第176話 追憶「2年間」
うん、収納空間内に居たことで、自分自身が瀕死の状態から回復できた。
その可能性は高い。
まさか欠損した手足も復活するとは思わなかったけど。
体が幼くなったのは、欠損した手足を補うために体の全体から補充したから?
検証したいけど、危険が伴いすぎるので無理かな。
話の流れで、私が自分自身を普通に収納出来ることを話さずに終わった。
あと、遠隔視覚も正確に話していないな。
どうしよう、話しても良いんだけど。
「うむ。 マイ君の事は判った、判らないことも判った。
だが、これ以上は推測になってしまう、この辺で良いだろう。
では、この2年間に起きたことを話そう」
ギムさんが話を切り替えた。
うん、話す機会を逸したよ。
「はい、お願いします」
「うむ。 まずは、コウの町に起きた魔物の氾濫からだ。
東の大きな黒い雫から出た魔物はリザード種が中心でドラゴンが出た。
討伐は出来たが、死傷者が多数、それに残った者も疲労が酷く、北のマイ達が居た方への援軍は出来ない状況だった。
コウの町での籠城線を決めたのだ、マイ達を見捨てた形になった、謝罪してもしきれない、どんな言葉も受け入れるつもりだ」
ギムさんが、以前より一回りがたいがしっかりした、その体を折り曲げて頭を下げる。
「ギムさん、その事は、私も他の冒険者と守衛の人達も覚悟していました。
謝る必要はありませんよ。
そうなった時は、倒せる戦力が居るはずの領都の方、辺境師団が居る所へ逃げる手筈になっていました」
「むぅ。 そう言って貰えると助かる。
しかし、辺境師団の所までは遠い、逃げられると考えたのか?」
「コウの町から引き離せれば良かったのと、逃げる方向に他の町や村を巻き込む訳には行かないので。
頼れるのは辺境師団が居る所しかなかったんです、辺境師団は領都に居る可能性が高かったので、逃げ切れるかどうかは関係ありませんでした」
少し、周りの雰囲気が暗くなる。
話を進めよう。
「続きをお願いします」
ギムさんから、コウの町の戦いを聞いた。
巨人の右腕を切り落として、魔力を帯びた左腕も何かして潰し、首を切り落としたのは、驚いた、私がやったのだろうけど、全く覚えていない。
巨人が倒れたことで、好機と捉えて打って出たけど、既に残った魔物の大部分は逃げ去った後だったとのこと。
私の左腕と右足を見つけた、そして私の体を見つけられずに戻ったこと。
そして、生き残りのオーガが北の森の奥に逃げて住み着いてることを聞く。
それ以上に、コウシャン領の他の都市や町村が酷い被害を受けて今も復興に苦労してること。
コウの町は、結果的には戦った人の損耗は大きかったが、それ以外の被害が無く、復興が進んでいるとのこと。
それらの説明を受けた。
で、だ。
「え、私が英雄?」
「うむ。 当然であろう、たった一人でオーガ種を殲滅し巨人・ジャイアントと相打ちになったたのだ、英雄として祭り上げらている」
「すっごい、迷惑なんですが」
「ふふ、マイちゃんらしいわね」
シーテさんが笑う、表情は私から見えないけど、その笑い事じゃないですよ。
私が英雄? 何の冗談ですか。
少し場の雰囲気が和らいだかな。
「うむ。 そうだ、忘れていた。
これを帰しておかなければな」
ギムさんが一振りのショートソードを取り出す。
そう、蒼いショートソードだ。
「あ……」
私は、差し出された短いショートソードを手に取る。
「良いんですか?」
「ああ。 良いも何も、マイの剣だこれからも使ってやってくれ」
さっき話したばかりだ、もしかしたら蒼いショートソードは魔術を増幅する能力があるのかもしれない、それでも、なんの躊躇いも無く渡してくれる。
私は、ギムさんに頭を下げると、蒼いショートソードを胸に抱くようにして収納する。
空っぽだった収納空間に1つ、蒼いショートソードが収納された。
コホン、ブラウンさんが、わざとらしい咳をする。
「それ以外ですが。 今、このトサホウ王国は危うい状況にあります」
へっ?
ブラウンさん、何を言い出すんです。
「今回の魔物の氾濫が、王都の改良されたダンジョンコアに有ることが、ほぼ確実になってね。
王都でも、大量の黒い雫が降ってかなりの被害が出たらしい。
そんななので、各領と王都との関係がギクシャクしている。
今は、辺境師団の抑えが効いた居るのと、まだ魔物の生き残りがあちこちに居るのと、復興するのに忙しいので、直接反旗を起こすような所は出ていないけどね。
いずれ、何処かが力を付けたら、どうなるのか判らない」
「コウシャン領は、早い段階で改良されたダンジョンコアの封印を他の領主と共同で上申していたので、孤立はしていない。
それと、目立って国と対立する気も無いようだ」
ちょっと引いてしまう。
せっかく、統一されて、見かけ上は平和になっているのに。
それが見かけに過ぎないのは、辺境師団に居たのでよく判っている。
何度かの反乱の鎮圧をしているから。
「そうですか。
予想はしていましたが、それ以上に悪い状況ですね。
国王の対応次第では、どうなってしまうのか」
「その国王だが、間もなく第一王子が新王となるらしい。
現状維持に長けた王で有ったが、この非常時に率先して対処している第一王子へ王位を移管するべきだとの声が大きくなってきているからな。
王も無視できないし、好きな変わった物を収拾する余生を過ごしたいのだろうよ」
ジョムさんが、少し毒が有る言い方をする。
聞く人によっては、不敬だと言われかねない、危ない発言だ。
でも誰も何も言わない。
「うむ。 さて、これからのことも話しておこう。
マイ君、君は死んだことになったままだ。
今の君は、我々が壊滅した村から救出した子供で、名前はマイとなっている。
名前はよくある名前なのと、我々が引け目に思っている、と思わせるためだ。
凄惨な状況を見たのか、意識がようやく戻ったが、人に会うのを恐れて、ほとんどの記憶を失っている、という設定だ」
はっ?
またギムさん、またまた何を言い出すんです。
「見た目も、幼くなっていますしね、都合も良かったです。
でも、マイさんの意識はそのままです、このまま生活していればバレる可能性は非常に大きいです。
あと、マイさんの価値です。
ダンジョンの中に入った、収納空間に入った、欠損した手足を復活させた、若返った。
そして、巨人を含む超上位種とオーガの群れをたった一人で討伐した。
マイさんは、今、支配階級にとって、どんな事をしてでも手に入れたいでしょう」
ブラウンさんの言葉で、改めて考える。
そうか、知られている事だけでも、囲い込まれる可能性が高い。
あれ、じゃなんで私は宿屋タナヤでノンビリ居られるのだろう?
「私が生きていることを隠して大丈夫なんですか?」
不安になる、
私を匿うことで、今、この人達を危険にさらしている。
「なに、マイが生きていることは誰も知らない。
俺たちが心の中にしまっておけば良い事だよ」
タナヤさんが言う。
そう言う問題じゃ無い、反逆に取られかねない事なんだよ。
「うむ。 ここに居るのは、マイという名前の、被災者で、英雄マイとは別人である。
そういう事だ」
ギムさんが、まとめた。
全員、納得済みなんだね。
「ありがとうございます」
私は頭を、フミとシーテさんが邪魔で頭だけ下げる。
でも、私がこのまま、コウの町に居ると、バレる可能性があるとブラウンさんが言っていた。
どうしようか?
「マイちゃんには、まずは動けるようにリハビリね、この間は他の人と会うことは無いから大丈夫だと思う。
その後だけどね、領都の魔法学校に行かない?」
シーテさんが、また予想外のことを言った。
フミが体をビクッと動かしたのが判る。
フミも知っているのか。
魔法学校。
魔術師になれる可能性がある素質(魔力量が一定以上)が有る人を集めて、魔術師や魔導師になるように教育する機関。
もう一度、学ぶ機会が来るのか。
複雑だ、魔導師になるために挑戦することが、再び出来る。
だけど、その為には、コウの町を離れて、領都コウシャンに行く必要がある。
最長で5年間。
その後も、領主によって何処に配属して働くのかを決められる。 自由はほぼ無い。
本当にソレで良いのか?
魔導師になりたいという気持ちと、コウの町を離れたくないという気持ちが入り交じる。
魔力量は、時空魔術師だ十分にある。
そして、5歳児に見える容姿だ、入学する資格はあるだろう。
でも……。
「考えさせて下さい」
フミが私の服を握る。
「うむ。 時間は有る、悔いの無い判断をするのだな、その判断を全力で応援しよう」
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