第229話 3年目「認定試験」

 改めて説明するけど、この世界での魔術師や魔導師は認定試験を受けて合格することで名乗ることが出来る。

 つまり資格。

 この資格は意味が大きくて、魔導師だと領主の次に位置する貴族位が与えられる。

 魔術師も町長と同じ程度の発言の権利がある、実際に行使されることは少ないけど。

 このため、各地の領主が合格者を魔術師に任命して国に登録することができるけど、魔導師は国が任命している試験官が試験を行い合格して国に登録される必要がある。

 魔導師は国家資格と言うことかな?


 そういう説明を職員室で受けています。

 3年の授業が始まる前に直ぐに呼び出されて、魔術師の認定試験が近く行われる事が伝えられた。

 3年に進級できたのは12人、その中でもこんなに早く認定試験を受けるのは異例だそうだ。


「3年の先生方、魔術師の方々がね、盛り上がっちゃって。

 とにかく受験させろって。

 代わりと言っては何だけど、今回落ちても評価に影響は無しで、また認定試験を受ける事は出来る事を条件にしているわ」


 試験は3年の3ヶ月目に行われると思っていたので意外だった。

 他の生徒で3ヶ月目に認定試験を受ける子は居ないそうだ、私が特別扱いされている事はまだ伏せられている。

 受けない理由は無いけど、魔術師に認定された後の事も考えないといけない。

 私の目的はあくまで魔導師だ、その資格を得るのに必要な条件が厳しい。


「分かりました、詳しい日程や試験内容が決まったら教えてください」


「ええ、それはもちろん。

 今回はどんな試験か体験するつもりで良いかもね」


「うーん、それは良くないです、全力で受けないと次は無くなる可能性だっけありますから」


「そうですね、すいません。

 合格することを願っています」


 職員さんの意識としては、先生方の暴走と映っているのかな?

 でも、試験の結果が悪かったら次に繋げられない、手を抜くわけにはいない。



■■■■



 3年になり、研究棟に教室が移る。

 生徒は事実上、個人授業に入り、それぞれが必要な授業を選択して受ける形になる。

 なので、広い教室に一同に集まることは少ない。


 今日は最初の授業だ。

 全員が集まる少ない機会だね。

 席に着いている人数は12人、そうか残った人数はこれだけになってしまったんだね。

 男性7人女性が5人、さすがに全員が顔見知りでそこそこ親しい。

 馴れ馴れしくもしていない、全員が魔術師を目指して切磋琢磨いる仲だ。

 魔術師に成れる人数に制限は無い、あくまでも個人の資質によるものになる。

 そのおかげか、競い合う感じは無くて助け合う事が多い。

 魔術師にはそれに相応しい人格も求められていることも大きいからね。


「おはよう、皆さん。

 君たちの3年の担任を行う、カミガという。

 ここに居ると言うことは、魔術師の素質があると認められていると言うことだが、それに安心せず研鑽を積んで貰いたいね」


 カミガ先生は、細身で神経質そうな雰囲気がある中年の男性だ。

 雰囲気だけだけど、いかにも頭が良いぞという感じだ。


「あと、1,2年であった3ヶ月後の試験は無い。

 各自の魔法の習熟程度に合わせて個人毎に試験を行うことになる。

 なので、習熟度が知りたい者は私か各授業の魔術師の教師に尋ねるように」


 事前に知っていたのかな? 教室内で驚いている生徒はいない。

 皆優秀だ、私もウカウカしてられない。


「ねえマイ、早速職員さんと話をしていたみたいだけど、何か情報ある?」


 この子は、ナルちゃんに似てクラスの中心的な立場かな。

 クラスでのイベントは無いけど、全員で共有した方が良い情報は積極的に広めている。


「さっきの先生の話と同じですね。

 あとは、試験内容を聞いて答えて貰えませんでした」


 うーん、と悩んだ後、受講する授業の話に変わって、他の生徒と話し出してしまった。


 改めて魔法学校は普通の学校とは違う。

 魔術師を輩出するための学校で資質が無い生徒はどんどん退学していく。 その代わり無料で手厚い補助が受け取れる。


 いちばん学校らしいのは、学術区画で一番大きい大学院だ。 初等教育、中等教育、高等教育、更には大学教育に研究施設もある。

 学問を身に付けるだけじゃなく、更に発展させるための人材を養成している。


 貴族院は、これは支配階級の人材を養成するための学校で、将来 支配階級になる貴族や一部の民間人(町長や村長)が学んでいる。

 魔法学校に近いかな、資質が無いと判断されると退学になる。


 専門学校は、幾つもの職種に合わせた小さい学校の集合体で学校と言って良いのかよく分からない。

 専門職の技術を実技として身につける学校で、技術を身に付けるのが目的で、強制的な退学は無い代わりに卒業できるまで何年も掛かることもあるそうだ。

 驚いたのが、物作りだけでなく役所などの事務職の専門学校もあるとのこと。

 今、寄宿舎の事務員や学校の職員はここを卒業している人が多い。


 考え事をしていたら、教室には数人が残るだけになっていた。

 これから受講する授業を決めなくてはいけないので、職員室に行かないと。


 職員室に向かう、魔法棟と学習棟を通りながら様子を見る。

 去年までは周りを観察している余裕が無かったね。

 みんなチームを作って相談をしている。

 私もそうだったなぁ。


 職員室に入ると、相談をしているチームや個人が多い。

 開いている職員さんを探してて居ると、朝に説明をしてくれた職員さんが私を見つけて、奥の部屋に誘導してきた。


「あ、マイさんちょうど良かった。

 こちらへ来てください」


 なんだろう?

 数人の生徒に見られているので、そそくさと奥の部屋に入る、あ、朝に説明を受けた部屋だ。

 椅子に座りながら訪ねる。


「なんでしょうか?

 受ける講義の相談がしたいのですが」


「それどころじゃないですよ、認定試験ですが、来週から行うことになりました」


「は?」


 いやなんで、いくら何でも余裕がなさ過ぎる。

 そもそも試験内容も期間も知らないので、試験対策する箏自体が出来ない。


「なんで来週からなんですか?

 いくら何でも急すぎます」


「それはそうなんですが、試験を行う魔術師の教師達が授業が本格的に始まる前に行いたいと、言われまして。

 その、すいません校長が許可を出してしまいました」


 あきれてしまう。

 と、同時にこれはチャンスだと思う。

 早すぎる試験は合否を判定することが目的よりは、今の実力を見るのが目的だと思われる。

 なら、今の自分の実力をぶつけてみても良いのでは無いかな?


「決まってしまったのなら仕方が無いです。

 試験内容や期間については決まっていますか?」


「はい、実技と質疑応答になります、筆記はありません。

 期間については、2日間の予定です」


 あれ? 期間は1週間以上掛けて行うのが普通だ、2日というのは短すぎる。

 筆記については、各試験で評価しているので良いのかな?


「2日だけなんですか?

 進級試験でも20日掛けています、魔術師の認定試験が2日だけというのは何ででしょうか?」


「それは、2年の進級試験が影響しています。

 実技での発表内容が高く評価されまして、それが認定試験の一部に含めてしまっています。

 かなり異例なんですが、マイさんの発表内容がそれだけ高く評価されたと思ってください」


 うーん、確かに魔法使いらしくない発表だとは思うけど、そんなに評価されたとは思わなかった。

 そうなると、認定試験での発表内容が問題になる。

 何を発表するべきなのかな?


 受講する講義については、認定試験が終わってから決めることになった。



■■■■



 翌週。

 魔法学校の一番南側の実習場。

 そこに私と、5人の魔術師の試験官がいる。

 当日までの間は、結局自分の魔術を再確認に費やした。

 発表内容も、時空魔術で行く予定だ。


「さて、マイ君。 今より魔術師の認定試験を開始する。

 今日と明日に掛けてここでの実技と質疑応答で決めさせて貰う。

 期待している、では始める」


「はい、よろしくお願いします」


「基礎魔法、基本魔術で各属性で最も難易度が高いと思う者を1つずつ行使するように。

 また、なんでそれを行使した理由も述べるように」


 私は各属性を状態だと考えている。

 それを進級試験では水を利用して発表した。

 そして、試験官達もそれを知っている、それを含めての発表を期待されている。

 光・影・火・水・風・土の6属性を使っていく。

 材質は亜鉛を選択した。

 金属の中では比較的柔らかくて溶けやすく、気体になりやすく、そして燃えやすい。

 水だけが特別な性質を持っている、という訳では無いことを示したい。

 金属も粉末にすると簡単に燃える、それで光と影と火を説明し、加熱して水と気化させて風、そして通常の土。

 状態の説明が終わった後、さらに魔法で再現を使う。

 魔力を使うことで、本来存在しない物質を生み出したり、現象を起こすことが出来る。

 それを亜鉛で行う。


 亜鉛は工業区域の中にある金属加工をしている所で小さいインゴットを購入して、それをイメージで作り出せるように訓練した。

 なんで、亜鉛なのかは、調べた中で生み出す魔力が最も少ない金属だったから。

 それでも握りこぶし大の亜鉛を土属性の魔術で作り出すのに魔力ををかなり消費したよ。


 それから、時空魔法を使用した、6属性と異なり地味になる収納を見せるだけになる。

 そこで、遠隔収納をごく近くでのみ使える事にして、飛んでくる物を収納することで防御。

 取り出すときに方向と速度を指定して、ごく弱いけど打ち出しも披露した。

 時空魔法が限定的だけど防御と攻撃にも使える、この事実は割と知られている。

 瞬間的な収納や取り出すときの制御の難しさから、高度な時空魔法の行使になる。


 質疑応答に入る。

 質問というより、発表内容の討論会のようになってしまった。

 本当にこれでいいのかな?


「マイ君、この状態を変化させることでの属性の変化は、どの物質でも可能なのかね?」


「確認している限り、多くの金属では同じ現象になるようです。

 ただし、その温度が高すぎて適性のある魔法使いで無いと使いこなすのは難しいでしょう」


「影が安定で光が活発な状態であるなら、水や風は活発な状態となるが、発光はしていないな、それは何故かな?」


「光るのは、金属だと高い温度や燃焼しているときに見られます、つまり、非常に活発な状態であり、通常の活発な状態では光が発生するほどの状態になっていないと考えられます」


「粉末にすると燃えやすいのは何故かな?

 経験則では分かっているが、説明可能か?」


「燃える気体があるのはご存じだと思います。

 燃えるのに必要な気体と金属の表面が触れる面積が多いほど燃えやすいと推測してています。

 また、小麦粉のような燃える粉末が一定量、空間に浮遊してて居ると爆発的に燃えます、金属でも同様かと考えてます」


「時空魔法の収納での防御は有効と思えるか?」


「収納可能で、かつ、収納する意思が必要になります。

 防御としては使いどころは限られると思います。

 例えば矢が飛んできても、認識して収納するのは困難でしょう。

 私の場合で言えば有効ではありません」


「魔法を打ち込まれたとき、それを収納することは可能か?」


「先ほどと同様に認識して収納する必要があります。

 私の場合は固体か液体、または固体の中に収納された気体に限られています。

 光や影と火が収納できないのは、それが変化している状況のためで、形がある必要があります。

 ですので、魔法で生み出された水・土は可能ですが、それ以外の属性はできません」


 時空魔法の授業で、何が収納できるのかを確認している。

 収納できる物は、基本的に形の有る物に限られている。

 生物が収納できることは隠している。

 時間経過での変化についてはじっくり調べた、現実空間と収納空間では僅かに収納空間の流れが速い。

 僅かにというのは、1日もつロウソクの減り具合が数ミリ違っていただけだったから。

 実質変わらないだろうという結果になっている。

 あと、検証を続けているけど風、気体を意識して収納できていない理由も分からない。

 おそらく気体も収納可能だろうね、収納空間の中にある空気が何処から来たのかというと現実空間から流れ込んだと考えるのが妥当だから。


「うむ、本日は以上とする。

 明日は職員棟で面接試験を行う」


「はい、分かりました」






 気がついたら、朝らか行った試験は午後の鐘が回っている時間まで掛かっていた。

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