第234話 3年目「不審な集団」
平日の朝。
私は何時もの制服ではなく森に入るための服装で登校する。
野外実習を行う生徒はたまに居るので不審がられる事は無いけど、今日は違った。
魔法学校の正門を守る守衛さんに止められた。
「君、なんでそんな格好をしているのかな?」
「あ、おはようございます。
今日から野外実習を行うので、その装備できています」
守衛さん達が目配せし合う。
「判った、確認のため学年と名前を聞いて良いかな」
「はい、3年のマイです」
守衛が胸元からメモを取り出して確認している。
連絡が回っているのかな。
「よし、申請済みだね、気を付けていっておいで」
「はい、ありがとうございます」
守衛さんが軽く手を振っていくれた、ん? 誘拐された子を助けるときに居た守衛さんかな?
ちょっと覚えていないけど顔に見覚えがある。
そんな事を考えながら、教師棟に寄って今日から2泊3日で森に行く事を伝える。
私と同行する職員さんが出てきた、何度か顔を見ている私担当? の職員さんだ既に野外活動用の装備になっている。
その様子は様になっている。
「今日からよろしくお願いします」
「よろしく、マイさん。 改めて私はタニアよ」
魔法学校でもそうだけど、基本的に名前を名乗るのはその必要があるためで、通常は職員や他の教師が名前を名乗る事は少ない。
つまるところ、タニアさんは今後も私と関わり合う事になる事らしい。
タニアさんを観察してみる、普段の職員の制服では判らなかったが、体格がしっかりしている女性だ、背の高さは160cm程度かな、少し童顔で人当たりが良さそうな笑顔がステキだ。
その装備の腰に2本のショートソードがある、握りの部分を見ても使い込まれている事が判る、飾りじゃ無い。
私の視線に気が付いたのか、ニッコリと笑いながら気配が少し変わる、瞬間的に少し身構えてしまう。
「ふーん、マイさんって若いのに実践慣れしているのね、これなら楽できそう。
感づいているから、誤解が無いように言っておくね。
元は近くの町でギルドの職員と副業で冒険者してたけど、魔物の氾濫で町が放棄されてね、で領都へ来て魔法学校の職員に就職したという訳。
基本的には採取が中心だから戦いは無理だから期待しないでね」
なるほど、筋が通る話だ。
ギルドでも対応できる冒険者が居ないときは職員が対応する事があるとは聞いている、そういう人なのだろう。
でも戦いが無理という割には、ショートソード2本はおかしい、とはいえ詮索するのも筋違いだろうな。
「脅かさないでください、私も非戦闘系の時空魔法使いなんですから」
「
そうだった、職員さんは生徒の個人情報を確認している。
私の魔術の実力も把握済みということ、時空魔術師だからは通用しないね。
私は苦笑して返答する。
「認定されたばかりの新米魔術師ですよ、森も薬草採取しか入った事が無いですから」
「うん、今回も薬草採取で良いわね、でも薬草が群生している所以外を行くのは何で?」
「単純に管理された場所だと感が鈍るからですか、それと探索系の魔術とか使いたい魔術があるので、薬草採取が目的では無いです」
提出した行動予定には目的まで書いてなかった、ただ森の浅い所を移動して薬草採取をするとしか記入していなかった、失敗。
「ああ、なるほどね、だったら次に森に入りたいときは、しっかり目的も書いてね」
「はい、気を付けます。
では、馬車の準備も出来ているようなので行きましょうか」
教師棟の隣にある駐車場には馬車が3台駐まっている、2年生が十数人乗り込んでいる所だ、時期的には最初の野外実習が始まる頃かな?
タニアさんと一緒に最後の走りに乗る。
全員が乗った事を確認した所で、馬車が領都の西の森へ向かって走り始めた。
■■■■
2年の野外実習の組から離れて私は用意されている野営場所に行く。
彼らは日帰りの予定で、私は2泊3日だしね。
タニアさんと少し早い昼食を食べて、森に入る。
地図で確認しているけど、学生が依頼で採取に来る薬草の群生地から更に移動した所に狩人が利用している野営地があるので、そこを目指す。
森の中は良い、なんだろ自分の意識が広がっていく感じがする。
探索魔術を行使する、距離としては感覚で50m位かな、目標としているのは魔術師のシーテさんだ、彼女は探索魔術で500mは確認していた。
普段は情報量が多すぎるからと、指向性を持たせたり範囲を絞っていると言っていたのでもっと広いだろう、私も頑張らないと。
領都近くの森は冒険者と領軍の巡回で肉食獣はほとんど刈り尽くされている、山犬も居ないそうだ。
そのせいなのか森の中は小動物の気配で満ちている。
タニアさんと会話をしながら、森の中を移動する。
群れウサギを見つけたけど、話し声で気が付かれて逃げられてしまった。
捕まえても処理する時間とか無いけどね。
薬草も森に入る人が少ないのか、予定数は直ぐに集まってしまった。
「マイさん、経験があると聞いていましたが、慣れていますね」
「村ではよく採取していましたから。
狩猟は出来ないですけど」
「うーん、私も弓を持ってくれば良かったかな?
群れウサギとか、かなり増えているし狩れそうだね。
マイさんも魔術を使えば狩れますよね」
あ、そうか魔術を使えば良いのか。
タニアさんは遠距離の攻撃手段を持ってきていない。
収納空間内を見ても、弓と矢は収納していない、あ、
使わせて貰った事はあるけど命中率はとても低かったよ。
「タニアさん、投石器作れます?
収納している中に紐と皮があります。
私は作った事が無いので何ともですが」
「作れるけど、仕事中だから駄目、我慢よ」
あ、タニアさん狩りをしたがってるのが判る。
森を歩くのも慣れているようだし、周囲への気を配る感じも慣れている。
「仕事中なら仕方ないですね」
私も苦笑して返事する、野営地まで予定より早めに着きそうだ。
今回利用する野営地も森と平原の境目で近くに川が流れている。
森から出て川沿いに移動する。
川魚を捕るなら良いかな?
十分に時間の余裕があるのでタニアさんを誘って、川魚を捕った。
木の棒に紐と釣り針、石の下の虫を使うだけで4匹、内蔵の処理だけして収納してしまう。
料理はタニアさんがやりたいというので任せる事にした、私だったら塩焼きしかないので嬉しい申し出だ。
それから少し歩くと、遠目に野営地の目印になる岩が見えたので、指向性を高めた探索魔術を行使する。
反応があった。
10人くらいかな、狩人にしては多い、可能性としては巡回している冒険者か領軍かな。
「タニアさん、野営地に10人程度の反応がありました、何か聞いていますか?」
「いえ、10人は多いですね、通常は5人単位で構成しているはずですので」
「そうです、え!」
私はビクッとなる、探索魔法? が私の方に向かって来た。
私の探索魔術に気が付いた人が居る、それに気が付けると言う事はそれなりの技術を持っている魔術師か魔法使いだ。
「タニアさん、警戒をしてください、向こうから探索魔法を向けられました、こちらの存在も把握されています」
「判りました、少なくても領軍では無いですね、魔術師を森の巡回程度で同行させる事はほぼ無いので」
「そうですか、冒険者のチームに魔法使いか魔術師ですか、注意していきましょう」
「ええ」
タニアさんが腰に差してある2本のショートソードを確認している。
あと、タニアさんが背負っていた荷物も私の収納に入れて身軽になって貰った。
野営地が見えてくる。
10人程度の人影が見える、が布陣がおかしい。
中央に数人が座って居て、それを囲うように人が立っている。
そして、明らかにこちらを警戒している。
服装は、マントを羽織っていて判らないけど、領軍では無いのは確かだ。
立っている1人が私達の方へ歩いてくる。
タニアさんが私を制して立ち止まる。
「お前達は何者か?」
がたいの良い男性が問いかけてくる。
冒険者のような服装をしているが、腰に差しているのは長剣だ飾りでは無いだろう。
「誰かと聞きたいのでしたら、まずご自分が名乗られたら如何ですか?
それとも言いたくないのでしょうか」
あ、タニアさん結構 挑発的な言い方をしている。
装備で冒険者を装っている貴族か何かだと推測できるのに。
「何を貴様ら」
「待ちなさい、私らはタダの冒険者じゃ、誰か聞きたいのであれば自分から名乗るのが礼儀であろう」
「し、しかし。 はいすいません。
私達は冒険者のチームで森の探索を行っている」
男性が答えるが、バレバレですよ。
で、男性を制した老人かな白髪の男性が私達を値踏みするように見つめる。
「私達は魔法学校の野外実習で来ています」
ふんっ、と鼻を鳴らす音が聞こえた、完全に見下している。
「野営地は貸し切りだ、他を当たれ」
「野営地の独占は領軍であってもやってはいけない事ですが?」
「兎に角、駄目な者は駄目だ」
「グランツ!」
白髪のお爺さんが厳しい言葉を言う。
「しかし、安全を考えますと」
「ワシらの方がよそ者である事を理解せよ。
済まないなお嬢さん方、この者の無礼は私が謝罪しよう」
白髪の男性がゆっくり頭を下げる。
「オーエングラム様!?」
あー、貴族のお忍び冒険者ごっこかな。
しかも、よそ者ということは別の領の貴族だ盛大に面倒事だ。
面倒くさくなってきた、関わるだけ面倒が増えそうだ。
「私達は少し戻った場所で野営しましょう」
タニアさんに言うと、タニアさんも少し悩んで同意した。
「そうですね、地図で戻った所の近くに湧き水があります、そこへ行きましょう」
「いや、またれよ、ご婦人方、女性を森の中に放り出すなど男性として有ってはならないこと。
是非ともご一緒して頂きたい」
中年かな老人と言うにはまだ若い男性が数人を引き連れてやって来た。
隠す気が全くない口調に頭痛がする。
あ、女性も何人か居る。
だからといって安心できる要素は少ない。
とはいえ、断れる雰囲気でも無い。
「では、隅の方を使わせて貰います。
基本、冒険者同士は馴れ合わないものです」
タニアさんが釘を刺す。
けど、そんな事は全く気にしていない様子だ。
「いやいや、是非ともお話をしたい。
そこの子供かな? 探索魔法とやらを使ったのは、実に興味深い」
大げさに腕を広げる。
何なんだこの人は。
呆然としているうちに他の人たちに囲まれてしまい、やむを得ず野営地へ向かう。
歩く私の横に白髪の男性が近寄ってくる。
「あの探索魔術を行使したのはお主じゃな、その年で大した精度じゃ」
「ありがとうございます」
「師匠、そんなに凄いんですか?」
オーエングラムと呼ばれた白髪の男性、たぶん魔術師だろう。
女性、魔法使いかな? 軽装備をしているけど運動が得意そうじゃない。
それに師匠? うーん、この集団が判らない。
「ああ、お主よりも上かもしれんぞ」
キッと私を見る女性。
とばっちりだよ、私は誰かと競い合う気は無い。 私は聞かなかったフリをする。
集団の構成が見えてきた。
大げさな身振りをする中年男性がたぶん一番偉い貴族。
その周りに居るオーエングラムという白髪の男性が魔術師かな、そしてその弟子の女性。
あと、姿勢が嫌にきっちりしているけど老人の男性が1人。
身長が高い大剣を持っている男性。
その4人が、貴族を守る中心人物。
あと、男女混合の剣士かな、が6名の全部で11人。
野営地の中心で6人の剣士に囲まれて、5人の貴族とその腹心? と同席している。
はあ。
貴族の男性は上機嫌だ。
「さあ、君たちの話を聞かせてくれないかね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます