第237話 3年目「黒い大地」
「魔力とは何でしょうか?」
私が一番疑問に思っている事、それは魔力だ。
魔力はこの世界の理に干渉する事が出来る力、そう定義されている。
そしてこの世界の全ての物に魔力が含まれている。
この世界の物理現象も魔力が影響しているとも言われているが、矛盾している。
「ふむ、魔力とな、基本過ぎてどう答えた物かの」
「魔力はこの世界の理に干渉して、自然現象ではあり得ない事象を具現化する力です。
しかし、基本魔法では自然現象を再現する事を一つの目的にしています。
おかしいです、自然現象はこの世界の理です、それに干渉しているのに自然現象を再現するのは。
あと、時空魔術などの例外魔法、それこそ魔力がどう作用しているのかも判りません」
オーエンさんが考え込む。
私はオーエンさんの瞳を覗き込む。
「ふむ、判らん。
魔力という力はそういう物という認識だったのでなぁ。
改めて考えると、法則性も解明されておらん、研究はされておるが成果が出たというのは聞いた事が無いな」
「そうですか……」
「むしろ何で魔力に興味をもったのかの?」
「時空魔術、収納空間とは何かを検討していて、その中で魔力とは何かで詰まってしまって。
結局は現象から推測しているだけですので」
「なるほどな、答えられなかったから、別の質問を聞くぞい」
残念、何かヒントになる物があれば良かったんだけどね。
そうなると、どうしようかな?
うーん。
「でしたら、魔物とは何でしょうか。
一体どこから来て、何をしてるのか、この世界の生物とは全く異なる生き物、判りません」
「ふむ、また難問じゃな。
これも判らんじゃな、魔物の氾濫で色々研究はしておるが、成果は機密扱いじゃな」
「いえ、構いません」
そんな話をしていたら、野営地が見えてきた。
「すまんの、代りと言っては何だが、ちょっと助力をしておこう。
楽しみにしておれ」
ん? 何だろ。
けど、まあ良いか。
野営地はこれから領都へ帰るグループが居ただけで、貸し切り状態になった。
結局、その夜もディさん達と一緒に食事をすることになった。
なお、クェスさんがオーエンさんへ考察を報告した結果は見ていない。
■■■■
夜番も済ませて、翌日になる。
今日は午後の馬車に乗って戻るだけだ、午前中はどうしようか。
本来の予定なら、今日は遠出した先の野営地から戻ってくる予定だった、なので昼間までの予定を決めていなかった。
と、クェスさんが私の所にやってくる。
一寸涙目で目つきが悪い。
面倒事かな、オーエンさんは遠くでのんびりお茶をしてる。
「あの、マイ、昨日の魔術についてご教示をお願い出来ないだろうか?」
そうとう無理をしているのだろか、プルプル震えながら目線を合わせようとしない。
これは相当オーエンさんに絞られたな。
「それは構いません。
ですが先ずはクェスさんの考えを聞かせてください」
グッ、となる。
泣きそうになる、けど我慢している。
「判らなかった、なんであんなに早く氷が飛んだのかも」
「本当に? 私がやっていた事を順番に思い出してください」
私が諭すように聞く。
キョトンとしてから目を閉じて考えながら話し始めた。
うん、案外素直なのかな?
「えっと、急に氷の槍が出来て、そのあと何かして、突然飛んでいった、かな?」
「ええ、ちゃんと見ているじゃないですか。
前に話した通り、氷を直接生成する事は可能です。
土属性の攻撃魔術では回転させる事で命中率を上げる事が基本です、それをしました。
そして、突然飛んでいった時に何か有ったか思い出せますか?」
「ええと、あ、霧が出来てた?」
「はい、氷の一部を昇華、水蒸気にしたんです、その時に水蒸気は数千倍に膨張します」
「あ、だから氷の槍が打ち出されたんだ、そして水蒸気が冷えて霧になった?」
「その通りです。 水の特性を理解していればそんなに難しい魔術ではないですよ」
クェスさんが手を当てて、パッとした笑顔を見せる。
うん、笑うとステキなんだ、何時も しかめっ面をしているのは損だね。
「ありがとう、納得できた。
それにただ聞いただけだったら、また考えるの辞めてたかも」
私の両手を掴んで、ブンブンと振る。
「ありがとー」
機嫌が良くなって、随分と砕けた感じで戻っていく。
オーエンさんが私に手を上げて返事するが、弟子の教育のネタにしないで欲しいです。
「案外、良い子でしたね」
「多分、貴族の子供にありがちな知識偏重だったのかもしれませんね」
「それで、マイさん相談なんですが、今回の野外実習はどう評価しましょう?」
「私に聞きますか? タニアさん。
実習としては最低限の事は出来ていますが、評価としては最低でしょうね」
本来の目的の野外実習では、広範囲にわたる探索魔術の行使、それと遠距離や範囲の魔術を実習することだった、けどディさん一行のせいで最低限に留まってしまっている。
仕方が無い、と諦めるしかないかな、領同士での問題に発展しなかっただけでも
■■■■
結局、お茶を飲みながら話をして時間を潰す事にした、タニアさんとも随分と親しくなれた。
昼食をどうしようか考えている時、ディさん一行から剣士の1人が来て話をしてくれた。
「今回は旦那様の相手をしてくれて助かった、これだけ機嫌が良いのも珍しいのでな。
我々はこの後に来る馬車で領都コウシャンに入る。
ここから別行動になる。
世話になった分は、後日 何かしらの報酬が渡されるはずだ、受け取って欲しい」
丁重な対応だ、了承した事を伝える。
「あと、魔法学校への報告はして貰って構わないが、我々の事は公言しないで貰いたい。
一応、内密な行動なのでね」
お互い、顔を見合わせて苦笑する。
うん、仕事中以外は良い人だ。
ゾクリ
嫌な気配を感じる。
思わず立ち上がり、探索魔術を行使しながら周囲を確認する。
2人が驚いているけど、そんな暇は無い。
だって、この感触は魔物が現れる時の黒い雫の反応だからだ。
「どうしましたマイさん」
「タニアさん、警戒!
何処か判らないけど黒い雫の反応があります、危険です!」
剣士の人が慌てて戻っていく。
オーエンさんも気が付いて居る、私が見るとこちらが気が付いて居る事に驚いているようだ、クェスさんはオロオロしている。
上位貴族を守る護衛だけあって、アッという間に防御陣形を組む。
空にくすんだ虹色の雲が現れる。
あそこだ。
野営地から草原側の丘の中腹辺り、近い。
「タニアさん、遠距離攻撃は無いんですよね、いざとなったらディさん一行を盾にして隠れてください」
「マイさん、本当に魔物が現れるんですか?」
「オーエンさんの対応を見ても間違いないと思います。
あの虹色の雲は見た事があります、あそこから黒い何かが出てくると思います」
そう言っている間に、じわりと空中に黒いシミが現れ段々大きくなっていく。
それが球形を取る。
高さは5m位か、もう少し接近すれば氷の槍が届く。
私は接近して氷の槍を生成して数発打ち込む。
効果は判らない、けど魔物が現れる前にダメージを与えておきたい。
ディさん一行からも2人が来て弓で攻撃を加えていく、魔物の戦いを知っている様だ。
そして、ゴブリンがボトボトと滲み出て落ちていく、攻撃が通っている様だ、すでに動かない。
大きさも直径3m程度かな、ゴブリンだけの可能性が高い。
黒い雫がゆっくりと下降して、地面に触れる、パシャ、と割れて黒い霧が広がる。
黒い霧が晴れると、ゴブリンが3匹、あと上衣腫のオークかな? が1匹、が居た。
そして、大地が黒く染まっている。 あれは何?
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