第222話 2年目「定期馬車」
期末試験後の休みが終わり、2年目の後半が始まった。
生徒の数が減っているかと危惧していたけど、幸い一足早く卒業した生徒以外では欠ける事無く出席していてくれた。
「よし、みんな揃ったな。
これから2年目の後期に入る、より個々の研鑽が重視される。
みなの頑張りを期待する」
クロマ先生が檄を飛ばす。
皆真剣だ。
そのクロマ先生に呼び出された。
「マイ、呼び出してすまんな。
大体予想は付いていると思うが、お前は魔術師としての認定試験を3年に入ったら行う、実質の内定だと思って良い。
これからの成長を加味したものだ、そのために、本格的に魔術の知識と技術の習得を目指せ」
「はい、判りました」
うん、これは嬉しい知らせだ。
期末試験の結果が良かったのだろう、筆記は兎も角、実技に関しては基本魔法の6属性は他の生徒の方が優れている人が居たと思うから。
「それで、今後は基本的に1人で行動するように。
もしかすれば魔導師の道もあるが、現時点では魔導師の認定試験の資格は無い」
え?
チームを解散するのか、2人がどう言うのか気になる。
なにより、魔導師への資格が無いのはどういう事なの?
「すいません、理由を教えてください。 両方とも」
私が食い気味に質問する。
「まあ待て、落ち着け。
ナルとステラだが、退学する申し入れが入った、時期については調整中だがおそらく来月だろう。
退学が決まっている2人に時間を割くより、自分に時間を使って欲しい。
そして、魔導師の方だが私には判らん、学校の上部がそう判断した。
ただ、支配階級への忖度はや平民への差別は無い、これは断言できる」
思わず、膝の上で手を握りしめる、それを俯いて見つめる。
自分でも判るほど動揺している、手が震えている。
冷静になろうとしているが、2つの事実が心を占める。
黙っている私に、クロマ先生が続ける。
「思う所は有ると思うが、2人以外にも数名が退学を前提とした相談をしている。
進級試験までには、おそらく20人程度には成っているだろうな。
そして、進級試験ではおそらく半分が落ちるし、魔術師としての内定は片手ほどだろう。
魔術師になれるのはそれだけ厳しいんだ。
魔導師は、マイの知識は買うが魔法の実力は特出していないた分そこが理由ではないかと思っている。
だが、教育者としての魔導師は目指せると思う」
複雑だ、魔術師の内定が貰えた、ただ、認定試験への受験資格が得られたと思って良い。
もっと勉強と実技を磨かないといけない。
魔導師には成れない? 何で? 理由がハッキリ判らないと対策も取れない。
基本魔法の6属性が特出していないのは理解している、でもそれだけだろうか?
そして、ナルちゃんステラちゃんが退学する、判っていた事だ。
判っていても、心が締め付けられる。
でも2人とも学術区画に居る、頻繁に会うことは出来ないけど休みの日に顔を見るぐらいは出来るだろう。
フミ、今どうしているかな?
意識がなかなか冒険者や兵士をしていたときの様に、冷静に考える事が出来ない。
思えば、そういう機会から遠のいている、魔術師としての理論的な考え方ばかりしていた。
軽く頭を振って、雑念を振り払う。
「了解しました、魔導師への資格が何が足りていないのかも自分で調べてみます。
2人に関しては、相談されているので、大丈夫です」
言葉を選んで、答える。
魔導師へは魔術師の延長上にあると思っていた、違うのかな。
違うとしたら、対応方法を変えないといけない。
「うん、話は以上だ。
何か質問は有るか?」
「退学した生徒が行方不明になる件は片づいたんでしょうか?」
「形式上は終わっている。 行方不明の生徒の捜索はしているそうだが情報は回ってこない。
ただし、これから退学か卒業する生徒の安全確保は行われるそうだ」
クロマ先生も詳しい情報は知らされていないようだ、私よりも知らない可能性もあるので迂闊に話せない。
一体何人の子供が国外に連れ出されてしまったのだろうか?
この事件に関してはもう私が関われることは無い、教会で治療中の子供や行方不明になっている子供が元の生まれ故郷に戻れることを祈るしか無い。
「ありがとうございました」
「うん、あまり気にしすぎるな。
お前は十分役に立った、後は別の連中の仕事だ。
今日も図書館か?」
「はい、判らないことが多すぎて、時間が足りませんね。
失礼します」
退室したマイを見送ったクロマはポツリと呟いた。
「あんなのが魔導師になるのだろうな」
■■■■
図書館での調べ物は、少し暗礁に乗り上げている。
知りたい内容の本が無い、かといって学術図書館には頻繁に行けるだけのお金も無い。
今日は早めに切り上げて、文具店でインクや便箋の買い足しをした。
寄宿舎に戻ると、ナルちゃんと一緒にコウの町の出身者と連絡を取り、定期的に手紙でのやりとりが出来る事を伝えた。
前回、ブラウンさんに渡した手紙から4ヶ月近く経っている、近状を伝えたい子が多かった。
今までは、いつ届くか分からない手紙を出すしか無かったけど、商会が運行する定期便の荷馬車で運ぶ、確実性が高い。
みんな喜んでいた、さっそく便箋を買いに行く子も居るほどだ。
私も自室に戻り、フミへの手紙を書くことにする。
何を書こうか、魔術師に成れそうなことを書こう、魔導師への道はまだ見えないけど、私も頑張っていることを伝えたい。
ステラちゃん経由で、コウの町への試験的な荷馬車が準備でき次第 出発することを教えて貰う。
毎回 連絡するのが手間になので、食堂の連絡板にコウの町への手紙の発送受付を張り出して貰った。
事務員さんにまとめて預かってもらい、代表として今は私かな、がステラちゃんのお父さんが務めている商会の学術区画にある支店に届ける。
コウの町からの手紙は支店の店員さんが寄宿舎まで持ってきてくれるそうだ。
私達が卒業しても続くように、1年生の子供達にも私が居ない場合には代わりに届けてるように、そして次に来る子へ伝えるように話をした。
入学準備の時に勉強を教えていたナルちゃんの話だと、コウの町出身の今年の子供はたぶん2年になれそうなのは成人してから入学した人だけだろうとのこと。
魔法が使える人がその1人しか居なかった、他の子は魔力量だけて選ばれている、そして初等教育が何とかという状態らしい。
今は中等教育と魔法を使えるようになる訓練をしている。
魔法が使えるようになる方法、正直分からない。
出来る人はなんとなくコツを掴んでしまうので、教えようが無いんだ。 私も気がついたら使えてた。
教科書だと、自分の体内の魔力を感じる所から始める、とあるけど、使える人は初めから感じ取っているのでどうすれば感じ取れるようになれるのか分からないんだよね。
聞いた所だと、魔力を放出しそれを感じ取って貰うことから始めるんだそうだ。
ナルちゃんが魔法が使えない子に教えてるけど苦戦している。
コウの町への荷馬車が出発する日が決まり、手紙をまとめて届ける。
話が通っていたのか、支店では規定の料金で受け取ってくれた。
私の分は後から返金対応だそうだけど、別に構わないのに。
どんな商品を運ぶのか聞いてみた所、やはり商工業国家からの輸入品が主だそうだ。
領都の工業区画で作られた物も多少含まれる、食べ物については今回は少しだけ嗜好品を乗せるとのこと。
領都からコウの町までは、荷馬車でだいたい15日前後かかる、そのため複数台の荷馬車を常に等間隔で走らせる予定だそうで、試験的に2台で運用してみるとのこと。
手紙を預けた後、支店の様子を観察する。
支店と言っても、コウの町で一番大きい商店の倍以上はある、4階建ても領都では普通だけどコウの町では少ない。
ひっきりなしに人が出入りしている、どんな人なのか見た目でもよく分からない人が多い。
昔、輸送部隊の先輩兵士から聞いた事がある『その店の出入りを観察すれば何を取り扱っているのか、そして状況から何が起きているのかが推測できる』と。
少し見ていたけど、全く判らないです、忙しそうなことしか判りません。
諦めて商業区域から寄宿舎へ戻ることにした。
ステラちゃんより、翌日にコウの町へ出発した事を知らされた。
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