第170話 追憶「第一拠点」

 第二拠点まで戻り野営をする。


「うむ。 皆、良い動きであったな。

 作戦の有用性、特に罠などで相手の攻撃手段を奪う重要性を理解したかと思う。

 今後は、皆で戦っていくことになるが、アー・オーガのような超上位種には手を出さないように。

 我々でも1体に全力で当たる必要があった」


「しかし、ギムさんよ。

 マイは、その超上位種を10体も倒したんだろ?

 どうやったんだ」


「判っている限り、仲間割れが2体。

 崖崩れに巻き込んで倒したのが3体。

 そして、残りの5体は不明だ。

 とはいえ、地形や相手の行動を逆手に取っていたのは間違いない」


 ギムは、答えながら、不明のうち3体が一刀の元、切り倒されている事を思い出す。

 あれは、マイの力では出来ないはずのことだ、何があったのか気にはなる。

 そして残り2体は逃亡したと思われている。


「尾根伝いに崖崩れを起こしてか、収納爆発があったとしても、かなり難しいだろうな」


「ええ、それに巨人・ジャイアントは、最後の直前までまともに戦っていませんでした。

 それだけ、脅威には映らなかったのでしょう」


 冒険者の言葉に、ブラウンが補足する。

 数千のオーガ、オークが居たのだ、しかも相手は1人。

 油断したのだろうか、油断するだけの知能があるのが幸いとなったのか。

 ドラゴンの事も思い出す、ジャイアントもそうだが積極的に動こうとはしなかった、何か理由があるのか?


「シーテさん、マイは凄い強い魔術師だったんだね」


 私は、冒険者のその言葉に少し苛立つ。


「あの子は自分の弱さを時空魔術師なんて非戦闘職なのを知っていて、それでも工夫と努力を重ねで戦って来たの。

 凄い、のかもしれないけど、強い魔術師じゃないわ」


 あの子の努力をただ、凄い、の一言で済ませてしまうのに抵抗があった。

 冒険者達は黙り込む。

 2年もたった今でも多くの人は、あの小柄な少女が巨人とオーガの大群を倒したとは信じられずに居る。


「うむ。 皆、今日は早く休んで、明日の移動に備えてくれ」


 ギムが、話を切り上げる。

 今回参加した冒険者達は疲れ切っているので、夜番は私達が行った。



 翌日、交代の冒険者が来たので、第2拠点を引き継ぎ、第一拠点へ移動する。

 交代の冒険者は、オーガ・オークを討伐した冒険者達に戦果を聞いて興奮しているようだ。

 町に戻ったら詳しい話をすると、約束をしていた。

 交代の人数が多いのは、冒険者の応援のためもしくは、倒した魔物の処理のためとのこと。

 数日掛けて複数の冒険者たちと魔物の死体を処理する。


 第一拠点への移動中も、油断無く索敵魔術を行使していたが、反応は出ていない。

 冒険者達も周囲の警戒を怠らないし、人任せにしていないのは生き残ってきた経験から来ているのかな。


 第一拠点へ着くと、今後の予定を話し合う。

 疲れた冒険者達は馬車でそのままコウの町へ戻ることになった。

 馬車を全て使ってしまうので、私達、視察団のチームはここでもう一泊する。

 結果として、第一拠点には視察団だけになるが何も問題が無い。


 ついでだ、あの北のダンジョンについてもしっかり調べておこうか。

 厳重に封印したダンジョンの入口に行く。

 厚さは2メートルを超える岩で塞いだので、正直、守衞が耳を当てて判る頃には中の魔物は相当数になっているはずだ。


 視察団のメンバー全員でダンジョンの前に行く。

 私一人でも十分だったんだけど、念のためというのか、皆やることが無くて暇なだけか。


 探索魔術を行使する。

 うん、ダンジョンの反応はある、けどダンジョンコアの反応が無い。

 魔物の反応もダンジョンの中に向けて行使した探索範囲の中では無い。

 そして習慣でマイの魔力の反応を意識して周囲に展開する。


 自分でも煮え切らないと思う。 いい加減諦めたらどうかとも思う。

 けど、心の何処かに引っかかったままだ。


 恐らくそれは、マイの死体を確認出来なかったからなんだと思う。


 !


 マイの魔力反応があった。

 何で? 何処?

 私は慌てる。


「シーテ、どうしたのか?」


 ジョムが聞いてくるが無視だ。

 マイの魔力に特化した索敵魔術を今度は、方向を絞りながら探る。

 ダンジョンだ。

 ダンジョンから、マイの魔力反応がある。

 どういうことだ?

 来る時にも確認していた、その時には反応が無かったはずだ。


 探索魔術を更に絞って詳しい位置を調べようとする。


 バキッ!

 シューーー


「ダンジョンを塞いだ岩にヒビが?

 なにか風が吹き出しています」


 丁度近くに居た、ハリスがいう。

 私の探索魔術の後、浄化魔法を使う予定でダンジョンの側に居たのか。


 ダンジョンを塞いでいた岩の隙間にヒビが広がり、風が吹き出す量が増える。

 ……あ!


「ギム! ダンジョンが消滅しようとしている。

 岩を取り除くわ」


 土属性の魔術で、塞いでいた岩を取り除く。

 マイから聞いている、資料にもあった、ダンジョンがダンジョンコアを失った時、暫くすると中の空気を押し出して、消滅する。


 吹き出てくる風の量がどんどん増えていく。


 ブォーー


 ボフン!

 ボテ


 ダンジョンが消えた。

 そして、その前に何かが落ちた。 ボロボロ軍服の塊のようだ。

 ダンジョンの中にあった物の残りか?


 いや、目の前からマイの魔力反応がある。

 私は、駆け寄って、その塊を抱き上げる。


「シーテ、迂闊に触るのは危険です!」


「マイよ!」


 ブラウンの指摘に私は確信を持って反論する。

 みな驚愕する。


 しかし、その塊は小さい。

 抱え上げると、5~6歳の少女が居た。

 その面影は、マイそのものだ。

 しかし、両腕両足がある、どういうことだろう?


「兎に角、火の所へ戻りましょう」


 ハリスが提案し、移動する。


 この腕の中の少女は本当にマイなのか?

 私は、不思議な確信があった。






 マイが帰ってきた。

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