第226話 2年目「進級」
進級試験が終わって、休日を挟んだ数日後。
生徒一人一人が呼び出され、個人面談が行われた。
これは1年の時と同じ。
順番に呼ばれていく、今年は私が20番目くらいかな?
1年2組から来た子が5人居る。
1年3組の生徒は3ヶ月で1組に移動した私だけが残った。
1年の3ヶ月目に2組に移動した貴族の子は2年では姿を見なかった、2組から来た子に聞いた所、1年の期末試験の前に退学したそうだ。
理由は知らされなかった。
退学した生徒の半分以上が、ある日来なくなって初めて退学したことが分かる。
心が折れてしまった、と誰かが言っていたっけ、タナヤさんだっけかな。
ナルちゃんやステラちゃんの様に目的があって胸を張って退学できる子は少ない。
私の番が来た。
担当は去年同様にクロマ先生だ。
表情が少し険しい、何だろう?
「マイ、参りました」
「ああ、まあ座れ。
堅苦しいのは無しだ、というか、変な敬語はむずかゆいな」
「えっと、すいません」
緊張すると、つい軍隊に居た頃の癖が出てきてしまう、注意しないと。
「責めているわけでは無い、ちょっと困ってはいるがな。
やらかしたな、マイ。
お前の実技、大変なことになっているぞ」
「水の状態について発表した位ですが、何か問題が?」
「その後、魔力と時空魔法についても話しただろ。
根源となる魔力について興味を持って研究していると言うことで、上の連中、3年以降を担当する魔術師の教師が騒いでいる」
不味いことなのだろうか?
それと進級に影響するのか不安になる。
「ああ、上の連中が魔力とは何かと改めて考えて議論を始めて収拾が付かなくなっただけだ。
マイが気にする必要は無い」
「そうですか、それで進級試験の結果はどうなんでしょうか?」
私が、見上げるように……うん、見上げるしか無いのだけど、クロマ先生を見て確認する。
と、クロマ先生は笑い出す。
体の動きに合わせて豊満なタユタユがタユンと揺れる、うぐぅ。
「あっははは、たちの悪い冗談だ。
マイが進級できなかったら全員落第だ。
筆記でも3人同率の1位で、実技は文句なしで首席だよ。
お前はもう少し自分に自信を持て」
頭をクシャクシャと撫で繰り回される。
私が抵抗するが、その腕力から逃れられない。
剣の実技でも全く敵わないので当然と言えばそうなんだけど。
筆記は正直1位は無理だと思っていた。
忘れている所も多いし、そもそも基本魔術の6属性は、過去あんまり深く勉強していなかったので、この魔法学校に入って本格的に勉強し直したんだ、他の生徒と比べて優れているとは思えない。
実技だって、才能のある子の魔法は私よりも凄い威力を行使していた、私の方が経験が上回っている、それだけだと思う。
私が、まだ未熟だと言うことをクロマ先生に伝えると、また、ワシャワシャと撫で繰り回された、解せぬ。
「ともかく進級おめでとう。
来年は別の担任になるが、頑張れよ。
あと、上の連中がうるさくて、3年の早い時期に魔術師の認定試験を行う予定だ。
準備時間が足りなすぎるのもあるし今回は失敗しても再挑戦が出来るはずだ、駄目なら延ばして貰え」
「はい、分かりました。
せっかくの機会です、挑戦したいと思います」
「ああ、マイならそういうと思ったよ」
今日何度目かのワシャワシャが来るけど、諦めて受け入れた。
教室に戻る、次の子が呼ばれるが、私の髪の毛が爆発していることに皆して驚かれる、そんなにひどい状況なの!?
「マイどうしたの? その頭、爆発してるじゃない」
「クロマ先生に撫で繰り回されました、ひどいです」
私がふてくされると、なぜか女子が集まってきて撫で繰り回す、ウキャーとなるが、その後は私の髪の毛を使って遊び始めた。
女子の中には少し涙の後がある子も居る、うん、そうなんだろうな。
途中から諦めて為すがままにされる。
色々な髪型にされて、非常に消耗したです。
でも、笑いながら髪型を弄り合うのは楽しかった。
■■■■
寄宿舎に戻る。
何人かの生徒が荷物をまとめているのが見て取れる。
私はコウの町から来た子達に会う為、食堂に集まって貰った。 3年生以上にコウの町の出身者はいない。
3ヶ月目の試験と期末試験は、ナルちゃんのおかげか この子達の頑張りのおかげか全員が及第点を超える事が出来た。
でも、進級試験では駄目だったみたいだ。
コウの町から来た4人のうち、3人の子は魔法が十分に使えず、職員さんと相談し退学を決めた。
残ったのは成人してから入学した男性1人だけ。
「マイさん、すいません。 ナルさんといっぱい教えて貰ったのに」
「いえ、十分すぎるほど頑張りましたね。
魔法が使えない所から使えるように成るのには時間が掛かります、それを考えれば凄いぐらいです。
魔法学校の仕組みのせいで魔法が使えない子や中等教育まで学んでいない子には不利になりすぎているのがいけないと思います。
ただ、魔法学校で1年頑張って身につけた事は、町に帰っても役に立ちます、なので忘れないようにしてください、出来れば復習も」
「役に立つのかなぁ?」
「ええ、中等教育だけでも役場で働く事が出来るくらいの知識ですよ、魔法だって魔法使いと胸を張って言えるぐらいの実力があります。
どんな仕事がしたいかは判りませんが、役に立つ事も多いですよ」
上級生として、精一杯見栄を張って話す。
自分に自信がある訳じゃ無いけど、今は不安がっているこの子達が胸を張って町に戻れる様にしないと。
「ですから、魔法学校に1年在籍できたというのは凄い事なんです、誇ってください」
「はい」
「うん」
「判った」
それぞれ、少し自信が付いたのか真っ直ぐ見返してきた。
うん、良いね。
「あと、オキタクさん、新しいくコウの町から来る子達の面倒を出来れば一緒に見て欲しいですけど、良いでしょうか?」
「もちろんだよ、マイさん。
できれば呼び捨てにしてくれないか、上級生と下級生の立場が分かり難くなってしまう」
あ、私の癖で全員に さん付けをしている。
うん、上級生という立場としての振る舞いが必要だね。
1年で唯一残った彼、オキタクは16歳で私より10歳も年上だけど、年上として偉ぶる事も無く顕著な人だ。
雰囲気はハリスさんに近いかな?
3ヶ月目の試験では残念ながら1組に移籍できなかったけど魔法と中等教育までを習得してから入学していて、私とナルちゃんと一緒に他の3人を支えてきた。
「判った、オキタク。
一緒に新入生を迎えよう」
「ああ、もちろん。
それと、2年の授業をその、もちろん依頼するから教えて貰いたい」
「ええ、それはもちろん」
4人には個人学習の依頼を受けるという形で教えていた。
これは善意に甘えたり教えて貰えるのが当然、という考えを捨てて貰うために続けている。
例外はチームを組んだときで、チーム内で助け合うという了解があるからだ。
ナルちゃんステラちゃんとチームを組んでからは依頼を受けていないで教えてた、その代りなのか2人からはインクやノート、外食での食費とかを提供されていた。
2人には領都や売り買いに疎い私を助けて貰っているので、ちょっと申し訳なかったけど。
「マイさん、文房具とかノートはどうしたら良いでしょうか?
中古屋に売ってしまった方が良いですか?
それとも、新しく来る子に安く譲った方が良いでしょうか」
「それも自分で考えてみて、自分で使う事があるのなら、持って帰るべきね。
実家に同じ物があるのなら、ノートだけでも持っている価値はあるかもね。
荷馬車に乗るときに荷物が多いと追加料金が掛かるから注意してね」
3人はそれぞれ相談している。
この辺は自分達で考える癖を身につけられている、良い傾向だと思う。
それに4人が作ったノート、初等教育・中等教育の参考書籍として十分使える内容になっている、売るとしてもいい臨時収入になるだろうね。
数日後、コウの町から新しい子達が来た、6人。
それと入れ替わるように、3人が退学していった。
送ってきた旅商人と交渉して3人を乗せて貰うことになった。 これで行方不明になる可能性は減るかな。
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