第17章 4年目
第245話 4年目「進級」
3年目の後半は慌ただしい物だった。
私マイについて。
期末試験が終わり、後期が始まって直ぐに魔術師の資格授与式が行われた。
場所は魔法学校の大講堂だ、領主様が直々に来られて全生徒と関係者が集まり授与式を行った。
周囲を驚かせたのが魔導師としての仮認定まで正式に行われたことだ。
事実上、4年目で正式に魔導師になることが決定したことになる。
コウシャン領の魔法学校で魔導師が輩出されるのは数十年ぶりだ、学術区画でも少し有名人になった。
授与式の後、ナルちゃん、ステラちゃんにお祝いして貰った。
一寸高い方の喫茶店だ、私が魔導師の仮認定を貰った事を知ったお店の人がサービスしてくれて注目を浴びたのは恥ずかしかった。
脱線した。
同時に、同級生の2名が魔術師として仮認定され、3年目が終わった時点で資格授与が内定された。
その後、3年の後期の間に5名が魔術師の資格試験を受けることになり、無事に合格し準・魔術師となっている。
退学した生徒が2名、これは実家の仕事を継ぐためと魔術師に成れる見込が少ないことから、自主的に決めた、皆で送り出した。
これで残り10名。
そして3年目の最後、進級試験を受け魔術師の資格を得た2名が卒業していった。
1人は領都で領軍に所属、もう1人は実家にのある町へ戻るそうだ。
準・魔術師の5名は4年目で魔術師に成る内定を取るために進級した。
そして、2人が進級できずに退学となった。
1人は笑って出て行ったが、1人はいつの間にか居なくなっていた。
空っぽになっていたよ、そう言っていった隣の部屋の子が寂しそうに笑っていた。
最終的に4年目は、魔導師を目指すことになっている私と、魔術師を目指している5人の6人だけになってしまった。
男子3人、女子3人だね。
4年目の100人は入る広い教室の中に6人だけとさみしい物になってしまっている。
自然と教壇に近い前の中心付近にみんな集まっている。
「ずいぶん少なくなっちまったな」
男子で、クラスの牽引役になっている生徒が呟く。
彼は基本属性でも攻撃系の魔法が得意で領軍から卒業後に従軍することが勧められている。
他からも声が掛かっているので、今は保留しているそうだ。
「そうね、でも全員が魔術師の準認定されているのは珍しいそうよ」
彼女は委員長かな? そういう役割が決まっている分けじゃないけどなんとなくクラスの中心に居る。
「違うでしょ、1人は魔導師様よ」
委員長と仲が良い女子が付け加える。
いつも一緒に居るけど、タイプは正反対で明るく話し好きだ。
その言葉にみんなが笑う。
「ああ、マイが居てくれたおかげで進級できたような物だからな」
「そうだね、みんなで勉強しているとき、マイの説明がないと理解できなかった所が多かったから」
みんなが私を持ち上げてくる、うん恥ずかしい。
それに幾ら教えた所で本人がやる気があって素質がないと意味が無い。
「みんながヤル気があったらですよ」
真っ赤になった顔を背けながら、小さく呟く。
みんなホッコリと笑うのは止めて欲しい、ついでに私の頭を撫でくり回すのもだ。
深刻な問題として、背がほとんど伸びていない、見た目だけなら1年生と間違えられかねない。
このまま成長が止まったらどうしようかと真剣に悩んでます。
4年目の担任もクロガ先生が担当することになった。
昨年の4年担当の先生が問題(教育放棄)をしていたことから、問題なければ継続して教えていく方針に変わったらしい。
クロガ先生は、見た目に厳しく言葉使いもきつめだけど、話してみると親身になってくれる先生だ。
ツンデレ先生と陰で言われている。
「みんな席に着け。
4年目の君たちは魔術師の素質がある者として下級生の模範と成るように、普段の行いも注意すること」
4年目の生徒向けの授業は基本的に無い。
全てが自習時間に割り当てられる。 しかも、研究棟に各自専用の部屋が用意される優遇ぶりだ。
開催されてる授業に出席しても良いし、図書館に行っても良い、午前中に魔法学校の敷地内に居れば何も言われない(野外実習は除くよ)。
あと、週に1回だけゼミが行われて全員が集まり討論会を行うとのこと。
希望があれば外部から人を呼ぶことも可能と言われた。
希望を聞かれたとき、生徒の1人が錬金術が使える魔術師か魔法使いを希望した。
これは私の想定外だ、特に興味を持っていなかった分野なので。
私からは、聖属性の魔術師か魔法使いを希望した。
ならば、と色々な例外魔法の希望が出てきた。
さて錬金。
例外魔法の1つで特に自然界に有る物に対して干渉する能力が高い適性を持つ魔法になる。
魔法が一般的に何も無い所に何か現象や物質を生み出すのに対して、錬金術は存在している物から何か現象や物質を精錬したりすることが出来る。
錬金が使える魔法使いは、例外魔法の中でも時空魔法より多い。 というより基本魔法を使える人の大半は多少は使うことが可能だ。
使える人が多いけど、高度に使える魔法使い・魔術師レベルは極端に少なくなる。
例えば、水を生み出すのが水属性の基本魔法とするなら、そこに存在する水を操作するのが例外魔法の錬金になる。
私でも風(気体)や水(液体)程度ならできるが、土(固体)なると干渉できる範囲は限られてくる。 金属ならほとんど出来ない。
質量の重い物ほど干渉するための魔力と素質が必要になるのだろうね。
うん、錬金面白いじゃないか。
今から楽しみになってきた。
聖属性についてはハリスさんの影響が大きいのと、ダンジョンや魔物に特効がある箏から、習得できるのであれば身を守れる範囲でも身につけたい考えがある。
他の例外魔法も楽しみだ。
■■■■
4年目に入ることは、フミに手紙で連絡した。
魔導師に成れそうなことを祝ってくれたけど、会えないことにさみしさを覚える。
フミはすでにタナヤさんと並んで料理を作る様になっていているそうだ。
そして、タナヤさんとの腕の差を実感できるようになってまだまだ修行が足りないと書いてあった。
コウの町、領都近隣の町の中では最も被害が少なかった町だけあり復興が進んでいる、今は放棄した村々の再興を勧めている。
その主担当がブラウンさんで、北の村の村長の娘さんと結婚したとのこと。
北の村はコウの町の農業の中心的な所なのと、改良されたダンジョンコアの発見地として注目されていて、ブラウンさんたちが何度も訪れていた。
その関係で対応していた村長の娘さんと知り合いになって、結婚に繋がったそうだ。
村長の娘といっても4人居る娘の末娘で、男の子もいるので特に継承問題は無いらしい。
どんな人だろう?
ナルちゃんとステラちゃんとの交流も続いている。
月に1回程度、喫茶店での会話は私の数少ない楽しみだ。
2人も見習いから支店の正式な社員になって働いている。
ナルちゃんはその立場から、コウの町の担当補佐を行う立場になっているそうだ。
ゆくゆくは、コウの町の窓口として親の商店で働く予定だからね。
私は、魔法学校と学術図書館と寄宿舎を往復する毎日だ。
魔導師(表向きは仮認定)となったことで、学術図書館を教員特例で利用することが可能になった。
つまり、利用料金が安くなった、保証料は変わらないけど。
おかげで毎日は無理だけど週に1~2回利用している。
領都から魔導師(中位貴族)への分配金が入金される箏も大きい。
魔導師が居る、それだけで領としての格が上がるので王都へ行かないで欲しいという意味もあると思う。
実際、非公式に別の領へ移らないかという人も出てきている。
学校に連絡して適時対応して貰ってるけど、交際を申し込んできて実はというのがやっかいだ。
ナルちゃんとステラちゃんへも私を紹介して欲しいと来たので、注意することと余計な面倒に巻き込んでしまったことを謝罪した。
「友人に魔導師様が居るなんて自慢できるんだから、この程度気にしないよ」
「そうですね、マイさんと友人になれていることに比べれば些細なことです」
2人は笑ってくれているけど、やはり気になる。
貴族位を持っている人は領主様から釘を刺されているのか、魔法学校の生徒で友人になりたいと近寄ってくる程度だ。
しっかりと断ればしつこく付き纏われることは無い。
自分の部屋を魔法学校に持てたので、人目を気にせずに魔術の研究に没頭することが出来るようになった。
野外実習もタニアさんと一緒に森に入る、これも楽しみだ。
タニアさんも息抜きになるようで、月に1回の2泊3日の野外実習は私たちの楽しみになっている。
もちろん、野外でしか出来ない魔術の実習は欠かせない。
少しだけタニアさんが余所余所しいのは気になる所だ。
4年目の年、コウの町からは15人の魔術師候補が魔法学校に来た、全員魔法が使えるそうだ。
初等教育は当然だけど習得して中等教育もある程度身に付けている。
これは、シーテさんを初めとしたコウの町の魔術師が積極的に魔法の使い方を教えた箏。
ハリスさんが中心となって、初等教育の習得を町民へ義務化を進めたことが大きい。
コウの町との手紙のやり取りは、2年生になったコウの町の出身者が取り纏めするようになった。
2年は6人のうち2人が退学しコウの町へ戻ったそうだ。
3年は4人のうち2人、年長者のキオタクさんも進級している。
やっぱり初等教育と魔法が使えるかどうかが進級に大きく影響しているようだね。
今年の15人は初等教育と魔法が使えることから、魔術師に成れる可能性は大きいと思う。
今年来た子達と顔合わせをして、魔導師の仮認定を貰っていることに尊敬の目で見られてくすぐったい。
今年も個人授業の指導をするつもりで居たが、魔法学校の職員で私の担当をしているタニアさんから待ったが掛かった。
私が現行で魔術師であり魔導師の予定となってることが問題だそうだ。
「マイさんが授業をするとなると、対価となる値段が跳ね上がってしまいます、また、コウの町の子だけとなると不公平と言われかねません。
もしやるとしたら、魔法学校で臨時講師として特別授業を開催することになると思います」
魔法学校の魔術師は教師しかいない、生徒は卒業する時に正式に魔術師になる。
私は魔導師の素質があるという異例で生徒であるのにもかかわらず正式に魔術師に成ってしまっている。
色々と問題が出るので、事前に相談して欲しいとタニアさんに言われた。
窮屈に感じる。
このとき、私は迂闊にも気がついていなかった。
自分が中位貴族相当、支配階級の人間になっていることに。
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