第247話 4年目「特別講義」

 私が魔導師の格を持ったことで、色々と支障が出てきた。

 その一つが、個人授業の依頼を受けることが出来なくなったこと。

 それでも生徒の中から私に授業を見て欲しいとの要望が出てきて、特別講義として開催されることをタニアさんから要望された。


「と、言う訳でして生徒から魔導師様の授業を受けたいという要望が学校に上がっています。

 学校側としても無視できないので、マイさんに授業を行って欲しいのですが、どうでしょうか?

 特別講義は週に1回開催予定です」


 毎週? 正直な所やりたくない。

 4年目に入って貴族教育や関連して覚えることが出来て、本来の魔術の研究に割く時間が減ってきてしまっている。

 そこにきて授業を行わなければならないというのは、その準備にどれだけの時間を使わないと行けないのか想像も出来ない。

 私の渋い顔に気が付いたのかタニアさんも苦笑する。


「マイさん。

 大体2ヶ月に1回程度でお願いすることになります。

 他の日は、学校外から例外魔法を使える人を中心に実務で魔術を使っている人を呼ぶ予定です。

 これは、4年生の方がゼミで学校外の人を呼ぶという話から広がりまして、3年生以上の生徒を対象にした特別講義を開催しようという事になったんです。

 今年はその試策として講師の特別講義に希望者が参加する形で進めるそうです」


 少し肩の荷が下りた、毎週 特別講義を開催となったらその内容を決めて資料を作るだけでも時間が足りなくなる。

 ん?

 私はタニアさんをジト目で見る。

 貴族教育で学んだんですよ、一度 難しい要求をしておいて現実的な所にもっていって要求をのんで貰おうという方法。


「タニアさん、これって私が断れないように誘導していますよね」


「あ、あはは、はい。

 以前のマイさんなら理屈が通っていれば受けて下さっていたと思います。

 流石ですね、貴族教育の成果が出ていますよ。

 ですから、そんな目で見ないで下さい、特別講義の講師1回でも構いません、やって貰えないでしょうか?」


 うん、判りやすい誘導だったからね。

 私を試したかったのが、どこまで本気だったのか少し気になる、元々職員は生徒の資質を見極めて魔導師になり得る人格が備わっているかを評価している。

 どんなに魔術に精通していても人間性に問題がある人物に魔術師としての格を与える訳にはいかないからだ。

 これも生徒の資質を見ていることの一つとしておこうかな。

 さて、特別講義の講師。

 1回ぐらいなら受けても構わない、水の状態変化を講義するだけで十分かな、この事を知っている生徒は居ないはず。

 タニアさんもそれで良いと言ってくれた。

 捻りが無いけど、魔導師として研究を開始するまで手の内を隠しておきたいし、検証を済ませていない課題も多い、未完成のまま発表は躊躇われる。

 かといって既知の内容を発表してもつまらないだろうから、この程度で良いかな?


「判りました。 1度だけですよ」


「評判が良ければ次回も要望されると思いますけど、駄目でしょうか?」


「うっ、私も魔導師に正式認定されまでの間、勉強をしないといけませんし何かしらの成果を出す必要もあります。

 ただでさえ、貴族教育関係で予定以上の時間を割かれているので、お断りします」


 タニアさんがウルウルした目でお願いしてくるけど、何とか振り切る。

 2回目を了承したら、なあなあで何度も講師を引き受けないといけなくなりそうだ。


「はい、では水の状態に関する発表を行うと言うことで進めます。

 他の特別講義ですが、決まっているのは聖属性の方と時空魔法の方です。

 マイさんも興味がありましたら参加して下さい」


 タニアさんがニッコリ笑う。

 多分だけど、こういう結果に落ち着くことを想定していたんだと思うな。



■■■■



 翌週、最初の特別講義が実施された、講師は教会から派遣された聖属性の例外魔術師の方だった。

 講義の内容は、少し残念だったかな?

 宗教が若干入ってしまっていて信仰することの重要性が説かれた。

 生徒からもっと実践的な説明をと要求が出て不満げに説明をしてたけど理論的な説明が足りず、その後の質疑応答で言い淀んでしまっていた。

 それでも聖属性が空間の安定化を元にした魔力でありそうということが判っただけでも収穫だった。


「今回の講師は外れでしたね、ずいぶん自信があって来たようですが、自分の信じる神の布教が目的でしたし、理論的に聖属性の魔術を構築できていませんでした。

 単純に魔法としての威力が大きいからだけのようですし、教会での魔術師の認定方法に疑問が出てきてしまいました」


 クロガ先生が他の先生や職員の人と話しているのが聞こえてくる。

 他の生徒の感想も似た感じだ。


「来週はマイさんから基本属性と状態遷移について抗議をして頂きます」


 教師の誰かが来週の予定を発表する、私の番か。

 同級生が近寄ってきた。


「マイ、その状態遷移って3年への進級試験でやったやつ?」


「うんそう、今のところ教えられてみんなが知らなそうな箏ってこれ位だから」


「マイの魔術って精度が高いけど、これを知っているからかな?」


「半分正解、魔法を現実の現象で再現する際に有利な考え方かな、詳しくは授業で」


「うん、楽しみにしてる」


 同級生には詳しく話したことは無いけど、教え合うときに何度か説明に使っていた、全く知らないわけじゃ無いのでみんな乗る気だ。

 3年の生徒は困惑している様だね、もしかしたら出席しないかもしれない。


「あの、ちょっと良いですか?」


 3年生かな?

 男子生徒が話しに入ってきた。


「マイさんは魔導師の仮認定を受けた方ですよね。

 実力を疑うわけでは無いのですが、どんな授業なのか想像できなくて戸惑っています」


 おずおず、という感じだ。


「あー、実際に見ないと理解しにくいかな。

 覚えると、使っている魔法が一段階 精度と威力が上がるよ。

 俺もやり方だけは教えて貰ったけど、具体的な理論はまだだったんで楽しみなんだよ。

 おかげで領軍に入れたようなものだしな」


 同級生の彼、領軍に入ることを決めたそうだ。

 基本属性の魔術に関しては彼の方が威力が段違いだ。


「そうなんですか、是非参加しますのでよろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げると、3年生が固まっている所に小走りで戻っていった。

 代表して聞きに来たのかな。



 翌週の私の講義は、一応の好評を得たとしておこう。

 実際に目の前で現象を再現させて、あと4年生で魔法の精度が高い生徒を中心に実際に行って貰って効果を確認して貰った。

 成果が出る人も数人居たけど、上手くいかない人の方が多かった。

 実地での授業の要望が出てきてしまったが、こちらは教師が対応してくれることになっている。

 翌週は時空魔術師が講師の予定で、その後は錬金術を使う魔術師の方に依頼中と事。


 時空魔術師、領軍の輸送部隊から来るかと思ったら、学術図書館で司書をしている人だそうだ。

 本や展示物の運搬整理をしているそうで、公表している私の時空魔術に近い。

 講義の内容は、適性が無くても習得する方法、あとは収納空間内の安定や過去に居た特別な特性を持つ時空魔術師についての紹介が行われて、みんな興味を持って聞いていた。


 学校外から講師を招くというのは、どうやら先生方にとっても刺激になったようで、教育内容の見直しも始まっている。



■■■■



 期末試験が近くなり、特別講義は一時中断となった。

 3年生は試験勉強が中心になるからだね。

 4年生は期末試験は無いけど、学習した内容の発表会はある。

 私は、時空魔術の収納限界と収納空間の相関性について発表した。

 収納空間の大きさがどのように決定するのか、限界まで収納した際の振る舞いについてだ。

 大樽5個分ということにしてある収納容量を利用して収納空間を飽和させた収納爆発について表に出した。

 収納空間からの取り出しだけで起きる収納爆発の威力が低いことが疑問視されていたので、この機会に発表してしまおうと思ったんだ。

 収納空間内に収納空間を作ることに関しては既に時空魔術に関する資料があって、実現できるが収納容量が増えるわけでは無く管理が煩雑になるだけとの結論での論文があった。

 これと組み合わせることで本来の収納爆発を説明できる。

 つまり英雄マイの力の一つを解明できたかもしれないと、魔導師としての実績になったかな?

 適性が無い人にも判るように説明するというのは案外難しい物だね。

 他の生徒も自分の適性がある魔術についての発表でどれも自分には無かった視点からの考察が有り興味深かったよ。


 4年目は色々有ったけど、特出するほどの問題は無かった。

 特別講師をしたり、貴族教育をしたりとか、余計なことが増えたくらいかな。


「で、マイは4年目が終わったらコウの町に帰るの?」


 ナルちゃんステラちゃんとの何時ものお茶会、場所はお高い方の喫茶店だ。

 これも私の都合がある、中位貴族相当の魔導師が庶民区域を利用するのはお店の方が気を使ってしまうそう。

 この喫茶店は下位貴族も利用しているお店なので、奥の個室を優先的に使わせて貰っている。


「うん、正確にはコウの町の近くに私の研究所が出来て、そこで研究することになるのかな?」


 2人が驚いている。

 研究所が出来ると言うこともそうだけど、魔導師がコウの町のような特別重要じゃ無い町へ行くと言うことが意外だったようだ。


「それは凄いですね。

 理由はあるのでしょうか?」


「2つ有って、1つは貴族出の魔術師たちの不満解消かな。

 もう1つは、英雄マイの謎の力の解明だね」


 ナルちゃんが少し考え込んでいる。

 何か言い淀んでいる感じがする。

 私の方を見て、一つ溜息を付いてから、吐き捨てるように言った。






「英雄マイの偽物って、マイの事を見ている人が多いみたいなのよ」

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