第230話 3年目「面接」

 魔術師になるための認定試験の2日目。

 職員棟の1室、5人の試験官が座る席の対面に座っています。

 まるで問責質疑を受けるようで、内心緊張していますよ。


 挨拶を済ませ、試験官が自己紹介までしてくれた。

 過去の魔法学校での魔術師への認定試験とは全く違うので経験が活かされない、出た所まかせになってしまっている。


 出来るだけ表情は平静を保ちながら、最初の自己紹介から試験の説明を聞く。


「さて、マイ君。

 今日は試験ということを忘れて貰いたい。

 魔術に関しての討論をするつもりで向かってください」


 はて、何なんだろう?

 昨日の続きで今度は知識に関しての質疑応答が行われると思ってた。

 それに何に関しての討論をしたいのだろうか?


「身構える必要は無い、君の魔術師としての素質を知りたいので出来るだけいつも通りを心がけて欲しい」


「はい、魔法に関しての討論会に向かう心構えで行きたいと思います。

 先達の先生方の胸を借りたいと思います」


 私が頭を下げると、試験官の方々の雰囲気が少し柔らかくなった感じがした。

 なんだか認定試験らしくない。


「では始めよう。

 最初の討論の議題は魔力についてだ。

 進級試験において、マイ君は魔力が現実空間への干渉と、この世界の法則との関連性に興味を持っていたね。

 我々も答えを持っていない問題だ、君の考えていることを是非知りたい」


 魔力、定説では魔力がこの世界にあるためにこの世界は活発な状態で有り、無くなると何も生きる物も動く物も無い死んだ世界になるとなっている。

 そして、この世界の全ての物には魔力が含まれている。

 しかし、私は疑問に思っている。

 物が高い所から低い所へ移動するのは魔力の性なのか?

 物が燃えるとき、それは魔力で燃えているのか?


「私の持論ですが、前提としてこの世界の全ての物には魔力が含まれています。

 ですが、含まれているだけで通常の状態では何もしないと考えています。

 では、魔力はどのように力を使うのか?

 推定ですが意思の力が魔力に干渉することが出来る能力ではないかと考えています」


「ふむ、その根拠として考えていることは?」


「はい、魔法は意思の力で行使されます。

 これは人間でも魔獣でも変わりません。

 知能がある生物が魔法を意図的に使えます。

 また、魔力に干渉する能力のある一部の植物や知能の低い生物も魔法を行使していますが、それは意図的と言うより反応しているのみであると判断できます。

 つまり、魔力は魔力に干渉することが出来る意思の力と、その能力を利用する知能が必要だと判断しました」


「では、この世界は魔力で動いているという考えには否定と捉えて良いのかな?」


「魔力だけでは無いと考えています。

 むしろ、魔力以外の力が中心となって世界が動いているのではないかと。

 その根拠として魔力がこの世界の理、法則に干渉し本来あり得ない現象を発現しているからです」


「うむ、魔力の影響はむしろ例外的であると。

 なるほどな、魔法・魔術は自然現象から逸脱しているから理解できる主張だ。

 だが、現在の定説からは大きく外れるな」


「だからこその仮定ではないのですか?

 現在の定説が絶対に正しいというわけではないのですから、それを証明していくのが魔術師としての義務では?」


「まあ、待ちたまえ、マイ君すまないな。

 では、この世界の理に魔力が干渉する、なんで魔力なんて力があるのかね?」


「それは判りません。

 そもそも、魔力という物がこの世界にある事自体が不思議なんです。

 魔力が例外的な力であるのなら魔力が無くてもこの世界は動き続けらます。

 ですが現実に魔力は存在し魔法によって魔力を行使することが出来ます。

 この世界に存在する意味はあるはずです、そう考えています」


「ありがとう。

 マイ君の考え方はよく分かった。

 実に興味深い、特に魔法は例外的であることは良いな」


「ああ、魔力がこの世界を動かしているのなら、理がねじ曲げられてばかりになり、自然法則という物が成り立たなくなる」


「魔力の存在意味か、根本過ぎて考えたことも無かったな」


 私の考えで試験官同士で討論が始まってしまった。

 その会話も興味深い、普段から魔術師同士でこんな討論をしているのかな?


「さて、マイ君。

 私の個人的な興味なのだけど、なぜ魔力に興味を持ったのかな。

 切っ掛けを知りたい所なのだよ」


「それは、例外魔法にあります。

 私の適正属性である時空魔法も含め、例外魔法は自然法則を大きく逸脱しています。

 基本属性が自然法則の再現を元にしてるのなら、例外魔法は何か、が切っ掛けです」


「そうだったな、マイ君の適正属性は時空魔法か。

 時空魔法の考察はしてるのかな?」


 ギクッ。

 私は当然だけど時空魔術の検証は続けてきた。

 最近は魔術師の認定試験の為にサボり気味だけど。

 どこまで話すべきか、決めかねていた。

 いや、ここでは余り話す必要は無いだろう。


「時空魔法に関しては、カイル先生から教えを頂き、私の時空魔法の特性を知ったばかりです。

 時空魔法の考察に関しては未だ未だ勉強中です」


 時空魔法に関しては話さないことにした。

 ただでさえ、魔法に関しての考察は過去の魔法学校の知識と併せて進み過ぎている。

 自分の適性属性とはいえ、深い考察を披露するのは不審を持たれる可能性が高い。


「自分の適性属性なのに考察が進んでいないのは、申し訳ないのですが、前提となる所で躓いています」


「いや、ここまで魔法について考察を深めているのは、すなおに賞賛するよ」


 試験官の方々から拍手を貰った、本当に試験らしくない。

 それに気恥ずかしい。



「では、皆さん。

 マイ君の魔術師への認定試験の結果をここで決めても良いでしょうか?」


 へっ、試験結果は後で相談して決めるのでは?


「文句ないですね、私は魔術師に認定します」

「同じく、進級試験も含めて十分です」

「反対する理由も無いな」

「しいていえば、若すぎる所だが反対の理由には弱いな」


「では、全員一致で魔術師への認定をします。

 おめでとう、マイ君」


「あ、ありがとうございます」


 展開に驚いてしまった。

 返事はしたけど、呆然としてしまっている。

 まさか、その場で試験結果を通達されるとは思わなかった。

 嬉しい、のかな?

 実感が湧かない、ちょっと現実感が無いけど、一歩進めた。


「正式には、3年が終わる時点で正式に認定される。

 それまでは慢心せずに習熟を続けるように。

 それと、このことは教師から公表するまで話さないように」


「はい、判りました」


 これで魔術師の認定試験は終わりかな?

 そして結果は最高の内容だ、魔術師に認定された、残りの時間を掛けて、魔導師への道を模索できる。

 具体的には、魔術を研究して発表することかな。

 そのための時空魔術の検証は続けている。


 試験終了の言葉を待っていると、予想外の言葉が出てきた。


「そうだね、マイ君がこのまま研究を続ければ魔導師への推薦も可能かもね」


 ビクンと身体が跳ねる。

 魔導師!?


「まて、これは我々でも決めかねている。

 すまないなマイ、今のは聞かなかった事にしてくれ」


 聞かなかったなんて無理だ。

 私が魔導師になりたいと思っていることは、クロマ先生に伝えている、試験官が知っている可能性は高いだからこその言葉だろう。


「魔導師に成りたいという夢を持っています! 私に足りない所があれば知りたいです」


 つい、興奮して身を乗り出しながら聞いてしまった。

 自分の失態に気がつく。

 ハッとして、頭を下げる。


「すいません、失言でした。 忘れます」


「いや、構わない。 むしろ向上心があって良い」


 謝罪する。

 試験官達も特に問題にしなかった、助かった。


「魔導師に関しては、我々だけでは判断できない問題なのでな。

 わしらも前例が無いのでな、お主なら可能性があるが、慎重に検討する必要があるのじゃ」


 私は頷いて了解を示す。

 そうか、私が魔導師を目指すのに試行錯誤しているけど、教師の魔術師の方々も魔術師や魔導師を輩出するために苦労しているんだ。

 魔導師は国の認定が必要になる、その手順を検討しているのだろう。


 少し考え方を変える必要がある。

 私が幾ら魔導師を目指そうとしても、それを認定する側の受け入れ対応が出来ていなければ意味が無い。

 魔法学校側の動きも気にする必要が出てきた。


「さて、魔術師の認定試験は以上だ。

 新しい魔術師の誕生を嬉しい思う。

 これからの研鑽と成長を期待して居るぞ」


「はい、ありがとうございます。

 立派な魔術師になるため、精進したいと思います」


 私は、席を立ち、深くお辞儀をしながら謝辞を述べる。






 試験官達からも拍手が上がる。

 私は再び魔術師に成った。

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