第201話 1年目「基礎魔法」

 魔力や魔法については過去に説明しているので簡単に復習してみる。


・魔力

 この世界にある目に見えない力であらゆる物に宿っている。

 この現実空間のことわりに干渉することが出来る力。

 また、魔力が無いと世界は何も変化が起きないともされている。

 宿らせる事の出来る魔力量が大きいほど大きい力を発揮できる素質が有るが、その素質がどのように決まるのかは不明。


・魔法・魔法使い

 魔力を使う方法で、魔力を使うことが出来る者を魔法使いと定義されている。

 魔法使い能力は非常に範囲が広く、わずかに使える者から、大規模な魔法を使える者までいろいろだ。

 魔法学校に入学できない魔力量でも魔法が使える者も多い、大多数はここに入る。

 魔法学校を中退した者でも、基礎魔法を習得できているかどうかで、かなりの力の差がある。

・魔術・魔術師

 魔法を使う上での知識と技術を言う。

 その知識と技術を習得した者を魔術師と定義している。

 幅広い知識とそれを正しく使いこなす技術を習得する必要がある。

・魔導・魔導師

 魔術を研究開発、新たな知識や技術を生み出して行く才能を持つ極一部、エリート。

 あと、多くの魔術師を輩出するために教え導く能力も求められている。

・賢者

 理想として名前だけの存在。

 有りと有らゆる魔導を極めた存在であるが、どこまで極めれば名乗れるのか特に決まっていない。

 過去に賢者として認められたのは数人、それも死後に功績を称えられて称号を送られただけ。

 生存していて賢者となった者は歴史上存在していない。


・基礎魔法

 魔術を使う上で基礎となる知識と技術で、この世界のあらゆる現象や物の性質を理解し魔法で制御できるようになるための、基礎となる部分。 いわゆる自然化学。

 範囲が非常に広いので、大抵は自分の適性のある属性について中心に学ぶことが多い。

 そして、ここで挫折する魔法学校の生徒が多い。

・通常魔法・通常魔術

 基本属性(光・影・火・水・風・土)の6種類、自然界に有る現象の再現が出来ることが基本で、知識と技術の体系化がされている。

・例外魔法・例外魔術

 基本属性に含まれない属性をひとまとめにして例外としている。

 聖属性、闇属性、転移、錬金など、時空も含まれる。


・時空魔法・時空魔術

 私の適性の有る魔法。

 自身が作り出した収納空間内に、物を収納することが出来る。

 中に入れた物の時間経過が現実空間と異なる場合が有るので、時間と空間の制御が出来る属性ということで時空となっている。

 収納できる量は個人差が大きく、大きい人では倉庫数個分にも及ぶという。 なお倉庫1つで大樽50個。 大樽1つは、大人5人が楽に入れるほど大きい樽だ。


・代償

 大抵の魔法・魔術では魔力や精神力の消費という代償を支払って行使する。

 継続して使用する時空魔法・時空魔術などではそれが様々な現象として現れる、収納しただけ体重が増える、動きが遅くなる、常に魔力を消費する、体型が変化する、五感の一部が無くなるまたは鋭敏になる、などなど、私のように特に代償が無いのは収納容量が少ない者に多い。



■■■■



 というわけで、入学4ヶ月目で私たちは基礎魔法に必要となる知識と技術を習得するための授業を受けている。


 今居る場所は魔法学校の南にある練習場の一画だ、遠くからはそれなりに強力な魔法か魔術を使用している音が聞こえてきている。


 教材としては、水を使うことが多い、水を出す速度と総量、温度、方向、などなど、非常に細かく勉強する。 高圧高温などの臨界状態とか実現が難しい必要か判らない情報もある。

 最初のうちは、何でこんなことまで学ぶのかと思うのだけど、実際魔術を使うようになるとその必要性を痛感する。

 痛感するのだけど、回りの生徒はまだそこまで及んでいない、そういう私も魔術を学ぶようになって慌てて学び直したからね。

 でも皆真面目だ、魔術師になれなくても基礎魔法を習得するだけで魔法の威力や精度はただ使うより大幅に効果が大きくなる。


 そうそう、私マイとナルちゃんステラちゃんのチームの申請が通った。

 そのおかげで、授業は何時も一緒だ。

 先生曰く、元々、そのつもりだったらしい。


 今、練習場の片隅で、水を入れた透明な容器に対して、基礎魔法を行使している。

 課題は、温度を下げること、ただし凍らせない。

 水も自分で出す、容器に溢れないように調整して出す、その時、容器が倒れないように出すのも必要だ。


「ちょっと何で凍っちゃうの?」


 一番苦労しているのは、水属性の適性が高いナルちゃんだ。

 効果が出すぎてしまうため、調整に苦労している。

 私は、様子を見ながらアドバイスをしてみる。


「冷えて凍るイメージだと冷やしすぎてしまいます、水が動かなくなる・動きが鈍くなる感じでイメージしてみてください」


「水が動かなくなる、うん、こんな感じかな?

 あ、良い感じ、冷たく冷えてる」


「私も、何とか出来ました、マイさんのイメージの仕方はとても判りやすいです」


 ステラちゃんも水を冷やすのは上手くいったらしい。

 容器の表面に水滴が付いている。

 クロマ先生が様子を見にやってきた、なら私はちょっとイタズラしてみるのも良いかな?


「おう、その様子だと順調そうだな。

 どれ、うん冷えてる、良いぞ。 こっちも良いな。

 っと何だ!」


 次々と透明な容器に指を入れていくクロマ先生。

 私の水に指を入れた瞬間、指先から水が凍っていく、いわゆる過冷却状態にしてみた。

 コツは幾つかある、まず容器をよく洗うこと、次に出す水をできるだけ純粋な水をイメージすること、そして埃が入らないように風魔術をこっそり使って蓋をする。

 その状態で、ゆっくり全体を冷やしていくか急激に冷やす、そうすると凍る冷たさを超えても氷にならずに水の状態になる。 そして、ちょっとした衝撃で氷に変質する。


「あれ、凍ってしまいました、失敗でしょうか?

 さっきまで水だったのに」


 うわ、自分で言っていて白々しい。


「ビックリしたが、これが過冷却状態というやつだ。

 珍しい現象だから覚えておけ、水は条件がそろうと凍る冷たさでも水のままになっている、で指を入れるとか衝撃を与えると一気に凍るんだ」


「はわ、ビックリです」


「これ安定して再現できたら面白いジュースになりそう」


 ステラちゃんとナルちゃんが面白そうにシャーベット状になった氷を興味深く見る。

 あ、クロマ先生に頭を捕まれた。

 何でしょう?


「なぁ、マイ。 お前、判っていてやったな?」


 汗がダラダラ出て目が泳ぐ。

 まずい、態度で「そうです」と言っているようなものですよ。


「はい、ごめんなさい」


「あっはっはっはっはー、才能があるというのは良いことだ、これからも頑張れよ」


 あの、頭がミシミシ音がするんですが。

 目が笑っていない笑顔は怖いです。


「真面目に頑張らせていただきます」


「うん、そうだな、評価は最優だ」


 最後に背中をバシン!と叩いて、別の生徒の方へ歩いて行った。


「どうかしたんでしょうか?」


「……もしかしてワザと?」


 私は痛む頭と背中をさすりながら、小さく頷く。

 苦笑する2人。


「やり方を教えて欲しいです」


「あ、私も」


「では、過冷却状態というのをまず復習から始めましょう」



 そんな感じで基礎魔法を習得を続けていた。

 やっぱり学ぶことは楽しい。






 次は時空魔法の授業だ。

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