第233話 3年目「要人」
4年生のゼミに関する話はあの1回だけで終わった。
後日、私が職員さんに教師をしている魔導師の指導方法に多大な問題があると指摘した事を切っ掛けに調査が行われた、らしい。
結果として、担当教師が変更され4年生の授業が正常化したとのこと。
職員さんの話では、元々内定調査が行われていて、私が参加したのもその様子を確認して私からの報告も証拠の1つにするためだったそうで、良いように使われていた訳です。
「そういう訳でして。 今回のマイさんのゼミへの参加は、担当教師の指導の問題か生徒の資質の問題かを確認する為だったようです」
「こんなことは、これっきりにして下さい」
「はい、といいますか、私も後から知らされたのでなんとも、はい」
私の冷たい視線に、職員さんも知らなかったと平謝りしている。 ハア。
振り返ってみればおかしいことには気がつけたはず。
私がゼミに参加することにどんな意味があったのか、いくら私が魔術師の認定を持っているとはいえ、今思えば唐突で不自然だった。
もしかしたら、私を試していた?
うがった見方かもしれない、でも異例の認定だっただけに、私の動向は監視されていると思っても良いかも。
■■■■
数日して、魔法学校に登校していると、また門に守衛が立っていた。
挨拶して入る、要人がまた来るのかな?
前回は先触れとしての要人だったと思われるから、今回が本番か、もしくはもっと重要人物ならその準備に来たのかもしれない。
どちらにせよ、しばらくは窮屈な雰囲気になるのかな?
教室に3年の生徒が集まる、週に2回程度は全員が集まる機会を設けると、カミガ先生が提案して皆が了承した形だ。
そのカミガ先生から、要人が領都に来るので当面の間は守衛による警備と領軍による領都の警備が厳しくなると連絡が来た。
期間は前回同様に未定で、学術区画には関係の無い話しだとの事。
「ねえ、一体誰が来るんだろうね?」
「父上の話だと、貴族位でも上位の人たちが動いているから、そうとう偉い人じゃないかな?」
「マイはどう思う?」
え、あ、聞き流していた、誰が来るか? か。
「要人がそんなに偉い人なら、今回はその要人を出迎えるための準備で、来るのは更に先じゃ無いですかね?」
「うーん、そうかもね」
「領都の警備を厳重にする時点で凄く偉いのは判るけど、王子様とかかな?」
おっ、王族なのは正しいけど、元王様だ。
もちろん、話したりはしないけど。
「王子様との出会いかぁ、一目会いたいかな?」
「まあ無理だろうね、警備がとんでもなく厳重だろうから」
「夢ぐらい良いじゃ無い」
「そうそう」
王族かあ、過去一度だけ王族の血を引いている人を見たことがある。
北方の視察に来た、継承順位から外れている王族が、辺境伯(国境を接している領)への表敬訪問だったかな?
北方辺境師団が警護してきた時、顔の表情も判らないほど遠目だけど。
周りを近衛兵に囲まれて窮屈そうだった。
個人的には、お近付きに成りたくない類いの人たちだ。
そもそも私は支配階級に嫌悪感がある、理屈では判っているけど感情的に駄目だよ。
教室にいる3年生の何人かは貴族の子供だ、魔法学校を卒業するか退学したら貴族院での勉強が待っているそうで、そちらの勉強もしていると聞いた。
人柄は普通にいい人なので、嫌うことが出来ない。
町中が窮屈なら、いっそのこと森に行ってみようかな?
通常の採取依頼だと監視が付いてしまうが、仕方が無い。
時期的には、まだ暖かくなって間もない薬草や野草が取れるはず。
授業の内容的には、数日空けても問題は無い。
何より森の中に居るときは、何となくだけど自分が自由になった気になれる。
「ん? マイ、どうかしたの」
「町中が息が詰まりそうなので、森へでも行こうかと考えていた所です」
「なんで森?」
「マイは村の出身だから自然の中の方が楽なのかな」
「森かあ、良いかもね、即席でチームを組んで行く?」
「えっと、魔術師の認定試験への確認試験を控えているのに良いの?」
「ああああ、言わないで、プレッシャーが、しくしく」
「考えないようにしていたのに~」
筆記で同率1位の2人が頭を抱える、うん、プレッシャーに成っているようだ。
試験日までに潰れなければ良いけど。
後日、職員さんに野外学習を申し込んで盛大に嫌がられた。
厳戒態勢の中で森に行くのは、監視兼警備する冒険者の確保が大変なので仕方が無いかな。
取り敢えず、職員さん預かりに成って、日程調整するとのこと。
仕方が無い、無理を言っているのは十分承知しているので、了承しておく。
それから数日して、私個人でかつ2泊3日、依頼内容は何時もの薬草採取1回分のみ、という制限が付いて野外研修の許可が下りた。
なぜ野外研修なのか聞いた所、監視する職員が同行しやすくするためだそう。
■■■■
収納空間内に居ます。
正確には、寄宿舎の私の部屋で、部屋を閉め切ってから自分の収納空間に入っている所。
時間は消灯時間を過ぎて1時間程度?
自分の収納空間に入るのは、バレる可能性を考えると大体こんな時間が多い、
自分の時空魔術の検証も継続的に続けているけど、進展は余りない。
やはりまとまった時間が取れないのが効いている。
基本魔術に関しては学校で検証できるけど、時空魔術は収納・取り出し以外の変わった使い方を試すのはやりにくい。
さて。
この空間内も不思議だ、まず距離の概念が無い。
収納してある物は、見えないけど手に取ろうとすると瞬時に手に取る事が出る。
これは、収納空間から物を取り出すときと似ている。
空気がある、この中で火を使う事も出来る、けど煙とかどうなるのか判らないので火属性の魔術を少し試した程度だけど。
今取り組んでいるのは、収納空間内から現実空間の音を拾う事。
外の様子を見る事は可能だけど、音を聞く事は出来ない。
方法を検討しているけど、良い方法が思いつかない。
音は、空気の振動である、これは判っている、けどその振動を収納空間内へ届ける方法が無い。
現実空間と収納空間はある意味、隔絶されている。
それは強みでもあり欠点でもあるなぁ。
収納空間内に作った床とその上に置いてある椅子や机、これらは廃棄された村に残されていた物を拝借している。
椅子に座り、机に膝をついて、収納空間からペンを取り出してメモを取る。
ペンを鼻と唇で挟んで悩む。
「収納容量が判らないのも問題なんだよなぁ」
収納容量は、空腹から満腹に似た感覚で判断する事が出来るけど、今の私の場合は容量が判らない、収納しても、ほとんど空腹の感じのまま変化が無い。
これも検証したいけど、既に大樽5つ分と過少申告しているので、人目のある所で試す事も出来ない。
今の私の収納空間内にある物は少ない。
コウの町でギムさん達の元視察団の皆から貰った冒険者道具一式、領都で購入した文房具一式と、収穫祭で購入した中古の野外活動用の道具一式。
あとは、乾燥させたパンや乾燥肉にチーズとか細々した物。
そして、今座っている部屋? を構成している椅子と机と床。
それに収納爆発用の岩が幾つか。
あれ? 一寸多い、かな。
考えながら見上げたら椅子毎倒れた、けど重力の概念も曖昧だ、そのまま空中にフワリと浮く。
あくまでも収納空間内で設置位置を定義しているだけで、上下も無い。
そして、明るい。
乳白色のボンヤリとした光で満ちているけど光源が判らない。
「収納空間というのも改めて考えると不思議な空間だなあ」
例外魔法に属している魔法はどれも自然現象とはかけ離れている。
時空魔法も自然現象では再現できない……あれ?
えーっと、あ、そうだ。
仮定だけど、ダンジョンは収納空間が現実空間に露出しかつ収納魔法を使う者が死んで管理できなくなった場合だっけ。
これも穴だらけの仮説に過ぎないけど、もう少し整合性が取れる仮説を考えても良いかもしれない。
特に、改良されたダンジョンコアと、空の迷宮、そして黒い雫から現れる魔物。
モヤモヤする。
巨人が最初に現れたときは、黒い雫を通して向う側に空間があるようにも見えた、謎だ。
自分の胸に手を当てる。
探索魔術を行使する、微弱なダンジョンコアの反応がする。
これも謎だ。
人間でも魔石を体内に持つ人は一定数居る、人の魔石は高級品なので死者からの贈り物と言われたりもする。
魔獣の魔石と同じサイズなら人間の方が数倍高い。
大きさにもよるけど、庶民なら年は生活できる価格で買い取られる。
ダンジョンコアも高級品だ、そして大きいサイズだと凄い価格になる。
両方とも、基本的に個人所有は禁止されている。
魔道具に使われる事から安全性を考慮されている事かな。
とりとめも無く考えていたけど、そろそろ寝ないと。
明日は野外研修の予定が入っている。
収納空間内から現実空間を確認して自分を取り出す。
ゆっくりと背伸びをしたら、自分のベッドで寝た。
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