第186話 入学「中古屋」
ナルちゃん一行は、巡回馬車が来て、ぞろぞろと乗って行った。
ナルちゃんが御者の人に行き先とか相談し、子供達に連絡している。
「みんな、これから学生ギルドに行って登録するよ、あとどんな仕事があって何が自分たちが出来るのか考えてね」
「「「はーい」」」
遠ざかっていく巡回馬車を見送る。
おそらく、ナルちゃんは面倒を見ることで将来の交渉での優位性を確保するつもりなのかな?
本人の意思なのか親からの指示なのかは判らないけど、苦労しそうだね。
私は……巻き込まれないようにしよう。
「さてっと」
気持ちを切り替える。 さてどう行動する。
昼の鐘はもうじき鳴る、寄宿舎の食堂でお昼を食べれば昼食代はタダになるので、一度寄宿舎に戻ろう。
ん? ナルちゃんたちはお昼どうするつもりなのかな?
お昼を食堂で食べてから役所に向かうように言うべきだったか。
ちょっと罪悪感がわくけど、ナルちゃんなら何とかするだろう、たぶん。
食堂に行くと、男女それなりの子供達が居る、朝食を食べ損ねたのかもしれないし、仲が良い同士で色々相談しているのかもしれない。
まず、壁の連絡板にある張り紙を端から全部見ていく。
食堂の今月の献立表、食事での注意事項、環境が変わることでの体調注意と悪くなった人は医務室への案内。
医務室なんてあるんだ、場所は寄宿舎と学校の中間の施設、何か判らなかった建物の一つだ。
次は、沐浴する時の手順間違いが多い事への注意書き。 大人数での沐浴の習慣は町や村では無いからかな。
依頼書の枠があった。
20枚、そのうち10枚は新入生に初等教育をしますという、個人教師の案内。
5枚は、退学か卒業する人のだろう、私用品をまとめて引き取って欲しいとの依頼。
残りの5枚は、寄宿舎の近くの商業区域からの臨時店員の募集だ。
あ、それでか。
食堂で今行われているのは、その依頼の相談なんだ。
ただ、これは当たり外れが大きい、注意しないと内容に見合わない依頼を受けることになりかねない。
これは知り合いか同じ出身地の人が先輩にいた方が安心できる。
私は、
昼食は、ショートパスタの入ったスープ? とサラダ。
そういえばコウの町ではパスタはあんまり出なかったかな?
私が食事していても誰も近づかない、うん、ほとんど何らかのグループが出来ているんだな。
私も知り合いを作りたいところだけど、1年目はあまり深い繋がりを持っても無駄になりやすい。
なぜなら、毎年半分近い生徒が退学していく、その1年目の退学者の大半は一般の子供だからだ。
魔法学校は5年制になっている。
5年以内に必要な魔術の知識と技能と能力を習得することが求められる。
5年間、在籍していれば魔術師になれるわけでは無いのが注意点だね。
なので、繰り上げもある、規則上1年目での卒業も可能だけど、まぁ、普通は居ない。
一般的には次の予定で進む。
1年目で最低限、初等教育・中等教育そして何か魔法が使えることを求められる。
この時点で町や村から来た子供達の大半は振るい落とされる。
2年目は基礎魔法の習得が必須になる、習得できた素質のある子が魔術の習得への道を進む。
基礎魔法は非常に多くの自然現象に対する専門知識が要求される、魔術師になれるかどうかの境目になる。
3年目は、基本属性の魔術の習得と共に各自の適正のある魔術の知識と技能を磨く。
各自が必要な授業を選択して受講することになる。
才能のある子は2年目でこの辺まで済ませてしまい魔術師になったり魔導師候補として王都の魔法学院に移籍したりする。
4年目、ここに残っている人のほとんどが魔術師・魔導師の候補でより深く魔術についての理解を深めていく。
過去の私はこのとき、4年目を終了時に魔術師として卒業する事が内定されていた。
そこで王国軍に徴兵されたんだけど。
5年目、ここに残っている人はごくわずかだ。
魔術師と認められるまで後もう少し、と言う人。
魔術師を育成できる深い知識があるため魔導師になれるかもしれない人。
魔術を使って魔導師になれそうな人は2年目か3年目に王都の魔法学院に行くので、ここで残るのは教育者としての魔導師だね。
そんな訳で、同じ出身地や知り合いを除けば、上級生が下級生の面倒を見ることは、個人教師のようにお金を稼ぐ以外ではほとんど無い。
このことは、事前に説明を受けているはずだけど、やはり1年目は気が緩みやすい。
衣食住が保証され手当まで支給される手厚い補助は一般人の子供には甘い罠だ。
疑問に思ったことがある、もっと1年目から厳しい初等教育と中等教育をしていれば、魔術の才能がある子が振るい落とされる可能性は多少減るのではないかと。
その答えは簡単だった、支配階級の魔術師が多い方が都合が良い、それだけ。
だから、一般人が魔法学校で残れるのは本当にごく一部になる。
この食堂にいる子供はほとんど一般人の子供だ。
裕福な子供もこの寄宿舎に入っているけど、そういう子はたぶんここにはいない。
私は、食べ終わったトレーを返却すると、食堂を後にする。
背中から楽しそうな声が聞こえてくるのが、なんとも言えない。
■■■■
「こんにちは」
中古屋に入る。
店員は私を一瞥すると、直ぐに何かの作業に戻った。 挨拶も無い。
文具屋とは違い、すえた埃っぽい匂いが微かにする。
置いてある物は色々だ、文具もあるけど、どれも使い込まれている。
いくつか手に持ってみたけど、ガタつきが多く使えそうも無いものが大半だった。
新品同様なのは直ぐに売れてしまっているみたいだね。
鞄やマント、それに何に使うのか杖もある。
中古品でも十分だと思える品物も有るかれしれないけど、それを探している時間は少ない。
目的のノートのある場所に行く。
不要紙として積み上げられている。
幾つかの束を読んでみる。
大半が最初は真面目に板書しているが、途中でいい加減になって、途切れている。
初等教育の途中で停まっている物が大半だ。
時間を掛けて探していたら、一つの綺麗に束ねられたノートを見つけた。
開いてみる、中等教育の後半まで綺麗にまとめられている。
なのに、最後のあと少しの所で空白になっていた、このノートを取った人に何があったのか判らない、が、あと少し完成していたら、書籍として十分に売れたのだと思う。
実際、初等教育ノート・中等教育ノートと記載された棚があり、簡単にまとめられたノートが並んでいる。
価格もそれなりだ、けど、中身はこれとういうのは無い、これも良いのは売れてしまったのだろう。
これに決めた。
他に、空白が多いノートや紙をメモ用紙代わりに使おう、空のインク瓶を2つ予備のインクと水を入れてペン先を洗う用、あと布製の筆入れがあったので選んで購入することにした。
「すいません、これを下さい」
店主は、目だけ上げて私を見て、次に商品を見る。
「ああ、まいど」
言葉少ない。
価格も十分に安かったので、値引き交渉は止めた。
「ありがとうございました」
「なぁ、なんでそれを選んだんだ?」
不意に店主から質問が来て、何のことか判らず戸惑う。
「なんでといわれても?」
「……いや、いい。
ちゃんと使ってやってくれ」
「はい、判りました」
店主は、どれに対して質問したのだろう?
聞こうと思ったが、すでに手元の何かをいじり始めている。
声を掛け難くなったので、商品を鞄にしまうと店を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます