第232話 3年目「魔術師とは」

 私マイは今、4年生の教室に居ます。

 4年生は4人だけ、そしてそれぞれが好き勝手にやっている。

 それを悪いとは思わないけど、協力し合う気も感じられない。


 4年生の先輩方を観察する。


 魔術師の認定がされた2人。

 男性の彼はたぶん、一応のリーダー的な位置に居て、真っ先に話すし行動している。

 その割に、他の生徒の行動には無頓着で関わろうとしていない。

 もう一人は女性で、ぶっきらぼうな言葉だけど、嫌みが少ない。

 一番好奇心が高そうだ。


 そして、認定試験を受けていない? 2人。

 女性は、凄い疑り深くてまず否定から入る。

 疑問を持って見るのは良いけど、見ていることを否定するのはどうなんだろう?

 そして最後の1人の男性。

 ほとんど喋らないのでよく判らない。

 表情も少ない。 ただ、その目線は好奇心が見える。


 私が行使した魔術に、4人それぞれ興味を持っているようだけど、個人個人で考えていて、討論する様子がみられない。

 先生も、特に何も指導していない。


「えっと、皆さん黙っていては判りません。

 どのように行使したのか判らないのでしたら判らないと言ってください」


 それでも、黙って勝手にブツブツ言っている。


「マイ君、そろそろ説明してくれないかな?」


 先生が私に説明を求めてきたが、応じる気は未だ無い。

 4人がもう考える事を辞めて私の言葉を聞こうとしている。


「先ほど言った通りです、何かしらの考えを1つも聞いていません。

 全く判らないのでしたら、そう言ってください」


 それでも4人は黙って私を見ているだけだ。

 なんなら、生意気だと睨んでいる子も居る。


「なあ、もう種明かししても良いんじゃないか?」


 リーダー的な男子が私に言う。


「その前に聞きますが、皆さんはゼミで魔術について討論をしているんですよね?

 なのに、この程度の現象について、意見の一つもしない。

 お互いに考えを言い合って討論もしない。

 ゼミとはこういう物なのでしょうか?」


「生意気、上級生の言う事を聞きなさいよ」


 認定を受けていない女子が私に食って掛かる、けど違う。


「私は聞いているだけですよ。

 ゼミでは何をしているのかと」


「それが生意気なの」


「ゼミの様子を体験しに来たんですが」


 教師は止める気配も無い、我関せずだ、良くないよ。

 とはいえ、私もこれ以上関わる気も起きない。


「面白いけど、こんな小さい火と水でしょ、大したことないし、討論する価値も無いわ」


 魔術師に認定されている女子が言う。


「そうですか、では普段のゼミの様子を体験させてください」


 4人が黙り込む。

 私は先生を見る、ゼミを開始してくれという意思を込めている。

 動かない。


「先生、ゼミを開始しないんですか?

 私の魔術は討論の価値がないようですので、始めてください」


 少し嫌みを含む言い方で先生を促す。

 盛大な溜息をついてから、とんでもない事を言い出した。


「では、ゼミを開始しよう。

 各自、課題について検討するように」


 ゼミナールじゃない!

 1つのテーマにそれぞれが発表し討論するのではないの?

 呆れていると、それぞれがバラバラに散らばって、勝手にノートを開いたり教科書かな? 借りてきた書物を読み始めた。

 もう私に興味を持っている生徒は居ない。


「先生、ゼミの内容を教えてください」


「見ての通りだ、各自が課題に対して検討している。

 それで間違いない」


「私は何を?」


「だから、自分で課題を設定して検討していなさい」


「はあ?」


 先生はそのまま、教壇横の机に座ると、何か書き始めた。

 うん、なら好きにやらせて貰おう。


 私は時空魔術で筆記具を一式取り出す。

 改良を進めている水の状態変化だ。

 空中の氷の塊を取り出して浮かべる。

 質量の有る物を浮かべた状態に維持するのも高等技術になる、重力という大地の魔力の影響を振り払う必要がある。

 これを私は大地に引き寄せられるのは自然法則で魔力は関係ないと仮定し、その大地に引き寄せられる自然法則に魔力で干渉する事で浮かせられないか試した成果だ。

 普通に魔術を使って浮かすよりも効率が良い、証明は出来ていないけど。

 その氷を粉々に粉末に成るまで粉砕する、雪のような物が浮かぶ。

 そして、燃やす。

 細かい氷が燃える訳では無い、複合魔術で電気分解させてから発火させている、これも液体だと難しくて水蒸気だと薄すぎて上手くいかない。

 氷から直接、昇華させて気化させる所で魔術で干渉し分解している。

 自然現象として再現できないか試しているけど、この現象は魔術で理がねじ曲げられたからこそのものみたい。


 うーん、やはり電気分解させるときの気体は2種かな?

 私は、ペンを振りながら考える、他の燃える現象も例えば木が燃える時も何か燃える気体を抽出出来ないかな?

 木は植物なので基本属性の魔術で生成は出来ない、少なくても私には。

 でも炭なら? 炭は薪よりも燃えやすい、そして同じ性質を持った物質を魔術で生成する事も可能との記載があった。

 確か炭素だったかな? 炭も細かく粉砕し空気と混ぜると燃えやすくなる。

 燃えた後の灰は水のように炭の状態に戻す事は成功していない、何かが足りないのだろう。


 考えながら、今度は小さい球体状に氷を生成して浮かべる、クルクル回す。

 これは氷や土を槍状にして飛ばすときに回転させると威力と命中率が上がることから、訓練で行うようにしている。

 考えがまとまってきたので、昇華させて水蒸気にして消す。


「ふむ、なるほどね」


 ノートに考えを書き込んでいき、それを見直して更に仮定や証明方法の検討をする。

 4人が、いや先生までもが私のやっている事に注目している。

 けど無視だ、各自で課題に対して検討していれば良いのですよね。


 先生が近寄ってきた。


「マイ君、一体何をしているのかな?」


「見た通りです」


 私はあえて説明をしなかった、先生もおそらく私が水の状態変化について進級試験で発表した事を知っているはず。


「いや、判らないから聞いているのだが。

 答える気は無いのかね?」


「その前に、先生の魔術師としての考えをお聞かせください。

 答えだけ聞いて満足できますか?

 判らないのでしたら、是非課題にして検討してください」


 ムッとしているのが判る。

 私は、何で判らないの? という感じで見返した。

 他の4人はただこっちを見ているだけだ。


「そうだな」


 不機嫌なのを隠そうともせずに机に戻る先生。

 いや、推論でも話してくれれば私も応じるよ?

 リーダー的な男子が私の所に来た。


「すまないが、今の現象を書いてある書籍を教えて貰えないだろうか?

 僕も学んでみたい」


 うーん、どうしようか。

 そもそも、状態の変化に関する書籍は昔の魔法学校の図書館に有った物で、誰かの書き残した研究ノートの内容だ、だけど似たものなら有るか」


「学術図書館で、水に関しての研究論文の中にありました」


 5人がギョッとして私を見る、何?


「学術図書館を利用しているのか?」


「はあ、魔法学校の図書館では判らなかったので」


「お金が掛かるだろう」


「ええ、ですから数回しか利用できていません。

 それに、そこで得た知識は私の宝です、タダで配れるほどお人好しでも無いですし」


「そ、そうか。 ありがとう。

 しかし、なんで学術図書館を利用しようと思ったのかな、答えたくなければそれでもいいけど」


 私が蓄えてきた知識と経験、それに検討して来た結果は私の財産だ、判らないから教えてと言われて、ハイそうですかと教えたくない。


「私が魔術師だからです、魔術師が魔術を探求するのは当たり前でしょう。

 そして、先人達の知識を得る場所があるのですから利用しない手はありません。

 それに、今やっていた事は、その論文の中で不備があって判らない事を検証していました、なので この現象がそのまま記載はされていませんよ」


「それは魔導師の仕事だろう。

 魔術師は書籍にある魔術を使えればそれでいいだろ」


「書いてある事をそのまま再現するだけなら、魔法使いでも使える人は多いですよ。

 魔術師とは何でしょうか?」


 ぐっ、とひるむ。


「魔法の技術と知識を習得し、そしてそれを使いこなす技術を習得した者ですよね。

 ならば、魔術の技術を探求する事に何の疑問を挟むのですか?」


 誰も声を出さない。 沈黙が教室を満たす。

 そこに昼の鐘が鳴る。


「昼ですので、ゼミは修了で良いですか?」


 私は先生に問う。


「あ、ああ。 今日のゼミはここまで。

 マイ君もゼミを体験できたかな」


「自分の魔術の研究は進みました」


「そうか」


 文房具一式を時空魔術で収納する。

 収納する所を見るのが初めてなのか、それも驚かれる。

 私は、一礼をして教室を退室する。

 結局、他の生徒は私を見ているだけで、何も無かった。

 これで良いのかな?






 後日、職員さんから効果が少しだけど有ったと感謝された。

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