第217話 2年目「採取依頼」
研究棟での実験が良かったのか、それとも気分転換が出来たのか、2人の基本魔法の実習内容はそれなりに向上した。
少なくても、クラスの中では中間以上にあると思う。
時々、別の生徒へ教えているけど、状態に関しては説明していない。
クロマ先生も、私のやった状態についての授業を行わなかった。
理由は判らないけど、たぶん国から指示されている指導指針に触れてしまうのかな?
状態という考え方は確かに授業で使われている教科書には載っていないから仕方がないのか。
3ヶ月目の学力試験は中等教育までの内容と基礎魔法の知識だった、2年の全員が問題ない得点を得る事が出来たらしい。
順位を張り出すとかは無かった。
少し余裕が出来たので、試験後の休みを利用して、学生ギルドで採取依頼を受ける事にした。
1泊2日、指定された薬草は近くの森の浅い所で収集できる程度の簡単な依頼だ。
地図を見ると、野宿用の施設があって、雨風をしのげる小屋と炊事場に水場も用意されている。
うん、非常に優しい。
単独での採取はかなり渋られたけど、経験者ということで何とか認めて貰った。
で、今荷馬車に乗っています、領都は広いので採取場所になる森の近くに行くだけでも馬車が必要で、その馬車も低価格で巡回している。
領都で活動している冒険者が一体どんな活動しているのか気になってしまう。
体格が小さくなっているので、背負っている背嚢が大きく見える。
この背嚢、中古屋で見つけた辺境師団の使用していた中古品だったりする。
なじみ深い装備なので使い勝手は良い。
探索魔術を行使する、うん、遠くで見ている人が居る。
これは安全のために監視している感じかな?
馬車は、街道の途中、野営地に近い場所止めて下ろしてくれた。
帰りも、昼頃にここで待機しているそうだ。
至れり尽くせりだね。
野営地に着いたのは昼頃、さっそく昼食の準備をする。
炊事場が用意されているけど1人では使いにくい。
以前購入した野外活動用の道具を取り出して準備をする。
とはいえお湯を沸かす以外は乾燥させたパンと乾燥肉、チーズだけだけど。
森を見る、自然林だけど下草や間伐がされていて森の中は明るい。
これならオオカミの様な人里を嫌う肉食動物は出てくる危険は少なそうだ。
許されている時間は短い、食事を終えると直ぐに森に入る。
地図には、簡単な地形図に水源、そして採取場所まで記載されている。
進んでいくと、予定通りの場所に、目的の薬草が群生している。
よく見れば、薬草の育成管理されているのが判る。
状態が良い物を適度に収集していく。 ここで取り過ぎないのもおそらく観察されているだろうなあ。
探索魔術には、視覚で見えるギリギリの所に冒険者の格好をした人が潜んでいるのが判る。
時空魔術の訓練をしたかったけど、これでは無理だ。 素直に採取して帰ろう。
必要な量の収集を終えたら、野営地に戻る、私と同じ学生が何人かチームで採取依頼を受けて来ている、同じ2年生も居るね。
同じクラスの生徒が話しかけてきた。
「や、単独で依頼を受けたの? チームのメンバーは?」
「単独ですね、他のメンバーはこういうのに慣れていないので、今回は私だけです」
「野営するときは、僕たちの近くにすると良いよ、歓迎する」
話しかけてきた生徒は男性だけど、男女3名ずつのバランスの取れたチームだ。
他のチームメンバーを見ると手を振ってきた、私も手を上げて応える。
授業中でも何度か話をしていて、特に不審な感じはない、問題は少ないだろうね。
結局、夕食は一緒に食べて、依頼内容の簡単さについて話し合った。
彼らも領都近郊の別の町から来た生徒で、その町では中等教育まで習得しないと魔力量の測定をさせない方針だったそうで、うん、その町長の考え方は正しいと思う。
領都へも早い時期に入って、入学試験を受けたそうだ、だから6人とも2組スタート。
うん、コウの町も同じ政策をとった方が良い、戻ったらシーテさん経由で町長のコウさんに進言して貰えるように言ってみよう。
野営も女子3人と私は免除させて貰えた、うん紳士だ。
しかし、見られながら寝るのは気が休まらないな。
■■■■
野営場所かは少し離れた丘の上。
火も付けずマントにくるまって居る男性がいる。
そこに音も無くもう一人が現れる。
「お疲れ、交代だよ。 何か異常は?」
「ああ、お子様達は危なげなく採取依頼を終わらせてくれた、変な動きをしている生徒は1人だけ」
「へっ、何をやらかしたんだ」
「いや、こっちのことに気が付いていたようだ、何度かこちらを観察していたよ、というか今もこっちを見ている」
遠眼鏡で確認してみる。
指定された子供は女子達に囲まれて寝ているけど、よく見ると、こちらの方を見ているようにも見える。
「考えすぎ、と言う事は」
「無いな、何度か場所を移動したが、しっかりと確認してきた」
「えっと、資料にはマイか。 村出身で野草や薬草の採取経験あり。
あと、あ、追記で探索魔法が使えるとあるぞ、それで見られているのか」
「なるほどねぇ、それに野営とか一連の動作が慣れている、森の中での野営経験もあると思うな」
「まだ6歳程度だろ、どういう経緯で身につけたのやら」
「手元の資料にはそこまで書かれていないな、だが合格点だな。
他の連中も、取り過ぎや品質の悪いのを採取しているけどその程度だ」
「了解した、じゃ、明日の荷馬車に乗るまで、ちゃんと警護するよ」
「ああ、後は任せた」
再び静寂が戻る。
■■■■
目が覚める、眠りも浅かったので一寸眠い。
「おはようございます」
「おはよう、眠れたかい?」
「いえ、慣れないので少し眠いですね」
「最初はそんな物だよ、朝食の準備をしてしまおう」
「ええ、手伝います」
探索魔術を行使する、丘の上から街道沿いの方の草むらに移動している。
本当に警護しているだけか。
この前、人さらいが有ったばかりだから、学校側も警戒しているのかもしれない。
予定通りの場所に予定通りの荷馬車が来る、御者は昨日の人だ。
「学術区画の入り口までよろしくお願いします」
「あいよ、他の人たちもそれで良いかい?」
「はい、俺たちも同じです」
「じゃ、乗ってくれ」
荷馬車が領都に向かって走る。
今回は時空魔術は封印している、採集した物は背嚢に入れてある。
定期的に探索魔術を行使しているけど、時折遠くに人らしい反応があるだけで問題は無いみたい。
領都の西門から入り、そこから学術区画の西門へと向きを変える。
大通りに面している北門は馬車の交通量が多いので、こちらの方が都合が良い。
門の所で、礼を言って降りる、学術区画を区切っている塀の西口から入門する。
特に問題は無いので、直ぐに通されるけど、巡回馬車待ちだ。
雑談していると、巡回馬車がやってくる。
その馬車に乗り込んで、学生ギルドに向かう。
ふと思って、御者の人に聞く。
「町では、門の近くにギルドの買い取り所が用意されていました。
領都ではそういうのはないのですか?」
「ああ、学術区画には無いけど、他の区画、貴族区画を除けばあるね。
ただ、学生ギルドの資格では買い取りとか出来ないから、注意してね」
つまる所、学生の身分では学術区画の学生ギルドから提示される依頼しか受けられないと言う事だね。
学術区画の中央の停車場で下ろして貰う、降りた生徒たちの目的地は同じなので団体行動だ。
学生ギルドに入って納品処理をしてもらう。
私は1人だったので一番先に対応してくれた、他のチームの人たちも良い人たちだ。
改めて、依頼が張られている掲示板を見る、領都の外での採取依頼は同じ枚数が掲示されている。
それに店員の募集や1日だけの日雇いの依頼も幾つかあるけどどれも作業内容は簡単な物が多い。
学生に対して社会勉強をさせたい、という思惑が透けて見えてくるよ。
他のチームも納品処理を終えて出てくる。
学生ギルトの窓から停車場を見る、魔法学校方面に向かう巡回馬車はさっき来た、丁度良いかな?
「巡回馬車が来ています、私はこのまま寄宿舎へ戻りますが、皆さんは?」
「俺たちは、女子が寄宿舎へ戻りだな、男子はちょっとこの辺のお店を見て回ってから戻る予定だ」
女の子達も見て回りたい様子だったけど、1日体を拭いていない、出来れば沐浴して着替えたいだろうね。
私も沐浴したいし。
男子3人と、他のチームが残り、私と女子3人が巡回馬車に乗って寄宿舎へ戻る事にした。
巡回馬車、人さらいの時に使われた。
少しだけ警戒する、女子4人だ、狙われる可能性は無いとは言えない。
マントの下のナイフを確認、走り出した荷馬車が通常の道から外れないのかも確認する。
でも、もうすぐ昼の明るい時間帯だし先日の事件の後、何か対策を取っているはず、心配のしすぎだったようで、特に問題も無く寄宿舎へ戻れた。
部屋で部屋着に着替えて、洗濯する服をまとめると沐浴所に行く。
沐浴着に着替えて、まず服の洗濯を済ませてしまう。
今回は特別汚れていないので水洗いで十分かな。
洗っている所で、さっきの女生徒3人も入ってくる。
うん、判っていたよ、胸囲の差は大きい、はいゴメンナサイ、平坦です。
少し涙目になるけど、気にしない事にする。
彼女たちは洗濯は依頼しているらしい、専門の人が洗ってくれるので自分でやるより綺麗だそうだ。
私も汚れが酷いときは利用している。
洗い終わった服をまとめて、今度は自分の体を洗う、まだ水は冷たいので桶に溜めた水を魔術で加熱してお湯にする。
暖めた濡れタオルで体を拭く、気持ちいい。
「あ、お湯を作ってる、私もやろう」
彼女たちも魔法学校の2年だ水を温める程度の魔法は問題なく……あ、沸騰させてる。
うん、温めることは出来るね。
「ねえ、採取依頼ってこんなに簡単なの?
町で冒険者にわざわざ依頼するほど難しいのかな」
1人が私に聞いてきた、多分、気が付いていないけど、違和感を感じている所かな。
一応 知らせておこうか。
「いえ、今回の薬草の採取依頼は学生ギルトが色々と準備をしてくれていました。
森への移動もそうですが、野営場所の確保や採取できる場所の準備とか、普通は冒険者が全部やります。
今回は、用意された内容を間違えずに行っていただけですね」
「そうなんですね」
「えー、判らなかった。
じゃ、誰か護衛が居たの?」
「居ましたよ、夜は丘の上から見ていました、あと森の中でも後を付けてきていましたね」
3人とも驚いている。
と、1人が私を見る。
「じゃ、なんでマイちゃんはそれに気が付いたのかな~?」
「私は、小さい頃から森に入って採取していたので」
しまった喋りすぎた。
護衛の件については濁してしまうべきだったかな。
「ねえ、こんど私達とチームを組まない?
一緒に組んでいる子達、森に入った事無いでしょ、森に入るときだけでも良いから」
うーん、言いたい事は判る、それに野外実習を何度かこなしているとはいえ、単独での依頼が出来る私と一緒に入れると安心感があるのかな。
頭の毛を洗い流しながら考える、あまり深く考えてない感じだな。
「考えておきます」
濁してごまかすことにした。
夕食の時、ナルちゃんステラちゃんに、薬草採取の難易度が低いこと、一度は経験しておいた方が良いことを伝えておいた。
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