第172話 追憶「招来」
夕方。
ギム達が泊まっている部屋に、視察団と宿屋タナヤのタナヤさん、オリウさん、フミちゃんの8人が集合している。
唯一、新しく店員となった女性は帰宅している。
「で、協力して欲しい事ってなんだい?
勿体振らなくたって、大抵の事なら大丈夫だよ」
「うむ。 宿屋タナヤの皆は信頼しているが、件は我々視察団の独断での行いである。
その上で箝口令を受諾した上で協力してもらいたい」
「そんなの無茶だろ、正規の行動じゃ無いのに協力しろというのは、納得できないが」
ギムの言葉に、タナヤさんが反論する。
当然だ、独断行動はある意味、反逆行為とも取れる、それを明らかにした上での箝口令、口封じを要求している。
「お願い。
たぶん、この町で頼れるのは皆さんだけなの」
私は、テーブルに頭を着けるぐらい頭を下げる。
気がつくと、視察団全員が頭を下げていた。
「そこまでされたら……
判った、皆も良いな。
これからの事は死んでも誰にも話すなよ」
タナヤさんが受け入れてくれた。
オリウさんもフミちゃんも頷く。
「うむ。 感謝する。
シーテ、彼女を」
ギムが改めて感謝の礼をすると、私にマイを連れてくるように指示する。
その言葉に、タナヤさんたちは何だと顔を見合わせている。
私は、寝室に寝かしているマイをしっかり抱えて部屋に戻る。
タナヤさん、オリウさん、フミちゃんが驚くのが判る。
そして、やっぱりフミちゃんは気がついた。
「もしかして、もしかしなくても、マイなの?」
フミちゃんが駆け寄ってて、顔をのぞき込む。
幼い顔立ちのマイの寝顔を見て、確信する。
「マ、マイ……マイ……よかった、生きてた」
「本当にマイなのか、この幼児が?
そっくりだけど」
「ああ、マイの妹と言われた方が納得できるけどね。
でも、マイなんだね」
3人に囲まれている。
フミちゃんはマイである事を確信している。
私のように魔力で確認したわけじゃ無いのに、本当にマイの事を大切に思っていたんだな。
「シーテさん、マイは目を覚まさないんですか?」
フミちゃんが聞いてくる。
けど、その前に話さないと。
「うむ。 まずは、こうなった経緯を説明しよう。
その上で、マイ君の目を覚まさせるための方法を検討したい」
ギムの言葉に、タナヤさん、オリウさん、フミちゃんは頷いた。
そして、私達が知っている限りの事を話した、といっても大した情報は無いけど。
それよりも、今のマイの置かれている立場の方がショックだったらしい。
私達が別人として仕立て上げる案を検討していることに動揺していた。
「まずはマイさんが目覚めないことには、どうしようもないのですよ。
ですので、今は彼女を目覚めるまで匿う方向で考えています、良いでしょうか?」
「ああ、もちろん構わない。
しかし、一体何時目が覚めるのですか?」
タナヤさんの疑問はもっともだ、それに対して明確に応えることは出来ない。
「マイちゃんがダンジョンから現れた時、私が探索魔術でマイちゃんを探していました。
こちらから、マイちゃんへ探索魔術をかけることで目が覚める可能性があります。
でも、私の感ですが、呼びかける事も必要だと思います」
私が、フミちゃんに向かって言う。
そうだ、マイちゃんを目覚めさせるための最後の一押しはフミちゃんだろう。
フミちゃんは頷く。
「うん、目が覚めるまで呼びかけます」
■■■■
それから、朝昼晩の3回、マイちゃんへの食事に栄養価の高いスープ。
私の探索魔術とフミちゃんの呼びかけが始まった。
どれ位掛かるのか、全く判らない、もしかして一生このまま?
という不安も心の片隅にある。
「マイ、起きて、ね、朝だよ?」
フミちゃんの呼びかけは、目覚めを促す物だった。
それが10日も経つと、変わってきた。
「でね、マイ、今日のスープは私が作った自信作なんだ。
野菜を滑らかになるまですり潰してね……」
今日あった事、自分の経験したこと、そんなことを語りかけるようになった。
フミちゃんも、だんだん焦燥感が溜まってきたいるのだろうか、マイの体を揺すったりすることが増えてきた。
少し時間を空けた方が良いかも。
そう思っていた時。
「フミ……」
マイちゃんが喋った。
この瞬間、私とフミちゃんは抱き合って喜んだ。
反応があった、効果はあったんだ。
その日を堺に、マイちゃんは体を動かすようになった。
何と例えれば良いのか、まるでチョウチョがサナギを割ろうともがいているようにも感じる。
そして、更に5日が過ぎた夜。
私が探索魔術をマイちゃんにかけた時、その魔術に反応して探索魔術が帰ってきた。
マイちゃんが私を探している!
マイちゃんの体が身じろぎする。
「マイ! シーテさんだよ! 判る?」
フミちゃんが語りかける、私は更に強めにマイちゃんへ探索魔術をかけた。
しぱらくしてマイちゃんが動かなくなる。
今日は駄目かな? そう思った時。
マイの目がゆっくり開いた!
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