第231話 3年目「魔術師再び」

 再び時空魔術師になりました、マイです。

 もっとも公式に認定されるのは3年の終わりだ。

 それでも浮かれている自分の心が判る。

 だめだめ、気を引き締めてないと。

 私の目標は魔導師になることだ。


 魔術師の認定試験が終わり、無事合格した私は今後の学習方針を決めないといけない。

 翌日、職員室で職員さんと打ち合わせを行う。

 担当してくれたのは、私に認定試験を伝えてくれた職員さんだ。

 なんとなく、担当する生徒は決めているようだね。

 奥の周りに人が居ない打ち合わせ場所に案内された。


「こんにちは、マイさん。

 まずは魔術師の認定、おめでとうございます。

 凄いですね、3年に入ったばかりで認定された生徒は数年ぶりですよ」


「ありがとうございます。

 まだ未熟なんで、これからだと思います。

 今日は、受講する授業の相談に来ました」


 私が魔術師に認定されてから、私の魔法は魔術と言うとこが出来るようになった。

 今後は、基本的には魔術を使うと言うことになる。


「はい、マイさんの場合ですが、魔術の習熟が基本になるかと。

 適正属性の時空魔術の専門授業でしょうか?

 すいません、詳しくないので」


「いえ、受講内容を決めるのもまた必要な能力なのでしょう。

 時空魔術の習得は当然ですが、基本魔術も疎かにしてはいけないと思います。

 得意な魔術も大切ですが、それだけではいけないでしょう」


 コウシャン領の魔法学校は一芸に秀でる魔術師を輩出しているのが特徴だ。

 コウの町に居た魔術師の兄妹も光と影の属性魔術に秀でた魔術師だったね。

 だけど私の場合は時空魔術が評価されにくい能力であること事を知っている、だとしたら別の面で秀でていることを証明する必要がある。

 おそらく、それは魔術の研究に関してだと思う。


「そうですね、マイさんの考えで良いかと思います。

 でしたら、授業の予定は以下のようになっているので……」


 それから職員さんと納得いくまで受講する授業の構成を決めた。

 一息ついた所で職員さんが口をひらいた。


「それで、マイさん。

 ゼミに参加する気はありませんか?

 今の4年生の4人ですが伸び悩んでいまして、残った生徒で小さくまとまってしまったと言いますか、マンネリ化してしまっています。

 ですので、魔術師の認定を受けたマイさんに参加して貰って、雰囲気を変えたいんです。

 あ、魔術師の認定は2人受けています」


 ゼミ、ゼミナール、教師の下で数人が研究したり討論したりする集まりだ。

 あまり自分にメリットがある話では無い。

 私を4年の4人に入れて変化を促したいのか、でも私が何が出来るのだろう?


「伸び悩んでいるのは、何ででしょうか?

 少なくても残りの2人も認定試験で合格されているのでしょう。

 問題ないと思いますが」


「はい、実力的には問題ないのですが、教科書の内容通りと言いますか、マイさんのように新たな知識を探求する姿勢が無いのです。

 教師方から少し不安に思っているようでして」


「私が得になることが無いですね。

 長い期間、掛かわるのではなくて、体験として参加するとかではどうでしょうか?

 私が受講したい内容なら、参加しても良いです」


「そうですね、それで良いかと思います。

 ゼミの内容については後ほど相談させてください」


 職員さんが少し悩んで、了承してくれた。

 受けたのは評価の対象になる可能性が高いからだけど、個人的には余り関わりたくない。

 それなら3年になった同じクラスの生徒の方が、人柄も判っているのでやりやすい。


 その後、少し雑談して打ち合わせ場所から退席した。



■■■■



 コウの町への手紙を書いた。


 商会の、次にコウの町へ行く荷馬車の定期便の出発が近い。

 食堂の連絡板に案内を掲示した。

 魔術師に成れたことは直接的に書けないけど、それを推測できるように書いた。

『夢に一歩近づいたよ』

 魔法学校で出来た友人が新しい道を進んでいる様子も。


 フミからの手紙も届いている。

 フミも元気で頑張っている、今は結婚相手を探すように言われて困っているそうだ。

 フミは成人して居る、本来なら宿屋タナヤを継承する婿養子を迎えていてもおかしくない年齢だ。

 料理をフミが行うのなら、接客を行える人が良いようになるけど、男性で接客をしたいという人は少ない。

 フミの便りには弟が欲しいとの事が書いてあった。


 弟か、私にも兄と弟が居た。

 昔、5歳の時に魔法学校に行ったので弟と一緒に居た期間は短かったけど、とても懐いてくれて可愛かった。

 ふと、故郷の事を思い出して胸が締め付けられる。

 今、私は恵まれている、私だけが生き残って幸せになって良いのだろか、罪悪感が湧いてくる。

 フミの手紙を読んだ後、久しぶりに枕が涙で濡れていた。



■■■■



 数日後、教室で魔術師の認定試験に関する説明が行われた。

 筆記試験で私と同率1位だった2人が3ヶ月後の試験の期間に認定試験を受けるだけの能力があるのかの試験を受けるとのこと。

 この結果を受けて認定試験を受けるか決まる。

 他の生徒も同日に実力試験を実施するそうだ。

 3年では決まった試験が無い、不定期に教師が十分に能力が有る判断した所で試験を実施して評価する。


 そして、カミガ先生から私が魔術師の認定試験を受けたことが公開された。

 当然事だけど、教室内は騒然となった。


「え、この前、2日間 別の授業を受けていると思っていたけど、認定試験を受けていたの?」


「3年になって1週間目だろ、一体何でだい?」


「認定試験の内容教えて!」


 数人が私の周りに来て話しかけてくるけど、ごめんいっぺんに話されても聞き取れない。

 カミガ先生が、手を叩いて黙らせて話す。


「まあ、待ちたまえ。

 マイが認定試験を受けることになったのは進級試験で高い評価を得たからだ。

 認定試験を受けるだけの能力があると判断されたからだね。

 君たち全員、試験結果次第で認定試験を受けることが可能になる、研鑽を積むことだ」


 カミガ先生が、目の所に手を当てて生徒を見渡す。

 生徒達のやる気が上がっている感じがする。

 神経質そうな見た目に反して、冷静に生徒を誘導していく感じだね。


 それでも、私と話をしたがっている生徒たちがソワソワしている。

 先生が退室すると、また私の周りに生徒が集まる。

 これは仕方が無いね。


「えっと、認定試験が知らされたのは3年になって直ぐで私も驚いています。

 試験内容はその生徒によって変わるそうなので参考になるかは判りません。

 私の場合は、質疑応答をしながら魔法を使って見せていました。

 あとは議題を出してそれに関する考察を述べて、それを題材に討論を行いました」


「うん、参考にならないかな」


「でも、総合力が試される試験なのは確かだね」


「進級試験の内容かぁ、筆記は別とすると実技かな?」


「早速3年で魔術師が認定されたのは幸先良いね。

 この調子で皆も魔術師に成ろう」


「そうなると、筆記で1位の2人かな?

 頑張ってね」


「プレッシャーを与えないで!

 実技は苦手なんだから」


 ワイワイと話が弾む、うん、雰囲気は良いね。

 そのうち、それぞれが受講する授業のために移動していった。

 私も授業に移動した。

 みんな、魔術師が生まれたことで自分もと意欲を見せているね。



■■■■



 数日後、職員さんからの要請で、4年の授業に参加した。

 名目として体験する事になっている。

 定期的にゼミの講習として4人で討論会を行っているそうだ、先生が議題を出してそれについて各自の考えを述べる。

 これだけなら私が参加する意味が判らない。


「はじめまして、3年のマイです。

 ゼミの様子を体験させて頂けるとのことで、今日はよろしくお願いします」


 私が頭を下げるけど、返事が無い、なに?


「ま、邪魔をしないようにね」


「ジッとしていれば良いよ」


「余計なことを言わないように」


「……」


 歓迎されていないな。 自己紹介も無しか。


「4人とも、別の人の来てもやる事は変わらないよ」


 先生の言葉に従わず、あからさまに嫌そうな顔をする4人。

 なにかおかしい。


「それと、言っておくがマイは魔術師の認定試験に合格済みだ。

 格下などと思わないように」


 2人が明らかに驚いた顔をしている、残りの2人も意外そうな顔をしている。

 最初の2人は魔術師の認定試験を受けていない生徒かな?


「本当?」


「なにかズルをしたのか?」


「何か言ってよ」


「……」


 うん、先生、逆効果な気がする。

 それに先生への信頼と敬意が感じられない。

 だから認定されたことを信じられていないし、嫉妬を持たれている。

 どうするべきか? 決まっている実力を示せば良い。

 面倒だなぁ、それをした所で自分に何もメリットが無い、彼らに対しては刺激になるのだろうけど。


 私は、事前にしっかり説明していなかった先生に、咎めるように見つめるけど、全く気にした様子は無い、ハア。


「話しても信じて貰えそうもないですね。

 これを再現できますか?」


 私は魔術の並列行使で水属性と風属性を行使する。

 空中に平行に線のよう火と水が平行して展開される。 それを維持する。

 当然だけと仕掛けはある、生み出した水属性の液体は揮発すると発火しやすい液体を使用している。

 火の方はその揮発した気体を燃やしているだけだ、だから見た目だと火の属性と水の属性に見える。


 並列行使は魔術でもかなり制御技術の難しい技術だ、そして一般的には相反すると考えられている火と水の属性を展開するのは困難だと思われている。


 先生も含めて5人が驚愕する。


「火属性と水属性の同時行使だって!?」


「一体どんな方法で?」


「うそ、説明して」


「……すごい」


 先生はその様子を観察しているのかな?

 特に何も言わない。


「魔術師を目指している、認定されている先輩方なら、説明を求めるより自分の知識と経験から分析して検討し答えを導き出せると信じています。

 私の能力に不信があるのでしたら、これを再現して見せてください」


 私は4年生の4人に挑戦的に課題を出してみた。

 理由は2つ有る。

 まず、4人の魔術師としての素質がどの程度有るのか判らない、なので未知と思われる魔術を見せたらどう反応するのかを観察したい。

 それと、単純に理由もなく見下すような生徒なら関わる気もないから。

 私は教師ではない、教え導く気も無い。

 魔術師を養成する魔導師は私の目指している魔導師ではいないから。


 しばらく魔術の行使を維持した後、止めて先輩達を見る。

 4人の先輩達は黙り込んで考えている。

 あれ、話し合って、お互いの考えを出し合って討論したりしないのかな?

 そうか、これが職員さんが問題にしていたことか。

 自分の中で完結しようとして、別の意見や新しい事に向かい合おうとしていない。


 先生が私に声を掛けた。


「マイ、一体何をしたんだ?」


 その答えはまだ言うべきでは無い。

 先生が生徒を甘えさせるタイプかな、手取り足取り教えたために自分から行動できなくなっているのかもしれない。

 想像だけど。






「先生、それは先輩方が解明してからです。

 または、何も解明できなかった事を認めてからです」

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