第162話 戦「おやすみ」

 ベテランの冒険者と守衛を乗せた馬車は、北の門がある壁の2番目の壁の近くに作られた、オーガ群への対策司令部に向かった。


 そこには、町長のコウ、ギルドマスターのゴシュ、そして視察団のリーダーのギムが居た。


「なんだって、オーガを相手にしていた冒険者と守衛が戻って来だと?」


 ゴシュが驚く。

 今も戦闘が続いている、その中をどうやって?

 逃げ帰ってきたのか、だが、あの魔物の量だ何処まで責めることが出来るか?


「兎に角、話を聞きましょう」


 コウが、ゴシュをなだめながら提案する。


 そして、聞かされる。

 紅牙が報告のために離れた後の事を。


「何だと、マイは今も戦っているというのか」


「うむ。 それ以外、考えられんな」


「今なら、北の門から出れば、オーガの背後から攻撃できます、マイが助かるには応援が必要です」


 ベテランの冒険者と守衛は地面に頭を擦りつけて、願い出る。

 本来なら自分たちが行きたい、だが、疲労しきった体、最盛期から劣ってる戦闘能力、足手まといにしかならない。

 だから、おそらくマイを助けに行けるのは、視察団のチームしかないと考えている。

 支配階級かそこから権限を委託されている者に上申することは、本来はあり得ない行動だが、自分の命の為に戦ったマイの命を優先させたいとの思いに突き動かされる。


 事実、巨人や超上位種のオーガに対抗できるのは視察団のチームしかない。

 だが、その視察団のチームもその力を発揮する武具が限界で、しかもその能力を使用したために他の冒険者と守衛よりも疲弊している。

 ギムも座っているのが精一杯なほどだ。


「行きたいのは判る、そして攻める好機であることもな。

 だが、上位種と中位種のリザード種と超上位種にドラゴンと戦った後だ、いまオーガと戦える者め居ない」


 ゴシュが唸るように言う。

 ここに彼らを責める者は居ない、そしてその願いを叶えられる者も居ない。


「なんてことだ……」


 頭を地面に擦りつけたまま、涙を流す。

 自分たちの無力さに絶望し、今も戦うマイの事を思い、胸が締め付けられる。

 その様子を、コウもゴシュもギムも何も言えずに居た。



■■■■



 私は踊っていた。

 そんな感じだ、蒼いショートソードの軌跡が星が煌めくように光る。

 全方向どの方向から向かってきても、見て居るのだから避けるのも切るのも簡単だ。


「うふふ、あはは」


 目を開いても何も見えない。

 光も感じない、だけど、遠隔視覚で全てが見えている。


 何だろう、体を動かしながら、頭の中では根本的なことを考えていた。

 時空魔法とはなんなんだろうか?

 そもそも魔力とは、この世界の理に干渉して本来あり得ない現象を生み出す力だ。

 そう定議されている。

 だからこそ、何も無い所から水を出したり、本来質量も無いはずの光や影に魔力という形を与える事が出来たりする。

 では、時空魔力は?

 自分自身の収納空間という特別な空間を持ち、それをこの世界と接触させることで収納する事が出来る。

 この世界の理には直接干渉しない、のか?

 収納空間内の理は私の場合はこの世界に近い物だった、収納した物以外何も無かったけど。

 私の収納空間の理は、私が望んだからそうなったのか。


 あはっ。


 感覚だけだけど、何か判ったような気がする。

 魔力とは魔法とは魔術とは、なんだ目に見えないだけで単純な事だったんじゃないか。

 この世界の理もそうだ、大本を辿れば、こんなにも単純な物事に行き着くんだ。


 巨人が私を見る。

 なんという表情だろう、驚いている? 呆れている?

 何でもいいや。


 巨人が指を私に突き出す。

 何だろ? 体を動かしていたせいで指先からズレる。


 ボト


 あ?

 踏ん張りが効かなくなって、背中から倒れる。

 右足が太ももの半ばから先が無い。

 傷口を水の魔術で覆い凍らせる。


 痛みは不思議と感じない。

 でも、もう踊れない。

 そっちの方に憤慨する。


 いつの間にか周囲に立ってるオーガは居なくなっていた。

 巨人に向かって、時空断を使う。


 ドスン


 巨人の右腕が切り落とされる。


 ガァァァァァ


 巨人が吠える、そして怒りを持って睨み付けてきた。

 ようやく私を敵と認めたようだね。

 やっとだよ、もうお終いだけどね。


 巨人の左腕が振り上げられてその周りに風と炎が凄まじい勢いで回転する。

 魔法が使えたんだ、魔術ほど洗練されて居ないな。

 そんな批評をしながら、私はそれに蒼いショートソードを向けて受ける。

 巨人の左手が見えない壁に潰されて、さらに削られるように肘まで細かく切り刻まれる。


 うん、そうだ時空魔術はこう使うことも出来るんだね。

 なんでこんな簡単なことに気が付かなかったんだろう。

 コウの町に帰ったら、さっそく検証しないと、もう、シーテさんに全部話して一緒に研究するのも良いかな?


 オオオオォォォ


 巨人がなんとも言えない、満足げな声を出した。

 自分の攻撃が防がれて喜ぶのかな? へんなの。


 あ、巨人、あなたはもういいや。

 水平に蒼いショートソードを構える。 時空魔術を行使する。

 それだけだ。

 それだけで、巨人の首が落ちた。

 巨人の顔は、なんか満足げだ、不思議な生き物だな。

 その巨体が後ろに大きくゆっくりと倒れていく。



 終わったかな?


 こてん。


 体が倒れる、そして斜面を転げ落ちて、何度か跳ね上げられて、地面に当たる。

 痛みも何も感じない。


 遠隔視覚は生きている。

 だけど、コウの町が見えない。

 遠隔視覚の視点を上空に固定する。

 コウの町が見えた。

 北の門が開いている。

 応援が来るのかな?

 オーガの取り残しがあるかもね、頑張って欲しい。

 巨人も、超上位種も居ないはずだからもう大丈夫。


 体は、どこも動かない。

 寒くも無い、熱くも無い、ああ、まるで私の収納空間の中に居るみたいだ。

 ……フミ、いまね、凄い眠いんだよ。






「おやすみ、フミ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る