第192話 入学「入学式」

 魔法学校の入学式は、式典のような大がかりな物では無く、あくまでも行事の一環という感じだ。

 場所は、体育館の様な建物だ、舞台があり教師達が並んでいる、左右と後ろには2階席があって参列者が座って居る。

 親が参列しているのは領都の子供の親かな? 貴族なのか身なりがしっかりしている人達もいるように見える。

 形だけの式典だけど、子供達には長かったようで、何人かはうつらうつらしていた。


 出席している人数は、私たち新入生と、それとほぼ同じ人数の在校生。

 在校生の少なさに気がついている子は何人居るのかな?


 それから事務的な説明や教師の紹介。

 在籍している魔法使いは10人と領都の魔法学校としては少ない感じだと思う、これも魔物の氾濫の影響だろうか。 魔導師は居なかった。

 そして、クラス割りの発表。

 その後は、クラスごとに学舎の案内と簡素な物だった。


 もしかしたら、本来の入学式はもっと華やかだったのかもしれない、だけど魔物の氾濫からの復興のために簡素にせざる得ないのか。

 そう思うと、複雑な思いが湧き上がる、コウの町を救えたこと、でも、それは私の力じゃ無い、私はごく一部だった、そして、周囲の村々のことは全く考慮していなかった。

 今の私は、壊滅した村の唯一の生き残りとなっている、救えなかった村の……。

 気分を変えよう、余計なことを考えると気が滅入ってしまう。


 学舎の配置は、最初が事務棟、受付や来客の対応をする。

 建物の中央に大きな門というか2つの建物の間に上の階に渡り廊下がある感じかな?

 生徒は、ここをくぐって、奥の教育棟に向かう。


 最初の棟は、教師や魔術師の部屋がある教師棟。

 次の棟は、図書館や自主勉強を行う図書館棟。

 そして、新入生が学ぶ学習棟。

 4番目が基礎魔法、基本魔魔法を学ぶ魔法棟。

 5番目が魔術を学ぶ研究棟。


 5番目の棟のその向こう、南側に実習するための施設が幾つかある。

 また、事務棟と研究棟間の西側に倉庫と厩舎、駐車場があり、西の森に行くための資材と馬車と馬が居る。


 魔法学校の建物については、こんな感じだった。

 他にも小さい施設の案内もあったけど割愛。


 ここで昼の鐘が鳴ったので、一度寄宿舎に戻り昼食を食べた後、今、私たち新入生は学習棟に居る。

 私は3組だ。


 教室に入ると、黒板に座席表が貼られていた、それを見て席に座る。

 背負っていた鞄を横に置く。

 教室自体は50人以上は入れそうだけど、3組の人数は30名程度、席に余裕がある。


 前後左右の同級生に簡単に挨拶する、緊張しているのか生返事が返ってきた。


 少しして、大人の若い男性が入ってきた。

 教壇に立ち挨拶をする。


「こんには、君たちの担任になるセンだ、初等教育・中等教育を担当する。

 君達の入学を歓迎するよ」


 柔らかく朗らかな感じは子供受けが良いだろう。

 それから、自己紹介をする。

 領都の子供も何名か居る、町や村の子供はバラバラだ。

 私も、村で農業をしていた子ということになっている。


 イライラしている子供が居る。

 さっきの自己紹介では領都の子供だったはず。

 セン先生はその子に優しく問いかける。


「どうかしたのかい?

 疑問点があれば答えるよ」


「なんで俺が3組なんだよ、試験を受けただろ!」


 その子は、立ち上がりセン先生に食って掛かる。

 あ、領都の子供は試験があるのか。

 どんなのだろう?


「ええと、君は魔法が使えないので、1組は無いです。

 それと、学力が足りていませんでした、なので3組です」


 何かの資料を見てきっぱりと言う。

 少年はふて腐れて、ドスンと座り、顎を手に乗せて、顔を横に向ける。

 納得はしていないようだ、不満げに身体を揺らしている。

 たぶんだけど、それなりに裕福な都民なのだろうな。

 でも、それに胡座をかいて勉強をおろそかにしている感じだ、いや、身体はまだ若くて未熟だけど体格が良い、筋肉がある感じだ。

 もしかしてら守衛や領軍を希望しているのかもしれない。


「さ、君たちは彼に言った通り、学力が足りていないか学力がどの程度有るのか確認できていない。

 まず3ヶ月、初等教育について勉強していって貰いたい。

 もちろん、初等教育が出来ている子は中等教育に進んで構わないよ」


 ”まず3ヶ月”そう、その3ヶ月で初等教育が出来ていないと、その後は中等教育と魔法の使うための訓練になる。

 初等教育を習得していない子はついて行けなくなる、結果、自主退学になる。


「他に何か質問はあるかな?」


 私が手を上げる。


「えっと、マイ君か、何かな?」


 座席表を見て名前を確認して私に話しかけた。

 座席は1年は固定のようだ、そして、同じ出身地の子供は散らして配置している。


「あの、図書館の利用はいつから可能でしょうか?

 あと、教科書は借りれるのですか貰えるのですか?」


「うん、良い質問だね。

 明日からの授業の時に説明するつもりだったけど、ちょうど良い。

 教科書は、この勉強棟に入ったときに借りて出るときに返却する、持ち帰りは見つかりしだい処罰されるから忘れないように。

 明日は、その手順を教えるから借りずに教室に来てください。

 あと、図書室だけど、もちろん学生の利用は自由だ、学校が開いている時間は好きなだけ利用できるよ。 どんな本があるか調べる方法は司書に聞くと良い。

 当然だけど、貸し出しは出来ない、図書室で借りて読むだけだね。

 貴重な本を持ち出そうとしたら退学もあり得るから十分に注意してね」


「他には無いかい?」


「続けて良いですか?

 学校以外の教育施設で利用できる物はありますか?」


「んー、それは魔法学校 以外のことだから各自で調べてね。

 この後で支給する学生の身分証があれば大抵の施設の窓口まではいけるよ」


 なるほど、魔法学校の生徒で利用できる教育施設はあるが、それは自分で調べろと。

 あと、利用するためには身分証が必要で、利用できない施設でも窓口での対応はして貰える。


 収納空間にある学術区画の地図を確認する。

 うん、そういう情報は書かれていない。 自分で調べろと言うことか。


「他にはないようだね、では、今日の予定は以上だよ。

 あ、一番大切な身分証を渡すのを忘れていたよ、あははは、名前を呼ぶから受け取りに来て」


 絶対わざとだ、場を和ませようとしているのか、それとも小馬鹿にしているのか判断は付かない。 教室の空気が微妙になる。

 窓側の前の方から順番に名前が呼ばれ、身分証を渡される。

 身分証を受け取るとうれしそうに眺めている子が多い。

 私の名前も呼ばれ、渡された身分証をしっかり確認する、問題はなさそうだ。

 作りはしっかりしているけど、保護ケースがあった方が良いかな?


「よし、配り終わったね、ちゃんと自分の身分証か確認してね。

 では、おしまい、気をつけて帰るように」


 セン先生が本日の予定がすべて終了したことを告げる。

 で、前の席の子供と一言二言話して出て行ってしまった。


 教室は賑やかになり、子供、いや生徒達ちは知り合い同士で集まって、話しながら帰って行く。

 ナルちゃんも数人と固まっている。

 私の方を向いて合図? をしてきた一緒に帰ろうというのだろうか?

 私は首を振り断る。


 ナルちゃん一行も帰っていく、教室には数人残って話し込んでいる。

 ここで話しかけられてもこまるので、移動しよう。

 まず、教師棟にある購買に行く。 開いてない。

 横に張り紙がある、3日後に開くそうだ、うん、入学準備を整えていない子供に対しての対応になるかな。

 価格表には、文房具が一式ある、外の文具屋に比べる若干高めの価格設定になっている、ただ、ノート用の紙だけは価格が同じに設定されている。

 ギルド証もあるから入れるケースが欲しかったんだけど、うん、文具屋に行こう。


 文具屋でギルド証と身分証を入れるケースを購入。

 木製に皮を張り付けた物から実用的なのを選ぶ。

 店長からもっと女の子が好きそうなのを薦められたけど、まぁ、私には似合わないよ。


 夜の鐘までは、まだ時間は十分ある。

 魔法学校で一番行きたい所には行けるはず。

 私は、寄宿舎に戻らず魔法学校へとって返した。






 さて、図書館に行こう。

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