第242話 3年目「授与式」
お目通りの日。
朝の鐘が鳴る前の暗いうちに、貴族区画の館に居ます。
馬車は、窓が閉められ、何度も曲がっていたので、貴族区画のどの場所に連れて行かれていたのかも判らない。
のは困るので、まだ眠いという停滞で目を瞑っている。
そして何度か遠隔視覚を使って場所を確認している、領主の館の近くにある上流貴族の館がある区域、その中でも領主の館に隣接している館に入っていった。
「えっ、全部脱ぐんですか?」
館の馬車の車庫に入って下車する外の様子を見せないように徹底されている。
案内された部屋でメイドさんが言ったことは、全裸になれだった。
「はい、身ぎれいにして貰います、また、服装も合わせて着替えて貰います。
あと、武器を隠し持っている可能性も加味しています」
ん?
「あの、私は時空魔術師なのですが」
「はい、それは魔法を使わない様にして下さい、複数名の魔術師と魔導師様が監視していますので注意を。
大樽5つ分と聞いていますので、全て出して貰うことも可能ですが、武器1つぐらい誤魔化すのは簡単です、収納内容を確認する方法がありませんので。
ですので、魔法自体の使用禁止です」
ですよね。
「判りました、もっとも入っているのは勉強道具と野外実習用の道具だけですが」
すいません、他には冒険者としての装備や武器が一式入っています。
と話している側から、他のメイドさんに服を脱がされていく。
気が付いたら、下着を脱がされる所だった、いつの間に?
「ひゃっ」
私をメイドさんがお姫様抱っこする、そして、下の下着やスカートと靴までも脱がされてしまい完全に全裸だ。
で、そのまま浴室に運ばれる。
「じ、自分で洗えます」
「いえ、これが私達の仕事ですので、ジッとしていて下さい」
有無を言わせない圧力で、かつ丁重な仕事で私の体が洗われていく、それにマッサージれされて力が抜ける。
他人にここまで肌を晒すのは始めてなので、恥ずかしくてたまらない。
そして、湯船に入れられた。
領都でも暖かい湯に浸かるというのは貴族か一部の豪商 位と聞いた。
共同浴場も領都に幾つもあるけど、基本的には沐浴で温めの湯をかけ流すだけだ、あと、サウナというのもあるらしい。
香りがついた湯に浸かっていると、力が抜けて眠くなってきてしまう。
ウトウトしてきてしまった。
次に気が付いたときには、柔らかい椅子に座らされて髪をすかれ、爪を手入れされていた。
何処のお嬢様扱いだなのかな、全く初めての経験に戸惑う。
メイドさんが姿見の鏡を用意してくれる。
こんなに大きくて綺麗に写る鏡を見るのも初めてだ。
私って、こんな顔をしていたのか。
あ、遠隔視覚で自分自身を見れば良かったんだ、なんで思いつかなかったのかな?
「可愛らしいですよ、魔術師様」
メイドさん達が、やりきったという表情で褒めてくれる。
ドレスを着ている、といっても派手では無く、露出も少ない。
何となく、魔法学校の制服のイメージが残っている。
「えっと、まるで別人を見ているようです。
凄いですね、私じゃ無いみたいです」
私は鏡の前で全体の様子を確認する、靴はかかとが低めの物を用意してくれた、正式にはかかとの高い靴を履くのだそうだけど、履いたことの無い私がやらかすことを考慮してなんだそう。
その後、待合室に入ると、魔法学校の職員のタニアさん、貴族委の職員さんが儀礼用の制服を着てお茶を飲んでいた。
直ぐに、アンが入ってくる、こちらもあまり派手では無いけど上等なドレスに身を包んでいる。
少し居心地が悪そうなので、ドレスを着る機会は少ないのかな?
「マイさん、見違えてしまいましたね、可愛いですよ」
タニアさんが褒めてくれるけど、可愛いかあ。
それに対して、アンは綺麗だ、何処かのお嬢様と言われても遜色ない。
「アンさんは綺麗ですね。
アンさんの方が主役みたいです」
「え、あ、ありがとう」
照れながらも、微笑んでお礼を言ってくる。
私の中にあるアンという少女のイメージはもう完全に塗り替えられてしまった。
私も変わっていくのだろうか?
雑談をしていると、執事の方がもう間もなくなので準備をと言ってきた。
これは、心の準備とあとトイレとかかな。
準備の確認をお互いにしていた頃に豪華な鎧を着た領軍の兵士が呼びに来る。
案内される廊下は全て窓にカーテンが下ろされて、外の様子が判らない。
徹底しているなぁ。
今回のお目通りする私が先頭でその横1歩下がった所をアンが、そしてタニアさんと職員さんが私達の後ろに並んでいる。
その私達を横から挟むように6人の兵士が並んでいる。
短い儀礼用の槍を持っているけど、主力武器は腰の剣だろうな。
奥の一室に通される。
■■■■
両開きのドアが開けられる。
事前に打ち合わされた通り、頭を下げて声が掛かるのを待つ。
「コウシャン領 魔法学校の生徒マイ、参りました」
宰相様の声かな?
「さ、入りたまえ」
横の兵士の人が促す、軽く頷いて入室する。
非公式の場だというのに、小さめの謁見の間の様な作りになっている。
周りを見渡したいのを我慢して歩く。
目の前に兵士が2名立っているので、その手前で止まり片膝をついて、改めて頭を下げる。
「よく参った、汝の名を示せ」
聞いたことの無い声だ。
先王ディアス様の隣に座っていることから、領主様かな?
「本日はお目通り叶い、参上いたしました。
魔法学校3年、時空魔術師 マイであります」
「マイの付き添いで参りました、アンでございます」
ん? タニアさんと貴族院の職員さんの気配が後ろに無い、入り口付近に居るのかな?
「苦しゅうない、面を上げよう」
頷いてから顔を上げる。
兎に角、ここでは発言を許可されたらその範囲でのみ言葉を発することが出来る。
「ふむ、着飾ると可憐であるな、共の者も美しい。
さて、本日はマイ、君には魔導師の格を授与を行う、ただし内密になることは許せ」
はて、どういう意味だろうか?
それは領主様から説明が行われた。
「時空魔術師マイよ、3年になって直ぐに魔術師の格を得た才女である事、そして此度の活躍と能力より、先王ディアス様から、更に魔導師オーエングラム様より魔導師として推薦するお言葉を頂いた。
だが、魔術師の格を得たばかりの貴女が魔導師の格を得るのは異例でありまた不自然でもある。
魔導師の格に関しては準・魔導師として魔導師の素質があるということを適当な所で発表する。
そして、卒業するまでに魔導師として正式に発表する。
なお、その間、研鑽を怠れば魔導師としての格を剥奪されるので注意するように。
よいか?」
「はい、過分に評価して下さり光栄です、期待にそぐわない行動を取らぬように肝に銘じます」
辞退、という選択肢は無い。
支配階級からの言葉は事実上の命令だから。
「うむ、良い返事であるな。
魔導師オーエングラムよ」
ディアス様がオーエングラム様に何か指示をる。
オーエングラム様が私の所に来て、首に紋章を掛ける。
オーエングラム様が持っていた紋章と同じ意匠の物だ。
これが魔導師である事を示す証明書になる、心臓が早鐘を打つ。
「うむ、非公式じゃが新たな魔導師の誕生を嬉しく思うぞ」
「ありがたき幸せです」
オーエングラム様は私の肩に軽く触れると元の位置に戻っていった。
「魔導師マイよ、以上である退室せよ」
領主様の言葉に、了解を示すため頭を下げる。
えっと、ここから5歩ユックリ後退して、更に礼をしてから振り返って退室だったね。
アンは成れない片膝で足がしびれたのだろう、少し歩きがぎこちない。
私達に合わせて扉が開かれる。
部屋を出た所で、振り返り、最後に深い礼を扉が閉まるまで待つ。
バタン
扉が閉まる、
そして、私達を案内してくれた兵士の人たちに連れられて元の部屋に戻る。
私達とメイドさんだけになる。
「マイさん、お疲れ様です。
無事に魔導師様になれておめでとうございます」
「ありがとうございます。
でも、タニアさん、これからが本番ですよ、先王様との歓談が控えていますから」
「そうでした、とはいえマイさんが対応されるですよね?」
「あの場にはタニアさんも居ましたよね、話題が振られる可能性はありますよ」
「どうしましょう」
オロオロと狼狽えるタニアさん。
駄目なら私かオーエングラム様が対応してくれると思う。
それより、お腹が空いた、朝食も食べれていないし、緊張で食欲も無かった。
目の前のお菓子でお腹を膨らませようか?
ドアをノックする音がして、執事の方が入ってくる。
「ではご歓談の時間になりますので、ご準備を」
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