第174話 追憶「ただいま」
マイの主観に戻ります。
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明るい、これは魔法の光かな?
ハッキリ見えない。
何だろう、体に全く力が入らない。
誰かが話し掛けてきている。
声がよく聞こえない。
私は、思考が鈍くなっている頭を何とか回転させようとする。
私?
えっと、私は、私は誰?
……私は、マイ。
北方辺境師団 輸送部隊所属の時空魔術師。
いや、今はただの冒険者で、宿屋の店員。
店員? 宿屋?
宿屋タナヤ。
そうだ宿屋タナヤの店員だ。
頭の中のモヤが少しずつ晴れてくる。
「マイ、マイ!」
「マイちゃん!マイちゃん!」
私を呼ぶ声がハッキリ判る。
フミ! それにシーテさんだ!
「フ・・ミ。 シー・・テ・・さん」
私は、全力で声を出す、上手く声が出ない、もどかしい。
目がようやく慣れてきた。
二人が覗き込んでいるのが、判る。
なんで、ボロボロ涙を流しているのだろう?
フミが私に抱きついて泣いている。
大丈夫だよ。
頭を撫でて安心させたい、でも指一本も動かない。
もどかしい。
シーテさんまで体を震わせて私に覆い被さっている。
重いよ、でも、なんだろ、その重さが二人がここに居ることを感じさせてくれる。
でも、今言わないといけない言葉は自然と浮かんできた。
「ただいま」
■■■■
「あ、あ、あー。 本日は晴天なり。 本日は晴天なり」
えっと、ただの発声練習だからね。
それで、その、現状を受け入れきれずに戸惑っていた。
私が目を覚ましてから、数日が経つ。
フミとシーテさんには、何度も怒られて泣かれて喜ばれて、もみくちゃにされた。
私はそれを全て受け入れた。 嬉しい。
視察団の皆も、タナヤさんもオリウさんも、私の頭を何度もグリグリするので、最後には動かない体を無理矢理よじって、うきゃーとなって、大笑いされて、全くもう。
笑うしか無いじゃない。
今は、ベッドから体を起こすことが出来るようになった。
手も腕も動くが、力が上手く入らない。
足もベッドの中で曲げたり伸ばしたりしているけど、踏ん張りは全く効かない。
改めて思い出す。
私が宿屋タナヤで目を覚ました時、私が巨人と戦ってたから2年と少し経過していた。
その事にまず驚いた。
それ以上に驚いたのが、私がダンジョンの中から出現したというのだ。
何故なのか聞かれたが、私が知りたい。
取り敢えず、体調が回復するまで、安静にするということで、それ以上は聞かれていない。
意識はもう普通に思考できる。
フミが毎朝、私が起きているのか心配になって様子を見に来るが、経緯を聞いていたので、しょうがないと思う。
ダンジョンの中から出てきてから十数日の間、眠り続けていたのだから、また眠ったままになってしまうのではないかと不安なのだろう。
現実逃避はこの辺にしよう。
私は自分の手を見る。
小さい手だ、シーテさんの光属性の魔法で今の私の姿を見せてくれたが、5~6歳児の体格になっている。
何でだ?
10歳近く若返った姿になっている。
あと、髪の毛が腰まで長く伸びている。
うーん、判らない。
それ以上に判らないのが、左腕があることだね。
オーガの超上位種に切り落とされたはずだ、それと、右足も切り落とされた記憶がある。
でも、今、両手両足は普通にあって動かすことが出来る。
2年経った、というのはフミとシーテさんを見て納得した。
フミは女性らしくなったし、シーテさんはより魅力を増している。
2人に特定の男性が居ないのが不思議だ、私が男なら求婚しているよ、2人ともステキな女性だよ。
ん、脱線した。
兎も角、2年というのは短いようで長い時間だったようで、色々と変わっているようだ。
今晩、視察団の皆と、宿屋タナヤの皆で、色々話すことになっている。
私は、覚悟を決めた。
自分の時空魔術師としての能力を全て話すことを。
■■■■
さて、夜です。
私の両脇にはフミとシーテさんがガッシリ腕に抱きついています。
2人の、たわわなたわわが、うー、幼くなって完全に平原となった私の心をえぐります。
泣いて良いですか? いいですよね? 心の中で号泣します。
他の人達は椅子に座って、私のベッドの周りに位置しているので、なんか自分が議長になった感じかな?
「うむ。 マイ君、体の調子はどうかな。
疲れてきたら、次回に回すので、遠慮無く言ってくれ」
「はい、ギムさん。 心遣いありがとうございます。
体力は、大分落ちてしまっているようですが、調子は良いです」
「まず、マイの事から聞きたい。
こちらの情報は多くて、多分色々混乱するだろうからね」
「ブラウンさん、判りました。
えっと、何処から……そうですね、山頂でベテランの冒険者と守衛と分断された所からで、良いでしょうか?」
「分断? 記録では、マイ君が一人残ってジャイアントと呼称している巨人と対峙して、冒険者と守衛を逃がしたとなっているが?」
「いえ、収納爆発を撃つ前に、巨人のジャイアントですか? が、崖を殴ったんです、それで、私が居た所がそのまま崖を滑り落ちて、巨人とオーガ種の群れの前に出てしまったんです。
なので、冒険者と守衛を逃がした積もりは無くて、一緒に逃げようとして失敗したんですね」
「うん、少し齟齬があるようだ、マイが冒険者と守衛と別れて、尾根伝いに移動する所からお願いできるかな?」
「判りました。 尾根伝いに移動したのは、崖を効率よく収納爆発で崩して、オーガの群れを近寄らせない為でした。
夜は攻撃を止めたのは理由は判りませんが、休めましたね。
それから……」
私は、自分の行ったことを全て話した。
あ、自分自身を収納出来ることは、話そびれたかな。
「……それで、巨人と超上位種とオーガ達に囲まれて、その時、以前 偶然出来た切断魔法の様な物を再現できたんです。
えっと、空間断裂を知っていますか?」
シーテさんを除く皆、首を振る。
皆がシーテさんを見る。
「空間断裂というのは、そのまま空間がズレるというのか、そうね。
この果実を空間とすると、こうなるの」
シーテさんが近くにあった果実を風の魔術で綺麗に切る、うわ、簡単にやっているけど精度と制御が凄い高いレベルだよ。
そし、その果実をずらす。
皆は、何となく理解したようだ。
「うむ。 剣の奥義の中に、空間を切ることで此の世の全ての物を切り裂くというのが有るがそれかな?」
「うん、ギム、それで合っているわ。
でも、空間というのは結びつきが強くて、直ぐに元通りになる性質があるの、だから果実を切ったように空間の断裂を維持するというのは難しいわ。
でも、マイちゃんは、それが出来たんだね」
「ええ、正確には、空間の断裂でなくて、収納空間の取り出し口、つまり、別の空間を展開したんです。 厚みの無い刃ですね。
収納空間の出し入れ口を維持するだけなので、ある程度の時間は問題なく維持できます。
それに、多少離れた場所でも展開できるのと、展開自体は魔力消費は少ないので、後半はこれを多用しました。
ただ、何故か剣を発動媒体にしないと上手くイメージ出来なかったんですが。
それに、そもそもですが、なんで発動したのかもよく判っていません」
「なるほど、あの大量の切断されたオーガや岩はそれが原因でしたか。
ジャイアントをも切る威力は凄まじいですね」
「え、巨人を切ったんですか?」
私は驚く。 そこまで威力があっただろうか?
言ったブラウンさんが怪訝な顔をする。
「えっと、途中で超上位種に左腕を切り落とされまして、その辺りから記憶が曖昧です。
軍に居た時の応急処置の要領で、傷口を凍らせたらしいのは覚えているのですけど、その後はどう戦ったのか詳細に思い出せません」
「断片的には、えっと。
あ、ギムさんから貰った蒼いショートソード、あれで切断したら凄い威力が出ました。
理由は判りませんが、蒼いショートソードが魔術を増加させてくれたのかも?
巨人が切れたのは、蒼いショートソードのおかげでしょうか?」
「後は、目が潰されて、見えなくなったので、魔術で周囲を探知しながら動いて。
えと、戦っていたら右足が切り落とされて、巨人が魔法を使ったんだったかな?」
「気が付いたら、岩の上で動けなくなっていました。
で、多分ですが自分自身を自分の収納空間に収納したんだと思います。
覚えているのはそこまでですね」
「その後は、この部屋で目を覚ますまで、記憶はありません。
ない……、はずなんですが、魔力を感じたり呼びかける声が聞こえたりした気がしますが、何でしょう?」
私は、思い出すことに意識を集中して、思い出したことを、断片的だが話した。
話し終わって、検証しないといけない事が沢山あるなぁと思って顔を上げる。
あ。
フミとシーテさんは私の肩に顔を当てて声も無く泣いている。
オリウさんは床にうずくまってしまって、タナヤさんが介抱している。
ハリスさんも祈りの体制のまま泣いてる。
ギムさん、ジョムさん、ブラウンさんは、苦悶の表情だ。
思い返ししてみれば、自己犠牲の様な行動だった。
「その、何とか助かるために戦った結果なので、自己犠牲とはそんなつもりはありませんでした。
私が未熟だったので、逃げ時を失した結果ですね」
フミが堪えきれずに泣き出す、シーテさんもだ。
私を抱きしめる力が強くなる。
私が必死に、弁明するが、結果は。
「うむ。 その結果として、マイ君は巨人・ジャイアントと相打ちになって死んだことになった」
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