第220話 2年目「時空魔法」
時空魔法、例外魔法の1つで収納空間を作り出してその中に物を収納できるという魔法。
収納空間内の時間の流れは現実空間と異なる事があるので、時間と空間を制御する魔法ということで時空魔法になっている。
この時空魔法を2人に教えられないかな?
魔法はその属性で向き不向きがある、例外魔法も適性が無いとほぼ使えない。
ほぼだ、全く使えない訳じゃ無い。
少なくても、私が調べている限り、誰でも全属性を使える可能性はあるし、例外魔法だって適性が無くても使えたという記録は残っている。
ナルちゃんステラちゃんが良ければ試してみようか。
寄宿舎の私の部屋、何時もの授業の復習中、話を切り出してみた。
「うん、良いよ」
「ええ、時空魔法が使えると便利ですし是非」
うん、即OK頂きました。
「良いんですか? 正直、使えるようになれる確率はほとんど無いですよ。
魔法学校の授業もありますし、負担が増えますが」
時空魔法を使うためには、収納空間をイメージし作成することが出来るかどうか、が最初の関門になる。
次に収納空間の維持、収納空間に物を収納する、そして、代償。
代償はどんな物が現れるのかは試してみないと判らない、ましてや適性の無い人が使った場合での代償の事例は残ってなかった。
「最近、実力の伸びが頭打ちになってて、限界を感じているからね、少し目線を変えてみるのも良いと思う」
「マイさんのおかげで、知識に関しては不安はありません、が実技や理解に関しては同じく足踏みしてしまっています。
別の道を模索するのも価値があると思いますよ」
2人共前向きなのか、諦めなのか判らないけど、やる気はあるようだ。
じゃ、早速やりましょう。
目標は実用で使える範囲で容量は少なくても良い、代償は無い方が良い。
まずは体験からして貰おう。
「そうですね、ではまず時空魔法の収納を見て貰いましょう。
ゆっくりやるので、魔力の流れとか気にしながら見てください」
私が、手元の紙を1枚、ゆっくりといっても1秒もかかって無いけど、収納する。
そして、次に取り出す。
「改めてみると、不思議だね」
「一体何処へ行ってしまうんでしょう」
「収納空間と呼ばれる、この世界とは違う場所です。
この収納空間をイメージして作れるかどうかが最初の目標です」
多分上手くいかない、だって、適性がある人でも収納空間をイメージできるまで時間が掛かる。
できるだけ判りやすいイメージはないかな?
光属性の魔術で空中に球形の玉を浮かべる、2人はそれを見て首を傾げる。
「収納空間をイメージするとしたら、この世界から見る事が出来ない空間が自分の中に浮かんでいる、という感じでしょうか?
今は見えるようにしているとします。
で、この世界と、収納空間を繋げます」
玉の一部を開けて、近くに置いてあった、味付けした乾燥パン(夜食だ)を入れるフリをする。
これはあくまで光属性の魔術で作った幻影なので物はすり抜けしまう。
「この繋げた部分を使用して物を出し入れします」
手で、出し入れをしてみせる。
2人はやっばり首を傾げる。
「まずは、自分の中に収納空間、なにか自分の世界をイメージしてみてください、作る事が出来ると、直ぐに判ります」
「うん、判った」
「はい、やりましょう」
それから、毎日、夜の勉強会の時に約30分程度の時間を時空魔法の基礎の勉強と収納空間をイメージするのに費やした。
それが約1ヶ月続いた。
成果は出ていない。
元々気分転換のつもりでそして、使えるようになれば運が良い程度だったとはいえ、そろそろ負担になり始めている。
この辺で諦めるべきかな?
「今日は、私が物を収納するのを、手をつないで感じ取ってみてください」
紙を右手で持ち、左手にナルちゃんステラちゃんの手を重ねる。
ゆっくり手順を踏む。 丁寧に慎重に確実に。
自分の収納空間を意識する、色々な物が収納されている、だけど距離の感覚が無い、そこに有る。
次に右手の先にその収納空間と現実空間を繋げる出入り口を繋げる。
紙を収納するイメージを行い、紙を収納する。
胸が熱い、何だろう。 あ、私の胸にある魔石、ダンジョンコアから熱を感じる、私の中の収納空間は広大に感じる、なんで?
「あ!」
「はっ!」
2人が声を上げる、何?
「今、なんか空間を感じた」
「はい、私も感じました」
胸のダンジョンコアからの熱はもう冷めている、こんなことは初めてだ。
じゃない、収納空間を感じ取れた?
え? うそ?
「感じ取れましたか、では今度は自分の収納空間をイメージしてみてください」
私は動揺を抑えながら、2人にイメージするように進める。
2人がコクコクと頷いて手を組んで祈るように目を閉じる。
「これが収納空間なのかな?」
「そうですね、これが収納空間なのでしょうか?」
「収納空間の反応は本人にしか判りません。
でも確実に取得に向かっていますよ」
2人が私も巻き込んで抱き合って喜び合った。
その後、数日を掛けてイメージを続け収納空間が安定してきた。
カイル先生みたくいきなり収納させるなんて事はしないよ。
そして、収納空間と現実空間との出入り口をイメージする練習をする、ここまで来ればあとは数をこなせば良い。
「所で時空魔法が使えようになったので、カイル先生の授業を受ける事も可能ですが、どうしますか?」
2人がお互いに頷き合う。
「「隠そうと思います」」
その可能性は大きいと思った、彼女たちは魔術師には届かないだろうけど、魔法使いとしては上位の使い手で通る位には成っている。
魔力量の関係で軍隊の戦闘に使えるほどの高威力は出せないけど、幅広く対応が効く有能な魔法使いになれるだろうね。
現状でも領都の機関に引き抜かれる危険は大きい。
それに時空魔法が加わる、少ないけど魔術師の可能性まで出てきてしまうのは不本意だろう。
「そうですか、では何処かで収納量の確認をしましょう、それに代償を確認しなくては成りません」
「うん、よろしく」
「所でマイさん、このお礼は一体どれほど返せば良いのか判りません」
「お礼は不要ですよ、今までのお礼だと思ってください」
2人が黙り込む。
「マイは気が付いていたんだ」
「隠し事は出来そうも無いですね」
そう、もうじき期末試験が始まる、なのに2人には危機感が生まれていないし、時空魔法に時間を割いても気にしていない。 それは何故か。
そう、この先の次の事はもう決めているんだろうね。
「期末試験が来月から始まります、2人の様子を見れば結果は気にしていないと言う事ですから。
なら、どういう事かと言う事ぐらい判りますよ」
チクリ、胸が痛む。
せっかく仲良くなった2人が居なくなる、判っていた事だ。
「私達は、期末試験が終わった後、遅くても進級試験の前までに退学する予定よ」
「はい、そうだと思いました」
ん、ステラちゃんが私を抱きかかえてきた。
なんで?
「マイさん、そんなに悲しそうな顔をしないでください」
え、そんな顔をしていたんだろうか?
「それに、マイとはこれからもしばらくは何時でも会えるよ」
「え、それは何で?」
「ステラのお父さんの務めている商会で、ステラと一緒にお父さんの下でしばらく働かせて貰うように手続きをしている所」
「そうです、魔法学校の元生徒ということを利用して、学術区画での仕事の手伝いをすることにしたんです」
おお、ナルちゃんは本格的に領都で仕事をするのか、このまま領都で働くのかコウの町へ戻るのか判らないけど、同じ学術区画だ、休みの日は会う事は可能だろう。
思わず、3人で抱き合ってしまう、体型的に私は2人に抱きかかえられる感じになるのは、解せぬ。
魔法学校の生徒としては、近いうちに離ればなれになってしまう。
でも、領都に居る間は一緒に会える。
2人の収納量の確認は直ぐに済んだ、共に水樽(約20リットル)程度の少ない物だったが、その代り代償らしい物が確認できないほど少なかった、有ったのは収納した重量の何割かが体重に反映されるくらいかな。
地味にダメージを受けていた気がするけど気にせいだよね?
安定度の問題は習熟しだい、水を入れっぱなしにして確認をしているけど、今のところは問題は出ていない、これなら、貴重品を保管するのに十分だ。
そろそろ、私も魔導師へ向けて動きだそう。
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