第244話 3年目「エピローグ」
「英雄マイを超えるか、良い応えだ!
あははは、凄いぞ、素晴らしい、面白い、こんなに楽しいのが続くとは、本当にコウシャン領に来て良かったよ」
先王ディアス様はその喜びを隠そうともせずに、部屋の中を一人踊る。
「どうじゃ、マイの希望は叶えそうかの?」
魔導師オーエングラムが領主に問う。
「いい落し所だと思います。
英雄マイに関しては不明確な所が多い、その謎を解明する名目であれば、魔導師マイをコウの町へ赴任させる理由としては十分です。
同じ時空魔法の適性を持っていますから」
領主として、今回の歓談はどう転ぶのか不安でしか無かったが、結果としては先王を満足させ、またコウシャン領に新たな魔導師を輩出するという成果まで得ることが出来た。
時空魔導師という使い所が微妙なのは、仕方が無いと思うべき所だろう。
「マイが4年目を過ごしている間に、コウの町の近くに専用の研究施設を用意しましょう。
規模は小さい方が、貴族出の魔術師に干渉されないと思います。
所でオーエングラム様、今回の遊説には才能のある魔術師を探すことも含まれているのでしょうか?」
気になる所だ、魔物の氾濫から5年、そろそろ才能のある子供達が出てきても不思議では無い。
ならば王都への招集出来るほどの才能の持ち主を探していたとしても不思議では無い。
「それは考えすぎじゃな。
領主や魔法学校からの推挙があれば検討はするが、ワシらは先王の護衛が第一じゃ」
「すいません、推測が過ぎました」
「よいよい、だだマイの事はよろしく頼むぞ、あれはワシから見ても面白い子じゃ。
有効に使えば、強い味方となるじゃろう」
「はい」
魔導師オーエングラム様、基本魔法の6属性全てに適性を持ち、高度な魔術を行使するトサホウ王国の魔導師の中のトップ、だった人物。
先王ディアス様が退位するに合わせて引退を表明し、先王が各地の領主との関係回復のための遊説を行うのに帯同することを決めた。
多くの弟子を輩出しているにも関わらず、連れてきた弟子は魔術師になってもいない少女、彼女も大きな才能があるのだろうか?
王宮でも大きな権力があったにもかかわらず、それを簡単に捨てるというもの気になる。
今回の遊説の目的が、単なる各領との関係修繕だけと見るか?
深読みしすぎて、頭痛がしてきた。
今回の結果だけなららコウシャン領にとって有益なものしかない。
唯一の問題だったのは、先王様が冒険者を装って野営をしているとき、黒い雫が発生したことだ。
もし何か有ったら大問題だった、が、それが逆に新たな魔導師を生む切っ掛けになったのだから皮肉なものだ。
「しかし、ディアス様も随分と気に入られたようだ。
この爺も、どう成長すればあのような知見を得ることが出来るのか気になってしょうがないわい」
顔を上げると、先王はオーエングラムの弟子を踊りの相手にしてグルグル回っている。
彼女は貴族出かな、踊りのステップは慣れているように見える。
兎も角、マイとの歓談がコウシャン領での公式・非公式の最後の打ち合わせになる。
あとは、無事に次の領へ送り出す行事を行えば終わりだ。
いや送り出すパレードも気を抜いてはいけない、貴族区画での壮行会を用意しているが、それが滞りなく進めないといけない。
それに比べればマイの事など、大したことでは無い。
領主は、踊り疲れて冷たい飲み物を飲んでいる先王様を見ながら思いを巡らしていく。
■■■■
魔法学校の教師達は混乱していた。
少なくても、今居る教師や職員は魔導師の輩出という事は始めて経験する。
「兎も角、ご苦労だったタニアよ、問題なく終わって良かった。
課題は山積しているがな、しかし魔法学校としても成果として誇れる事だろう。
魔術師の輩出が少ないことに毎年責められていたからな」
「はい、ありがとうございます」
タニアが儀礼用の制服のまま、魔法学校へ戻り報告すると、校長・教頭を含む魔法学校の首脳陣が大きく息を吐く。
副教頭がタニアに声を掛ける、庶民が先王様と領主様に非公式であっても歓談を行うなど通常あり得ない、どんな結果になるのか不安でしょうが無かった。
結果として、先王様は満足され、そして新たな魔導師が魔法学校から生まれるという大金星を上げることが出来た。
興奮もひとしおだ。
「さて、我が校から魔導師が生まれたのです、魔術師の輩出を増やすだけでなく魔導師の育成も力を入れるべきでは?」
「まあまて、正式に発表は時間を置いてだ、それまでの間に色々やらねば」
「ああ、領主様からも魔法学校に何かしらの恩賞があるだろう、予算の増額も期待できるぞ」
「いや、魔導師は魔術師 以上に素質が要求されるだろう、マイは1年目にして特出した才能を出している。
課題になっている初等教育・中等教育の義務化や魔法が使えない魔力量の多い生徒の教育方法の見直しを進めるべきでは」
早速、魔導師が生まれたことを利用しての利権獲得や改革の話が出る。
タニアは、それを冷ややかに見る。
マイとは魔法学校に入学したときから担当として関わってきた、だからこそ知っている。
魔法学校のどの魔法使いにも教師にも実質教わっていない、自分の力で学び育ってきている。
それを自分達の成果のように喜ぶ姿は滑稽だ。
話に夢中になっている中、副教頭に一言断りを入れて退室する。
廊下を歩きながら、思う。
マイはあの小さい時空魔導師はこれからどんなことを成すのだろうか?
夕方近く、図書館棟から帰る学生達が見える、彼らがマイのことを知ったらどうなる?
自分を鼓舞するのだろうか? それとも、教えを請いに来るのか? 嫉妬する?
3年目もまだ半分にも達していない、楽しみであり予想が付かない不安もあった。
■■■■
寄宿舎の私の部屋、私物のほとんどを収納空間に入れているので簡素なままだ。
窓を閉め明かりも点けずに居る。
机の上には魔導師の証となる紋章が置かれている。
私はそれを立ったままジッと見つめている。
これで良かったのだろうか?
私の夢だった時空魔導師に成ることが出来た、なのに何でこんなに嬉しくないのだろう。
判らない。
いや、判っているのに認めたくないんだ。
この魔導師の格は私の実力で、その実力を周囲の人たちに認めて貰って入手したとはい言いがたい。
たまたま、先王ディアス様の目に止まり、魔導師オーエングラム様が、属性の状態を評価したこと、そして黒い雫への対応を評価してくれたからだ。
偶然だ。 運も実力と言えなくもない。
でも突然すぎる、ポンと渡された魔導師の格を受け止めきれずに居る。
これが私が望んでいた時空魔導師なのだろうか?
魔導師の紋章に触れて、絞り出すような声が出た。
「これじゃ、名前だけで中身が何にもないじゃない」
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