第208話 1年目「魔法から魔術へ」

 寒い日々が続く。

 魔法学校の1年目も後半の授業に入っていった。

 1年目の最低基準は初等教育・中等教育と魔法が使える事。

 でもこれは最低基準で、基礎魔法の知識はある程度求められるし、基礎魔法を使う技術の習得も最低限使える事を求められる。


 流石に生徒の中でも遊び半分な雰囲気は無くなっているね。

 1組は最低基準を入学時に満たしているので自動的に2年になれるけど、2年になって授業について行けなくなるのは期末試験で思い知らされている。


 とはいえ、息抜きもしている。

 3人で商業区域で買い物をしたり、ケーキを食べに行ったりしている。

 なんというか、学生生活のリズムが出来てきた感じだ。


 授業はどんどん難解になっていく。

 私は2度目ということもあり、授業自体は特に問題なく勉強を続けている、うん、これは色々申し訳ない。

 授業の主体は基礎魔法に移っている、基礎魔法は魔術を使う上で必須の知識と技術だ、そして範囲が広いし中には必要なのか判らないような内容もある。



 今日も、ナルちゃんとステラちゃんが私の部屋で復習をしている。

 と、ナルちゃんがポツリと私に言った。


「ねえ、マイ。 魔法と魔術の違いが判らないんだけど」


 キョトン、としてしまう。

 手に持ったペンを落としかけて慌てる。

 ナルちゃん、何言っているのかな? 授業の最初の所で説明があったでしょう。

 ステラちゃんも何事かと手を止めて顔を上げる。


 私が言葉の意味を理解しかねているのに気が付いたのか、説明が続いた。


「ほら、魔術は魔法を使うための知識と技術だよね。

 でね、魔法を上手に使う人との違いが判らないのよ、上手に使う人は知識も技術もあるよね」


 ああ、そういう意味か。

 確かに魔法使いでも魔術師の魔術よりも優れた魔法を使いこなす事もある。

 特に、特定の魔法に限って研鑽した魔法使いは魔術師を超えることは普通にある。


「魔法使いと魔術師の違いは、魔術師として認められるかどうか、しか違いはありません。

 魔術師としての格を得ているかどうか、ですね。

 どちらも魔力を使用している事 自体は同じですから。

 えーっと、魔法使いの中で、ある一定以上の能力があると認められて魔術師と認定される、と考えれば良いでしょうか?

 何度も出てきていますが、魔法を効率よく使うための知識と技術をどれだけ高度に身に付けられるかが違いになります。

 魔導師も同様です、魔術の探求する能力や魔導師を育成する能力があると認定された魔法使いですね」


「うーん、そうだね。

 何となく判ってたかな?」


「一般的に魔法使いと魔術師は明確に立場が違いますね、それはそういう事からなんですね。

 でも、魔法使いでも凄い魔法を使う人が居ますね」


 今度はステラちゃんから。

 これも同じかな。


「魔術師になれなかった人が魔術を使えないかというとそういうわけでは無いですよね。

 基礎魔法と基本魔術をある程度習得していれば使うことは可能です。

 魔力量が多くても魔術師になれなかった人の魔法は、特定の強さだけなら魔術師よりも強い魔法を使える事も多いです。

 でも基本的に大多数の魔法使いは感覚頼みなんてすよ。

 例えば、正確な制御が必要で人数を揃える必要があるとき。

 実力があるけど個人差が大きいく気分や体調に左右される魔法使いよりも、平均的でも力がそろっていて安定して確実に使える魔術師の方が軍や集団では有用なんです。

 立場なら、冒険者と兵士を例としてみるのも良いかもしれません。

 強さで言えば冒険者かもしれませんが、力や能力は多種多様でまとまりが無いですよね。

 でも、兵士は全員が一定以上の強さを持っています」


 うん、私なりの解釈も有るけど納得して貰えるかな?

 冒険者と兵士を例にしたのは、失敗かも?

 強さとか能力とは別の意味も含めてしまうと間違って解釈されるかも知れない、例えるのって難しいなぁ。


「うん、判る気がします。

 ですから、魔術師は領主様が存在を管理しているんですね」


「ええ、魔術師と一部の能力のある魔法使いについては、領主様への報告義務がありますから。

 領主様も、魔術師を国に報告する義務があると聞いています」



 こんな感じで、時々質問と雑談をしてはまた黙々と勉強をしている。

 それと期末試験の後しばらくしてから、私の2人への個人授業は辞めている。

 理由はやはり個人授業の依頼のための予算的な問題、それと適性のある魔法属性の違いから、必要となる基礎魔法の知識も方向性が変わっているためなんだ。

 ナルちゃんは、水と風と土の属性、ステラちゃんは光属性とそのほかの属性。

 私は時空魔法と全属性を使えるので基本的に学習量が多く私の負担を考慮して、いまの状態に落ち着いている。

 それに私の部屋は、私とステラちゃんの光属性の魔術で十分な明るさが確保されている。 ランプの油代も馬鹿にならないため少しでも節約したいという思惑もある様子だね。

 毎週出る手当、生活費は勉強道具などでそれなりに消費するし、貯蓄にも回したい思惑もある。


 私が損している感じになっているけど、図書館で2人が記録したノートの内容を無償で見せて貰ったり、他の面で色々として貰っているので、まぁ良いかな?


 今私が読んでいるのは、植物学に関する内容を記載したノートだ。

 魔術師に植物? と思うのだけど、魔術師として覚えなくてはいけない必須となる基礎魔法の知識に含まれているのでしょうがない。

 そして、使うことが無かった知識は忘れるもんだね、結構苦戦している。



 魔導師も魔術師と同様に、国が能力を有していると認められて贈られる称号に過ぎない。

 こう考えてしまうと、私が魔導師に固執している理由が揺らぎそうになる。

 でもこの称号が大きい。

 魔術師であれば納税の義務が無くなり、戸籍がある領内であれば居住地の選択の自由がある。

 もちろん、領主からの招集や軍への徴兵に応じる義務がある。

 魔導師は、国に雇用されることになる、一定の手当が無条件で受け取れる。

 国内の何処でも居住して良いが基本王都か領都での居住になる。

 中位貴族相当となるので、領主でも命令をすることは出来ない。

 この国の中では、そこまで自由のある立場は少ない。



 魔法学校の1年生は魔法から魔術に変わる、今はその過程ある。

 ナルちゃんとステラちゃんが魔術師になれる可能性は正直かなり低いと思う。

 でも、基礎魔法を習得すればかなり応用範囲の広い魔法使いとして活躍できると思う。






 進級試験が近くなってきた。

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