第185話 入学「ギルド登録」

 巡回馬車に運良く乗れた。 馬車の上で揺られている。

 寄宿舎街と北側の商業区域をグルグルまわっているとのこと、でこれも無料。

 うん、ビックリだ。 こんなことをしているのは学術区画だけとのこと。

 他にも各区画を結ぶ荷馬車が区画の中心から出ているけと、こっちは有料。


 私は、荷馬車に揺られ、町の様子を御者の人に聞きながら移動する。

 寄宿舎街といっても、中央の大学院付近は貴族や富裕層の宿舎が多く、東の専門学校の方は民間人向け。

 魔法学校も支配階級の子ども向けとそうでないので建物が違うそうだ。

 当然、私はそうでない庶民向けの寄宿舎だね。


 学術区画の中央が見えてくる。

 コウの町の中心よりも狭いが、建物が5階建てだったり、数が多かったりで、雰囲気は全く違う。

 役場は手続きをしたので知っている、教会も特徴的な建物なので、結果として残った2つがギルドになる。

 御者の人に学生ギルドを教えて貰う。

 なお、仕事については教えてくれなかった。


 学生ギルトといっても他の町のギルドと作りは余り変わらない。

 ん? 窓口が3つ有る。

 取り敢えず真ん中の窓口へ行ってみる。


「こんにちは、今年から魔法学校に入学するのですが、ギルドに登録は出来るのでしょうか?」


「あら、今年は早いのね。

 貴女でもう10人にはなるかしら。 でも、初めて見る子はあなたが初めてかな?

 登録はどの窓口でも大丈夫よ、ここでやっちゃう?」


「お願いします」


「じゃ、記入できるところだけで良いから書いてね。

 書けるかな?」


「はい、大丈夫です」


 私は出された記入用紙に名前と学校名、そして出身を書き込んでいく、得意な魔法属性があったけど、正式に鑑定されていないので空欄にする。

 こんなものかな?


「書けました、あと学生ギルトの説明も受けたいのですが」


「うん、書く前に聞くのが本当なんだけど、概要を知っていて入ることを決めていたのかな。

 学生ギルドは、学生が余っている時間で依頼をこなしてお金を稼ぐ場所ね。

 基本的に学生に任せられる、簡単なお使い的な物が多いわ。

 逆に、護衛や狩猟のように戦うのは無いのが特徴ね」


 うん、そこまでは聞いている。

 もっと具体的なところが知りたい。


「えっと、私は村で薬草や野草の採取をしていました、そういう依頼はありますか?」


「え、森に入るの?

 有るけど、絶対に1人で入らないでね。

 区画の西側と南側に広がる森は危険な肉食獣はある程度間引いているけど居ないわけじゃないから。

 あと、魔物の生き残りが居る可能性もあるわ、見つけたら逃げてきて報告よ」


「はい、無理をしない、それはキツく言われています。

 魔物の被害、どの程度有ったのでしょう?

 領都を見る限り、被害の後は見当たりませんでしたが」


「うん、コウの町出身か、町は無傷だけど村は被害があったところね。

 領都も超上位種が出たわね、街中にも発生したから、民間人の被害もかなり出たわ、領軍と駐留していた東方辺境師団のおかげで、直ぐに討伐されたのが救いね」


 窓口の職員さんが指を差す。

 あ、壁の一部が補修された後がある。


「受けるのは、学生向けに用意された依頼が中心ね。

 といっても、町の出身者だと出来ることが限られるわ。

 定番なのはお店の店員かな? 使える魔法によって選べるのもあるかも。

 技能がある子は、どこかの作業場で下働きをするのも良くあるの、魔法学校の生徒でも別に構わないわよ。

 知識があれば、初等教育や授業の遅れている子供の個人授業をするとか有るのだけど、それは2年目以降ね」


 うん、判ってきた。

 ここでの依頼も教育の一端なんだ。

 勉強だけしていても、学校を出た後に働いている子供たちとの差が生まれてしまう。

 だから、学術区画の中で社会勉強をさせようというのか。

 となると、全く依頼をしないというのも不味いか。


 私が昔いた魔法学校ではひたすら時空魔術の勉強をしていたなぁ。

 私としては、領都に留まるつもりはないので、採取系の依頼を受けれればいいかな。


「ありがとうございます。

 依頼を受けるにしても、まず入学してからですね。

 あの、庶民向けの日用品を売っている場所って教えてもらえますか?」


 職員さんがキョトンとする。

 ジェシカさんとは違うきっちりとした感じの人だけど、それだけに不意に表情を崩すと美人さが際立つね。


「良いわよ、学術区画だと東側の商業地域ね。

 注意してよ、中には学生に作らせた出来の悪いのを売っている所も有ったりするから、安いからって飛びつかないようにね。

 品質なら貴族院の近くだけど、高い価格設定なのが多いから、どうしてもというときだけ。

 魔法学校の近くは魔術関連の物が中心で日用品は有るけど種類は選べない感じね」


 なるほど、そう言われれば学校の配置と入学する生徒の傾向で商人もお店を出すのだから、そういう傾向になるのは当然か。

 こういう所は経験が不足しているから、教えてもらわないと難しい。


 ふと、ナルちゃんを思い出す。

 商人の子供だ、目利きも売買交渉も経験があるらしい、頼ることになるかもしれないな。

 思い出す、ナルちゃんは、私に初等教育を教える事で対価としようとした。

 なら、こういうことも可能かな?


「あの、もしかしてですが、初等教育を教えて欲しいという依頼を出すと言うことも可能なんでしょうか?」


 あ、職員さんがニヤリとした。


「良いところに気がついたわね。

 初等教育が出来ていない子や、中等教育の授業が遅れている子が、勉強の遅れを取り戻すために上級生に依頼を出すこともあるわね。

 もし良かったら依頼を出しても良いわよ」


「でも、教科書とかどうするんですか?」


「ああ、それは授業で取ったノートを教材に使うのよ。

 だから、教える人によって質はまちまちね」


 おお、やっぱり。

 しかし悩む。

 私は一応、初等教育と中等教育を履修済みだ、ただ、6年前なので復習をしたい。

 そうなると、教えてもらう人をどうするのか?

 教会でも初等教育・中等教育をしてくれているけど、こちらは数日で復習するような個人対応はしてくれない。

 それに自分の学力を不特定多数に知られるのも良くない。

 ナルちゃんはどうか?

 コウの町の教会で学んだだけじゃ無い、自信を持って教える事ができると言えるという事は、おそらく父親からも勉強を教えてもらっているかな?

 しかし、コウの町のナルちゃんに私の知識を知られるのも良くない、中等教育の知識が有ると知られたら、彼女の事だ交渉してくる可能性が高いし、勘ぐられるだろう。


 うん、決めた。

 自習にしよう、中古品を売っているお店で、内容の良い初等教育の授業ノートを入手。


「ありがとうございます、同じ町からの子で初等教育を済ませている子が居るので、その子に交渉してみます」


 私は職員さんにお礼と頭を下げる。


「判ったわ、常設依頼とか長期の依頼や、特定の学校の生徒向けの依頼は、寄宿舎の連絡版にも張ってあるので見ておくと良いわよ。

 あと、学校が始まれば判るけど、魔法学校にも学生ギルドの出張所があるから利用してね」


 あ、食堂にあった張り紙か。

 昨日、確認するの忘れていた。

 学生ギルドの出張所が学校にあるのも助かる。

 それもそうか、魔法が使える事が前提の依頼は魔法学校で出した方が効率が良い。


「はい、食堂にあった張り紙ですね、帰ったら確認します。

 では、また来ます」


「じゃねー、今度は入学後かな?」


「はい、たぶん」


 職員さんと分かれて、巡回馬車を探す。

 うん、何台もある。 停まっている場所は規則性がありそうだけど、判らないな、近くの馬車に乗っている御者さんに聞いてみよう。


「すいません、魔法学校へ行く巡回馬車はどれでしょうか?」


「ああ、あの馬車がそうだね。

 馬車の巡回経路と目安の時間は役所で手に入るから、行っておいで。

 あの馬車は来たばかりだから、直ぐには出ないよ」


「ありがとうございます」


 できるだけ子供っぽく礼を言うと、役所に走る。

 走るけど、うん、遅い。 体の小ささが違和感になるのが未だに慣れない。

 風の魔術で後押ししたいなぁ。


 無事、役所で巡回経路が書かれた案内図をもらう、また、商業区域のもうちょっと詳しい店舗案内図も貰えた、うん、よしよし。


 巡回馬車は、馬の手入れが終わったところに居合わせることができて、無駄な時間を掛けずに魔法学校の方へ移動できた。



 目的地はどうしよう中古屋を覗いてみよう。

 あ、ナルちゃん達だ。

 文具屋から出て、どうしようか迷ってる。


「あ、マイちゃん、もう帰って来ちゃったの?」


「はい、とりあえず聞きたいことは聞けたので」


 ナルちゃんが私をジーとみる。


「私の知りたいことと、ナルさんが知りたいことが同じとは限りませんよ」


 先読みして答えてみる。


「うーん、それでも聞ければ嬉しいんだけどね」


 ナルちゃんは後ろをチラリと見る。

 子供達は自分の文房具を手にして興奮しているのだろうか? 好き勝手に話をしている。


「もうすぐ私が乗ってきた巡回馬車が戻って来ます、それに乗れば学生ギルドに楽に行けますね。

 余裕があれば役所で相談するのも良いかもしれません」


 ナルちゃんには特に思うところは無いけど、親切にしすぎて依存されるのも困る。

 直ぐに判るような必要なことだけ伝えておこう。

 ナルちゃんは、付いてきている子供達を見て、ため息を少しして、私を見てニコリと笑った。

 ん?


「ありがとう、マイちゃん。

 とりあえず学生ギルドに行ってみるね。

 とはいえ、今日は登録するだけで精一杯だと思うけど」


 苦笑する。

 子供達は完全にナルちゃんに引率されているので、何も考えてない。

 私の苦笑に気がついたのか、ナルちゃんがこっそり私に言った。






「ま、人脈作りと借りを沢山作るのは商人の知恵ね」

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