第219話 2年目「予感」
暑い日々が続く。
雨の年なのだけど、今年は雨の日は例年より僅かに多い程度だそう。
雨が降った後の湿気が肌に張り付く感じが少し不快だ、弱い乾燥した冷たい風を体にまとわせることで、快適。
だけど、このレベルは魔術の範疇になるので人前で出来ない、普段は風を当てる程度ですませてます。
2年生のほとんどの生徒が基礎魔法の知識を最低限必要な部分を習得して、次の技術として身につける段階に来ている。
ここで躓いてる生徒が多い。
基本属性の魔法の知識と技術の習得も合わせて行われているので、2年生の生徒も皆真剣に取り組んでる。
ナルちゃんステラちゃんも苦労している、私も手助けしているけど、こればっかりは自分自身で理解して納得しないといけない。
2年では水練の授業がある。
これは過去の魔法学校では無かった授業だ、着衣を着たまま水の中に入って泳ぐ訓練だそう。
何の役に立つのか判らないけど、運動不足気味だったので、丁度良いのかもしれない。
場所は、魔法学校の南側にある貯水池の一部で水深が浅くなっている所を利用する。
はっきり言って、恥ずかしい。
水に濡れた状態を他人に見られるのは慣れないし、男性もいる(場所は離れているけど)。
周りの生徒もみなモジモジして恥ずかしいようだ。
水に濡れて肌に張り付いた服、露わになる体のライン、うん、クラスで一番背が低い私は凹凸も無い、他の女の子の柔らかい膨らみがうらやましい。クスン。
水練といっても、溺れないように水に慣れて慌てないようにする、ゆっくりでも移動する程度だ。
ほとんどの子は全身を水に沈める経験が無いので、みんなおっかなびっくりで試している。
何人か泳ぎが得意な子が居て凄い勢いで泳いでる、凄いね。
私も始めてなので、水に潜ったときの風景は新鮮だった。
ある程度、水に慣れたら後は自由時間だ、冷たい水の中で水を掛けたりして遊んだ。
先生も生徒の気分転換を考えてくれているのかな?
遊び疲れて怠くなった体に、水属性の魔法で衣服を乾かすように言われた時のみんなのため息もまた面白かった。
水練の授業は何度か行われ、その中で水属性の魔法を水の中で使う実習もあった。
魔法で周囲の物を利用するのは案外少ない、それは単純に不純物が多すぎて操作が難しいから。
ただ移動させるだけとか壊すとかなら問題ないんだけどね。
2年生ではチームだけじゃなく、全員が友人みたいな雰囲気なっている、教室の雰囲気は良い。
これも前の魔法学校では無かった状況だ、当時は全員がライバルで競い合うというか手の内を隠すような雰囲気が有ったからね。
今は助け合う関係性が出来ている、もちろんそれぞれの習得の進みが違うことでの差異があるけど、適正属性が比較的散らばっているのが良いのかもしれない。
「ねえ、マイ。
具体的なイメージを構築するのに良い方法って、前に聞いた水鉄砲で例えるようなのしかないのかな?
例える例を考えるのが多く成りすぎて判らなくなりそう」
「そうですね、簡単なのなら身近な物でイメージできますが、複雑になるとイメージするための物が見つかりませんね」
「ナルさんステラさん、複雑な物に関しては幾つかの単語を繋げてイメージするのも良いですね。
例えば、放水1m+拡散45度+魔力10、とか。
単純な組み合わせの方がイメージしやすいです。
最終的には、それを意識せずに組み立てられるようになる事ですね」
私が手から弱い水を扇状に広げて出す。
ここは花壇があるので、水まきのついでだ。
「うん、それだと言葉に出すのと違いは?」
「時間ですね、頭に思い浮かべるのと言葉で喋るのでは圧倒的に言葉は遅いです」
「そうなんですね、言葉で済ませられれば明確だし楽だと思ったのですけど」
「うーん詠唱魔法ですか? あまりお勧めできませんね」
「あるの?」
「あった、ですか。 専用の言語を使用する事で短い文章に多くの意味を持たせる事が出来るとか。
その文章を魔法文字とか記号にすることで、本を読みながら使用するとか?」
「便利そうですが、なんで使われてないのでしょうか?」
「単純に使い手とその技術が失われてしまったからですね。
勉強するのにも誰からも教えて貰えません教材も無いです、私もそういう物があった位しか知りません。
500年前まで続いた戦争とその後の魔物の氾濫で、そういう魔法を使っていた人たちはほとんど死んでしまったそうです。
今は、簡単な魔道具なんかには使われていますね」
詠唱魔法を含む魔法文字や魔法言語、他にも魔法記号や魔方陣などは過去に存在していたらしい。
図書館で読む魔法の歴史に関する書物に時折出てくる、この魔法言語を頭で思い浮かべればもっと強力な魔術が使えるかもしれない、なので調べたけど禁書扱いで見る事も出来なかった。
噂だと、魔導師になって領都や王都の研究機関に入れば閲覧できるとか?
魔道具、色々あるけど一般的には明かりや空調、調理器具に使われている。
価格が高いので、ほぼ貴族か富裕層でしか使われない。
これらも、過去から使われているものを、意味も知らないでそのまま真似ているだけだそうだ。
戦いに向いた魔道具も昔は有ったそうだけど、それも現存しているかどうかも知らない。
「そんな訳で、今は頭の中で可能な限り明確なイメージを作り出すのが一番効率が良いんですね。
魔法と魔術の差異は、このイメージの明確さ正確さの違いになりますし」
「うん、判ったやってみる」
「はい、マイさんありがとうございます」
2人はまた、それぞれの適性属性の魔法を使って練習する。
時々ブツブツと呟いているのはイメージの補完の為かな?
2人の魔法は大分向上しているけど、応用が出来ない、数種類に関しては問題ないけどそれ以外だと全く上手くいかない事が多い。
これをどの状況下でも目的に合わせた魔法を構築できるようになれば魔術と言ってもいいんだけど、そこまで行ける感じがしない。
少し振り返る。
今の私の能力、時空魔法に関しては問題ない、時空魔術 教師のカイル先生からもお墨付きを貰っている。
収納速度も収納空間の安定性も自重していないので実質、魔術師レベルだと言われている。
代償は、魔力量に反して収納量が少なく大樽5個分しか無い、という事になっているのは変えていない。
そのほかの通常魔法、基本属性6属性も影が相変わらず苦手な以外は実用範囲まで使えるようになっている。
実際、担当教師のクロマ先生から、期末試験の結果次第で私は魔術師としての習熟勉強に入って3年目のどこかで魔術師への認定試験を受けられるとの内定を貰っている。
このことは流石に2人には話していないけど。
計画は順調だ、3年目の魔術師の認定試験までに更に知識を付ければ魔導師への道も見えてくるかもしれない。
ナルちゃんステラちゃんを見る。
彼女たちが魔法学校に居る期間は何時までだろう?
今のままだと長くても3年目には届かないと思う、それに2人とも実家の商人を継ぎたいという希望があるので、進まない選択をすると思う。
2人と別れる日も近いという予感がしてきた。
2人に何が出来るだろうか? 領都の生活や他の生徒との橋渡しとかで世話になっている。
私も魔法学校の勉強では依頼を通して以外でも協力しているけど、その分、いろいろと奢って貰ったりしているので、何とも言えない。
うん、時空魔法を教えてみようか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます