第169話 追憶「オーガ討伐」
私は、宿屋タナヤの自室で一人装備を確認しながら思いにふける。
この部屋も大分馴染んで来た。
復興支援官という閑職に回された。
別にそれは構わない。
むしろ、暫く休みたいと思っていた、その場所としてコウの町を提案された時は感謝したくらいだ。
町は、あの魔物の氾濫の戦いがあったことすら忘れているように振る舞っている。
もっとも、町の外の各所には傷跡がまだ残っているけど。
フミちゃんは大人になった。
これからは一人の女性として扱う必要があるかな?
ただ、特定の男性が居ないのは、少し異例だ。 まぁ、戦いで多くの男性が死んだ。
今、コウの町は男女比は特に若い女性の方が多いので仕方が無いかな。
マイちゃんに関しては、関わった人以外にはもう過去の人となっている。
少し寂しいが、下手に敬われるよりはマイも気楽で良いのだろう。
さて。
視察団の私達がコウの町での最初の仕事として、北北東のオーガの集落を発見し討伐することが決まった。
ただ、町から距離が離れている。
その為に、2つの拠点が用意されることになった。
1つは、マイの最後の場所の近くにある池の周りに作られている休息所を第一拠点とする。
2つめは、斥候が見つけた湧水のある場所を切り開いて第二拠点を構築する。
この第二拠点は既に作り始めている、ここまでは最終的に小型の馬車が通れるようにする予定だ。
これは、森に逃げたオーガの群れがそれなりに多いと推測されているため、長期的に活動するための拠点。
そして、今後、深い森へ入る冒険者の為の恒久的な拠点としても期待されている。
その第二拠点を中心に森の中を探索する。
斥候と探索が得意な冒険者達がすでに動いている。
私達は発見されたオーガの集落を駆逐する。
やることは今までとたいして変わらない、な。
装備の点検を終える。
これから暫くは森の中での生活だ、最初のオーガの集落は見つかったとの情報は入っている。
オーガの脅威がどの程度なのか、コウの町の冒険者達は知らない。
オーガは、別の町を占拠したオーガ種の集団を領軍と共同で倒したことがある。
その脅威は、とても侮れる相手ではない。
魔物との戦いになれていない冒険者達への教育と経験をさせるのも目的になっている。
視察団としてオーガと戦った、その強さに驚いた。
特にオーガを指揮してい超上位種のアー・オーガの強さは別格だった。
武装し知識もありオーガを指揮して襲いかかってるのは、ちょっとした軍隊と戦っている感じだった。
そのアー・オーガを10体も相手にして、たった一人で戦ったマイは無茶だし、無謀だし、そして勝ってしまったのは凄いと思う。
死んでしまったのでは何にもならないけど。
私は、立って部屋を出る。
マイが守ったこの町を守る為に。
■■■■
北の森、コウの町から北に広がる広大な森は、幾つかの山を含む人の手が入っていない未開の地だ。
その森の中を第一拠点から歩いて第二拠点に向かって歩いている。
まだ、馬車が通れるほどに整備されていない、かろうじて野道といえる程度の道だ。
今、視察団は5人になっている。
コウの町を出発する直前にハリスが合流してきた。
ハリスは聖属性の魔術師となっていた。
馬鹿じゃないかと皆から弄られた。
だって、聖属性の魔術師となれば領都の教会でかなり高い地位にいることが出来る。
そして多くの人々を癒やすことも出来る。
なのに、視察団のチームに戻ってきたんだから当然だ。
皆で、歓迎した。
途中、第一拠点で、マイの最後の場所に視察団のチーム全員で集まった。
ハリスは、マイの魂の安堵を願う。
ハリスは特別何かの神を信仰しているわけじゃない、本人曰く、この世界こそが神だ、とのこと。
よく判らない。
ただ、私は強くなった今の力でも、あの時のマイの助けにはならなかったのだと、自分の力のなさを痛感しただけだった。
翌日、丸1日掛けて徒歩で移動して第二拠点に着く。
といっても最低限の野営場所が湧き水がある池の側に作られているだけだ。
斥候の人達と、今回一緒に戦う冒険者達と打合せをする。
クルキさんたちのチームが居れば心強かったが、クルキと奥さんは冒険者を引退したそうだ。
今は、シグルさんがリーダーでクルキの息子のオルキともう一人の魔法使いが加わって、経験を積むために難易度の低い依頼をこなしている。
クルキさんは、コウの町で武器屋を営むそうだ、というのか、オルキさんの奥さんが武器屋の一人娘で、オルキさんは入り婿になっている。
そのお店をクルキさん夫婦が奥さんを支えて経営している。
オルキさんと奥さんは、元々お客と店員の中で親しくなって行ったのが、奥さんの両親が流行病で亡くなったのを契機に支えるために入り婿に成ったらしい。
今居る冒険者たちも中堅所とのこと、東の大きな黒い雫の戦いで生き残った中から自然に集まって出来たチームらしい。
それぞれが大切な人や親しい人を無くしている。
そういう人が集まった少し危うい感じがする。
オーガの集落は、アー・オーガは居ないとの報告を斥候から貰った。
超上位種が居たら体制を組み直す必要があった。
オーガ数体とオークのみの集団で30体程度。
侮れない数だ。
こちらは、私達5人と冒険者チーム4つの23人、6人チームが3つと5人チームが1つ。
人数差もあるが、オーク1体でもこの人員だと1チームで掛からないといけない。
幾つかの作戦が提案される。
持久策。
少しずつオークを削っていき、十分に人数差が出来た所で一気に討伐。
この方法は、途中で気が付かれてバラバラに逃げられると手の打ちようが無い。
強攻策。
視察団のチームがオーガを強襲、オーガを倒す間、オークを他の冒険者が抑えて、オーガが倒され次第、視察団と協力して倒していく。
この方法は、冒険者の経験にならないし損耗の危険が大きい、それにやはりオーガの討伐に時間が掛かればオークが逃げ出す危険が大きい。
罠にはめる、または、逃げ道のない場所に追い込む。
都合の良い場所がない。
起伏はあるが誘い込めるほどの場所が無いし、誘導する手段も無い。
この辺りは、地下水が豊富なため、地面が柔らかい、落とし穴も作り難い。
柔らかい?
ああそうだ、マイだったら其の手を使うよね。
私が提案した強攻策が採択された。
■■■■
数日後、私達の目の前には、オーガとオークの集落が見える。
驚いたことに、簡易的な家が作られている。
それに、火も使っている。
監視しているオークも居る。
知性が其相応に高い事を示している。
観察する、子供が居ない、また妊娠している個体も居ない。
オーガとオークを解剖して、少なくても動物のように子供を増やす仕組みが体の中に無いのは判っている。
しかし、なんらかの方法で繁殖していることは考えられているが、確認されたことは無い。
ここの集落でも若い個体が見つからない。
疑問には思うけど、増えないのなら良いことだ。
監視しているオークに近づき、土属性と水属性それに風属性の魔術を行使する。
足元が泥になって、前のめりに倒れる。顔に泥を貼り付けさせて、声を止める。
土を固めて動けなくする。
冒険者達が、素早く近づいて首を落とす。
うん、使用した魔力も少ないし連携も問題ない。
冒険者の威力が不足しているけど数で補っている。
周辺の監視していたオークをを倒し、更に交代に来たオークも数体倒す。
10体近いオークを倒した所で、オーガが異変に気が付いたようだ。
オークを集めて、自分を中心に円陣を組む。
待っていたわ、この時を。
私は、多くの魔力を使用して地面を泥にして、範囲ごとオーガとオークを沈める。
流石に全身とは行かないけど、下半身を地面に沈めて固めた。
冒険者達が攻撃にはいる、視察団は様子見だ。
ハリスの聖属性魔術の浄化が効果があるのだが今回はあえて使用していない。
オーガが武器を振り回そうとして、オークが邪魔で攻撃できないでいる。
私が立てた策は、これだ。
オークをオーガの周りで動けなくしてオーガの攻撃を封じる策だ。
軟らかい土は、土属性で操作範囲を固定して、水属性で周囲の水を集め泥状にする、そこに風属性で大量の空気を含ませる。
そうすると、土が水のようになる、マイは液状化と言っていた。
そして、そこから空気を抜くととたんに固い泥になる。
そう、この攻撃手段は、マイと一緒に考えた罠の一つだ。
オーガはついに周囲のオークを気にせずに攻撃しだした。
オークの頭が吹き飛ばされている、近づけない。
といっても、2体のオーガだ、囲まれて矢と槍で武器を落とされ、素手になる。
オークが全て討伐される。
いや、狩りの出てきたオークが数体戻ってきたが、私達が倒しておく。
オーガを倒すのは、流石に冒険者では難しかったか、手こずっている。
「うむ。 手を貸すか」
ギムが言うと、大剣を無造作に抜く、オーガに近寄り、片腕を切り落としていく。
ギムはこの2年で多くのオーガ種を倒している、少し過剰なほど。
その気持ちは判らなくも無い、八つ当たりだけどね。
片腕を失ったオーガは固いだけの魔物だ、暫くして討伐が完了する。
冒険者達は、全員疲労していたが、特に目立った怪我も無い。
今回の戦いが、策が巧を成したもので有ることを冒険者達に講釈する。
オーク、オーガの力が人間を圧倒していることも、体表の堅さも安全に体験させることが出来た。
そして、安全に勝てる状況を用意することの必要性も。
参加した冒険者達は、私達の言葉を受け止め、狩人に罠の作り方とか、地形を利用した戦い方とはお互いに意見を交わし始めている。
良い傾向だ。
こうして、私達のオーガの集落の殲滅は、終わった。
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