第240話 3年目「貴族院」

「マイ、君にはこれから貴族院に行ってきて貰いたい」


 翌日、魔法学校に行ったら職員室に呼び出されて、第一声がこれ。

 うん、意味が判らない。


「えっと、どういう事なんでしょうか?」


 対応している職員さんは、管理職なんだろうか?

 遠巻きに見ている他の職員さんの対応を見るとそんな感じだ。


「判らないのは此方の方なのだよ。

 何で魔導師オーエングラム様から、魔導師の素質有りとの言葉が届けられたのかね?

 その上、先王ディアス様からも魔導師の認定へのお言葉を賜っている。

 正直、我々も君への対応を決めかねているのだ」


「それと、私が貴族院へ行くことと、どんな関係があるのでしょうか?」


 うん、私は判らないという体裁を取らないといけない。

 魔導師オーエングラム様の事は知っているが、先王様に関しては知らないことになっているのだから。

 しかし、オーエングラム様が私に助力するというのは、こういう事だったのか。

 魔導師の素質が有ると言って貰えたのは素直に嬉しい。

 現役の魔導師様に能力を認められたんだ。

 嬉しい、私の夢が認められた気がする。


 で、ディアス様は一体何を言ったんでしょうかね?

 確かに魔導師の認定は国王か王太子などの高い王族に限られる。

 現在、その資格があるのは現在の王トアス様、そして先王のディアス様になる。

 トアス様は婚約者がいるが結婚していないし子供も居ない。

 王族で継承権がある方は数名居るが詳細は知らないし、魔導師の認定が出来るかも知らない。

 庶民で王族に関して知ることが出来る事は案外少ない。


 管理職の職員さんが腕を組む、この人も困っている感じだ。


「詳細は知らされていない、貴族院にて詳しい説明をするそうだ。

 あと、タニアも付き添いで行かせる」


 タニアさんが来てくれるのはありがたい。

 そのタニアさんがやって来るが、こころ無しか顔色が悪い。


「副教頭、あの本当に私も行かないと駄目なんですか?」


「行くように」


 あ、この管理職の職員さん副教頭さんでしたか。

 記憶を掘り起こして、入学式の時に、校長の隣の教頭の隣に居たような記憶があるような無いような。

 うん、覚えていない。

 タニアさんは、腰が退けている。 なんなら一寸涙ぐんでる。

 貴族院なんて貴族ばかりの場所というイメージだからね。


 改めて、貴族院について考える。

 私の知っている限り、貴族院は貴族の子供が貴族格を得て正式に貴族と認定されるために学習するための施設だ。

 貴族としての知識だけじゃなくて支配階級として統治者としての品格も求められるので、落第や退学になると家から放逐される事も有ると聞く。

 もう1つ、町長や村長を行う一部の知識や能力が高い庶民の教育も兼ねている。

 貴族が町や村を直接統治する事は無い、その代行する人材育成も行っていて、人数だけなら庶民の方が多い。

 しかし、その情報は私が昔、北方辺境師団に居た頃に貴族出身の兵士から聞いたことだ、今のコウシャン領の貴族院については全くの未知だね、聞いておいた方が良いだろう。


「あの副教頭、貴族院とは一体どんな所でしょうか?」


「ん、ああ、庶民には縁の無い所だから知らないのも無理はないか。

 役割は3つ有る。

 1つめが、貴族の家を継ぐ後継者を育成する為だな、貴族格を得るためともいえる。

 2つめが、家督を継げない貴族の子供の育成だ、別の家に行くことも有れるから貴族としての教育もしているが、大学院で勉強するために編入可能な知識を得たりもする。

 3つめは、マイも知っているだろう町長や村長などを育成する為に庶民から学のある者を選抜して教育していく所だ」


 大体合っていた、しかし貴族の家を継げない子の教育もしていたのか、大学院の役割だと思っていた。

 あんまり気にしなくても良いと思う、だって、選民意識が強い貴族の子が私みたいな庶民を相手するなんて無いだろうから。


「タニアさん、取り敢えず行ってみましょう。

 対応してくれるのは、貴族院の職員さんでしょうし」


「ええ、そうですね。

 そう聞いたら少し安心しました」


 移動には魔法学校から馬車を出してくれた。



■■■■



 貴族院は大学院と同じくらい広い敷地を持っているけど、寄宿舎も敷地内に有ってかなりの部分を占めているので校舎としてはそんなに大きくないとのこと。

 貴族院の入り口で降りる。

 魔法学校の馬車では入れないから、まぁ、豪奢な門を見ると、実用的な馬車が入るのは場違いな感じはする。


 魔法学校と違うのは、正門から最初の校舎までの間に馬車が通るための道や施設があって庭園も整備されている。

 歩いて行くと、正面の建物ではなく、その隣の建物から職員が出てきて案内してくれた。

 うん、貴族な人じゃない場合はそちらを使うんだね。

 徒歩で歩いている生徒も居るけど、おそらく庶民なんだろう。


「タニアさんとマイさんですね、案内を任されています。

 こちらへどうぞ」


 職員さんに案内されて通された部屋は随分と豪華な応接室だ。

 タニアさんが緊張してるのが判る。

 しばらく待っていると、誰かが来たので立って出迎える。

 3人だ。

 太った老人と、痩せている中年、そして若い女性。

 痩せている中年の人が口を開く。


「ふむ、礼儀が出来ているのはよろしい。

 座りたまえ、自己紹介は後回しだ。

 私はコウシャン領の宰相をしている者だ。

 彼は、貴族院の院長。

 彼女は君たちの面倒を見る、コウの町出身で、貴族院でギルドマスターの資格を取得したアンだ。

 取り敢えず、それだけ覚えておけば良い」


 紹介される毎に頭を下げていたが、アンの紹介をした所で驚く。

 えっ。

 コウの町のギルドマスター ゴシュの一人娘のアン、自己中心的で楽観主義のアン。

 思わず見つめてしまう。

 すっかり落ち着いた雰囲気の女性で私の知っているアンとは見違えている。

 私の不躾な視線にも、柔らかい笑顔で答える別人?


「よろしくお願いします。

 私達を呼び出した理由をお聞かせ願いますか?」


 タニアさんが年長者として、ここで一番偉いと思われる宰相という人物に聞く。


「魔術師マイよ、汝に先王ディアス様へのお目通りの許可が下りた。

 また、その際に準・魔導師への認定も行われる予定だ。

 光栄に思うように」


 院長とアンが驚いている、タニアさんも。

 私は、驚きより呆れの方が強い、ディアス様 何やってんの。

 会いたいのなら、内密に呼び出せば良いのに。


「我々も驚いている、それに我らが領から魔導師が誕生するのも記録が有る限り数十年ぶりだ、誇れる事だが、その魔導師が君のような少女というのもな」


 宰相は私を値踏みするように見る。

 興味深いという感じだ、不思議と見下している感じはしない。


「宰相様、準・魔導師というのはどういう事でしょうか?

 それに魔導師が誕生するというのも」


 院長が聞く。

 準が付くというのは仮認定で認定される訳じゃない、私も知りたい。


「単純に若いからだ。

 通常、魔導師に認定されるのは魔術師として高い功績を成した者に与えられる。

 報告に有る限り、素質は十分に有り、そして先日の功績も含めて先王様が強く望まれた。

 しかし、若すぎる認定は軋轢を生みかねない、なので準・魔導師と認定し適切な所で魔導師に昇格する事が決まった。

 だから事実上の魔導師の誕生である」


 呆然とする。

 私の夢である魔導師に成ること、これが突然降って湧いてきた。

 先王様を助けた形になった事が切っ掛けだろうか。

 嬉しさが全く湧かない。

 魔術師に成って努力して、実績を認めて貰い魔導師になる、つもりで頑張ってきた。

 なんだろう、この感情は。


「正直 感情が追いついていません。

 それに、どんな功績で魔導師に認定されたのでしょうか?」


「それについては、後だ。

 3日後に非公式の場を設けて先王様に会って頂く。

 非公式なのは対話を望まれているからだ」


「貴族院からはマイに付き添う者を出すように宰相様から要請があった。

 ただ、マイは庶民であるため、貴族の子では問題がある、そこでマイの出身のコウの町から来ているアンに付き添いをさせることにした。

 魔法学校からはタニアが付き添うように」


 院長からの言葉で、アンが付き添って面会する相手が先王様と聞いて硬直している。

 タニアさんは予想していたのだろうけど、若干顔色が悪い。


「了解いたしました。

 失礼の無いように対応します」


 私は事の成り行きに戸惑っている、が何とか答える。

 頑張ります、はここでは駄目だ、失礼があってはならない。


「詳細は後日連絡が来る、それまでにアンと話をしておくように。

 アン、ご苦労だった、後で連絡をするので退席したまえ」


「は、はい失礼します」


 アンがぎこちない動きで部屋を出て行く。

 それを見送った宰相が大きく息を吐く。



「ここからの内容は箝口令を敷く。

 さてマイ、先日の野外実習で一緒になった冒険者一行を覚えているか」


「はい、魔導師オーエングラム様がいらした一行ですね」


「そこに先王様がおられた。

 お忍びでの行動である故、この事は公になってはならない。

 今後の警備にも影響するからな」


 私とタニアさんは改めて息を呑む。

 可能性としては確信に近く持っていたが、断定されるとまた違う。


「では、あのときディさんと名乗っていた方が先王様だったのですか」


「その通りだ」


 あ、タニアさんがかなり限界だ。 プルプル手が震えている。


「黒い雫と魔物が発生したときの詳細な報告を受けている。

 黒い大地とその場での魔物の強さ、そしてその黒い大地への対処、それをマイお前が見抜いたそうだな」


 宰相が確信を持って私に問いかける。


「はい、黒い雫が地面に張り付くように広がっていると見えました。

 ですので、黒い雫への対処と同じ事を黒い大地へ行うことを、魔導師オーエングラム様へ提案しました」


 宰相の目が細くなる。


「理由を聞いても良いかな?

 君の年齢では魔物の氾濫の事をほとんど覚えていないだろう」


「魔物の氾濫の時に私の居た村は壊滅しました、私を除いて。

 魔物との戦いの様子は僅かですが覚えています。

 私を助けてくれたのは、当時 視察団のチームの方々です。

 魔物や黒い雫の事については彼らから教わりました。

 また、魔法の使い方についても教わっています」


 宰相が考え込んでいる、私の情報は全て持っているはずだ、矛盾は無いはず。


「そうか、あの視察団チームか。

 なるほどな、年齢の割に不自然に実戦慣れしているのはその為か」


 なんか自己完結しているけど、外れでは無い。






「なるほどな、お前という人物がどうして生まれたのか何となく判ったぞ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る