第211話 1年目「試験勉強」

 日だまりが暖かく感じ始めた頃、1年生は進級試験の時期が迫ってきた。

 この間に、魔法が使えるようになれなかった2組と3組の生徒数名と、基礎魔法の学習に付いてこれなくなった1組の生徒数名が退学している。


 今日の授業が終わり、クロマ先生が壇上から生徒を見渡す、何時ものラフな服装だ。


「さて、近く進級試験が行われるが、その内容を発表するので、全員メモを取るように」


 クロマ先生が言うと、全員が緊張してメモを取る準備を整える。

 準備の音が消えて、教室が静寂に包まれる。


「再来週14日後から休日を除いて休日を除き20日かけて行う。

 試験範囲は、初等教育から現在までの全てだ。

 筆記試験以外に実技試験も含まれる。

 詳しい試験日程は後で配布する」


 ここまでは想定内だ。

 長期間なのは、要するに全ての知識と技術の確認が行われるということ。


「さて、1組の諸君は進級に最低限必要な中等教育までと魔法を使うことは完了している。

 つまり、進級できることは確定していると信じている。

 だが、2年からは基礎魔法の習得が完了次第、適正のある属性を中心とした魔術の習得に入る。

 魔術師に成りたいのなら、1日でも早く基礎魔術を習得しろ。

 2年になって1~3組は統合される、それだけの人数しか残らないと思って良い」


 基礎魔法、魔法を精密にかつ効率的に使用するための知識と技術の習得は、1組の生徒でも苦労している人が多い。

 考慮しなくてはいけない要素が膨大で、それらをどのように活用すれば良いのか、皆 試行錯誤している。

 ナルちゃんとステラちゃんも、ごく初歩的な部分では何とかなっているけど、そこから苦戦している。

 ここは理解できるかどうかなので、教えるのも難しい。


「試験開始までの間は、各自自習するように、休日を除き学校は開いている。

 午前中は教科書を借りて この教室も使って良い。

 私も教室に来ているので、質問が有る者は自由に来て良いが、質問の内容はしっかりまとめてくるように。

 曖昧な質問は受け付けないぞ。

 また、上級生などに個人授業の依頼は構わないが、この時期に受けてくれる者は少ないと思え」


 チラリと横を見る、ナルちゃんとステラちゃんの不安そうな様子がわかる。

 今の2人は、中等教育までは問題ない、そして、基礎魔法に関しては、知識は少なくても適正の有る属性に関しては大分進んでいると思う。

 問題なのは必要最小限となる知識と技術の方だ、なかなか理解できず魔法への応用が進んでいない。


「質問は無いか?」


 クロマ先生が私たちを見渡す。


「はい。

 練習場の利用も自由に使って良いでしょうか?」


 生徒の1人が聞く、技術の部分で実技に不安を持っている生徒は多い。 当然の質問だろう。


「ああ、そうだな。

 生徒だけでの利用は許可されない、私か他の先生が付きそう。

 少なくても お前達の質問に答えられる者が居る。

 利用前に、職員室で利用申請しろ。

 他に無いか?

 無いようなら、本日はここまでだ。 以上」


 とたんに騒がしくなる教室。


「マイ、ステラ、どうしよう?」

「マイちゃん」


 2人が私を頼ってしまうのは仕方が無いか。

 度を超えて依存されないように注意しないと。


「私にも判りません、相談して決めましょう」


 試験準備期間が始まった。



■■■■



 進級試験対策は特にない、今まで学んだことをとにかく復習して自分の物にするだけだ。

 今日も、私の部屋で勉強をしている。


「闇雲に復習しても時間が足りません、不安の有る場所を中心に全体を再確認ですね」


「そうすると、ずっと一緒に勉強するのは効率悪い?」


「判らない所を教え合う事は可能でしょう。 一緒に居ても同じ事をやる必要は無いですし。

 問題があるとすれば、実技ですね」


 私の言葉に、ナルちゃんから別れた方が良いかとの案が出て、それにステラちゃんが補足を入れる。

 うん、自分で考えている、チームを組むようになってから、私は意図的に答えを言わずに考えさせるように誘導していた。

 そうすることで、私への依存を無くしてきている。

 誰かに頼らないと前に進めない人は魔術師には向かない。

 そういう、人格面でも多分何処かで評価されてる。

 ただでさえこのチームは問題があると(答えを知っている)私が中心で解決してしまっていることで目を付けられている。


「実技ですか、具体的に何が問題ですか?

 私たちの基礎魔法に関しては、及第点に届いていると思いますが」


 私が疑問に思う、基礎魔法を習得するので一番の問題は知識を技術として自分の物にする事だ。

 この点については、私は注意して2人に指導してきた。


「はい、マイさんが手伝ってくれたおかげで私たちは基礎魔法の技術を身につけられています。

 でも、マイさんが居なければ私たちは多分ここから先に進むのは難しいです」


 ステラちゃんも鋭い。

 これから先を見据えている。

 となると、たぶん気がついてるかな。

 私は少し憂鬱な気分になる、言うべきかな?


「マイ、たぶんだけど私たちが魔術師になれない事を気にしていない?

 なら気にしなくて良いよ、私もステラも魔術師に成れるとは思っていないの。

 多分、魔術師に成れるのはマイみたいな人なんだなって」


「はい、マイさんの魔術に寄せる思いの強さほど、私たちは無いです。

 真剣に取り組んでいますが、取り組むほど差を感じています」


 2人共 気がついてましたよ、私の表情は読みやすいのだろうか?

 だとしたら、これ以上隠す必要は無い。

 なら、私は2人を進級させて、立派な魔法使いにしよう。


「判りました、2年目も一緒に学びましょう」



■■■■



 今日は、実技の練習のため練習場に来ている、何人かが申し込んでいるので、その一画を借りて練習だ。

 ん? スクロウくんが居る、適正のある火属性の魔法を使っているのが見える。

 スクロウくんが私を見て、フイと顔を背ける。

 彼とは、時空魔法の実習で顔を合わせているけど、収納すると他の魔法が使えなくなり身体の代謝が遅くなるという代償があるので、消極的で実習も前向きに取り組んでいない。

 一度だけ、適正のある属性はしっかり把握しておいた方が良いとアドバイスした事があるけど、無視されたなぁ。

 端から見ている限り、火力を上げることに熱心だけど、魔術の本質である精度と効率を蔑ろにしているようにも見える。

 ともかく、私たちも借りた区画に行く。


「基礎魔法の復習です、基本属性の魔法を順番に必要となる要素を確認しながら行使しましょう。

 また、魔力の放出量も意識するように。

 魔力を操作しているイメージをしっかり持ちましょう」


 私が、基本属性の魔法を順番に使っていく。

 元々私は基本属性の魔法が苦手だった、これは魔力操作を蔑ろにしていたため。

 適正のある属性の魔法を使っていると魔力操作は自然と使えてしまう、そうなると他の属性の魔法を使う際に上手く操作できずイメージ通りの魔法を行使できなくなる。

 従軍中は、時空魔術以外の魔術はせいぜい水を出すとか種火を付ける程度でほとんど必要なかったのも苦手になっていった理由かな。

 でも、冒険者として活動するようになって必要性を再確認したのと、魔術師のシーテさんの指導のおかげで、時空魔術ほどではないけど使えるようになってきた。

 この1年の魔法学校でも、基本属性の魔力操作は私の課題として毎日練習している。


「やっばり、マイみたいに上手く魔法を行使できないよ、何か練習のコツがあると良いな」


 ナルちゃんが魔法を使いながら悩む。

 このコツを掴むまでが難しい、どうしたものかな?


「声に出して見るというのも方法の一つです。

 どの魔法をどんな風に使うのか、イメージし難い部分を言葉にすることでよりも確実になります。

 ただ、声に出す分、イメージが遅くなりやすいです、慣れてイメージが出来るようになったら止めるべきですね」


 声に出して魔法をイメージするのは確実だけど魔法の行使に時間が掛かるし、相手が居る場合にはどんな魔法を使うのか丸わかりだ。

 専用の圧縮言語を使う方法もあるけど、それは余程複雑で大規模な魔術を使うとき位で一般的では無い。


「そうですね、やってみます。

 水を、えっと常温で水量は……これは難しいかも?」


「うん、いつも通りにイメージして出した方が楽?」


「魔法ならそれでも良いですが、魔術としてなら可能な限り要素を確定していく必要があります。

 例えば”水鉄砲の勢い”を常温の水を大きさ5ミリの穴から約5メートル飛ぶ位の勢いで押し出す、とひとまとめにしてしまうのも良いです」


 この例えは上手くいったようで、ナルちゃんもステラちゃんも直ぐに水を細く飛ばすようになった。

 考えられる要素全てを考慮して魔術を行使することは現実的じゃ無い、ある程度はまとめたイメージを作っておくことで咄嗟に魔術を行使する事が出来るようになる。

 水を出す魔術でも意識して操作するのは魔力量と水の放出量に限定し他は初期設定をイメージしておくことで魔術の行使が大幅に楽になる。

 でも、最初のうちはできる限り要素をイメージした方が良いんだよね。


 2人が魔法を基礎魔法に従って行使しているのを見る、技術的には魔術と言って良いかもしれない、ただ、未だ自分の物に出来ていないので効果がまだ悪い、ここを乗り越えたら一気に効果が良くなるので、その時が楽しみだね。

 私も効果を制御して精密に素早く行使していく。






 進級試験ももう目の前だ。

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