第171話 追憶「隠匿幼女」
とんでもないことが起きた。
コウの町から北北東に広がる山の後、巨人・ジャイアントとオーガ種の戦いの跡。
マイが死んだと思っていたその場所に出来たダンジョン。
そのダンジョンが消滅した時、幼女が現れた。
マイそっくりの。
その幼女は、私、シーテの腕の中で、静かに眠っている。
ギムの指示でハリスが浄化魔法を行使するが、少し光り何の反応も無い。
これは、ダンジョンの影響を受けていない証拠だ。
「うむ。 シーテ、この幼女はマイで間違いないのか?
見た目の年齢が、体格が違いすぎるのだが」
「マイで違いないわ、ギム。
魔力がマイのと全く同じ、ここまで同じ事はほぼあり得ないわ。
それに、マイを幼くしたらこんな感じでしょ」
「はい、確かにマイさんを幼くした感じですね。
では、なんで幼くなっているのでしょう?」
「そんなの、判らないわよ。
ただ、マイが生きていた、それで良いじゃない」
ハリスの言葉に強めに反論してしまう。
その様子をギムが腕を組んで考え込む。
そして、おもむろに指示を出した。
「うむ。 シーテ。
後で、ダンジョン跡を元通り岩で塞いだようにして置いてくれ。
ダンジョンが消滅したことは、箝口令を敷く。
マイとおぼしき幼女の事も隠す」
「それは何故です、ギム?」
訝しがるブラウン。
証拠隠滅しようとする行動が読めない。
「まず。 この子はマイと仮定する。
ならば、生きていることが知られたらどうなるか?
2年間、ダンジョンの中に居たこと、若返ったこと、そして何より、巨人をも倒す力を持っていること。
これらを知って、上の連中はどう動くか、想像に難くない」
「だな。
ダンジョンが消滅したら俺たちがコウの町に居る理由が減ってしまうしな」
ジョムが言う。
そうだ、視察団のチームがコウの町に居る理由の一つが、消滅せず魔物を生み出さない謎のダンジョンの監視も含まれている。
そして今、マイ、この幼女には幾つもの可能性が秘められている。
若返り、手足の欠損の修復、ダンジョンの中に入る、そして、巨人をも簡単に倒す強力な魔術。
権力者が喉から手が出るほどに欲しがる物ばかりだ。
「うむ。 そうだ、兎に角、この子が目を覚ましてからだ、それまでは全てを隠匿する。
異論のある者は居るか?」
全員が首を振り異論の無いことを示す。
マイを離したくはなかったが、ハリスに預けて、私はダンジョンの跡を元の塞いでいる時のように土属性の魔術で岩を入念に貼り付けた。
もちろん、戻ってきてからは、私がマイを抱きしめる。
生きてる、小さい鼓動と寝息が生きていることを私に確信させる。
諦めかけていた、でも諦められなかった事が、今、ここにある。
「と、なると、宿屋タナヤも巻き込みますか?
今、安全に匿まえる場所はあそこしかありませんから」
「ああ。 そうするしかないな。
大丈夫だとは思うが、視察団権限で箝口令を命令する。
命令することで、責任は私にあることになる」
フミはマイが戻ったら喜ぶだろう、そしてこの姿の事を知りたがるかだろうし、マイと縁の深い人には話したくなる。
マイの安全を考えると、それはよくない。
いや、私たちやマイの力の可能性を知る者の安全が保証できない。
権力者が囲い込み情報の独占を目論む可能性は無いとはいえない。
「でも、ギム。
何時までも匿い続けるの?
たとえば、何処かの村の生き残りに仕立て上げるとか」
「ええ、シーテの意見に同意です、他人にするのが順当でしょう。
戸籍の再編成を始めるように通達が来ましたから、それに便乗しましょう。
コウの町でも魔物によって壊滅したか放棄した村が幾つかあります、適当なところを見繕いましょう」
私の意見にブラウンが乗っかってた。
視察団として復興支援官として、書類関係の仕事は多い。
当然だけど、戸籍を遺失してしまった村の生存者の確認は行われている最中だ。
2年も経って、と思うが、まずは生活できるように復興するのが最優先だった。
コウの町とその周辺の村々でも2年掛かった、他の魔物の被害が大きい地域では、住民の移動と再編成から初めて、今も戸籍管理まで手が回っていないところが多い。
「うむ。 それで行こう。
明日、コウの町に戻るが、見つからないように注意してくれ」
「わかった。
馬車の御者も俺がやろう」
ジョムが馬車を視察団が借り切る方向で動く提案をする。
打ち合わせを済ませると、何時もの手順で男子に夜番をお願いして寝た。
私はマイを抱きしめて、寝る。
離すと何処かに消えていなくなりそうで不安だ。
胸の中の温もりを大切に抱きしめた。
■■■■
翌日。
コウの町から交代の冒険者を乗せた小型の馬車が3台やってた。
そのうち1台の馬車を視察団が借り受けてコウの町へ移動する。
名目としてては、オーガ・オークの討伐に関する報告をするため、急ぎたいということだ。
本来の目的なので不審がられることは無い。
御者は疲れているだろうからと下ろした。
コウの町から第一拠点は比較的近いので疲れていないと言われたが、やや強行に決めた。
マイは、ジョムの大楯の陰に隠している。
本当は私が抱いていたいのだけど、そうもいかない。
マイは目を覚まさない。
コウの町に北の門から入る、宿屋タナヤまで馬車で移動する。
私とジョム、ハリスがマイと一緒に降り、ギムとブラウンが馬車でそのまま報告に向かった。
「あ、シーテさん、ジョムさん、ハリスさんもお帰り。
ギムさんとブラウンさんは?」
「あ、オリウさん2人は報告に。
それと、今日は他に泊まってる?」
「え、ああ、今はあんたらだけだけどね、何かあったのかい?」
「ええ、協力してもらいたいの。
3人で部屋に来てくれもられる?
ギムとブラウンが戻ってたら説明するわ」
「ああ、判ったよ」
私たちは、マイを隠して部屋に移動する。
寝室の一番奥に寝かせる。
「シーテさん、マイは目が覚めるでしょうか?」
「ハリス、それには少し考えがあるの。
とにかく全員がそろってからね」
私は、ダンジョンの探索魔術を行使したことを思い出した。
おそらく、マイは魔力の刺激を与えれば覚醒する可能性はある、だけど、それだけだと不安がある、もう一押しの力が必要だ。
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