第159話 戦「合流と別離」
尾根伝いに、もがきながら移動する。
収納爆発を利用した崖崩れも中位種のオーガは何とかなるが、上位種では上手く躱していく。
超上位種のオーガは、巨人の周りに居るだけだ。
だが、巨人も時折進む。 距離は開かない。
完全に弄ばれている。
まずい、南側の崖が無くなってきた。
足元を確認すると、山頂への山道が見える。
つまり、山頂が近い。
崖が無くなると、囲まれる危険が跳ね上がる、今は北側だけを注視すれば良かったが、すでに探索魔術でも南側へオーガの群れが移動しているのが判る。
そもそも、朝から魔術を連発している。
魔力はまだ余裕があるが、気力も削られ、体力も心許なくなっている。
コウの町からの応援が来るまで、逃げて逃げて引きつけ続ける。
判っていたことだ、1日持てば良い程度だ、今日中に応援が来なかったら、体力も魔力も尽きて逃げることは不可能になる。
そして、応援が来る可能性は低い。
巨大な黒い雫から出た巨人ほどではないでしろ、大きな黒い雫から出た魔物や、大量の黒い雫からの魔物を相手に戦ったのだから、損耗は激しいものだろう。
必死に逃げる。
何度か、上位種のオーガに接近を許してしまい危ない事もあった。
もうギリギリだ。
探索魔術を行使する余裕も無い。
遠隔攻撃で中位種のオーガの顔にボロボロの剣を当てる、体制を崩して後ろに落ちていく、巻き込まれたオーガが雪雪崩式に増えて落ちていく。
死んではいないだろうけど、動きさえ止めれれば良い。
振り向いて頂上を目指して移動しようとして、目の前が暗くなる。
ハッとなって、見上げると上位種のオーガが立ち塞がっている。
しまった、回り込まれた。
背後に向かって時空転移をする?
ガァァァ
突然悲鳴を上げ、足元が滑り横に落ちていく。
更に幾つもの矢が私の頭上を通り抜けて後ろに居たオーガに当たる。
「マイ! 走れ!」
ベテランの冒険者と守衛達だ。
いつの間にか頂上付近まで来ていたらしい。
私は、必死になって頂上に到達する。
形だけだけど簡易陣地が構築されていた。
「よく頑張った、少し休め。
何とか近寄らせないようにする」
私が、立ち上がれずに息を荒くしているのを見て、水袋と簡易食を渡してくれた。
いや、自分で用意できるんですが、厚意に感謝して受け取る。
「矢の補充と槍です。
皆さんも無事で良かったです」
「なに、お嬢ちゃんに比べたら大したことは無い。
それより、指揮官としてこれからのことを検討してくれ」
矢の補充を配りながら、ベテラン守衛の私の代わりに指揮を取ってくれた人が言う。
そうだ、これからのことを考えないと。
皆で生き残るぞ。
私は水と簡易食を口に放り込んで気合いを入れる。
探索魔術を行使する。
状況は良くない、北側の山の斜面はかなり回り込まれている。
前方には、7体の超上位種のオーガと巨人、そして襲いかかる数千のいや数百までは削れている上位種と中位種のオーガ。
だけど、良い情報もある、山頂から南側はまだ回り込まれていない。
東側では回り込んだオーガに追い付かれる可能性が高い、南側は駄目だコウの町がある、真っ直ぐ向かわせる訳には行かない。
となれば、南東方面しか無い。
「皆さん、そのままで聞いて下さい。
ここで籠城するのは無理です、放棄して逃げます。
東方向は追い付かれる可能性が高いので、残された方向は南東方面です。
ですが、街道に出てしまう可能性が高いです。
そこで、東での魔物の戦闘の跡を利用します。
おそらく大量の魔物の死体があるでしょう、そこで足止めが出来る可能性があります。
そしたら、コウの町へ戻りましょう。
これ以上は、出来る事はありません」
私達への応援、オーガへの攻撃部隊が今も来ないと言うことは、町での防衛戦を考えているはずだ。
なら、出来るだけ分散させた後、コウの町へ戻って体制を立て直せる。
山の北側に展開しているオーガも追い付くには時間が掛かるはずだ。
コウの町の防衛としては、私達がオーガを殲滅できるとは思っていない、時間稼ぎ程度だ。
なら、今日一日逃げ回れば、十分だろう。
「結局、コウの町へ引き込むことになってしまわないか?」
「ここで私達が死ねばそのままコウの町へ向かうでしょう。
でも、南東側へ逃げればオーガを分散させることが出来ます。
上手く戦えれば各個撃破が可能です」
「ああ、理にかなってる。 超上位種と巨人さえいなければな」
「町の防衛用に破城槌があります、それの威力に期待するしかありませんね」
ああ、そうだおそらく視察団のチームとコウの町の最大戦力を持つクルキさんのチームともう一つのチームでも、超上位種のオーガ1体を相手に勝てる可能性は微妙だ。
でも、東側の魔物を討伐出来ているのなら、可能性は高い。
そして町では設置式の破城槌がある、これなら巨人でも無事では済まないだろう。
ただ、コウの町が出来てたら使われたことは無い、威力は全くの未知数だ。
視察団のチーム、何度か訓練をして貰っていたが、彼らの持つ武器はただの武器じゃない事は薄々気が付いてた。
そもそも、私が貰ったあの蒼いショートソードだって、相当な価値と何らかの威力がある武器でお金で買える類いの物じゃない。
それを簡単に渡してしまえると言うことは、全員がそれ以上の武器を持っていると思って良い。
もし、東での魔物の戦いが続いていたら。
種類の異なる魔物同士がどうなるのか判らない、が、同士打を始めてくれる可能性も少ないけど有るし、どのみち、長期戦になっていたら負け戦だ、全員でコウの町へ逃げ帰るしか無い。
「山頂を中心に、南東側を除いて崩します。
その前に一気に逃げて下さい。 今回ばかりは自分の命の事だけを考えて、全力で逃げて下さい」
「判った、合図は任せる」
冒険者の一人が合意し、全員も同意してくれた。
「矢が切れるか、相手の動き次第ですね。
あとどれぐらい持ちそうですか?」
「今ある矢だと、10分も持てば良い方だ。
槍で攻撃は良いのか?」
「槍での攻撃は近寄らせてしまった時だけで……」
ズシン。
巨人が一歩進めた、どうするつもりだ?
ゾクリ、嫌な予感が走る。
「全員走れ!」
「「「おう!」」」
私が叫ぶ!
ベテランの冒険者と守衛達は、瞬時に動き出す、南東側の斜面に向かって走り落ちるように降っていく。
私は皆が山頂から離れたのを確認して、収納爆発を発動させようとする。
巨人は大きな腕を振りかぶっていた。
ゴオオオオオン!
巨人の方が早かった、崖の中腹を殴り、山腹から山頂にかけて大きな亀裂が走り崩れていく。
山体崩壊というやつか。
収納爆発を使うつもりだった私は、一足逃げ遅れた。
山頂を含む塊の上で地面にしがみついて振動に耐える。
ベテランの冒険者と守衛は無事に斜面を降りれただろうか?
酷い振動の後、土埃が舞う。
そして、私の状況が判った。
私が居る山頂毎崩した。
そして、私はその塊毎、崖を滑り落ちた。
つまるところ、私の前には、巨人と超上位種のオーガ、そして数百の上位種と中位種のオーガに囲まれている。
逃げ道は無い。
一つを除いて。
自分の収納空間の逃げ込むしかないか。
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