第160話 戦「絶望の中の光」
絶望的な状況だ。
残された手は、自分の収納空間の中に逃げ込む、これしかない。
でも、それはオーガ達がコウの町へ進むのを、蹂躙していくのを、何も出来ずに見て居る事になる。
もちろん、コウの町へ進撃した時点で収納空間から出て、背後から攻撃する手もある、だけど私の魔術では地の利を生かすか上手く状況を作れないと効果が無い。
収納爆発で岩を爆散させても、私への興味を失っていれば意味が無い。
巨人が私を相手にしている理由、判らないが、判らないなりに確信がある。
弱者がひたすら抵抗ていることに、面白がっているのだ。
だからこそ、その遊びに水を差した超上位種のオーガを許せなかったし、遊ぶのも飽きてきて終わりにしようとしているのだろう。
だからこそ、収納空間内に逃げた私に対して、背後から攻撃したとしても興味を持たれる可能性は低いと思う。
かといって、この状況でまもとに戦える手段は少ない。
相手の懐に飛び込んで収納爆発、これが今の所の一番の攻撃手段だ。
移動は風の魔術か、時空転移だけど、時空転移の使用魔力はそれなりに大きい、連発は出来ない。
収納空間からショートソードを取り出す、もうまともなショートソードこれが最後の一本だ。
あとは、廃棄予定の武器や防具と戦闘中に回収したオーガの武器があるだけ。
これらを遠隔攻撃でけん制してその隙を狙って攻撃するしか無い。
数百のオーガに対して。
やはり、収納空間に逃げ込んだ方が良いかな?
町にはギムさんを始め戦える人達が居る、彼らに任せても十分だと思う。
巨人や超上位種のオーガを相手に出来るのなら。
私にも何とかする方法は思いつかない。
そんな、色々考えながらショートソードを威嚇のために振る。
目の前のオーガのお腹に横一文字に筋が出来ると、そのままズレて倒れた。
は?
なんだ、何が起きたんだろう。
いや、これは以前見たことがある、そうだ山小屋で何気なくショートソードを振っていたら、薪が切れたんだった。
今、何でどうやって切ったんだ。
思い出す。
そうだ、時空魔術の収納に関して考えていたんだ。
時空魔法は、自分自身が作れる収納空間を現実の空間に接触させてそこを出し入れ口として使用する。
そのとき空間には厚さ0の収納空間の出し入れ口が生まれる。
この空間は非常に脆い、物理的に触れられただけでも維持出来なくなり消滅する。
だから、基本的に物を収納したり出したりする時は周囲に十分な空間を用意する。
空間の口を作る時もそうで、ある程度密度の有る場所には作れないのが通説だ。
たとえば、水の中に口を作ることは出来ないとされている。
ん? 空気の中で出来て水の中では出来ない理由、密度だけの問題だろうか?
動いているから? それなら空気も風が全く無い条件の方が少ない。
生物? 水の中には確かに目に見えないほど小さいが大量の生物が居る、でも空気中にも小さい虫が居るし、それが理由で収納の出し入れに失敗した話を聞いたことが無い。
では、なんだ。
いや、検証は後回しだ、再度実戦してみよう。
探索魔術で周囲を見る、背後の崖は居ないけど、その崖の上にはもうオーガが来ている。
落ちてこないだけだ。
自分の前に居る一体にショートソードを振る。
今度は明確に収納空間と現実空間の境界を意識した。
スッ
目の前に居た一体を含む数体が切れて倒れる。
明確な意識をしたことで、威力が上がっている。
そして、使用している魔力量はごく少ない、私が物を収納空間に出し入れするのと大差ない程度のごく少量の魔力だ。
発動速度も瞬間的に物の出し入れが出来る私の速度と同じ感触だ。
これなら行ける。
ここに来て、中距離の強力な攻撃手段を手に入れた!
「あはは」
つい笑い声が出る。
ショートソードを振り、周囲の中位種も上位種もまとめて切り刻んでいく。
気分が高揚していく、私は体全体でショートソードを振る、そのほうが腕だけで振るよりも体力が持つ。
面白いように切れていく。
オーガ達は自分の仲間がどうして切れているのか判らないようで戸惑っている。
私にもよく判ってないんだけどね。
空からオーガが飛び降りてきた。 崖の上のオーガ達か。
探索範囲を狭くした探索魔術に掛かる。
落下地点から素早く避けながら切る。
空中でバラバラになりながら落ちてくるオーガ。
そのバラバラと落ちるオーガを前に、周囲のオーガを睨み付けて威嚇する。
超上位種のオーガがその様子に慌てているようだ。
こんな小さい人間が、大量のオーガを倒していく、そんなことは本来あり得ない。
何やら指示を出している。
私の攻撃は、遠隔収納が可能な範囲に限られているようだ、それでも多少魔力は使用するが30メートルは可能だ。
私の周りにポッカリと空間が出来る。
ガハハハハ
巨人が笑った。
部下のオーガ達が私に切り倒されてるのに?
オオ
何かを言った。
超上位種のオーガが1体、身長と同じぐらいの槌を持ってやってくる。
その目には怒りと困惑が混じっている。
敵の攻撃範囲に入られる前に攻撃する。
腕の振りに合わせて槌を振ってきた。
槌が切れ、オーガの腕も切れたが胴体までは切れなかった。
でも、返す刀でオーガの胴体を切る。
超上位種のオーガでも通用する。
だけど、やはり収納空間との境界は外部からの力にはある程度影響を受けるようだ。
それに何でショートソードを起点としてじゃないと出来ないのか?
イメージしやすいからだけなら、ショートソードも要らないはず。
私は空いている片手で、迂闊に私の攻撃範囲に入ってきた低位種のオーガに対して切る。
切れたが、浅い。
逃げていくのを無視して周りへ集中する。
やはり切るというイメージに剣があると強化できるのか、これは訓練次第で剣が無くても使えるようになるはず。 後回しだ。
今の私は、高揚した気分のおかげで恐怖も感じていない。
むしろ、変な全能感に支配されている。
アハハハ、心の中で笑い声が止まらない。
「さぁこい、オーガ共、魔力が尽きるまで相手してあげる」
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