第161話 戦「舞」
私、マイに新しい攻撃魔術が出来た、収納空間を現実空間に接続する時に発生する空間の境界を利用した切断、時空断かな?
まだ検証が足りないし、偶然から身に付けた方法だ、仕組みも能力も把握できていない。
でもね、数百のオーガに囲まれた中で、戦って生き残れる希望が出来たんだよ。
これを何と表現したら良いんだろう。
オオオ
巨人が指示を出す。
多分、この時空断の欠点を看破した可能性が高い。
そう、ある程度の範囲はあるが1度に一カ所しか攻撃できない。
であるなら、攻撃方法は単純だ。
上位種と中位種のオーガが、一斉に襲いかかってきた。
うん、強力な攻撃でも単発なら、損耗を気にしなければ物量で押しつぶしてしまえば良い、簡単な理屈だ。
まずいなぁ。
高揚した感覚の中、危機意識も薄れている。
時空断を振るう、それだけじゃ無い、風の属性魔術で移動速度を上げて、オーガの懐に飛び込み収納爆発を行う。
接近しても、しなくても切り刻んでいくよ。
オーガが殺到する中、風の魔術で体を空に打ち出す。
見下ろしたオーガ達を時空断で切り刻む。
着地地点を確認しながら、舞う。
なんだろう、何時間でも戦い続けられそうだ。
ザク
あれ? 何だろう。
私の左肩に巨大な金属の壁がある。
振り返ると、超上位種のオーガが巨大な剣を持って振り下ろしていた所だ。
ニタリと笑う、オーガの笑い方って一緒なのかな?
そうか、超上位種のオーガは気配を消す隠密行動の能力もあるらしかったんだっけ?
「あああああ」
そして、遅れて痛みがやってくる。
左腕が切り落とされた、とっさに水の魔術で肩を覆い凍らせた。
これは、出血を抑えるのと、冷やして痛覚を鈍くさせる効果を期待した物で、戦場では傷口の洗浄と同時に、凍らせて出血を一時的に抑えていた。
当時の私だと大きな傷は無理だったけど、シーテさんの指導を受けた今ではこれ位は出来る。
先ほどまであった万能感が急激に薄れてくる。
体が冷えて、焦りが生まれる。
慌てて、右手に持ったショートソードを振り、超上位種のオーガを切る。
すっかり余裕になっていたオーガを近距離から、下から上に袈裟懸けに切った。
超上位種のオーガは表情も変えず両断されて死んだ、これで残り6体? 判らない。
パキン
持っていた最後の普通のショートソードが砕けた。
魔力的な付与効果でもあったのか、付加に耐えきれずに壊れたのだろうか。
ショートソードが砕けたのを見て、上位種と中位種のオーガが一気に襲いかかってきた。
足元に収納爆発を起こし、同時に風の魔術で体を後ろの崖に向けて飛ばす。
空中でほとんど無意識に、収納空間の中に死蔵していた、廃棄予定の剣を利用して収納爆発で打ち出す。
剣が刺さり叫ぶオーガ達。
「ぐふっ」
崖に背中を打ち付ける。
灰の空気が押し出されて一瞬意識が遠のく。
口から血を吐く、何処かを切ったか。
腕が無くなった性なのか、クラクラする。
まだだ。
私は、最後のショートソードを取り出した。
ギムさんから譲り受けた、蒼いショートソード。
その蒼いショートソードでオーガ達を見ながら切る。
目の前一帯に居た全てのオーガが切り刻まれた。
凄まじい威力だ。
蒼いショートソードの能力なのかな。
ヒュン
何かが飛んできた。
で顔に当たる。
その反動で頭が崖に打ち付けられる。
「ああっ?」
何だ? 目が開けられない、何かドロッとしたものだ。
目の中に入ってしまっている。
目を潰したことで、私の動きが止まる。
ショートソードを闇雲に動かしているのを見て、勝利を確信したのだろう、オーガ達が笑い声を上げる。
もう駄目なのか? いやあるじゃないか。
遠隔視覚を自分を起点に起動させる。
全方位が脳の中に映像として見える。
どうやら、死んだオーガの死体から出る血? 体液を振り回して私にかけたらしい。
でも、私の”目”はまだ生きているんだよ。
無防備に近づいてきたオーガ達を私は時空断で切る。
当然、恐慌に陥る。
「くふ、あははははは、全部切るよ!」
再び意識が高揚してくる。
魔力の使いすぎでの頭痛がしてくるが、そんなの気にしない。
思考能力も落ちているのか? まあ、いいや。
さあ、殺戮だ。
■■■■
南東の崖を賭け落ちて来たベテランの冒険者と守衛達。
15人のうち今残ったのは5人だ。
残りは崩れた岩にぶつかったりヒビ割れた地面の中に落ちたりしていって生死は不明だ。
必死に走る、息が上がり、大した速度は出ていないがそれでも走る。
森が開けて、息を呑む。
東側の大きな黒い雫から出た魔物との戦いの後だ。
巨大なドラゴンも見える。
大量のリザード種の死骸が魔石を取っただけで放置されている。
そして並べられた冒険者と守衛の遺体を馬車に乗せている。
その作業をするのは、役所の職員か?
「君たちはどこから来たんだ?」
作業していた一人が聞いてくる。
息が上がり、まともにしゃべれない、そのままその場に崩れ落ちる。
ただ事じゃないことに気が付いた職員が水を持ってきて飲ませる。
「ゆっくりで良い、何があったのか教えてくれ」
「俺たちは、北の巨大な黒い雫の魔物の相手をしていた者だ、オーガが来る!
冒険者は居ないのか?」
「何だって! 冒険者は若いのが護衛で来ているだけだ、オーガの相手なんか無理だぞ」
「くそ、じゃ全員をコウの町へ避難させろ」
「わ、判った、が、いつ頃オーガは来るんだ?」
「え、直ぐに来てもおかしくないのだが」
ようやく、自分たちの後ろの森が静かなことに気が付く。
オーガの群れが来る気配が無い。
「どういうことだ?
あれほど居たオーガが1体も此方に来ていない」
「斥候を出そう。
それと、今も山の方から戦闘音が聞こえてきているぞ、戦っていたんじゃないのか?」
今も戦っている?
誰だ、いやマイしか居ない。
でもどうやって?
「頂上で、マイ達と戦って、オーガに囲まれそうになったんで、こっちに逃げてきたんだ。
でも、何でマイが残っているんだ?」
予定では、マイが収納爆発をしてその混乱に乗じて逃げるはずだ、なのに何でだ。
あの崖崩れはマイの収納爆発じゃないのか?
「こっちからでも見えたが、巨人が崖を殴ったんだ、凄い音がして頂上から下が崩れたんだよ。
マイが崩したんじゃ無いのか。
そしてマイは今も戦っている、くそっ。
「情報をコウの町へ伝えてくれ、今ならオーガを何とか出来るかもしれない」
「いや、あんた達が伝えてくれ、馬車一つを使ってくれ」
指示を出して、5人のベテランの冒険者と守衛はコウの町へ帰還する。
疲れ果てて、手を貸して貰わないと馬車に乗ることも出来ない。
「結局、俺たちは嬢ちゃんの何の役に立ったんだろうな?」
ポツリと言う守衛の言葉に、同じく馬車に寝かされている冒険者は返す言葉を見つけられない。
時折、収納爆発の音と、オーガの叫び声が山に反響して聞こえてくる。
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