第189話 入学「復習」

 学生証が無いと入店できないので、商業区域を回るのは入学後にして今回は断念だ。

 となると、時間に多少の余裕が出来る。

 今日は、一日かけて商業区域を回る予定だったので、午後の予定が丸々開いてしまった。


 寄宿舎まで戻ってきた。

 昼の鐘はまだ鳴っていないけど、昼食にしよう。

 一度部屋に戻り、身ぎれいにしてから食堂に行く。

 寄宿舎としての配慮として外出したら部屋で着替えるのだけど、昨日見た限りあまり守られていない気がするな。


 食堂の連絡板にある張り紙を確認する。

 連絡事項に関しては変わらない。

 依頼事項に関しては、不要品の引き取り5件が全部無くなってる。

 これは、購入するより安上がりでかつ必要な物が全部そろうと判断した子が居るのかな?

 個人教師を行う依頼は減っていない、渡された手当からではまとまった時間を確保できない、恐らくだけど入学して授業が始まったらついて行けない子供が依頼を受けるか、逆に教えて欲しいと依頼を出すと思われる、たぶんね。

 中には、無償で善意で無期限に奉仕するように教えて貰えると考えている子が居る、関わらないようにしないと。

 店員の募集は2つ減って3枚になっていた、これは進級できた子が受けたのかもしれない。

 私たちは入学しても居ないので、募集にある魔法学校の生徒という制限に引っかかる。

 新しい依頼は張り出されていなかった。

 明日一度、学生ギルドに行って出ている依頼内容を確認しよう。


 昼食は2種類の定食から選ぶ。

 肉と魚だ。 魚の定食を頼んでみる。

 パンとスープ、サラダ、そして魚? 輪切りにされた魚の身が焼かれている。

 結構大きな魚かな。

 味は身は淡泊な白身でホロホロと崩れ歯ごたえが無い、それに濃いめのソースで味のバランスを取っている。

 身に少し泥臭さが残っているけど、普通においしい。

 食べ終わってお盆を返したときに、お礼を言ったついでに、食堂のおばちゃんに飲み物はどこで貰えるのか聞いたら、果実水を入れた樽を指さされた。


「あそこの樽から自分で汲んでいきな、食事の時も水がいやなら自分で汲むことだ」


 うん、このばおちゃは昨日の人とは違うか。

 素っ気ない。

 部屋に飲み物を持ち込めるね。


 収納空間内を見る、水袋があるけど、水筒の方が皮の匂い移りがしないからそっちの方が良いか。

 おかわり用に置いてあるパンを3つ拝借して、部屋に戻る。


 雑貨屋に行ってこよう、あと、パンはナイフで薄く切って水属性の魔術で水分を抜く、乾燥パンは多少は日持ちがするし、おやつにもなる。

 時空魔術で収納して、念のため冷却と生命不可の領域に保存する。



 雑貨屋に入る。

 目的の物は直ぐに見つかった。

 水筒、少し大きめなのを選ぶ。 量にして1リットルかな。

 あとは、簡単な木のコップと小皿を少し。

 中古屋にもあったけど、自分の口に入る物を入れたり乗せたりするので、出来れば新品が欲しい。

 値段も安いので購入。


 支給された手当は、半分を使った事になる。

 残りは残しておこう。 ギムさんから渡されたお金もまだ手つかずだ。


 ん?

 ナルちゃん一行が中古屋から出てきた。

 子供達は、何か色々買ったのか荷物を抱えている。

 ナルちゃんが疲れているのが判る、うん、面倒見すぎだよ。

 私は、雑貨屋からその様子を見ているけど、うん、子供の人数が増えている……。

 勝手に付いてきているのか、ナルちゃんに同行の許可を貰っているのかは判らないけど、どうなんだろう。

 ナルちゃんとしては、商人として領都のそれなりに裕福な子供と仲良くなりたいはずで、一般の子供に構っている暇は無いと思うのだけど、どう考えているのか判らない。

 ナルちゃんも何かを買っているのかな、荷物を持っている。

 背負う形の鞄の方が楽だよ、両手も開くし。


 どうやら寄宿舎に戻るようだね。

 お昼かな?


 私も寄宿舎に戻る、食堂で購入した水筒と食器を洗い、水筒に果実水を入れて部屋に戻る。

 と、そこでナルちゃんと鉢合わせした。


「こんにちは、今日も子供達を連れて回っていたんですか?」


「こんにちは、ええ、でもいつの間にか増えていたりで、大変よ。

 コウの町と東の町以外の町の子ね」


「余計なことだと思いますが、入学したら大抵のことは自分でやらないといけません。

 というより、自分のことで手一杯になります、たぶん。

 このまま面倒を見続けるのは無理ですよ。

 適当な所で自立して貰わないと、ナルさんの体が持たないのでは?」


 ナルちゃんは苦笑する。

 自覚はしているようだね、でも、それならなんで続けるのだろう?


「うん、本当は領都の商人と繋がりが持ちたいんだけど、そのお店を調べるのに人手が居るの。

 だから、今は私のために動いてくれそうな子を増やしたいんだよね」


 魔法学校での人脈作りは運がよければ程度に考えていて、本当は領都で取引が出来そうなお店と知り合いになることなのか。

 ナルちゃんは初等教育を終了しているので、魔法が使えれば1~2年は生徒でいられる、その期間を利用しての行動かなぁ?

 となると、魔術師になる気は無いのかな。


「ナルさん、魔術師には興味ないんですか?」


 ギクッとする。

 とはいえ、ここまで露骨に回りの子供の面倒を見ているのだから何となく判るよ。


「ええ、私は商人の子だし、町に戻って家を継ぎたいからね。

 魔法学校で中等教育と他に学べることがあれば学びたい所だけど、魔術は別に良いかな?」


「私は魔術師を目指しているので、ほとんど協力は出来ないですよ」


 釘を刺しておく。

 子供達の面倒を私にも見て貰いたいという感じが、何度もあった。

 食事で私と顔合わせさせたのもその一つだろうし。


「ダメかぁ。 しょうがないな。

 マイちゃんは、5歳なのに私よりしっかりしているから、お願いしたかったんだけど。

 初等教育の方は大丈夫?」


「ええ、自分で何とか出来ると思います。

 そちらこそ、初等教育が出来てない子供に勉強を教えるのですか?

 中には文字も読めない子も居るかもしれないのに」


 ナルちゃんが渋い顔になる、コロコロ表情が変わる子だな。


「そうなのよね、文字からとなると読み聞かせながらになるかな?

 多分、途中でついて行けなくなると思うわ。

 お金を払って勉強を教わろうとする子は多分居ないわね」


「でしょうね。

 説明にあったと思いますが、1年目で最低限、初等教育・中等教育と何らかの魔法が使えるようになる必要がありますよ」


 あ、ナルちゃん頭を抱えた、思い出したという感じだ。


「あああ、そうだった魔法は使えるようにならないと、でも魔法の教え方なんて知らないし、どうしよう?

 マイちゃんは魔法使ってたよね」


「魔法学校で魔法の使い方は学べますよ、私は魔術師の人からやり方を教えて貰いましたが、やっぱり専門の先生か魔術師の方に教えて貰うのが近道だと思います」


「あれ、魔導師様が教えてくれないの」


「魔導師様が教えてくれるのは、基礎魔法と通常魔法が使える様になって魔術の勉強を始めてからだと思います。

 そもそも、この学校に魔導師様が居るかも判りませんし」


「詳しいのね、やっぱり魔術師から教えて貰ったのは大きいなぁ」


 あ、子供達がこっちを見てる。

 私がナルちゃんに指さして知らせる。

 昼の鐘はもう大分前に鳴ってる。


「じゃ、又ね。マイちゃん」


「無理しすぎないように、ナルさん」


 ナルちゃんが、子供達を連れて階段を降りていく。

 さて、部屋に戻ろう。



 部屋の鍵を閉めて、侵入者がいなかったことを確認。

 また、窓を開けて格子戸をずらして光を入れる。


 水筒の中の果実水を水属性の魔術で冷やしておく。

 椅子に座り、コップへ果実水を注ぎ、一口飲む。


「はーっ」


 目を閉じて、一休み。


 収納空間から、ノートを取り出して昨日の続きを読み始める。

 うん、今のところ初等教育の部分に関しては問題なさそうだね。

 中等教育の部分に入っていく。

 やっばり曖昧になっている箇所が出てきた。

 メモ書き用に買った紙束にペンで書いて覚えていく、その時、しゃべりながら。

 これは、辺境師団に居たときに教えて貰った記憶方法だね、読むだけ聞いただけだと必ず忘れる、だから、復唱し必要なら何回も書き写すことで確実に記憶できる。

 輸送部隊は、各場所に指示された物資を確実に配置していかないといけない、通常は事務士官が横で管理している、でも配備先の指揮官が貴族だったりすると、数量を変更されるような事もあるので、把握しておくことは重要だ。


 ちゃんと記憶するには教わった方法、読んで書いて話して必要なら身振りや歌ったりして記憶する。

 他には、前後の関連を理解して覚えるとか、語呂合せを作るとか聞いているけど、なかなか難しい。

 私には、話しながら書いていくのが合っているみたいだ。






 夢中になって復習していたら、夜の鐘が鳴った。

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