第224話 2年目「魔導師達」
休日が明けて、魔法学校へ行く。
今日からはナルちゃんステラちゃんが居ない。
教室内の他の生徒も気が付いている。
寄宿舎を引き払う所を見た人は気が付いているし、そうでなくても少しずつ減っている事から推測できる。
でも、2人は自分の将来のために退学したのだから悲しむ必要は無い。
魔術の勉強も更に深めて行っている。
それと同時に、過去の魔導師達がどういう風に資格を得たのかも調べ始めた。
魔法学校の図書館でコウシャン領で生まれた魔導師を調べた所、過去2人居て、存命の人は居ない。
一番最近では20年前に火属性の魔導師が生まれてコウシャン領の領軍に所属していたそうだ。
その人物についての履歴を調べる。
魔導師に成った人物だけ有って、その生まれから亡くなるまでの生涯を記した書物が有った。
なお、もう1人については、100年以上前で才能があると言う事で王都へ行ってしまったため、魔導師に成ったのは王都の魔法学校であり、情報はほとんど無かった。
火属性の魔導師の生まれは、コウシャン領のある都市の下位貴族の出身者だそうだ。
そして、その都市の魔法学校で頭角を現し、2年目が終わるときに領都の魔法学校へ転籍になった。
そして、王都から来た魔導師の教えを受けて魔導師へ至った、とある。
魔導師への資格は魔導師に認められる事かな?
そうなると、今のコウシャン領には魔導師が居ないので事実上、不可能となる。
また、特出した才能を評価されれば王都の魔法学校への転籍もあり得るけど、私はその資格を得られていない。
私が隠している時空魔法の幾つかは評価に値するかもしれないけど、その時空魔法の出所を調べられたら、死んだはずのマイの力と同じである事がバレてしまう。 使えない。
更に調べる。
魔導師に成ってからは、領軍の部隊の中で魔術師を率いて領内の平定に尽くし幾つもの困難に立ち向かい、晩年は後進の育成に尽力したとある。
魔導師としての力量については判らない、書いてある限り特出した火属性の魔術を行使しているようには読めない。
何だろう? 判らない。
その他の魔導師についても調べる。
他の領地の魔導師の情報は少ないが、王都で魔導師に成った人についても、名前と属性が判る程度だ、うん困った。
今判っている限り、魔導師の実力は魔術を使うと言う事に関しては特出していない。
クロマ先生が言っていたのとは違う。
ではなんだろう?
魔導師とは、そう、魔術を極めて魔法を研究し新しい魔術を作り、新たな魔術師の育成するために教え導く事。
その事に関する記述が無い。
もしかしたら、そこにヒントが有るのかもしれない。
ここ最近の魔術の研究資料を探した。
魔法学校の図書館には数えるほどしか無かった、どれもあんまり高度な研究とは言えなかった。
学術図書館へ行くしかないのかな、とはいえお金が足りない。
なら、先生を頼るのが近道だ。
「クロマ先生、相談があります」
「何だマイ、何か困り事か?」
「はい、魔術の研究に関しての資料を読みたいのですが、魔法学校の図書館には資料が少ないです、何処か紹介して頂けませんか?」
「学術図書館、は、利用料と保証料が問題か。
そうなると、教師専用の教師だけが閲覧できる書籍になるが、うん掛け合ってみよう」
「ありがとうございます。
それと、魔導師様のことについて知っている事があれば是非伺いたいのですが」
クロマ先生の目が少し開く。
驚いている感じだ、でも私は半分確信している、クロマ先生は教育者としての魔導師への資格を得ようとしている、と。
ならば、魔導師に関して調べていないはずがない。
「マイ、私が知っていると何故そう思うのかな?」
「クロマ先生は、その知識で魔術師に到達しました、ならばその先を願わないはずが無いと思います」
「私は、魔導師に成れると思うほど自分を評価していないのだがな。
器用貧乏な私ではな」
「しかし、貴方なら多くの魔術師を輩出出来ると思います、その成果を持ってすれば、多くの魔法使いを魔術師へ導く魔導師に成れると考えないとは思えません」
クロマ先生が天井を見上げる。
そして、クククッ、っと小さく笑う。
「降参だ、マイ。
確かに私は魔術を使うという意味では魔術師にも成れなかった、だが教え導くと言う事に関して魔術師に認められた。
少し欲が出て、教育者として魔導師を考えても居るよ」
私は、クロマ先生にニッコリと笑いかける。
クロマ先生は判りやすい性格をしているからね。
「その上で、答えよう。
教育者としての魔導師はお前には関係ないので除外する。 ま、教師になる気があるのなら喜んで推薦するぞ。
でだ、2つ有る。
1つは現在存命している魔導師に認められる事だ。 シンプルで判りやすい。
だが、この領都には現在 魔導師は居ない、王都へ行く必要がある、つまり転籍だ。
そしてその為には特出した才能を持っている必要がある。
残念ながら、マイの実力では優れているが特出しているかと言われると難しい。
適正属性が例外魔法の時空魔法というのもあるな。
もう1つは、魔術の研究をして何か優れた結果を出す事だ。
魔導師に求められているのは、強力な魔力で魔法や魔術を行使することじゃ無い。
そういう意味では、マイ、お前が6属性を状態であると定義した研究を元に、新たな発展させれば何か結果が出せるじゃないか?」
一気に喋った後、クロマ先生はお茶を飲んで一息入れた。
魔導師に認められる、これは資料にもあった。
魔法の研究、私がしたい事でもある、だけとその結果を出すのに必要な時間は少ない。
魔術師と認定されて魔法学校を卒業してしまったら、その機会は失われる。
「そうですか。
教えて頂きありがとうございます。
研究については、思う所はありますが、まずは魔術師の認定を確実にすることを目標にしようかと思います」
ぺこりと頭を下げる、魔導師を目指すためにその手前の魔術師を疎かにしてはいけない。
「ああ、そうだった。
魔術師に成れないのが魔導師には成れる訳が無いからな。
マイは魔術に関してはかなり進んでいると判断している。
3年目の早い時期に魔術師の認定試験を受けて、3年の習熟期間を利用して魔導師を目指すのが良いだろうな」
クロマ先生が私の頭をぐりぐり撫で回す。
だから、何でみんな私の頭を撫で繰り回すのかな?
それから数日後、教員用の書架の閲覧が許可された。
■■■■
魔法学校の図書館、その教員用の書架は1つの小部屋にあった。
入れるのは、司書と教師、そして許可が下りた一部の生徒のみ。
書籍が雑然と置いてある、大まかには分類されているが、図書カードの様な物は無い。
そして、直接書籍を探して読む事が出来る。
当然なんだろうけど、監視付きだ私が時空魔法を使うというのも理由だろうけど。
早速、本の表紙を眺めていく、ほとんどが教育に必要な資料をまとめた物だ。
授業でどういう風に話せば良いのかの教師向け手本が気された本も多い。
過去の教科書から現在までの物や辞書、古い1000年以上前の文献を読むための古語辞典もあった。
試しに、1000年以上昔の文献の写本を開いてみたけど、単語や文法が微妙に異なっていて意味を確実に読み取る事が出来なかった。
で、見つけた。
僅か3冊だが魔導師に関する書籍があった。
たぶんクロマ先生も読んだのだろうね。
その3冊を、机に持って行き開く。
1冊はコウシャン領で活躍した魔導師の詳細な伝記。
もう1冊はコウシャン領から王都に行った魔導師の伝記、その魔導師は晩年コウシャン領に戻って余生を過ごしたらしい。
最後の1冊が私の探していた物だった、研究をして魔導師への資格を目指した魔術師の記述。
魔導師への資格を得る事が出来たが、魔物の討伐の際に戦いで命を落としたとある、そして死後に名誉職として魔導師なった。
その生涯に少し複雑な心境になる。
何故なら、魔物の氾濫の際、コウの町の戦いで死んだ事になっている私マイが名誉職として魔導師に認定されるかも、と聞かされているからだ。
実力を隠していた事から、上の方で揉めていて認定はされていない。
研究内容に関しては、題名だけ記載されていたので、それを元に更に書架を探す。
研究資料は幾つかあったが、そのほとんどが魔術師を育成するための研究だった。
ようやく見つけた研究資料は、その表題と概略だけ残し残りは無かった。
禁書認定されているとのこと。
それはそうだ、研究内容は『魔物の発生原因について』だから。
魔物の発生原因については、元領軍のギムさん達と話した事がある。
情況証拠と推測に推測を重ねたものだから、確定は出来ないけど、別の魔物が住む世界と現実世界が何らかの繋がりが出来て現実世界に現れてしまった。
そしてそれはダンジョンが繋がりであり、そのダンジョンは時空魔法によって生まれる可能性がある。
もし禁書の内容が
『時空魔法がダンジョンの発生原因であり、そして魔物を発生する可能性がある』
そんな内容の情報だったら、世に出たら混乱することは容易に想像できる、禁書指定されるのも判る。
過去にそんな研究をした魔術師が居た事に驚く。
と、同時にその研究は今 各所で活発に行われている可能性が高い。
改良されたダンジョンコアやダンジョンが魔物を生み出すことは知られている、そして魔物の氾濫、魔物の発生についての研究は進められているだろう。
もし、私がその研究成果を発表しても、おそらく誰かが発表した内容と被る。
時空魔法との繋がりまで指摘できる人がどれだけ居るか判らないけど。
なら、私は別の研究を進めた方が良い、
教員用の書架の書籍を読みながらそんな事を考えていた。
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