第209話 1年目「屋外授業」
1年生は基本的に魔法学校の敷地内での授業だけだけど、後期に入って学校の敷地外に出るようになった。
基礎魔法の実証実験として、屋外で自然現象を観察したりしている。
あと、生徒に森へ入る際の注意というか実習の面もあるみたい。
野外炊飯とかテントの設営も含まれているからね。
1組の半分が参加している、だいたい5チームかな?
一度に参加する人数を制限しているのと、能力が近いチームでまとめている感じかな。
領都の北西側にある丘陵地帯へ早朝から馬車で移動してチーム毎にテントを組み立てて朝食を作る。 早いチームは朝食に取りかかっている。
私たちがいる周囲には、クロマ先生の他に職員と冒険者の人たちが展開している。
周囲への警護と手の遅いチームへの手助けかな。
冒険者は、学生ギルトではない方のギルドで依頼を受けたんだろう。
ナルちゃんとステラちゃんは経験が無いようで、私が補助しながら作業している。
私は経験だけなら6年以上あるからね。
「なんで、マイさんはこんなに経験があるんですか?
はぁ、疲れました」
「私は、冒険者の人たちと一緒に森に入ったりしていたからね、その時教わったんだよ」
「なるほどね、これで大丈夫かな?」
ステラちゃんは慣れない作業ですでに疲労している、ナルちゃんは野営の経験があるのかな?
そこそこ手慣れている。
「ナルさんも慣れていますね、馬車での野営があったんですか?」
「うん、父さんと村に行ったときにね、あまりテントを設営したことは無いけど」
「幌付きの荷馬車なら普通はテントを張ったりしませんからね」
「そうなんですか? 荷馬車の中で寝るんですね」
「うん? 荷物が少ないときはね。 あと、私が子供だから。
でも大抵は馬車の下ね、雨や風が強かったり、寒いときには荷馬車を風よけにしてテントを張るけど」
ナルちゃんが補足する。
商人は少しでも多くの商品を運びたいので、テントを積むのを嫌がると聞いた事がある。
冒険者が森に入るときも、基本的に雨風をしのげる場所を拠点とするのでテントを使用することはマレだ。
軍隊でも同じで、テントを張ることは少ない、兵士のほとんどがマントにくるまって寝る。
私が居た輸送部隊は基本的に時空魔術師と荷馬車を中心としているので、積載量に余裕があるからテントを常備していたけどね。
テントを使うのは、悪天候で長時間 動けない時くらいかな?
あと、士官クラスはテントを使用する、うん。
さて、テントも張り、朝食も食べ終わったところで実習だ。
今日の実習は地質の調査。
魔術師として何の役に立つのかな?
丘陵地の一部が削られていて地層がむき出しになってる。
地層とは地面が時間とともに積み重なって出来る、らしい。
そう教科書に書かれているけど、想像しにくい。
それに、この地層は元々は海の底で土砂が堆積していった結果だという、確かに貝の化石が沢山出てきているけど、本当かなぁ?
教科書には信じられない事が幾つも記述されている。
大地が動いてるとか、マグマ、溶けた土の上に大地が乗っかっているとか、昔の人はどうやって確認したのかな、興味は尽きない。
岩石の種類や特性も実物で確認しながら勉強する。
土属性の魔術では、土を動かしたりするだけではなく、消したり生み出したりもする。
このとき、どんな土を生み出すかで消費する魔力量が変化する。
重い物質になるほど難易度が上がっていく傾向にある、金属の生成は魔導師級でも難しいらしい。
なので、状況によって生み出す土の種類を決める必要がある。
ここで、魔法使いと魔術師の違いが出てくる。
クロマ先生が生徒達に向かって説明している。
「さて、単純に土属性の魔法で土や岩を作り出すと言っても、その中に含まれる成分は多種多様だ。
単純に土を出そうとすると、近くの地面の土をイメージして同じような物を生み出してしまう。
目的が決まっている場合は、それに適した物質を含む土や岩を作り出す必要がある。
魔術は、目的に合わせて、どのような成分を作り出すのか明確にイメージする必要がある。
それには土や岩に含まれる物質がどんな種類がありどんなと特性があるのか理解するのが必要だな」
私たちは、その説明をノートにメモしていく。
小さい石を割り、その断面を光属性の魔法で拡大して見せる。
いろいろな色の石がパズル、ステンドグラスのようになっている。
その様子に生徒達からため息というか驚きの声が上がる。
用意していた岩石を示しながら、状況においてどのような構成の土や岩を出す必要があるのか、説明していく。
基礎的な所から、どのように実用的に使うのか、クロマ先生の説明が続く。
クロマ先生は6つの基本属性が全て使える基本魔法を得意とする魔法使いだ、ただ魔術師には届かなかった。
今はその知識と器用貧乏な魔法の能力を生かして魔法学校の1年生を教育をする先生という職に就いている。
今でも勉強を欠かさず、魔法使いを魔術師へ導く教育者としての魔術師を目指していると聞いたことがある。
その知識量は、過去に魔導師を目指して勉強していた私よりも豊富だ。
誰かが質問した。
「あの、畑に有効な土というのはどんな物でしょうか?」
質問した生徒は、実家が農業でもしているのだろうか、でも、植物が育ちやすい土というのには興味がある。
「うーん、実は畑に必要な土は生物由来のものが多いな。
葉っぱが発酵して土になる腐葉土や、貝や木を燃やして出来た灰を使ったり、牛や鳥の糞を発酵させたり。
でも生物由来とはいえ、物質には変わりないわ、植物には沢山の種類の物質が丁度良く混じった状態の物が向いていると言える。
それに育てる植物によっても、その組み合わせは変わってくる。
一度、南東の農業・畜産区画に行って、少し土を分けて貰って、その中に含まれてる物質を分離してみろ、その種類の多さを実感するのも良い」
質問した生徒が必死にメモを取っている。
畑の土か、私の生まれた村では山の中のフカフカした葉っぱが混じった土を集めて畑の土に混ぜた記憶がある。 あれが腐葉土かな。
後、確かに灰をまいたことも有ったなぁ。
「では、魔術で生み出すのは現実的ではないんですか」
「ああ、畑に向いた土を出すというのは難しい。
だが畑に不足していく物質を出す、というのは可能だ。
特に灰に含まれる物質の石灰というのは土属性の魔術で作りやすい物質だし、効果も高い、そういう情報が載っている書籍もある、あとは自分で調べろ」
「はい、ありがとうございます」
私も、農業に関しては素人だ、畑の土がそんなに複雑な物とは思っていなかった。
ついでだ、気になっていた所を聞いてみよう。
「私からも、土や岩を出すのに単一の物質の方が効率や効果は高いのでしょうか?」
例えば、少量なら単一の物質を作るのは私でも可能だ、ただ効率面では判らない。
「マイ、それは状況と目的次第だな。
たとえば、ここにある石英という物質がある、割といろんな所にあるが、それを制御して生み出すとこうなる」
クロマ先生の手の上で透明な石が生まれて大きくなっていく。
「先生、それは水晶ではないでしょうか?」
「その通りだ、水晶は石英を結晶化したものだな。
たとえばこれでレンガを作って組み上げても丈夫な壁には成らない。
堅い岩でも幾つかの種類の物質が混じった物が多い、例えば鉄の剣やナイフ、純粋な鉄で作ると強度が出ない。
つまり、鉄のナイフを魔術で作ろうとすると上手くいかない、鉄と他の物質の混合比を制御して目的の特性を持たせる必要がある。
まぁ、鉄を生み出そうとすると、必要な魔力量が凄い事になる、割に合わないな」
うん、よく判らない、復習しないと。
でも攻撃魔法や魔術で土の塊を槍状にして打ち出すというのは割とよく使われる。
私の土属性の魔術だと、せいぜい石を生み出す程度だけど、その物質構造まで気を回していなかった。
魔術というより魔法で、近くの石と同じ性質の物を無意識に生み出していたんだろうね。
その後、昼食で各自用意した食事を取る。
私たちのチームは、乾燥させたパンとチーズ、乾燥肉に水という野営では定番の食事にした。
うん、野営道具や調理道具は収納空間内に持っているけど、今はまだ練習中ということになっているんだよ。
重いし かさばりやすいので、今回は日持ちと携帯性を優先した。
午後は、基礎魔法の演習だ、少しばらけて魔法学校の演習場では出来ない規模の魔法を行う。
私たちのチームだと、ナルちゃんの水属性、ステラちゃんの光属性での基礎魔法に沿った魔法の行使になる。
私も、6属性の魔術を行使する、シーテさんのおかげでそれなりに使えるようになった魔術を再復習だね。
ナルちゃんもステラちゃんも、魔法使いにありがちな自分流の癖が付いていないので、順調に魔法を行使している。
ここでは自重しない、本気で使っていく。
それでも、2人の得意属性の魔法の威力は私より上を行っている。
精度に関しては、私の方がずっと上だよ、うん。 強がりじゃ無くて。
「ほう、中々筋が良いじゃないか」
護衛の冒険者が声を掛けてきた。
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