第187話 入学「ノート」
中古屋を出て、その後は近くの衣料品店に入る。
中古屋にも衣料品はあったけど、どれも大きさも品質も難しかった。
衣料品店は、学生向けだけあって、実用的な物が並んでいる。
今日は様子見だ、衣料品は一通りあるので品物の確認程度かな、貰っている手当も残しておきたいし。
「いらっしゃいませ。
何かお探しですか?」
品のよい服を着た中年の女性が出てきた。
店主かな?
「こんにちは、今年から魔法学校に入るので、近くのお店を見て回っていた所なんです」
「あら、領都に来たのね、ここは魔法学校の制服と安めの服が一通りあるわね。
高い品質やオーダーメードは商業区域のお店に行くといいわ」
「ありがとうございます。
値段の張る服には用がないと思います。
今日は、何があるのか見に来たのが目的ですね」
「そう、好きなだけ見ていって。
あと、沐浴着、自分用を買うのをお勧めするわ」
沐浴着は共用だ、確かに生地が硬くて気にはなっていたけど、うーんどうしよう。
「女の子なんだか、下着とかもちょっと良いのをそろえた方が良いわね、もちろん、このお店はお手軽な値段のを揃えているわ」
ちょっとクラクラしてきた。
うん、ここは一度時間をおこう。
「はい、ちょっと考えます。
また余裕が出たら是非買いに来ます」
「あら、残念、まってますね」
私は、あんまり品物を見ないで脱出した。
あのままだったら、何か買って帰っていたかもしれない。 危ない。
他には雑貨屋か、こっちは必要になったらにしよう。
ちょっと精神的に疲れた。
少し早いけど、寄宿舎に戻ろう、荷物もあるし。
少し重くなった鞄を背負い直して、戻った。
■■■■
自室に戻る。
鞄以外は時空魔術で収納してしまう。
正直、部屋の鍵は簡単に開けられそうな簡素な物で心配だ、最低限怪しまれない程度の私物だけ置いておくことにした。
日が傾いてきた、ところで、明かりは何故か有料だ、ランプを借りて数時間分の油を買う。
色々無料で提供しているのに、明かりだけは有料なのは不思議だけど、ここではそういうルールだ。
一晩中付けっ放しにした人でも居たのかな。
ロビーでランプを借りて油も3時間分程度を購入。
ランプは返却時期が特に決まっていないので基本的には部屋に置きっぱなしで油が切れたら買いに行く感じになる。
仲のよい友人が居たら共用するというのも手かもしれない、私は一人だけどね。
もっとも、光属性の魔術を使えるので、ランプを借りているという事実さえあれば十分だ。
夜の鐘まではまだ時間がある、ノートを確認と早速復習をしようかな。
収納空間から、最初の10枚取り出す。
光属性の魔術で光の球を作る、うん、もう普通に文字が読める程度の明るさなら魔力の消費を気にしないで使える。
ノートを読む。
名前とおぼしき場所の文字が塗り潰されていて読めない。
ノートの文字は繊細で読みやすい。
流石に最初の方は問題なく理解できる、うんどんどん読み進めよう。
……あ、夜の鐘が鳴った。
すっかり読み込んでしまった、本当によくまとまっている、教科書よりも読みやすいかもしれない。
廊下や食堂にはランプが設置されているので、歩く分には困らない。
とはいえ、長持ち重視なので薄暗い。
夕食も一人で食べようとしていたら、ナルちゃんがやってきた。
うん、夕食までに戻れたようだ。
当然なのか、後ろにはゾロゾロと女の子たちがついてくる、男の子は別の寄宿舎なので遅れてくるのかな?
ナルちゃんは私を見つけると、早速やってくる。
うん、面倒な予感しかしない。
「マイちゃん、一緒に食べよう」
断るのも不自然なので、了承する。
ナルちゃんが横に座り、他の子供たちが取り囲むよう座るので、必然的に私も輪の中心に居るような感じになってしまう。
「マイちゃんは、あの後どこに行ってたの?
私たちは学生ギルトに無事登録できたわ、あと、依頼も見たけど勉強を教えるのってお金になるのね」
人懐っこく聞いてくる、で、答えやすいように自分たちが何をしたのかも説明している。
私にとっては損でしかない、ナルちゃん達が何をしたのか大体判るし興味もない。
ナルちゃんにとっては、私が何をしたのかは、明日以降行動するために欲しい情報だ。
私が、ジト目で見るが、ナルちゃんはニコニコしている、商人だなぁ。
「中古屋と衣料品店ですね」
「え、中古屋があるの、だったら新品を買わなくて済んだのに」
ちょっと責めるような口調で言うが、判断したのは自分でしょうに。
気にせず食事を進める。
「そうだよ、なんで教えてくれなかったんだよ」
後から来た男の子が私を責めるように言う。
「ん? どうして私が教えないといけなかったんですか。
私は文具屋で最初に文具を揃えました、中古は選ばなかったです、それだけですが」
「何でだよ、中古でも良いじゃん」
「だったら中古を買えばよかったのでは?
強制はしていないですし、安く買いたいと事務員さんに相談したら紹介してくれたと思いますよ」
人の責任にしないでほしい。
「だって、教えてくれなかったんだから判んないだろ」
すねる男の子を無視して、食事を口に運びながら、私は、ナルちゃんを見る。
その視線に気が付いたのか、ばつの悪そうな顔をする。
「えっと、他の必要な物は中古屋を見てみようか。
ペンは長く使うしインクも紙も新品の方が良いわ、だから中古を買うよりも良いと思うな」
「うん、そう言うんならそうだね」
だめだ、ナルちゃんに依存してしまっている、それを利用しているのだろうけど、ちょっと個人的に関わりたくない。
私にもナルちゃんの様に世話をしてくれるのが当然と思っている感じだ。
この中では私が一番小さいんだけどなぁ。
私は食事を済ませると、疲れたから寝ると告げて席を立つ。
ナルちゃんがまだ私と話したそうだったけど、他の子供達の対応に忙しい。
「なー、明日はどうするの」
「おいしい食べ物があるって聞いた」
「服ほしい~」
その様子を見て、本当に将来役に立つのか心配になる。
部屋に戻ると、夜が更けるまでノートを読んで復習をした。
その繊細な文字から一体どんな人が書いたのかを想像しながら。
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