第16章 3年目
第228話 3年目「便り」
領都コウシャンの学術区画にある魔法学校に、コウの町から6人の子が新たにやってきた。
男性3人 女性3人で、全員5~7歳だ。
私がブラウンさん経由でお願いした事が伝わったのかどうか分からないが、全員 初等教育は習得済みだった。
今、食堂の一角にコウの町から来た子を集めて顔合わせをしている。
「初等教育が義務付いたのは、領主様からの公布なんですか?」
「はい、魔術師の可能性がある子供は優先的に初等教育を習得するように、との指示が出たそうです」
私のメモが元では無かったです。 まあ、そうだよね。
魔法学校の上の人かそれとも、もっと上の人が1年3組の実情を考慮したのかもしれない。
「兎も角、それは嬉しい情報です。
あ、自己紹介しますね、3年のマイです」
「2年のオキタクだ」
背の低い私と成人しているキオタクさんを見比べて混乱している。
「成人してから入学する事もあります、年上として敬う必要はありますが、必要以上にへりくだる必要もありません」
「そういう事だね、俺たち達の中ではマイが一番上級生になるのだから、敬うように」
「え、私はまあ、その適度に」
それから、基本的な事を教える、自分の考えで入学前の準備をする事。
手取り足取り教える事はしないと言う事、必要なら依頼をする事。
「それから、学術区画にある商会がコウの町と定期的に荷馬車を出しています。
手紙を出したい人は、掲示板に案内を出しておくので確認してください。
あと、これはいずれ私からキオタクさんや貴方たちに引き継いで貰う事になります」
「引き継ぐんですか」
「ああ、コウの町との繋がりを引き継いでいくんだ、来年は君たちが導く役割をするんだよ」
「判りました、あと、手紙を預かっています」
手紙は私とオキタクさん、そして退学し拉致されていた教会で治療中の3人、そしてナルちゃんの分があった。
「うん、ありがとう。 渡しておくね」
手紙を受け取って、少し複雑な思いになる。
治療中の3人には面会できていない、教会の治療受付に渡すのが精一杯だ、教会から返信して欲しい事を伝えては居るけど、送付されたかは不明だ。
ナルちゃんには、入学準備期間中に会う約束をしているので、この時で良いかな。
しばらく話をして、解散した。
うん、今年の子達は有望だね、2年に進める可能性が高い、うん。
部屋に帰る、私宛ての手紙の中からフミからの手紙を見つけて、つい笑みがこぼれる。
■■■■
2日後。
教会に寄って、治療中の3人当ての手紙を渡しに行った。
受付の人に何度目かになる面会を申し込んだけど、受付して貰っただけで何時面会できるのかは判らない、との返答。
この3人は、昨年の1年の3ヶ月目で行われた期末試験の後、退学した。
だけど、この時にある貴族に拉致される事件が起きた。
救出される2年目の始めまでの半年以上の間、貴族の館の中で何らかの教育がされ、日常に戻れない状態になってしまったんだ。
その治療が教会の施設で行われているけど、容体は全く判らない。
教会の方から、コウの町の肉親へ状況を知らせる手紙を出して欲しいと要望しているけど、それが通っているかも判らない。
なお、拉致誘拐事件は公表されていない。
拉致を行った貴族も病気療養中に亡くなったとしか公表されなかったし、拉致された子供達も感染する病気に掛かったため、隔離治療中と言う名目になっている。
詳細を知っているのは関係者の極一部だけだ。
私は学術区画の商業区域にある喫茶店(こっちは懐に優しい所)でナルちゃんとステラちゃんに会っている。
何だかんだで会うのは久しぶりだ。
普段は2人が住んでいる独身寮へ手紙を届けたり、私の住む寄宿舎へ届けて貰っているので、お互いの情報は把握しているけど、会うのはまた別だ。
「それで、今年来た子は初等教育を習得してあるから、大分苦労は少ないて済みそうだよ。
魔法が使えるのは、2人だけだけどね」
「うん、マイも3年目で本格的に魔術の習熟に入るし、負担が少ないのは良いよね。
魔術師の認定試験も近いし、良い事だよ」
「マイさんもついに魔術師に認定ですか、同年代の魔術師様に会った事は無いので楽しみです。
魔術師に認定されたらお祝いしましょう」
「ま、まだ認定された訳じゃ無いから、その時が来たらにしましょう」
少し話しすぎた、魔術師の認定試験を受ける事を伝えたのは早まったかな。
2人を見る。
ナルちゃんとステラちゃんの私服は少し大人っぽい背伸びした感じになっている。
少し成長した2人に似合っているなぁ。
私は、うん、成長していない、昨年の服がそのまま着れています。 はあ。
「そういえば、近くの町まで納品と買い付けに行ったそうですね。
旅商人をした感想はどうですか?」
2人は、新人研修の一環として、領都の近くの町へ商品の納入、そして買い付けに行った。
片道数日の移動になるけど、どうだったんだろう?
「うん、特に問題らしいのは無かったかな。
マイに教えて貰った探索魔法のおかげで、野営したときに別の商人かな? が荷物に近づいたのに気がつけたのは良かったよ」
「そうですね、貴重品はまだ不安はありますが、収納魔法も便利に使っています。
同行した同僚や先輩に判らないように使うのは少し大変でしたね」
「役に立ったのなら、教えた甲斐が有った物です。
荷物に近づいた商人というのは、商会の人が試すために近づいたとか?」
「うーん、それは判らなかったね。 どう思うステラ」
「私も何とも、父さんに聞いたけど、そんな事をわざわざやらないって。
だから私達が若かったら本当に
魔法学校の生徒の教育のように、隠れて色々試したりしないのか。
2人は幹部候補でもないし、そこまでする理由はないかな。
と、甘味が出てきた。
小さいパンケーキだ、それにクリームと果物が沢山盛り付けてある。
うん、美味しそうだ。
こういう甘味が味わえるのは領都だからでもあるね、コウの町の甘味はもっと素朴な焼き菓子か、果物をそのままだった。
フミにも食べさせてあげたいなぁ。
「ナルさん、甘味をコウの町でも出せるようになりますか?
いずれコウの町に戻りたいのですが、甘味も食べたいです」
ナルちゃんが手を顎に当てて考えるポーズを取る。
あ、これは何か考えているな。
「マイ、コウの町は畜産が主力だからクリームや柔らかいチーズは簡単に手に入るから、あとは値段次第で行けるね。
実は、私のお父さんの兄弟で試験販売を始めている所」
「レシピの入手に苦労しました、何処もお店のレシピを守って居ましたから。
魔法学校の図書館にあった資料のメモと、個人で開設している図書館で入手しました」
ステラちゃんが、そっと収納魔法でレシピが書かれたメモを見せてくれる。
私の知らない単語が幾つもあるけど、うーん?
「ステラさん、これ料理と言うより実験手順のように読めます」
「クスクス、マイさん料理の基本は適切な量を適切な手順で料理する事です、余計な事はしないのが鉄則です」
「はあ、料理は適当な物しか出来ないのですが、分量や手順を守るだけでも味が良くなるのですね」
感心する、私の料理の腕は野営料理の簡単な物しか出来ない。
しかも味は微妙だ、なんかボンヤリした味になってしまう。
食べられて栄養があれば十分という、女性としては情けない限りだ。
まあ、個人としての料理は兎も角、軍隊でも冒険者でも男女関係なく料理はみんなやっていた。
私が知っている限り、男性の方が料理の腕が高い人が多い、これは単純に人数差と役割分担だからだと思うけど。
「さて、パンケーキを食べましょう」
ステラちゃんの言葉で、ナイフとフォークを持って食べ始める。
パンケーキ、直径は小さいけど厚みが凄く、そして柔らかい。
そこにたっぷりのクリームに細かく切り分けられた果物。
うん、美味しい。
紅茶も、酸味のある果物かな? を入れて風味を付けてある。
「あ、そうそう、マイ、コウの町との定期馬車だけど2台から3台に増やすみたい。
だから大体10日ごとに出発と到着する感じかな?」
商会のコウの町と直通の荷馬車は今まで2台で運用していた。
片道約15日掛かる道のりで、そこから商品の納入と買い付けを行うので、往復で30日くらい。
それが2台なので現地での商売を加味して20日ごとに荷馬車が出て居る。
手紙だけど、入れ違いになるので不思議な感じのやり取りになっている。
フミやギムさん達とのやり取りも数回になっている。
「そんなに頻繁にやりとりするんですか?」
「暖かい間はね、冬場は少なくするみたいだけど。
あと、けっこうチーズや加工品の領都での販売が好調なのもあるわね。
コウの町でも販売は好調と聞いているわ。
東の町の商人が中間マージンを取り過ぎていたみたい」
コウの町は、地形的に物流は東の町を経由しないといけない。
また、東の町は他の町と領都の中継地になっているので、大抵の商品は東の町の商人から仲介して貰い卸販売で購入している。
東の町はこの仲買人として儲けを出し発展している。
「で、マイ。
再来週ぐらいに次の馬車が出る予定だから、コウの町から来た子達に連絡お願いできるかな?」
「うん、いつも通りコウの町への手紙の送付の募集をかけるよ」
話が弾みながら、パンケーキを食べ終わる。
紅茶を飲みながら余韻に浸る。
心地よい日差しの中での会話は楽しかった。
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