第204話 1年目「学術図書館」
学術図書館へは私だけが行くことになった。
まず、利用料と保証料の総額が高額なこと、私の所持金を考えても1日が精一杯だね。
時空魔法に関連する書籍が必要なので、2人には遠慮して貰った。
学術図書館は、貴族院と魔法学校の間にある大きな施設だ。
地図を確認すると、敷地だけでも魔法学校に匹敵する広さがある、この中に書籍が大量に保管されているのだと思うと凄い事だと思う。
距離としては、巡回馬車に乗るには近くて歩くにはちょっと遠い。
体力を付けるために歩くことにして、準備をする。
鞄には、ノートとインクそして筆箱。
ノートは多めに用意した。
朝食を早めに食べて、寄宿舎を出る。
学術図書館は朝の鐘の後で開くのでそれに合わせて行く、時間を可能な限り使いたい。
空気が冷たい、朝と夜はすっかり冷える。
所々に落ち葉がたまっていて、そこを踏むと、シャリシャリと音が鳴る、っと滑った。
危なく尻もちを付く所だった、うん、深呼吸、普段でも油断しすぎない。
魔法学校の塀沿いに歩いて行き、緑地帯に入る、すっかり木々は紅葉している。
ゆっくりする機会が無かったから、木々の中にある歩道を歩くのが癒やされる感じがする。
木々の合間から、大きな建物が見えてくる。
まぁ、領都の施設は大抵大きいので少し麻痺してきているけど。
学術図書館の敷地 入り口の横の駐車場には何台かの高そうな馬車が駐まっている。
そういう人たちも利用しているのか、他にも建物の門が開くのを待つ人が数十人は居る。
ほとんどが大人で、私と同年代は見当たらない。
私が敷地に入る所で、門が開き順番に入っていく、私も早足でその列の最後について入っていく。
入ると大きなホールになっていて圧倒される。
その横の喫茶スペースで優雅にお茶をたしなんでいる人たちは馬車に乗って来た人たちかな?
受付も幾つもある。
順番に受付で対応して貰っている、本を借りている感じでは無い。
直ぐに私の番になった。
魔法学校の身分証を出す。
「こんにちは、魔法学校の生徒です。
利用は初めてです、よろしくお願いします」
受付の人は神経質そうだ、身分証を確認して私を見る。
少し眉をひそめている。
「はい、どんなご用でしょうか?
知りたい分野の書籍を教えてください、その書籍がある棟へ入るためのカードを渡します」
「例外魔法の時空魔法に関する書籍を探しています。
また、時間、空間に関する物でも構いません」
受付の人は、少し驚いたように私を見て、その後、直ぐに1枚のカードを出す。
「5番目の棟に行ってください、地図が掲示されているのでそれを見てください。
利用方法は学校の図書館とほぼ同じです。
判らないことがあれば直ぐに司書に確認してください。
では、よろしければ利用料と保証料を頂きます。
保証料は、帰るときにカードと引き換えに返却しますが、司書にカードを没収された場合は返金されません、本の利用には十分注意してください」
事務的な対応だけど、丁寧な対応だ。
利用料と保証料を渡し、カードを受け取る。
窓口の受付が終わった人が進む先に行くと、地図が壁に掲示されていたので、場所を確認する。
うん、結構歩く。
周りには人が居ない、もう目的の棟に向かってしまったのだろうね。
廊下を歩くと、その足音が響く。
幾つかの渡り廊下を通り、5番と書かれた棟に着く。
魔法学校の図書館と同じかな、受付がある側に入ると、机が並んでいる、違うのはすべて個人で使うように囲われている位かな?
階段を上る、うん同じだ、図書カードが入っている棚がずらりと目の前に並んでいる。
人の気配はするけど、姿は見えない。
取り敢えず、図書カードを調べる。
分類は基礎魔法、そして基本属性と例外などに分かれている。
例外魔法に関する書籍は多いが、その中で時空魔法に関するものは1列だけか。
時間と空間に関する書物も探す必要があるかな?
時空魔法に関する書籍を探していると声が掛かった。
「こんにちは、何をお探しですか?」
若い司書だ、何か作業していたのかな?
「こんにちは、時空魔法とそれに関連する書籍を探しています」
少し考えるような仕草をして、別の棚を紹介してくれた。
「時空魔法に関しては先ほどの棚にありますが、時間と空間に関する書籍はここの自然科学の時空に関する棚になります。
利用は初めてですね、簡単に説明します。 1度に借りられるのは5冊まで。
返却すれば何度でも新しい本を借りれますが、そこは常識の範囲で。
あと、鞄は受付で預かりますので、ご了承ください」
「ありがとうございます。 早速探してみます」
図書カードの中から、時空魔法に関する書籍を1冊、時間と空間に関する書籍を3冊見つけてそれを窓口に提示する。
図書カードに本の内容の概略が書かれていたので助かった。
しばらくして別の司書が本を持ってくる。
私は鞄を預け、預け票を受け取り、そして本を確認する。
どれも綺麗にしてある。
それを持って3階に上がり、読書スペースに座り、早速、読み始める。
この最初のページを開くのがドキドキするんだよね。
当然だけど、丁重に扱う事を心がける。
時空魔法に関する本は、魔法学校に有った物より踏み込んだ物で、実用性よりは理論について深く書かれていた。
時間と空間に関する本は、1冊は仮説ばかりで参考程度だった、残りの2冊は実際に測定したりした実験結果を元にしている内容で興味深い。
特に時間も速度の影響を受ける事が書かれていた所に興奮した。
空間の歪みに関する部分は、特に読み込んでみたけど、理解が難しい。
集中して読んでいたら、読書スペースを監視していた司書がやってきた。
「君、昼の鐘が鳴って大分経つ、食事は良いのかい?」
あ、もうそんなに時間が経ったのか、気が付かなかった。
でも、今日は時間が惜しい。
「ありがとうございます。 とにかく読みたいので、食事は大丈夫です」
「うん、でも時々は水を飲んで休んでね、そこの部屋に休息出来る場所があって、有料だけど軽食と飲み物を取ることが出来るから。 水はタダだよ。
もちろん、本の持ち込みは禁止だね」
見ると、焼き菓子とお茶を出せる準備が出来てるし、専用の人まで居る。
うん、流石領都の学術図書館、凄いね。 全部の棟でこの準備がされているのかぁ。
一通り目を通し、興味がある所を熟読し終わった所で、お茶と焼き菓子を頂いた。
値段は高めだけど、それ以上の味に感じる、高級品を食べたことが無いので何とも言えないけど、とにかく美味しい。
目を閉じて、読んだ内容を思い出す。
私の時空魔術の一つ、収納空間内に重複して収納空間を作ること、仮説の中で述べられていた程度で実際に実験した内容は見つからなかった。
直接触れずに収納取り出しに関する記述に関しては、目視した場所とイメージの内容で決まるらしい、実験結果も個人ごとの差異が大きく、結論が出せていなかった。
当然だけど、自分自身を収納した場合については、実験して誰も戻ってきていないという情報だけが得られた。
司書に時間を聞くと、あともうしばらくすると夜の鐘が鳴るとのこと。
大分時間を取ってしまった、今日読んだ内容をとにかくノートに書き残さないと。
お礼を言って、本に問題ないことを確認して貰うと、本を返却した。
受付の司書は、さっと本を確認して、問題ないと、返却用の棚に入れる。
預け票を返却して鞄を受け取り、1階の机に座る、何人かの人がいるけど、つい立ての為、頭の上が見えるだけだ。
兎に角、時間内に頭の中にある事を書き込んでいく、書くことで思い出して更に追記して、の途中で、退室時間になった。
しょうがない、帰ったら自室で残りは書こうか。
ホールの受付で保証料を返却して貰う。
なんでも、貴族や お金持ちの人はそれを図書館に寄付するそうだ、学生の私は受け取りますよ。
学術図書館を出ると、馬車は1台も残っていなかった、本を借りて帰ったのかな?
目の前に巡回馬車が来たので、距離は短いけど乗せて貰う。
寄宿舎に着く頃に夜の鐘が鳴った。
私は、鞄を背負ったまま、夕食をかき込み、自室に戻るとノートへの書き込みを再開した。
忘れる前に記録することに急かされている。
結局、それから2日間、ノートに書き込む作業に没頭することになったよ。
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