第203話 1年目「期末試験」
半年が過ぎた。
既に季節は寒くなっていて、制服も冬着にマントを羽織っている。
寄宿舎生活もすっかり慣れて、安定した学生生活を送っている。
1年3組は17人在籍だけど、私たち3人と男子1人が1組と2組で勉強しているため、実質13人で進んでいた。
時々、様子見に戻っているけど、もう
1組でもやはり、何となく壁があるというかチーム毎に分かれてしまって、知り合いになれた人も少ない、せいぜい挨拶をする程度だ。
収穫祭の季節が来た、領都でも祭りは行われる。
だけど、その前に試験がある。
試験の時期だけど、1年目で判っているのは入学して3ヶ月目での学力確認試験、6ヶ月目での期末試験、そして12ヶ月後の進級試験の3つ。
あと、先生が独自判断で小試験を行う場合があるとのこと。
あ、領都の子供は申告で入学試験を受ける事が出来て結果で1組2組に入ることが出来る。
2年生ではまた変わるというか、基礎魔法の習得確認試験がある意外は、適性のある魔法での基本魔術を習得する事だと思われる。
これは前の魔法学校の予定で、今は2年前に変わっているので違う可能性が高い。
職員に相談したが2年目になって発表されるとのことで教えて貰えなかった。
兎も角、期末試験だ、1組2組は初等教育・中等教育と基礎魔法の前半の知識が試験範囲になる。
3組は、初等教育・中等教育が試験範囲になる。
図書館の勉強室や食堂での勉強会もピリピリした雰囲気が漂ってくる。
私たちのチーム、マイ、ナルちゃんステラちゃんも、一緒に勉強をしている。
実質は私が2人の勉強を教えている感じになってしまい、個人教師の依頼を受ける形になっている。
ただ、そのせいで2人には私が何故、そこまで基礎魔法の知識があるのか不審を持たれているが、自分達の得になっているので関わらないように申し合わせている、のを話しているのを偶然聞いてしまった。
まぁ、不審に思うよね普通。
基礎魔法の習得は魔法使いが魔術を使うための基礎知識として習得しなくてはいけない大きな壁になる。
ナルちゃんステラちゃんも、かなり苦労している、そして魔法を使う時の癖が足を引っ張る。
ここで自分流を捨てることが出来るかが一つの転換点かな?
今、私が使っている魔法は、魔術を基本としたもので自己流じゃない。
私の部屋に3人で入り込んで勉強している、光属性の魔術の光を灯しているけど、2人は気が付いていないようだ。
ちょっと狭い。
基礎魔法の知識の最初は、物質の振る舞いが中心になっている。
今日も、図書館で調べノートに取った内容を持ち寄って振り返っている。
「飽和と臨界の意味の違いは何ですか? どちらも同じ感じに思えるのですが」
「ええと、飽和はある条件で最大まで満たされた状態。
臨界は状態が急激に変化する所で、全く違う意味だね。
例えると、コップの水をあふれるまで入れる状態が飽和で、氷が出来る温度や沸騰する温度で変化の境界が臨界かな?」
「では、以前やった水の過冷却状態というのは? あれは凍る温度よりも低い温度にしているのだよね」
「これは特種な状態で、安定した状態を維持すると、臨界点を超えても氷になるための切っ掛けになる刺激が無いので水の状態のままになっている、だね。
実際は水に含まれる不純物やちょっとした刺激で安定が崩れてしまうので、指を入れるだけで氷に急激に変化します。
こういう例外もあるので注意してください」
「例外とは例えば?」
「うーん、氷から水蒸気になったり?
氷から水蒸気は熱した鉄板に氷を置いたときになるので判りやすいですね。
えっと確か、本では凄い圧力と温度を掛けると水でも水蒸気でもない状態になるそうです。
この状態は私も知識としてしか知りません」
合っているだろうか?
うん、後で確認しよう、教えていると自分の知識に自信が持てなくなる。
とにかく、基礎魔法の知識というのは自然界に有るあらゆる自然現象を理論的に説明した物で、勉強していると本当に魔術の役に立つのか判らなくなる。
でも、魔術は自然現象の模倣から始まる、そして現実空間に効率よく魔力干渉する事でいろいろな大規模な事象を起こすことが出来る。
すべての属性に関わるような部分でも膨大だ、毎日 基礎魔法の書籍とにらめっこしては、ノートにその成果を書き写して記憶していく。
私も、忘れている所、勘違いしている所は多い。
時空魔法に特性があると判ってから、時空魔法に関する基礎魔法ばかり集中して勉強していたので、余計だ。
■■■■
数日後。
期末試験が予定通り行われ、取り敢えずは私たちは及第点を超える事が出来た。
しかし、1組でも基礎魔法の知識で及第点を取れなかった生徒が何人も出ている。
今回は結果が張り出されるようなことは無かったが、表情や態度で何となく判る。
基礎魔法の知識で挫折している生徒は、職員と相談するように指示が出る。
俯いて悩んでいる生徒も多い。
クロマ先生が教壇で生徒に解答用紙を返却し、その様子を見渡して、話し始めた。
「兎も角、皆お疲れ。
結果については、初等教育・中等教育は十分だ、基礎魔法の知識に関しては、各人よく見直してくれ。 職員や私も相談には乗るぞ。
さて、期末試験が終わったあと、1週間ほど休みだ、勉強疲れを癒やしてくれ。
収穫祭を楽しむも良し、寄宿舎や実家に戻れる者は家でくつろぐも良い。
学校は閉鎖しているから入れないぞ。
では、みな今日はここまでだ」
学校は1週間閉鎖かぁ、出来れば間違えた部分の確認をしたかったけど。
それと、1週間どうしようか。
寄宿舎の案内板にある、臨時店員の募集依頼はすべて取られてしまって、もうない。
学生ギルドに行って依頼を探してみようかな。
その前に今日中に図書館で間違えた所の確認ををしないと、図書館?
領都の図書館が利用できるかも?
今までは魔法学校の図書館で十分だったけど、幾つかの時空魔法に関わる専門知識は概略しか記されておらず、調べ切れていない所も多い。
そうだ、図書館に行こう。
と決まれば職員に場所を聞いて利用できるのか確認かな。
「マイちゃん、お休みはどうするの? 町に戻っている時間は無いから、収穫祭を見て回る?」
「マイさん、ナルさん、一度、私の実家に遊びに来ませんか? 北西の商業区画にあります」
うん、どちらも魅力的だ。
ただ、この1週間をどう過ごすかで、休み明けの対応が変わる気がする。
「そうですね、正直休んで遊びたいですが、その前にやっておきたいことがあります。
試験結果で間違えている場所、自信が無かった場所を復習しておきたいです」
「え、でも学校は閉鎖されているよ」
「ですから、学術区画にある図書館を利用できないか、問い合わせて見るつもりです」
「そうですね、間違えた所をそのままにしておくのは、私も気になっていました」
「では、まず職員さんに相談です」
相談室に行く、ん? 何人かが既に相談している、何だろう。
「こんにちは、相談ですか?」
職員が私たちに気が付いて声を掛けてきてくれた。
3人連れなのを見て、少し不思議そうに見ている。
「取り敢えず、こちらの席に。
収穫祭の見所なんかの提案も出来ますよ」
うん、そっち方面の相談と思われたか。
余裕があれば行きたいけどね。
「それも興味ありますが、学校が閉まっている1週間の間で利用できる近くの図書館はありますか?
特に基礎魔法や時空魔法の書籍が蔵書している所ですね」
職員がビックリしたように私を見る。
次に、ニッコリと笑う。
「休みの期間でも勉強しようというのは凄いわね。
貴族院の隣に学術図書館があるわ、そこなら利用できるけど利用料は高いわよ。
他には、幾つか個人の書籍収集家が開いている図書館があるけど、魔法や魔術関係はたぶん無いわ、あったらこちらにも情報が来ていると思うし」
個人の魔法関係の書籍を収集家する人……居るのかな?
居たとしても公開しないような気がする。
職員に利用料を聞く、思っていたほど高くない、かも?
まず、入場料と保証料を支払う、その保証料が高い、もし本を破損や汚した場合は保証料は取り上げられる。
そうでなければ保証料は戻ってくる。
また、貸し出しもしているが、その金額はものすごく高い、そして借りるためには身元の保証が必要で魔法学校の身分証では貸し出しは無理だそうだ。
身分が高かったり、先生のような職にある人は蔵書室に入って本を直接探せるそうだけど、通常は、魔法学校の図書館と同様に司書に指定した本を持ってきて貰い、読書室で読むことになる。
話を聞き終わったら、魔法学校の図書館で調べられる限り調べる。
ここで調べ終わることが出来れば、学術図書館へ行く必要がなるなる。
時間一杯まで調べて、試験の内容の答え合わせは出来た。
だけど、時空魔法に関する蔵書はやはり見つからなかった。
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文章中の飽和と臨界や相転移の説明はかなり雑で正しい説明では無いです。
水の振る舞いは面白いので、興味のある人は是非調べてみてください。
この世界ではそういう研究の途中で、戦争と魔物の氾濫の為に途絶しています。
貴族院で研究は続けていますが、根本的に人員不足で現状維持が精一杯ですね。
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