






「キオタクさんも後継者を育ててくださいね、少しキオタクさんが頼られ過ぎている気がします」


「ああ、気を付けるよ」


 キオタクさんがニッコリ笑って答えた。

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