第207話 1年目「休み明け」

 商業区画での収穫祭は、ステラちゃんの案内で主に露店や商店を回った。

 他の通りではお酒を飲んで騒いでいるのが見えるが、そんな場所は避けているようだね。


「ねえマイ、野宿の装備がいずれ必要なのは判るけど、今購入する必要あるの?」


「無いですね、私たちが森での野外学習は2年目からですから。

 そうですね、収納魔法の練習用ということにしておいてください」


 周りに人が居ない場所に来たときに、時空魔術で収納してしまう。

 一瞬で手元の鞄が無くなったので、驚く2人。


「え、時空魔法が普通に使えるようになったの?」


「凄いです」


「まだ練習中ですね、あまり変な癖が付かないように時空魔術の書籍に書かれている手順でやるようにしています」


 ごめん嘘です。

 時空魔術師として6年以上の実績があります。

 今の体では、練度が少ないけど実用に関しては以前と同じように使いこなせる。


「例外魔法はよく判らないけど凄いんだね」


「普段から収納できるのなら、移動は楽ですね。 私も覚えたいです」


 ステラちゃんが興味を持ってきた、うん商人なら荷物の運搬は重要だしね。

 でも、例外魔法は適性がないとほぼ確実に使えない。

 適性があっても、イメージできず魔法を発動できない人も多い。


「時空魔法については、収納空間を自分の中でイメージして作れるかどうかになります。

 適性がないとその感覚を掴むのが難しいそうですね」


「適性がないと使えない?」


「時空魔法では無いですが、適性が無くても使えたという例はあります。

 ただ、適性がある人に比べると劣るので実用的かと言われると難しいですね」


「そうですか、残念です」


「いえ、収納できる量や収納しているときに起きる代償しだいです。

 少ない量でも安定して持ち運べれば、貴重品を運ぶとかで便利だと思いますよ」


「うーん、機会があれば試してみたいかな?

 でも、今は自分の適性のある魔法を魔術として使えるようになる方が先ですね」


「そうだね、出来る所から順番にやっていかないと」



 ステラちゃんの家に戻ってきた、早めだけど夕食の予定だ。

 学術区画へ帰る時間を考えると、夜の鐘が鳴る前には寄宿舎に着きたい。


 ステラちゃんのお母さんの料理は、領都では一般的な物だそうで、川魚を使った料理だった。

 領都の近くには大きな川が流れているので、そこで漁が行われているそうだ。

 逆に、領都では肉料理が贅沢品らしい、需要と供給で肉の供給量が少ないためだとか。

 味に関しては、素朴な味ということで。


 巡回馬車が来るまでの間、ナルちゃんはステラちゃんの父親に色々質問していた。

 特に商品の取引について領都での習慣とか伝の作り方とか。

 将来、本格的に領都からの商品の買い付けを考えているのかな?


 日が傾き掛けてきたので、お礼を言ってステラちゃんの家を出る。

 中央の停車場まで来ると言うステラちゃんの好意を遠慮してもらい、ナルちゃんと2人で停車場に向かう。

 ナルちゃんは何か考え込んでいる。


「ねえ、マイ。 退学の時期って自分で選べるの?」


 え? ええと、退学する時期を知りたいの、どういう事かな。

 ナルちゃんは、いずれコウの町に戻って両親の商店を継ぐ予定だと聞いた。

 つまり、魔術師に成る気は無いし、使える魔法使いとなるのも避けたい。

 魔法学校で必要な知識と経験、領都での伝が出来たら、在学する必要は無くなるから、その時に退学できるかどうか知りたいのかな?


「それは職員さんとの相談になります。

 本人に問題が無い場合は大抵引き留められますね、ですが退学は出来ると思います。

 また、特別成績が良い生徒だった場合は退学自体できません。

 こう言うと何ですがほとんどの生徒は4年目までに退学になりますよ」


「え、5年間は魔法学校に居られるんじゃないの?」


「ええ、聞いた話になりますが、5年目に在籍しているのは魔導師候補か魔術師が内定している生徒だけです。

 4年目に残っている生徒はほぼ魔術師候補ですね」


「ええー、聞いてないよ」


「説明はされていませんからね。 私は魔術師の方に聞いたので知っていただけです」


 ナルちゃんが頭を抱えている。

 実質、才能の篩い分けが毎年行われる。

 既に何人かは退学しているし、1年目の最後に行われる進級試験では才能が無い生徒は成績が良くても退学になってしまう。


「ですので、辞める時期を考えている暇があったら、自分がやるべき事をするのを勧めます」


「うん、そうする」


 ナルちゃんが返事をするけど、やはり考え込んでいる。


 停車場に着く、少し離れた場所からはお酒が入った人の声と音楽も流れている。

 周囲を探索魔術で確認する、女性2人となれば絡んでくる人は出てくる可能性がある。

 停車場には守衛が常駐しているから、そんな馬鹿なことをする人は居ないと思うけど。


 巡回馬車が来て、学術区画へ行く馬車であることを確認して乗る。

 運賃は安い、荷物があると高くなるそうだ。


 空が暗くなっていく。

 収穫祭の賑わいの中を馬車が走る。


 収納空間内の野外活動用の道具を見る。

 感触で買ったけど、もし自分で直せない所があれば、工業区画で修理を依頼する費用がある、そうなると新品を購入した方が安い場合もあるので注意が必要だ。

 収納空間内で確認している限り、問題はなさそうだけどね。


 巡回馬車は学術区画の中央の停車場に着く、そのまま近くの学術区画の魔法学校へ向かう巡回馬車に乗り換える。

 寄宿舎に戻ったのは夜の鐘が鳴って直ぐだった。



 休みの残りは、学術図書館で入手した情報を考察する事と、商業区画で購入した野外用の道具をの整備、そして期末試験までの学習内容の復習に費やした。



■■■■



 休み明け。

 みんな明るい。

 休み中の過ごし方を話し合って、笑い合っている。

 クロマ先生が入ってきて、それに合わせて全員が席に着く。

 そして、幾つかの空席が、1組の生徒が数名少ない。


「おはよう、みんな。 全員来ているな。

 休みは充実できたかな?

 では、早速だが、小試験を行う、教科書を机にしまえ」


 1組の担任のクロマ先生が朝の挨拶と共にぶっ込んできた。

 うん、予想は出来てたよ。


 騒然となる教室。

 クロマ先生に恨み言をブツブツ言っている子も居る。


 隣のステラちゃんとナルちゃんも私をみて頷いている。

 魔法学校へは遊びで来ている訳じゃ無い、それを判らせるためにこういう突発的な試験は何度も行われる、気が緩んだ所を狙って。

 2人には事前に復習をしておくように伝えてある、本人達しだいだけど、期末試験の成績を考えれば大丈夫だと思う。


 小試験の後は、通常の授業に入る。

 今日は、基礎魔法の知識の学習する予定とその概略の説明、基本魔法の習得に関する説明が行われた。


 1年の公判で、2組3組の魔法が使えるようになった生徒が1組に編入は無い。

 残りの期間で魔法を使えるようになる練習が始まるので、編入の必要が無くなるのと、1組の生徒の進みについて行けないからだ。


 もう3組に顔を出すことは無い。

 偶然、セン先生に会う機会があり、在籍数を聞いたが一桁になっていた。 寂しそうな顔をしているのが心に残った。

 コウの町から来ていた子供達3人も、まとめて退学を決めたそうだ。

 期末試験の結果はギリギリ及第点を取ることが出来たが、学力不足と魔法が使えないことから、話し合ってこれ以上は無理と判断したようだ。


「帰りの道中は気を付けてね。

 みんな、魔法学校で学んだことは絶対に無駄にはならないから、中退だからってしょぼくれない。

 町に戻っても頑張ってね」


「うん、お姉ちゃんも元気で」

「沢山勉強を見てくれてありがとう」

「うぇぇ、一緒に帰ろうよう」


 ナルちゃんとその子ども達が別れを惜しんでいる様子だったけど、ほとんど付き合いが無かった私は簡単な別れの挨拶だけだったよ。






 1年目の後半が始まった。

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