第158話 戦「見守る者・耐える者」

 朝日が間もなく出てこようとすの中、守衛は感情を殺した目で塀の上から監視を続けていた。

 目線の先には、遊水池群、そしてその先の森の山に居る巨人。


 あそこには数千の強力な魔物が居る。

 何時、あれがコウの町を襲うのか判らない。

 朝冷えなのか、ブルリと震える。


 朝の鐘ももうすぐ鳴る。

 交代の守衛がやってきた。


「やぁ、夜番ご苦労様。 交代だ」


「ああ、異常なし、あの巨人は未だに動かない」


「もう、そのまんまんま居なくなってくれないかね」


「兎も角、暫く時間が欲しいからな」


 ドゴン

 ドゴァァァ……

 ドゴォォォォン……


 2人の守衛が、手すりにかぶり付く。

 何かが起きている。


 山の一部、崖となっている場所から土煙が上がっている。


「連中、生きているぞ」


 そう、あそこで収納爆発が起きていると言うことは、マイがベテランの冒険者と守衛が生きているということだ。

 色めき立つ守衛だが、次の光景に硬直する。


 巨人が立ち上がり、崖に向かって歩いている。

 そして、腕を振り上げ、振り下ろした。


 ズドオオオオン!


 崖の一部が完全に叩き潰される。

 わずかな時間差で足元が揺れる、一体どれほど強力な一撃だったのだろう?

 恐怖より、非現実的な光景に唖然とする。


 ハッ、我に返った夜番をしていた守衛が自分たちの職務を思い出す。


「おれは、報告するために戻る、監視の人数を増やすように進言するから、目を離すなよ」


「判っている! 急いでくれ!」


 守衛は、塀を駆け下り馬に乗ると、報告するためにコウの町の中心へ馬を走らせた。

 その背後から大量の魔物の声が聞こえて来る。


 オオオオ


 馬を走らせる守衛の背中には汗が噴き出していた。



■■■■



「お、おい。

 大丈夫なのかな、俺たちが行っても足手まといだろうけど、あの揺れは尋常じゃないぞ」


 ベテランの冒険者と守衛達は、山の斜面にある窪みに体を押し付けて、滑落するのを必死に耐えていた。


「判らん、だが超上位種か巨人が動き出したんだろう、戦う時はビビるなよ」


 覚悟なんて最初から決めている。

 だが、あの超上位種のオーガと巨人を目の前にした時、正常で居られる自信は無い。

 そもそも、自分たちでは中位種のオーガですら、まともに戦える力は無い。


 揺れが収まる、まだ崖の崩落の危険があるが、留まっていても状況は同じだ。

 一行は、山頂を目指して荒れた山道をさらに進んでいく。



 収納爆発の音を背後に聞きながら、山を登る。

 山頂が見えてきた。

 この山の山頂は、比較的広い。


「簡易陣地を作るぞ、気休めだけどな」


「周囲を警戒する者と、分担を分けよう、あと、今のうちに食事だ」


 彼らも、経験を積んだベテランだ。

 今何をしなければいけないか、それ位は判る。


 簡易陣地、といっても弓が撃てるように余計な木を切ったり、その木の枝を使って身を隠すための障害物を作るのが精一杯だ。

 オーガが来たら防げないのは判っている。


 収納爆発の音が近づいてくる。

 地面が揺れる感じもする。

 そして、膨大な数のオーガの唸り声。



 まだ、マイの姿は見えない。



■■■■



 コウの町では、町での防衛戦を行う事が発表された。

 その知らせを冒険者ギルドの中で聞いている冒険者達は激高した。

 多くの冒険者や守衛が反対の声を上げる。


「最初の作戦は何だったんだ?」

「マイや世話になった先輩達を見殺しにするんですか!」

「おれらは臆病者にはなりたくねぇ!」


 これらの声に、ジッとしている、冒険者ギルドマスターのゴシュ。

 ゴシュとて、戦い打って出たい気持ちはある。

 しかし、今動ける人員が圧倒的に足りていない。


「今なら、魔物の背後に回って挟撃が可能じゃないのか?」


 クルキが、具体的な作戦を提案してきた。

 そうだと、何人もの冒険者が賛同する。

 それをゴシュのの言葉が一蹴する。


「ああ、十分な戦力があればそうしている」


 ゴシュの言葉は簡潔でそして、現状を強く示している。

 その言葉で、冒険者ギルドの中は静まる。


 本来、コウの町の冒険者は冒険者ギルトの中に収まるほど少なくはない。

 しかし、今はこの冒険者ギルトの中に収まる数の人員しか動けない。


「守衛の方も同じで、動ける者は限られている。

 すまないが、受け入れてくれ」


「で、だ、コウの町で防衛するとして、守り切ることは可能なのか?」


 一人の冒険者がゴシュに責めるような口調で言う。

 彼は、クルキのチームと双璧をなす、コウの町でも強力なチームのリーダーだ。

 だが今回、仲間の一人を死なせてしまっている、無表情のその心の中はうかがい知れない。


 ゴシュは、内心返答に困った。

 守り切れない、その事が判っている上での判断なのだから。


「今、オーガを相手にしている様子から見て、中位種はかなり討伐されていると考えられる。

 また、超上位種も3体が死に残りは7体だ。

 まったく可能性が無い訳じゃない」


 ゴシュは、気休めと判っていても話すしか無かった。

 斥候からの報告は、驚く内容だった。

 ほとんどマイ一人で、多くの中位種のオーガを収納爆発を利用した崖崩れで潰している。

 超上位種のオーガも1体謎の動きで倒したとのことだ。

 もしかしたら、とも思う。

 だが、オーガの全力攻撃が始まり、斥候が近づけなくなって現状の様子は分からない。


 しかし、その戦果に冒険者達は驚きを隠せないで居る。


「全く、ここでも成人もしていない女の子に全部期待を押し付けちまってるのかよ」


 クルキがマイの事を指して、自分のふがいなさを吐露する。



 ズズーーン


 地面が揺れるほどの衝撃が伝わってきた。






 何が起きたのかは判る、巨人が攻撃したのだ。

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