第225話 2年目「進級試験」

 ナルちゃんステラちゃんが退学してから数ヶ月、見習いの彼女たちは仕事が忙しく会う事は出来ていない、その代わり手紙でのやり取りはしている。

 大変だけど、大分慣れてきたようで近いうちに取引のために近くの町まで行くそうだ。

 移動中や野営中の探索魔法の使用を勧めておいた。


 進級試験が近づいてきた、その間にも数人の生徒が退学し、今は25名まで減っている。

 みんな進級試験に向けての準備を始めている。


 クロマ先生から、進級試験の予定が発表される。


「判っていると思うが、再来週から休日を除き20日間かけて進級試験が行われる。

 期間は1年と同じだが、内容は全く違うと思って良い。

 試験範囲は当然だが、1年から今までの全てだ。

 それ以上に、基礎魔法の知識と技術の習得、基本魔法の6属性と例外魔法の知識と技術の習得と、より魔法を高度に扱えるかが問われる内容になる。

 詳しい予定は後で配布する」


 クロマ先生からの言葉は淡々として厳しい内容だ。

 そして、その目の中には優しい光がある、生徒を心配している事は判る。

 その事は、クラスの生徒に何となく伝わっているのだろう。


 私はこの2年で、苦手だった基本魔法の6属性を知識と技術で十分なレベルで習得できている。

 特にシーテさんとの練習と魔物との戦いでの実戦が活きている。

 魔力操作の能力は魔物の氾濫の時よりもずっと向上している。

 失敗しなければ3年に進めるだろう。

 だけど、それでは足りない、試験結果で魔術師だけでなく魔導師の資格があると思わせないと行けない。

 かといって、強力な破壊力のある魔術では領軍が放っておかないだろう、そうなると、実用的では無いけど高度で複雑な魔術を行使してみせる必要がある。

 それから、その説明に魔術の研究を含ませる。

 難易度は高い。



■■■■



 そして進級試験が始まった。

 前半は筆記試験。

 範囲は広いけど問題数はそんなに変わらないので、しっかり知識として身につけていれば問題ない。

 後半は1年と違った、1年では適性属性の筆記と実技が中心だったけど、2年では全ての属性についての実技とその際に質疑応答が行われる。

 使用した魔法がどういう意図でどのように行使したのか、そして、それが正しいのか改善点は、など厳しい質問が投げつけられる。

 試験官は3年から5年を担当する魔術師の先生達だ、その指摘は的確で容赦ない。


 私も、その質疑に答えながら基本魔法の6属性を行使していく。

 例外魔法の時空魔法については、基本的な事だけだった。


「6属性と例外魔法について判りました、その他でやってみたい事があれば実施してみてください。

 魔法の行使でも、また魔術に対しての考察の発表でも何でも構いません」


 一通りの試験が終わり、自己アピールの機会が設けられた。

 では、やってみよう。


「はい、では水の魔法について、発表します。

 水は氷の個体と水の液体、そして水蒸気の気体の3つの状態があります。

 それらは、土属性、水属性、風属性の状態を示しています。

 この違いは、自然界では温度の変化によって決まります。

 ですが魔法では、次のように考える事が可能です。

 水が動けない状態が氷、流れる程度に動けるのが水、動きが激しく空中を飛び回るのが気体。

 このようにイメージをする事で、氷と水と水蒸気を少ない魔力で精製する事が可能です」


 桶の中に氷をゴロンと取り出す、そして水、水蒸気は意図的に温度を下げて空中に霧を発生させた。

 試験官から大きな氷を出したとき、驚きの声が聞こえた。


「また、水蒸気であれば運動エネルギーが高く密度が低いので高速での動きが可能です。

 逆に氷では安定した状態なので運動エネルギーは低く密度が高いと言えます。

 ですので、氷から水蒸気を作り出すと、密度が急激に低くなるため高い運動エネルギーが得られます」


 作り出した氷の一部を気化させる、昇華という現象だ。

 一カ所から蒸気が噴き出し、用意した桶の中を無茶苦茶に動き回る。

 本当は、整形した形で特定の場所から蒸気を噴出させることで氷の塊を勢いよく打ち出す事が出来るが、そこまでやるのは躊躇した。

 また、試行錯誤で水になる気体を生み出す事が出来るようなったけど、これは爆発を起こしてしまうので、こちらも封印。


「なかなか面白いな、魔法では基本として使われる水だが、ここまで応用可能なのを見た事が無い。

 質問だ、沸騰水を生み出す事は可能かね?」


「はい、可能です。

 水の動きが活発でかつ気体になるギリギリの境界を維持する必要があります」


 空中に浮かべた水を沸騰させる。

 魔法で操作しているが、少し工夫をしている。

 水の圧力を低くする、そうすると沸騰しやすい。

 これは高地で水が低い温度で沸騰することを軍に居たときに実体験していることから知っている事だ。

 基礎魔法の知識では応用に含まれている。


「温度が低い気がするが、何かしているかね?」


 流石によく見ている。


「はい、水の圧力、密度が低い状態ですと低い温度でも沸騰します。

 今回は沸騰する事が目的でしたので、危険性も考え低い温度で沸騰させるように圧力を下げました。

 この圧力をもっと下げると常温でも沸騰しますが、私の魔力操作ではそこまで圧力を下げる事は出来ません。

 実験器具を利用する事で再現は可能です」


 水を入れた容器から、空気をどんどん抜いていく、空気の圧力を減らす、そうすると常温でも沸騰する。

 そして、何故か氷が出来る、沸騰することで熱が奪われていくことで水の温度が下がる、と書いてあった。


「試験は以上で良いかね?

 実に興味深かったが、他にもあれば言ってみるが良い」


 少し躊躇した、自分でも答えが出ていない課題だからだ。

 だけど、魔術師の先生方に質問する良い機会だ、聞くだけ聞いてみよう。


「研究中の課題があります、試験では不適切かもしれませんがご意見を伺いたいです。

 それは、魔力がこの世界の理に干渉する仕組みについてです。

 今、目に見えない力は魔力が原因であると考えられていますが、それが正しいのか疑問に思う所があります。

 例えば太陽の光が暖かいのは、光に魔力があるためと成っていますが、本当にそうでしょうか?

 大地に物が落ちていくのは魔力のせいでしょうか?

 魔力だけでなく別の力が関わっているとは考えられないでしょうか」


 試験官の数名が驚いて話し合っているが声は聞こえない。

 代表して一番年寄りの試験官の魔術師が答えてくれた。


「マイ、その質問に答えは今のところ無い。

 自然現象と魔力の関係は未解明の所が多いためだ。

 その研究は是非続けなさい」


「はい、ありがとうございます」


「しかし、なぜその事に疑問を持ったのかね?」


 比較的若い(と言っても中年後半だけど)魔術師の先生が聞いてきた。

 魔力とはそういう物、という風に習うから、それに疑問を持つ理由を知りたいのかな?


「私の適性属性の時空魔法が自然現象と基本魔法の6属性の関係から大きく外れているからです。

 なぜ違うのか、違うのは何故なのか知りたいと思い、まず魔力とは何かから始めています」


「そうか、うん判ったよ」


 その試験官は満足したように頷いた。

 他の試験官達も話し合いながらも興味を持って貰えているようだ。


 私は試験官の先生方に礼をして、退席した。

 これで合っているだろうか?

 もっと複雑な複合魔術を見せた方が良かったかな?

 兎も角やりきった、試験場を出た所で大きく息を吐いて、近くの椅子に座り込んでしまった。


「はーっ、これで良かったのかな?」






 後から何か出来なかったのか、不安になる。

 でも、もうやり終わった事だ、あとは結果を受け入れるしか無い。

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