第212話 1年目「進級試験」

 進級試験が始まった。

 前半は筆記試験となり、後半が特性に合わせた筆記試験と実技試験なる。

 試験の日程に沿って予習して、試験を受けて、の日々が続く。

 私も真剣に取り組んでいて余裕が無い。

 魔法学校と寄宿舎の間を往復する日々が続く。

 知識に関しては、私達のチームは進級試験の範囲を理解できている、あとはミスをしていように注意していけば良い。


 前半の筆記試験が終わり、今日と明日は休日で中休みになる。

 後半は適性のある属性の筆記と実技の試験が中心になるため、各個人で分かれての試験が多くなるので、ナルちゃんステラちゃんと一緒に行動することが少なくなる。

 なので、集まって何かしようと言うことになった。


「集まるのは良いですが、何をするのですか?

 一応、私は基本属性の全属性に平均的な適性があるので、時空魔法以外も勉強していますしある程度は教えられますが?」


「マイにそこまで頼れないよ、それに自分の力を試す機会だしね、どうしても自分で判らない所は聞くかもしれないけど」


「そうですね、マイさんにはチームとして頼りっぱなしでした。

 私たちがマイさんに出来ることがあれば、言って欲しいです」


 2人に感謝されると、気恥ずかしい。

 確かにいつの間にか頼られているのに慣れてしまっていた、自制していたはずなのにね。


「少し息抜きが必要かと思いまして、寄宿舎の近くの軽食店で甘い物でも食べに行きませんか?」


「そう、まぁ精神的に少し疲れたから、気分転換をしたいところというわけ」


 うーん、私は特に疲れてもいないけど、こういう精神的な疲労は麻痺していて気が付かないことも多い。

 ここはステラちゃんとナルちゃんの話に乗ろうか。


「いいですね、確かに勉強以外のことをして疲れを取るのも重要です。

 私は、思いっきり寝て過ごすつもりでした」


「あー、確かにそれも良いかもね。 マイらしいかも?」


「マイさんって、あまり寝ない印象があるので、寝るのが休息に成る感じありますね」


 2人がクスクス笑う。

 そんな風に見られていたのか、ちゃんと寝てるよ、睡眠大事。

 夢中になって睡眠時間を削っちゃうときもあるけど、試験期間中はしっかり寝るようにしている。


 兎も角、朝食後に甘い物を食べに行くことが決まった。

 前に食べたショートケーキがあるかなぁ?



 軽食店は寄宿舎と学校の間にある店舗区域でも東側で、窓側からは緑地帯と遠くに学術図書館が見える場所に有り、魔法学校の生徒とそれ以外のお客も多く入っている。

 価格設定も良心的だ。

 だけとショートケーキはありませんでした。

 やっばり、商業区域のあのお店は比較的お高い庶民無の特別なときに利用するお店だったのかな?

 ふっくらとしたパンケーキに甘いシロップをかけた物が出てきた。

 2人は、キャーと喜んでいるけど、そんなに喜ぶ所?

 すいません、嘘です、ウキウキして体が揺れてしまっています、あ、よだれ垂れそう。


「さ、頂きましょう」


「久しぶりだね、コウの町でもこれなら作れそうだ」


「甘くない似たような物は食べたことは有りますが、どんな味でしょうか?」


 パンケーキのシロップが掛かっていない所を切り分けて、一口。

 うん、美味しい、柔らかい。

 シロップを付けてみる、シロップの強い甘みと合わさって、甘さが口いっぱいに広がる。

 んー、たまんない。

 紅茶も赤みが深く少し変わった癖があるけど、美味しい。

 ふむふむ、思わず体を揺らしてしまうね。


 ん? 2人が私を見ている。


「ね、やっばりマイさんって美味しいもの食べるとき幸せそうで見ていて癒やされます」


「だね、マイって突然 無防備になるから何か見ていて構いたくなるよね」


 ……しまった。


「何を見ているんですか?」


 ジト目で2人を見る。

 私は癒やし要員じゃ無いんですが。


「何でもありません、マイさん」


「ないでもないよー、マイ。

 さ、食べよう」


「まあ、良いですけどね、食べ終わったら雑貨屋でも見て回りますか?」


「良いですね、あ、インクが少なくなってきたので文具屋も良いでしょうか?」


「良いんじゃない、ゆっくり買い物も出来なかったし、ゆっくり回ろう」


 結局、昼の鐘の鳴る頃まで雑談を楽しんでしまい、午後に買い物をして回ることになった。

 うん、良い気分転換になったんじゃないかな。



■■■■



 後半の試験が始まった。

 基礎魔術に関する筆記と実技、そして適性がある属性に関しては更に筆記が加わる、内容も更に専門性が高くなっている。

 私は例外魔法が使えるのでその筆記と実技が追加される。


 時空魔法の試験はちょっと悩んだ、今まで考察してきた時空魔術に関する事と教科書に記載されている内容とで少し差異があるからだ。

 点数のため、教科書通りに書いているけど、個人的には別の考えもある、これはいずれ証明していけば良いかな?

 実技は、いかに安定して収納していられるのか、で、収納した後に運動したり魔法を使ったり、出したり入れたり、何というのか、凄く面倒くさい事を延々と続けている。

 試験はそういう物だと判っているけど、うん、やっばり面倒くさい。

 1日おいて翌日に取り出し内容物の変化を確認するというのも有ったけど、特に問題なく終わらせたよ。


 なお、同じ時空魔法に適性があるスロウクくんとは試験内容が幾つか異なる、収納量や代償が異なるからね。

 スロウクくんのイヤイヤ試験を受けている様子が伝わってくる。

 授業で、彼の収納空間内の時間の流れが遅くなる特徴が有るのが判っている。

 これは珍しくそして有用な特性だ、その事も火の属性を使いたい彼にとっては足枷になってしまっている。

 収納時に他の魔法の行使がほとんど出来なくなる代償があるからね。



 こうして、20日間(+休日)の試験期間が終了した。

 数日後には試験結果が発表される、それまでは休日で学校も休み。

 2人は流石に疲れ果てたようで、寄宿舎で寝て過ごすとのこと。


 私は逆に、気分転換に外に出たかったので食堂の掲示板や学生ギルトで何か依頼が無いかと調べたけど、これという依頼は無かったよ。

 雑貨屋や文具屋を見て回って、中古屋で見つけた新しい商品の一部を購入する。

 学術図書館にも行きたかったけど、利用料と保証料の値段を考えて諦めた、ある程度収入がないと利用は難しいね。



 試験結果は、個人面談という形式で発表される。

 一人ずつ呼び出されて、試験結果を聞かされて戻ってくる。

 その間は自習だけど、だれも集中して自習していない。

 戻ってきた生徒もあまり喋らない。

 私達3人は、一番最後だ私は基礎魔法の教科書を読んで時間を潰している。


「なあ、なんでそんなに余裕なんだ?」


 いつの間にか、私の席の前に立っている。

 スロウクくんか、そんな質問の答えは決まっている。


「もう結果は出ているのですから今更 慌てても何しても変わりません。

 慌てたり心配すれば結果が良くなるのなら幾らでも慌てますよ」


「だからってな、ちっもういい」


 イライラしながら席に戻っていく、何なんだろう?

 やれることはやったんだから、後の結果は受け入れるしか無い。

 ナルちゃんステラちゃんを見る。

 うん、不安そうだ、私の感覚が異常なのかな?


 スロウクくんも呼ばれて、少しして戻ってくる。

 なんか複雑な表情をしている。


 それからしばらくして2人が順番に呼ばれる、戻ってきた様子からどうやら無事進級できたようだね。

 最後が私になる。


 面談室でクロマ先生と対峙する。


「マイ、参りました。

 よろしくお願いします」


 私は入室して、席の横に立って挨拶をする。

 立ったままだ。


「うん、まぁ座れ、そんなに形式張る必要は無い」


 よく見ると、クロマ先生に疲れが見える。

 試験の採点や評価、そして進級の判断をこの数日で行ったのだ、忙しかっただろう。

 これが終わったら、新入生が入ってくる、この期間は休めるのだろうか。


「はい、私が最後ですね、お疲れ様です」


 私が深々と礼をすると、キョトンとしたクロマ先生が居る。

 うん?


「あ、ああ、そうやってこっちにまで気を回す生徒は珍しいんでビックリしたんだ。

 結果だが、問題なく進級だ、1組でもトップだな」


 トップとは思わなかった、1組の中でも私より勉強が出来るいわゆる天才な人が居たし少し意外だ。


「ん? 何か疑問があるのか」


「そうですね、私より勉強が出来そうな人が居るので意外です、あと、貴族の人に忖度しなくて良いんですか?」


 クロマ先生がガシガシ頭をかく。

 女性なのに そういう雑な仕草が様になっているのは不思議だ。


「ああ、筆記なら同率が2人居るな、だが魔法に関してはお前はダントツだよ。

 それと貴族への配慮から順位は発表しない、進級できるかどうかだけを通達している。

 ま、口頭で伝えていることで察してくれ」


 そういう事か、なぜ個人面談という形式を取ったのか不思議だったんだけど余計な軋轢を生まないようにするためか。

 私の順位を教えてくれたのも、私が順位を気にしていないのを知っているからかな。


「で、マイ、一つだけ聞きたいのだが。

 なんで魔術が使えるんだ?」


 うん、その質問はようやく来た感じだ。

 基礎魔法の実技では特に手を抜いたり誤魔化したりはしていなかった。

 言い訳は用意してあるけど、どうしようかな。

 私がどうしようか悩んでいると、クロマ先生が続けて話かけてきた。


「マイが魔法を高度に使えていること自体は判るんだが、ナルとステラへの指導の仕方は、魔術を理解していないと出来ない内容だ、2人が実技で合格出来たのはマイのおかげが大きいな」


「そうですか、基礎魔法に関しては、以前話した通りシーテさんから教わりました。

 特にどんな風に学べば良いのかを中心に教わりましたね。

 魔術を使っている自覚はありませんでした」


 その返答にクロマ先生は少し悩んでいた。

 多少無理があるのは承知の上だけど、否定することは出来ない内容のはず。


「そうか、それなら良いんだ。

 学び方を教わったのか、うん、そうだなそういう教育も良いな。

 面談は以上だ、2年も頑張れよ」


「はい、ありがとうございました」






 私は一礼して、面談室を退室した。

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