第202話 1年目「時空魔法」
時空魔法を使う魔法使いは、案外多い。
例外魔法の中では多分2番多いのではないだろうか?
なお、1番は錬金だったりするけどこれは何時か説明する機会があるかも?
時空魔法使い、そのほとんどは小樽1つ分(約20リットル)以下で小物を収納するのが精一杯だ。
そして、収納中に遺失や損壊、変質することはよくある。
荷物の輸送となると、大樽3個以上が一つの目安になる、大型の荷馬車で1度に運べる量が大体それくらいだからだ。
この程度だと、時空魔法使いでもそこそこ居て、安定して収納できる時空魔法使いは、商人の輸送や建築資材の運搬とかで活躍している。
そして、軍で働く時空魔術師は大抵は倉庫単位での収納能力を持っている。
1つの倉庫で大樽50個分なので、相当な量を運べることになる、大量の物資を運ぶ必要のある軍隊で必要とされ重要な役割を振られている。
今日は、魔法学校の南側、学術区画の塀の外にある貯水池に来ている。
私と、スロウクくん、そしてカイル先生に職員が数名。
目の前には大樽が150個も水が入った状態で置かれている。
大樽はカイル先生が運んできて、職員さんが水を入れたんだろうな。
ご苦労様です。
私は今回、大樽5個で止めるつもりです。
「よし、時空魔法の基礎は勉強済みだな。
実践をしていこう、各自、自分の収納空間をイメージしてみろ」
ザックリとしているなぁ、たぶん取り敢えずやらせて、そこから指導していくのかな。
私は、もう自然と自分の収納空間内をイメージできる、そしてその中には既に色々収納されている。
「あ、はい。 何となくイメージできている感じです。
なんだか判らない空間が広がっている感じですね」
「おっ、早いな。
なら、大樽を1つずつ収納してみてみろ。
収納すると、おなかが膨れる様な感じがするはずだ、満腹になる前で止めるように。
あと、魔力が消費されていかないかも注意するように」
私は頷いて、一番近い大樽に手を触れる。
ワザと、何度か頭を傾けて悩む素振りをして、時間を稼ぐ。
スロウクくん、早くイメージして。
「お、俺もイメージできました。
収納して良いでしょうか?」
「ああ、良いぞ。 ただし収納量と魔力量には気を付けるようにな」
「はい!」
いいぞ、スロウクくん。
コツを掴んだのかどんどん収納していく。
そろそろ私も収納するか。
1つめを収納する。 特に問題ないね、そして余裕がありすぎて収納限界が判らない。
「うん、今回は優秀だな」
カイル先生は満足げだ。
私もゆっくり1つずつ収納していき、収納限界を確認してみるけど、やはり限界が判らない。
不安になって、3個目で一度止めて、体を動かしたり職員さんに私の様子を確認して貰ったが特に問題は出ていない。
予定通り、5個目を入れた所で。
「あの、なんでしょう一杯な感じがします、多分次は無理みたいです」
「そうか、魔力量に対して収納量は少ない方だな、代償はあるか?」
その場で動いたり魔法を使ってみたりしてみる。
うん、代償は無いね。 観察してくれた職員さんも大丈夫と教えてくれる。
「代償が無く、収納量も大樽5個なら大規模な輸送は無理だが、使い勝手は良いな。
強いて言えば、魔力量に対して収納量が少ないのが代償か。
練習次第では収納量も増えることがある、練習を欠かさないように」
「はい、ありがとうございます」
と、そうえばスロウクくんは?
あ、もう100個目を収納している、凄いね。 あ不味い。
「おい! スロウク! 収納を辞めろ!」
カイル先生が叫んで、彼に駆け寄る。
私たちも駆け寄る。
スロウクくんはフラフラしながら、収納を辞めようとしない。
「かーーいーーるーーせーーんーーせーーいーーー、まーーだーーやーーーれーーまーーすーー」
遅くなる代償だ。
その場でうずくまってしまう。
確定では無いが収納量が増えると動作か思考が遅くなっている。
問題は、それが動きや思考だけじゃない場合だ。
体の中、血の巡りとかまでも遅くなると、命に関わる。
顔色が悪い、カイル先生も慌てている。
「はーやーくーちーーで、わーかぁーりーーまーせーーん」
「ゆっくり、止めて、収納から取り出すんだ」
「はーいーー」
ゆっくりと1つずつ大樽が取り出されていく。
時間をかけて50個ほど出した所で、ようやくスロウクくんの様子が戻った。
「カイル先生、俺はどうなってしまったんですか?」
「ああ、代償の影響が出ていた、恐らく体全体が遅くなる代償だ。
血の巡りも遅くなって、思考能力も低下する、放っておけば死んでしまう可能性もあるな」
「そんな!」
スロウクくんが青ざめる。
だけど、大樽50個を収納して平然としていられるのだから、それは凄い事だ。
「今は50個か、ここまでなら特に命への問題は無いな、代償は有るか?」
カイル先生の言葉で、スロウクくんが起き上がろうとして失敗して尻餅をついてそのまま仰向けに転がる。
「あれ、動けない?」
今度は、ゆっくり体を支えながら立ち上がる、必死にバランスを取ろうとするが、倒れかけて職員さんに支えられる。
「取り敢えず、あと30個収納から取り出してみろ」
カイル先生の言葉に従って、スロウクくんが大樽を出していく、今度はテンポ良くスムーズだ。
残り20個になった所で、動きが見た目は普通になった。
「うん、輸送部隊なら50個、個人や少人数で動くなら20個ぐらいが適当か、体の動きについては注意するように。
他の代償がないか、体を動かしたり魔法を使ってみろ」
スロウクくんが体を動かす、そして魔法を使おうとして、使えない。
「先生! 魔法が使えません!」
慌てるスロウクくん。
先生の言葉を待たずに、残りの20個の大樽も取り出す。
そして、慌てて魔法を使う、適性のある火の属性だ。
問題なく行使されて、手のひらの上に炎が揺らめく。
ホッとした顔をしている。
「スロウク、1つだけ収納して、魔法が使えるか確認してみろ」
「はい」
スロウクくんが大樽1つを収納して、魔法を使おうとする、さっきよりも明らかに小さい炎が出る。
魔法の行使にも影響があるのか、魔法を使う上でかなりの代償だ。
カイル先生の指示で2つめを収納して、魔法を行使する、今度は炎というより火が揺らめく感じだ。
スロウクくんは大樽2つを取り出して、そのまま考え込む。
「先生、おれ、時空魔法を使うの辞めます」
だろうね、スロウクくん、火の属性にも適性がある、無理して時空魔法を訓練するメリットは無い。
「そうか、だが何時何かの役に立てるか判らないぞ。
それに今は収納量の確認だけだ、それ以外の特性があるかもしれない、少ない収納で色々訓練を受けることを勧めるが?」
カイル先生も強い言い方は出来ない、例外魔法の時空魔法と通常魔法の炎属性では、使い勝手は通常魔法の方が圧倒的に優れている。
「はい、考えてみます」
スロウクくん、悩んでいる様子は無い、たぶん時空魔法については興味を失ったかな。
翌日の時空魔法の授業にスロウクくんは出席しなかった。
職員さんから、相談の結果 時空魔法の授業は半分にすると聞かされた。
「カイル先生、スロウクさんの収納容量は報告するんですか?」
「ああ、報告の義務があるからな。
何でそんなことを聞くんだ?」
カイル先生は私を訝しがる。
「大樽50個、無理すればそれ以上は収納できる時空魔法使いを領軍が見過ごしますか?
今後の訓練と炎属性の能力次第でしょうけど」
「ああ、そうだな一応貴族の子供だから直ぐに軍へ徴集されることは無いだろうが、な。
しかしよく知っているな」
「村に元国軍の兵士の方が居て、教えて貰いました」
「ほう、なんて人だ?」
「名前は知りません、ふらりと村に来て居着いて、そして魔物の氾濫の時、村を守るために戦って死にました」
「そうか、それで村は助かったのか」
「いえ、私1人を除いて全滅です」
「すまなかったな」
「いえ」
作り話だ、だけどこれは自分の事をなぞっている。
コウの町に流れ着いて、新しい居場所が出来て、それを守るために戦って、そして死んだことになった。
そして、あの戦いでは多くの守衛や冒険者が戦って死んだ、そんな中、私だけが生き返ってしまった。
なんて無様なんだろう。
クシャ
カイル先生が私の頭をなでる、しかし何で私は頭をなでられるのだろう。
「ま、大切な者を守るために戦って1人でも救えたんだ、お前はその分生きてやれよ」
「ええ、判っています」
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