第191話 入学「入学前夜」
夕食の時、周囲の子供達の様子が一変している。
話し合ったり、事務員さんに話しかけて情報を貰っていたりしている。
ナルちゃんも、数人の子供と話をしているけど、頼られているという感じはしない。
私は、例の事務員さんを見つけて近くに座る。
「どうたった、学術区画の風景は」
「広くて沢山建物があって凄かったですね」
あ、私と事務員さんの会話に聞き耳を立てている子が居る、まぁ、構わないだろう。
それにこれから聞きたいのは、全員が共有しておいた方が良い情報だ。
「そうでしょ、仮にも領都ですからね。
で、私の所に来たというのは何が聞きたいのかな?」
うん、やっばり読まれていたか。
「防犯情報についてです、どれだけ安全なのか知りたいです。
安全に出歩ける時間とか場所とか。
昨日までは、大きな通りとお店にしか行っていませんが、これからは路地裏とか遅い時間に出歩くこともあると思うので」
「うーん、今の時期はあちこちで”見ている”から、危険になることは希ね。
夜は、人通りが無くなるから、そういう意味では危ないけど、夜間の外出は許可が無いとダメよ。
あと、商業区域の方、裏路地とかは子供には危険な事が多いから、大きな通りを中心に歩いてね」
「判りました、治安は思ったより良いのかなぁ?」
「ここ学術区画は貴族区画を除けば特に良いわ。
ただ、学生のもめ事はそれなりに有るから、注意ね」
うん、それは有るだろうな。
学術区画でも守衛が巡回しているのを時々見るし、守衛の詰め所は、貴族院を中心に幾つもある。
「学校と学校の軋轢なんかは、あるのでしょうか?」
「基本的には無いわ、ただ貴族院の生徒で他の子を見下す子が時々出てきちゃうわね」
貴族の子供が自分が特権階級と勘違いしている場合がある。
まぁ、支配階級の子供によくあることだ、学生ギルドとかで注意はするけど気にしすぎる必要は無いだろう。
さっき事務員さんが言った夜間外出禁止は、夜の鐘の鳴った後しばらくから、朝の鐘が鳴る前、空が明るくなる前までの間で、明確な時間は無い。
しかし、不在なのはどうやって確認するのだろう?
「夜間外出禁止は、判りますが、戻るのが遅れてる場合はどうやって判断しているのですか?」
「その方法は秘密ね、ちゃんと出入りは確認しているわ」
魔術的な感じは感知しなかった、たぶん人力かな? 判らないけど。
まぁ、守っていれば問題ない話なので、遅れるときは事前に連絡しておけば大丈夫だろう。
うん、こんな所かな?
特に防犯に関しては気をつけないといけないので、他の子供達も聞いていて欲しい。
事務員さんも、意識しているのか周りに聞こえるように話しているね。
「あと、守衛さんが居る詰め所の場所は地図に有るだけですか?」
「詰め所以外だと、各学校にも守衛が待機している場所があるわね、それ位かしら?」
学校の中に守衛が居るのは心強い。
周囲の子供達もいつの間にか、事務員さんを囲んで話を聞いている感じになっている。
うん、雰囲気もやる気が感じ取られて良い感じだ。
でも、出来るなら一言あってもよかったな。
その後、寄宿舎での生活規則(ルール)や配慮(マナー)を色々話しながら聞き出す。
夜間の勉強会のような物は、黙認してくれる、十分な明かりがある食堂を利用しても良い、これは後ろから何人かの子供の声が聞こえてくる。 早速相談しているようだね。
自室での食事はマナーとして禁止、ただ、理由があって食事が遅くなってしまう場合は持ち込んでも良いそうだ。
飲み物は、果実水をマナーの範囲で持ち込んで良し。
私が、雑貨屋で水筒やコップを買って持ち込んでいる事を話したら、それで構わないそうだ。
この話を聞いて更に子供達がザワつく。
「マイちゃん、勉強会するの?」
「私は一人の方が集中できるのでやりませんね。
それに、教え合う程度の知識がある知人も居ないですし」
「ん、同じ町の出身者と仲良くなってないの?
人付き合いも学校で必要な事よ」
「うーん、1年目はいいかな、と思っています。
孤立したい訳ではないので、知り合いは作っていますが、そこまでですね」
「マイちゃんは、本気で魔術師を目指して居るみたいね、庶民からだと珍しいね」
「そうですか? 少なくても中等教育までと魔法の基礎・基本を身につけるだけで、退学後もすごく有利だと思うのですが」
「うん、そこまで考えている子は少ないわね。
魔法の才能があっても意欲が低くて中退しちゃう庶民の子が多いのが悩みね。
とはいっても、指導方法は国から統一基準で決められているから工夫できるところも少ないし、困ってるの」
指導方法が国で統一されているというのは、嬉しい情報だ。
以前の私が魔法学校に通っていた経験が役に立つ。
そうなると、今ここに居る子供の3割くらいは3ヶ月後の試験の後、自主退学に追い込まれてしまうのか。
そう、指導が以前の通りだと、入学後3ヶ月で試験がある。
その試験で初等教育がある程度の成績を残せない子は、その後の授業に付いていくことがかなり難しい。
授業が中等教育と魔法を使うための訓練だけになってしまうから。
ダメ元で聞いてみよう。
「よかったら、入学してからの学習予定を教えて貰えませんか?
たとえば、試験とか授業の予定とか」
事務員さんは、じっと私を見る。
もしかして、私が授業内容を知っていると感づかれたかな。
「残念だけど、それは入学してから教師に聞いてね。
マイちゃんは知っているの?」
「いえ、魔法学校のことは町長様から教えて貰いましたが、授業に関しては全く教えて貰えませんでした」
これは事実だ、私も前回魔法学校を卒業するとき、魔術を含む授業内容を口外しない事を約束させられた。
町長から教えて貰った内容と、事務員さんから聞いた内容が、今知っていることの全てと言うことになっている。
「そういうことね。 入学してから頑張ってね」
「はい。 ありがとうございます」
入学してからが大変なことが、周囲の子供達に伝わったかな?
庶民でも才能のある子は居る、特に魔法量が多い子供は将来有望だ、でも最初に学力でふるい落とされてしまう今の制度では魔術師どころか魔法使いとしてもまともになれるか怪しい。
ただ、後年ある程度の魔法を使えるようになれば、特例で入学できる可能性もある。
国や領としても、本当に有用な魔法使いを見過ごすわけには行かないからね。
今年は見る限り成人した人は居ない、2年前の魔物の氾濫の時に戦える人は沢山亡くなった、その影響かな。
■■■■
それから2日過ぎて、明日は入学式だ。
私はその間、午前中に巡回馬車に乗って、学術区画を回り、建物や施設を確認。
午後は、自室で復習を続ける日を過ごした。
1度、ナルちゃんに勉強会を誘われて、食堂で同じ町の子供達と勉強をしたが、結局ナルちゃんと一緒に勉強の面倒を見てあげるだけになり、次回からは辞退した。
次は辞退すると言ったときの、ナルちゃんの
寄宿舎の子供達の動きも、何とか準備が出来た子と、最後まで慌ててる子、そして、入学してからでも何とかなると楽観している子に別れている。
中には、手伝って貰おうと寄生する子も居てナルちゃんとか私に、遠回しに関わってきたけど、ナルちゃんも私も無視した。
明日は入学式だ。
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