第184話 入学「区画探訪」

 さて、今日のうちに学生ギルドの登録までは最低限行っておきたい。


 まずは、文具屋だ。

 彼女たちはいつ頃に追いつくかな?


 寄宿舎と魔法学校は近い、その中間に文具屋は位置しているので直ぐだ。

 たぶん、学生が必要としている物は、寄宿舎と学校の間に一通りそろっているはず、他のお店も注意しておこう。


 目当ての文具屋に入る、紙とインクの匂いが漂ってる。

 なんというのかな? 不思議と落ち着く雰囲気だ。


「いらっしゃい。

 何かお探しかね?」


 めがねを掛けた痩せた男性、おじさんが高級そうな筆記具が入った高そうなガラスの棚の向こう側から声を掛けてきた。

 温和な口調の中に、試すような雰囲気がある。


「こんにちは、初めまして。

 今度、魔法学校に入学することになったので、必要な文具を購入しに来ました。

 ですが、何が必要になるのか判らないので、ご助言していただけると嬉しいです」


「ほう、小さいのにずいぶん畏まった言葉遣いだね、商人か町長の子供かな?

 まずは紙とペンとインクだね、それを入れる鞄もあると良い」


 言葉遣いは直すのが難しいし、違和感が出そうなので自分の話しやすいようにすることにした。


「あんたなら、長く居そうだから、しっかりとしたペンを使うと良いよ。

 この辺の付けペンは飾り気は無いが長持ちする」


 紹介されたペンはたくさん並んでいるペンの中でも中段端に置かれていた。

 確かに無骨だけど、しっかりしている、というか辺境師団でも使っていた物に近いのもある、持ち運びでペン先が傷まないようにキャップが付いているのだ。

 他に用意された紙も、薄茶色だけど表面はきれいだね。

 インクは好みと言われたので、手頃な値段で気に入ったのを選んだ、緑色系の黒で、薄いところが濃緑に見える、うん良い。


「ほう、このペンは軍なんかで使われている携帯も考えた良いのだね。

 インクは珍しいね、大抵は青系の黒を選ぶ子が多いんだけどね。

 紙を束ねるファイルと、紙は今期最初のお客さんだおまけで多くしてあげるよ」


「ありがとうございます。

 鞄も、これにします。

 今必要で無くて、将来必要になりそうなのは何でしょう?」


「うーん、裕福なら手紙だが、そういう子は親から貰っていることが多いからね、便せんくらいかな。

 鞄だが、ずいぶんと実用性の高いというか地味なのを選んだね」


「使いやすそうだったので、あと背負えるのが良いですね」


「ま、そういうのも有りかな。

 合計でおまけして、これだけだけど大丈夫かい?」


「はい。

 あと、購入しておいた方が良いのはありますか?」


「それは、お嬢ちゃんが自分で考えてみな」


「はい、そうします」


 おじさんはニヤリと笑う、うん楽しんで居るみたいだ。



「こんにちは!

 あ、マイちゃんよかったまだ居た」


「わー、凄い」

「いっぱいだー」


 あ、ナルちゃん一行が来た、ずいぶん遅かったなぁ。

 店主との会話で色々聞いていたけど、予想以上に時間が掛かっている。

 その理由は後ろの子供達だろう。

 コウの町から来た子供だけじゃない、東の町の子供も居るみたいだ。

 ええと、全部で7人かな?


「いらっしゃい。

 今日は朝から賑やかだね」


 店主は、愉快そうに笑う。

 私に影響されて来たことも含めて面白いんだろう。


 私は、購入した物をさっそく鞄に詰めて、背負う。

 うん、背負った感じも良いな。

 長方形の箱形で、飾りも少ないけど、背嚢に近い雰囲気がある。


「マイちゃん、買い物終わっちゃった?

 出来れば、待っていて欲しいんだけど……」


「ん、次は学生ギルドに行きます。

 頑張って追いついてください。

 ただ、慌てて必要のない物とか買わないように、お店の方とよく相談して考えて買ってくださいね」


 私が一緒に行動する気が無いのに気がついて、ナルちゃんは大げさにため息をついている。

 こちらとしては、他の子供の面倒を見る気が無いんだよ。

 彼女も、自分のことを優先して欲しいのだけどね。

 何か計算があるのだろう。


 私は、おじさんに会釈をして、店を出るために移動する。


「えっと、初めまして。

 魔法学校に入学するので、必要な文具を買いたいのですが……」


 背後から、彼女の声がする。

 他の子供は後ろでバラバラに商品を興味深く眺めているだけだ、任せっきりはだめだよ。

 彼女に依存すのに慣れてしまったのかな?

 だとしたら、半分は彼女のせいかもしれない。


「おう、後ろのお前達はどうするんだ?」


「え、えーお姉ちゃんどうしよう?」


 私が扉を出る時に、予想通りのやり取りが始まっていた、多分ここだけで昼の鐘が鳴る前に終われば早いほうだろうな。

 あの子は、このまま連れてきた子供達の面倒を見ていたら勉強について行けなくなって多分1年目で退学になる、それが判っていてやっているのかな?


 学校が始まれば、嫌でも気が付くだろうし、私に関係ないからいいか。


「ふぅ」


 案外私も冷淡だよ、でも、ここで足踏みしては居られない。

 魔導師になって、コウの町へ戻るんだ。


 頭を軽く振って、雑念を払う。


 次は学生ギルドに向かおう。

 文房具屋の周りは、衣料品店と軽食の店、雑貨屋などなど、一般庶民の寄宿舎が近い為か、比較的 庶民的な雰囲気のお店が多い。

 変わったのだと、学生が残した文具などと紙というかノートを中古品として売っているお店がある中古屋かな?

 たぶん、安く済ませるのなら、このお店だろう、物に対しての目利きが必要になるから必要な物が無い限り時間が出来るまで後回しの予定。

 他にも幾つかあるけど今はいいかな?


 学生ギルトは、学生向けの副業というか余った時間で現金を稼ぐ所らしい。

 場所は、区画の中心、少し遠い。


 魔法学校の正門は閉じられている。

 この時期は入学などの手続きで学校は閉鎖されている、入学式を受けてから日中入ることが出来るようになる。

 私の背丈の3倍はある高い鉄格子の門の隙間から見える校舎を見る。

 4階建ての立派な校舎が遠くに建っている、私が入学した都市の魔法学校より立派だね。






 さて、次は学生ギルド、どんなところだろう?

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