第182話 入学「学生ギルド」

 学術区画の地図を見て、中央に役所と教会、そしてギルドと学生ギルトと記載された施設があった。


「うーん?」


 悩む。

 2つに分ける必要は何だろうか。

 片方は、通常のギルドなのかな?

 そうなると、学生ギルトの存在意味は?

 うん、判らないことは聞くべきだ。


 時間は夕食の時間になっている、夜の鐘の音がさっき鳴った。

 私は、食堂に行って食事を取る。

 食堂は男性の寄宿舎と女性の寄宿舎の中間に位置していて男女共有の場所だ、大人数で集まる時は食堂を利用することになる。

 壁には、連絡かな色々な案内が貼られていたりする、後で確認しよう。


 定食形式かな? 幾つかの種類の定食から選ぶ方式だ、パンのお替わりが可能なので、部屋に持ち帰って良いか確認して、多めに貰った。

 選んだ定食は、薄く切った肉にタレを絡めて炒めた物とサラダ、根菜のスープと固いパン。

 手間はそんなに掛かっていないけど、十分贅沢だ。


 そして、辺りを見渡す。

 子供はチラホラかな、まだ空席が多い、あ、居たあの人にしてみよう。

 食事をしている女性の事務員の一人を見つけてその隣に行く。


「隣良いでしょうか?」


「え? ええ、構わないわ」


 事務員の人は少し驚いたけど、特に断らなかった。

 横に座る、まだ食事を始めたばかりのようだ、丁度良い。


「これから、お世話になります。

 コウの町から来た、マイと言います」


「あら、行儀が良いのね、こちらこそ宜しく」


 お互い、軽く頭を下げる、軽く笑顔で対応しておく。

 うん、気の良い感じの人だ。


「コウの町というと、町に被害が全く無かった所よね、良かったわね」


「え、ええ。

 でも私の住んでいた村は壊滅してしまいましたし、コウの町に関連した村はそれなりに被害は出ていますね」


「あ、ごめんなさい。

 全く被害が無かった訳じゃ無かったのね」


「そうですね、私は何も出来なかったですが、沢山の冒険者と守衛の方が亡くなったと聞いています」


 あの戦いを思い出す。

 東の大きな黒い雫の戦闘ではかなりの被害が出たそうだ。


「私は、ほとんど覚えていないんです」


「そんなものよ、だって2~3歳ぐらいでしょ」


 あ、そうだった、今の私は5歳だ、しゃべり方も注意しないと。



「でね、領都に来た感想はどう?」


 事務員さんが話題を変えてきてくれた、うん、湿っぽい話は続ける必要は今は無い。


「凄いですね、コウの町でも大きいと思っていましたが、全然違います」


「でしょう。 それに領都は東の商工業国家と王都を結ぶ街道の上にあるから賑やかよ」


「街道、凄い馬車の数でした、あんなにいっぱい見たのは初めてです」


 子供っぽい感想をしてみよう。

 あ、この肉の炒めたの、細く切った野菜と味付けの組み合わせが面白い。


「それに、この学術区画でしたか、ここだけでも一つの町みたいですし」


「そう、領都は6つの区画がそれぞれ特徴の有る町として区分けされているの。

 あなたたちは、基本的に学術区画から出る事は無いはずよ」


「そうですね、所で地図を見ていたら、ギルドが2つ有るんですが何でしょう?」


「おっ、良い所に気が付いたわね。

 学生は学生ギルトの方に行ってね、ギルドの方は、普通の冒険者とか商人が学術区画での依頼を受ける所だから」


「はい、ということは、学生でも登録して活動できるんですね」


「ええ、お金を使い切っちゃう子も多くてね、副業みたいな簡単なお手伝いが出来るわ。

 何かやるつもりなの?」


 少し考える、学生としての本分としては、勉学に励むべきだろうけど、冒険者としての技術も維持しておきたい。


「村では、簡単な薬草や野草の採取を手伝っていましたから、やってみるのも良いかもしれません。

 登録だけでも、やっておこうと思います」


「へー。 でも勉強を疎かにしちゃ駄目よ」


「はい」


 私は、出来るだけ幼い感じで笑顔で了解を示す。

 事務員さんも満足げに微笑む。


「では、勉強が出来る施設は有るんですか?

 魔法学校でどんな勉強するのか判らないですし、初等教育も村のおじいさんから教わってる途中だったので、ちゃんと勉強しておきたいんです」


 少し、事務員さんが私を見る目が鋭くなる。

 あんまり、やり過ぎても駄目かな?


「残念だけど、学習できるのは校舎内に限られるわ、本の貸し出しもしていないから」


「では、本を読める施設も無いんですか?」


 本は貴重品だ、紙自体はそれなりに流通しているけど、印刷設備は大きな都市の幾つかでしか稼働していない。

 そして魔物の氾濫でその数は更に減っている。

 コウの町でも、町長の館に保管されている本が少し有っただけだ。


「うーん。 図書館は有ることは有るんだけど、マイちゃんが読むような本は無いわね。

 利用も制限されていると思うな」


 駄目か、せめて初等教育と中等教育の教科書を事前に予習しておきたかったんだけど。

 私がガッカリしているのに気が付いたのか、事務員さんが慰めてくれた。


「勉強に前向きなのは、良い事ね。

 魔法学校の図書館なら好きなだけ読めるから入学してから頑張ってね」


「はい、ありがとうございます」


「所で、貰ったお金で何を買うのかな?」


「え、その、判らないんです。

 村だとほとんど物々交換でしたし、お金のやり取りは大人がやってましたから。

 それに欲しいものは大抵は村の備品を借りるか、自分たちで作ったりしていましたね」


「うむ、村から来た子によく有る事ね。

 特別に教えてあげる、魔法学校と寄宿舎の中間辺りに文房具を扱っているお店が有るわ。

 そこで、ノートと筆記具を買うのがお勧めね」


 文房具屋、ああ、案内の時紹介してたあの建物かな?

 勉強に必要な物を全く支給してこなかったので、変だと思ったけど、そういう事か。

 事務員さんが口に手を当てて内緒よ、とポーズを取る。

 私も、子供のように真似て口に人差し指を当ててニッコリと笑う。


 食事を終えた事務員さんが先に席を立つ。


「お話が聞けて良かったです、ありがとうございます」


「こちらこそ。 じゃ、頑張ってね」


 事務員さんの頑張っては、町民や村民から魔術師がほとんど生まれない事を指しているのかな?

 兎も角、欲しい情報が手に入った。

 まず文房具屋かな。 学生ギルトで登録して、依頼内容を確認、採取系があるのなら、森や地形も確認しておきたい。

 あとは、食料品や武器になりそうな物を売っている場所とか、確認しないと。

 入学まで今日を入れて5日あると言っていたけど、時間は足りないくらいだね。






 気を引き締めよう。

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