第13章 入学

第180話 入学「領都コウシャン」

 私、マイはトサホウ王国の王国軍 北方辺境師団 輸送部隊に所属していた時空魔術師だった。

 魔法学校に在籍中に、人員不足から8歳の頃に徴兵されたんだね。

 色々あって、13歳の頃に退役して、コウシャン領の中にあるコウの町で冒険者として生活することになったんだ、魔獣や魔物が現れたりしたけど、概ね平穏な生活を得ることが出来た。


 トサホウ王国で、魔物の氾濫が起きた。

 国内の人口が半減してしまうほどの被害が出たが、500年前に起きた規模に比べれば小さい物だそうだ、500年前は人口が100分の1にまで減ったそうだから。

 100分の1に減った原因は、1000年前から続く国同士の戦争の影響もあったのだろう。

 皮肉なことに、500年前の魔物の氾濫は、覇を競っていた国同士が一致団結して魔物に対応し、統一国家のトサホウ王国が誕生する切っ掛けにもなった。

 この国はそれから500年掛けて緩やかに人口を増やしていたが、今回の魔物の氾濫で再び深刻な人口不足に陥ることになる。


 コウの町でも大規模な魔物の発生、特種と呼ばれる巨大な魔物、そして超上位種、この2種は高い知能を持っていて、魔法も使用する強力な種だった、それに大量の中位種。

 戦える人達は全て戦い、多くの人が死傷した。

 奇跡的にコウの町自体は無傷に守られたが、この時、私は行方不明となり死んだことになった。

 切断された左腕と右足を残して。


 2年が過ぎて、私はダンジョンから生還した。

 意味が判らないと思うけど、私もよく判らない。

 ただ、私の秘密の一つ、時空魔術師が使う収納空間内に自分自身を収納することが影響していると考えられる。

 ダンジョンと魔物の関係は、制御されていない収納空間が現実空間に口を開いた状態がダンジョンで、魔物が存在する空間とも繋がってしまったと推測できる。

 収納空間を制御する存在である私が生きていたので、魔物が発生しなかった、そういう仮定が成り立つ。

 何の確証も無いので、起きたことから辻褄を合わせに過ぎないんだけどね。


 生還した私の体は、14歳の体格から5歳程度の体格にまで幼くなってしまっていた。

 理由は不明だ、推測としては失った左腕と右足の体を再生するために体年齢を巻き戻したとも考えられる、確認する方法が無いので、何とも言えないけど。


 私は、魔物の氾濫の時、特種ジャイアント1体と超上位種アー・オーガ10体を含む、オーガ数千体をほぼ1人で対応し特種と大多数の魔物の討伐をした。

 実際は地形を利用した遅滞戦だったんだけど、記憶が曖昧で戦いの最後の方はほとんど覚えていない。

 そんな実績を作ってしまったので、私は町を守って死んだ英雄として祭り上げられていた。


 私の価値。 英雄というのは置いといて。

 ダンジョンの内部に2年間居て生き延びた、収納空間に入って生還した、欠損した手足を修復した、若返った、大量の上位種の魔物を討伐した、他にも作成指揮をしたとか。

 生きて戻りましたとなったら、支配階級の人達に囲われてしまう危険があった。

 なので、私は周囲の人達の働きかけで別人となることになった。

 コウの町の東側にある、壊滅した村の中で唯一の生き残りの幼女として。

 名前はありきたりな名前ので無理せずそのまま。


 これは、本当に恵まれていると思う。

 本来、領主への報告義務があるはずの視察団、コウシャン領の領軍に所属する遊撃部隊のギムさん達、そして、宿屋タナヤの皆。

 私を匿って、目が覚めるまで面倒を見てくれた。

 それに、戸籍の再編をしている時に、私の戸籍も作ってくれた。

 どれも、発覚したら反逆罪に問われてもおかしくない危険な行為だ。

 返しても返しきれない恩がある。


 でも、コウの町に留まり続けるのは、身元がばれる可能性がある。

 そこで、私は魔法学校に入学することで、別人としての経歴を作ることになった。

 コウの町へ戻ることが出来るのかは判らない、でも私の夢だった魔導師への道が開けた。



 そして、私の乗っている荷馬車が今、領都コウシャンの最外壁が見える所まで来た。

 乗っているのは、コウの町から魔法学校へ入学する5人。

 他の荷馬車には、東の町の子供が乗っているね。

 コウの町から出て、20日前後の日数が過ぎた、この間、そこそこ仲が良くなれたと思う。


「あれが領都なんだね~」


 私と一番仲良くなった? 女の子でナルちゃんが外壁と大きな門を見て呟く。

 ナルちゃんは、私を除く3人の子供の面倒を見るお姉ちゃん的な立ち位置に居る。

 ナルちゃんの声で他の子供たちが来たので私は馬車の後方に移動する。


 コウの町も町としては大きい面積の方だ、元々要塞都市を再利用して造られた町だからね。

 その大きさと比較しても領都は大きい、面積も広いけど住んでいる人口が桁違いらしい。


 領都は、東の商工業国家と王都を結ぶ大きな街道の丁度 中間付近にある都市で、陸上物流の要衝となっている。

 その領都は大きく6つの区画に分けられている。

 東西を結ぶ街道を中心に、北側に領主の館を中心とする貴族区画。北東側と北西側に商業区画、東が比較的 食品物を扱うのに対して、西側は色々な工業製品を扱っている。

 そして、南側は海の方へ向かう街道を中心にした工業区画。

 南東側が農業・畜産区画。

 南西側に学術区画がある。

 それぞれの区画が一つの町として独立して維持できる機能を持っていて、その6区画を囲うように城壁のように立派な壁が囲っている。

 そして、その1区画がコウの町より大きい、広さが想像しきれないな。


 私達の目的地は、南西側にある学術区画となる。

 この区画は色々な学校や研究施設、それに付随する各種教育施設がまとめられている、とのこと。

 魔法学校もその中の1つになる。



 コウの町から東の町を経由した領都への道は、途中から大きな街道に合流して移動している。

 だから、見えてきたのは、領都の西側の門で、その門をくぐると左手に北西側の商業区画と右手に学術区画と言うことになるのかな。


 この辺の情報は、元々領都を中心に活動している視察団の皆さんから聞いていた内容になる、私も見るのは初めてだね。

 左右に広がる外壁の端が見えないよ。



 手順を思い出す。

 まず、貴族街の区画に行って、領都に一時的に住む許可の手続きをする。

 その次に、学術区画に行き、区画内の住民になる許可の手続きをする。

 そして、魔法学校に行って、学校入学のための手続きをする。

 これで、ようやく入学準備に入れるわけだ。


 ギムさん達とは、魔法学校までの付き添いになっている。

 今回に限っては、私達が魔法学校への入校手続きが完了するのを見届けるのも役目だそうだ。

 何時もはコウの町の役員が同行しているのだけど、その人員を振り分けられるだけの余裕が無かったとのこと。

 2年経っても、行政側の混乱は続いているようだ。


 ギムさん達は今回の依頼を最後に、視察団を除隊する。

 領軍内部の政治的な理由で。

 特種の魔物を倒したギムさん達は業績を残しすぎたのだ、元々冒険者から領軍に入ったギムさん達は、正式な領軍に編制されず視察団という名目の遊撃部隊、何でも屋として活動していた。

 しかし、町一つをほぼ無傷で救った功績は大きい。

 更に2年間の間、領内を駆け巡り特種や超上位種の討伐を行い、領民からの認知度も高い。

 ギムさん達の階級を上げない訳には行かない、しかし、領軍上層部はそれを承服できなかった。

 だから、復興支援官なんて名目だけの役職を用意しコウの町へ赴任させたりしていた。

 ギムさん達は見限ったんだ、領軍を。

 そして、コウの町に定住することを選んだ。


 ギムさん達の申し出は、何の問題も無く受理された。

 その事を知った時は、私の中にあった貴族階級の支配層への嫌悪感が更に増した気がする。






 私達が領都の西門をくぐってから、魔法学校の手続きが終わるのに丸2日掛かった。

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